亡霊が思うには、

田原摩耶

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19

「……というわけで、試しにこっちから花鶏さんに呼びかけてみることにした」

 凛太郎から助言をもらった俺は部屋の外、珍しく大人しく待っていた幸喜に伝えた。
 幸喜の奴はというと、「ま、いいんじゃね」と笑う。奈都とか藤也だったら「もうすこし考えてみた方がいいんじゃないか」と止めてきそうなものなのだが。
 ……まあ、話が早くて助かるが。

「それより、その偽花鶏さんはなんだって?」
「お前な、その呼び方はやめろよ。……凛太郎だって」
「そうそう! 凛太郎凛太郎ね、了解!」

 本当に分ってるのか、こいつは。と呆れていると、「で?凛太郎なんて?」と幸喜は腕にしがみ付いてくる。
 慌てて俺はそれを振り払い、そして「相性の問題かもしれないだってよ」と凛太郎の言葉で伝えれば、幸喜は大きな目を更に丸くする。

「相性?」
「あと……人見知りだっていってた」
「絶対そっちがまじの理由じゃん」

 まあ、凛太郎の判断も間違ってはいないと思うけどな。
 幸喜のことを認識しているなら幸喜の凶暴性も知らないわけでもなさそうだし。
 なんて考えてると「準一、お前今失礼なこと考えてんだろ」と幸喜に頬をぐにぐにと指のめり込まされてまじで死ぬかと思った。

「……っと、取り敢えず、早速試してみるからな」
「なにを?」
「だから、花鶏さんに話しかけるってことをだよ」

 本当にこいつさっきの話聞いていたのか。聞いてなさそうだな。
「あーはいはいオッケ、じゃあ頼むわ」とニコニコ笑いながらその場に座り込みだす幸喜。完全に人を見世物かなにかと思ってる、間違いない。
 が、いちいちこいつに突っ込んでいたらそれこそキリがない。一先ず俺は深呼吸をし、自分を落ち着かせることにした。
 そして先ほどと同じように、今度は花鶏の顔を思い描いた。

 ――花鶏さん。

「ねえまだ?早く早く~」と人の足にくっついて邪魔してくる幸喜を一旦引きはがしたりしながらも俺は頭の中で花鶏に何度も呼びかける。
 しかし、期待するような反応も世界の変化も起きてはいない。
 幸喜の邪魔がはいいたからだろうか、もう一度呼びかける。俺の集中力が足りてないのか、今までの花鶏との記憶を呼び起こそうかともしたが、ろくな思い出がないせいでかえって集中できなかった。

 結局、花鶏と意思疎通は失敗に終わる。
 目を開けば、じっとこちらを覗き込んでくる幸喜のドアップが映り込み、驚きのあまり「おわっ!」と大きな声が出てしまった。
 そんな俺のリアクションにきゃっきゃと一頻り喜んだ幸喜は改めてこちらに目を向ける。

「ダメだった?」

 やはり幸喜にも失敗は伝わっていたようだ。「ああ」と頷き返せば、「だろうね」とさして落胆するわけでもなく、寧ろ楽しそうに笑う。

「ま、普通に考えればそうだよな。心の中にこんなめんどくせー構造の屋敷持ってるような人だもんな」

 この世界は複数の精神の集合住宅みたいなもんだ。とはいえど、幸喜の言い分ももっともだ。
 相手は今までこんなまどろっこしい感情を一切出してこなかった人だ。……人かどうかも怪しいが、それでも少なからず一緒に過ごしてきた俺でさえ花鶏の本心を見たことはなっかた。

「ま、いいじゃんいいじゃん。もしかしたら、また屋敷の中進んでいけば変化あるかもしれねーし」
「……お前、楽しそうだな」
「え? 準一は楽しくねーの?」

 逆に聞き返してくるか。

「俺は……」

 言いかけて、今の自分の心情を表すのに適切な言葉が出てこなかった。そのまま黙り込むと、「準一?」と幸喜がこちらを覗き込んできた。
 こういうとき、無駄に楽観的な幸喜の前向きさは助かるかもしれない。
 なんて思いながら、俺は体内に溜まった空気を吐き出す。深呼吸。

「……っし」
「ん?」
「俺もそうする」

 そう言葉にすれば、先ほどまで萎えかけていた心が焚きつけられるようだった。
「なにが?」と相変わらずきょとんとした幸喜ん。そこはニュアンスで組み取ってほしいところだったが仕方ない。幸喜だしな。

「……俺も、楽しむことにする」

 不謹慎だと言われようが、そう思わなければどんどんこの光の見えない世界に飲まれてしまいそうだったから。だから、そうするまでだ。

「準一ってそういうこと言うキャラだっけ?」

 放っておいてくれ。
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