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第11章 希望を手に 絶望を超える
140話 最終決戦 清雅市 其の9
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奇跡は夢幻ではなかった。だが、無限でもなかった。奇跡の代償は命、人間の肉体の限界という時間制限。
「損壊した武器の状況から計算しました。もうボロボロで、生きているのが奇跡に近い状態です」
「アマテラスオオカミ。後、後どれ位なのですか?」
「ハハ、どれ位か?3分……いや1分もない。そうだろう?」
アマテラスオオカミの予測に対し間髪入れず清雅修一が切り返す。神は苦々しい顔を浮かべ、それ以外の面々は予想以上に時間が短い事に驚き、絶望した。
「妙な力を手に入れても無駄な足掻きだ!!、どうした、逃げないのか?ハハ、激痛で思考も鈍っているか」
「何をしようが無駄だッ。残った僅かな時間で、私に勝つなど絶対に出来ない!!」
「いつまで持つ?確かに馬鹿げた力を持っているがなァ!!私はそれまで逃げ続けて死ぬのを待てばいいだけだッ」
「無限の力が集まろうが、僅かずつしか使えなければ意味はないッ!!」
「宝の持ち腐れなんだよッ。使いこなせない玩具を嬉々として使う。この星の連中と同じでウンザリさせられたが、それもこれで終わりだァ!!」
絶望を告げる無数の叫びが地に降り注ぐ。オロチ本体が動き出す。言葉通り逃げるつもりだ。青い球体は少しずつ高度を上げ、距離を取りながら同時にマジンをばら撒き始めた。今までと違うのは、生成された竜の大半がオロチの傍を動かない点。攻撃を最小限に抑えながら、時間切れまでひたすらに耐える算段。凄まじい力を持ちながら、確実な勝利の為に最も有効で地味な選択肢を躊躇いなく取る清雅修一に、誰もが更に顔を歪める。
「おい、もう止めろッ!!後は俺達がやる!!」
果敢にオロチへと突撃するルミナを真っ先に制したのはタガミ。もう時間がない事実に突き動かされた彼が吠え、同時に空を蹴りながら空を蹴り上がった。上空から見下ろすオロチを引き摺り下ろすつもりだ。そのタガミに続き、誰もが空へと駆け上がる。誰一人諦めない、諦められない。
スサノヲの誰もが命を燃やしながらオロチを目指すが、オロチの守勢を崩せない。銃撃で削り、刃で両断し、倒せば次の敵目掛け飛びかかる。巨大な刃で引き裂き、至近距離からの射撃で粉微塵になる。しかし竜は即座に補充される。倒しても倒しても、次から次へと湧き出る青く歪な竜は正しく分厚い壁。誰一人として本丸であるオロチに到達する事が出来ない。
オロチはマジンを時間稼ぎに更に上空へと昇る。既に上空500メートルに達した。スサノヲ達はそれでも必死に喰らいつく。空中戦の高度上限に到達したかと思えば、タケルが防壁を展開、スサノヲ達の足場とした。それを使いスサノヲ達は尚も食い下がる。
それでも、そこまでしても尚オロチの分厚い壁を超える事が出来ない。やがて彼らを支える足場が消え、それぞれが忌々しい顔を浮かべながら地上へと降りていく。
「奴の真上から強襲する。転移、頼めるか?」
「可能ですが、狙い撃ちされる恐れが……それでも、ですか?」
「構わん、頼む」
「は、はい。すぐに」
意志は固い。スクナは即座に次の手を打つ。艦橋のオペレーターに連絡を取り、上空に転移用の門を生成するよう提案した。覚悟を感じ取ったオペレーターは即座に手続きを開始する。
が、一歩遅かった。上空からの転移強襲に対し、オロチは分厚い壁を今度は上空に配置し直した。傍受――いや、出来ていようがいまいが清雅修一程の頭脳ならば次の手段が上空からの転移だと容易く導く。
対して、手の内を読まれたスクナも動じない。彼もその程度など承知の上。予測していようがいまいが並外れた意志と覚悟で行動に移すつもりだった。が、分は悪い。出現地点を狙い撃ちされるのはほぼ確実。加えて、出現地点から離れる可能性も十分あり得る。
しかし、何より高度。空中での機動制御技術の原理は、空中のカグツチと自身の肉体に内在するカグツチを反発させ、さも足場がある様に空中を移動する。その制御は熟練した技術が必要で、常に意識を集中していないと十分な力を発生させることが出来ず、地上目掛け墜落する。
圧倒的な物量の相手に、しかも落下すれば命のない高高度での機動、強襲は幾ら熟練者と言えど分が悪い。希望の光に照らされる戦場に再び暗雲が立ち込めようとしている。
※※※
誰も清雅修一を止める事が出来ない。誰もが限界を超えた中、ルミナだけが果敢に挑む。が、彼女であっても分厚いマジンの防壁を貫く事が出来ない。
そして、遂に限界に達した。力の大きさに耐えきれず、墜落する様に落ちる光景を誰もが目にした。落下した場所は奇しくも伊佐凪竜一のいた場所。程なく起きかがった彼女はビルをヨロヨロと歩く。ルミナが今際の際に選んだ場所は伊佐凪竜一の傍。その彼はルミナの存在に気付かず、壁にもたれ掛かったまま動かない。
アベルは歯ぎしりする。ただ、人の未来を願っていた筈だった。だが現実は地球を歪め、清雅修一の本性に気付かずオロチを与え、主の意志を受け継ぐ者の死に際し何一つ出来ない。
「私が行く。ここから出駄目なら直接会って、彼に伝える」
何らの手立てを打てないアベルに代わりツクヨミが動く。彼女は清雅本社の遥か地下に安置された脱出艇を離れた。清雅修一を力以外で止めようと思うならばツクヨミの説得以外にない。だが、アベルには疑問が渦巻く。
彼女に止められるか?清雅修一は正しくツクヨミを認識できるか?
清雅修一は彼の中のツクヨミしか見えていない。宇宙を見て喜ぶ幻想の中のツクヨミしか。答えを見つけ、使命に目覚めた今のツクヨミを見てもツクヨミと認識しないのでは――
そんな疑念が渦を巻く。否定は出来ない。現実のツクヨミは彼の幻想が生み出した心の中のツクヨミとは違う。だが、もう他に手立てがない。ツクヨミはハバキリを使うに相応しい存在を選定するだけ。極めて高い演算能力を持ち、ハバキリを内包するが、彼女自身に戦闘能力はない。
長大な運用年数を想定した体躯は極めて高い修復能力を持つが、戦闘は想定していない、耐久性自体は高くない。だから、もし清雅修一が彼女をツクヨミと認識しなければ、容易く破壊される。
だが、それでもアベルは戦場へ向かうツクヨミを止めなかった。止められなかった。使命に目覚め、覚悟を決めた背を見送る事しか出来なかった。アベルは己を憎む。彼女と共に歩めない現状を、未だ使命に縛られる己を心底から憎んだ。
「損壊した武器の状況から計算しました。もうボロボロで、生きているのが奇跡に近い状態です」
「アマテラスオオカミ。後、後どれ位なのですか?」
「ハハ、どれ位か?3分……いや1分もない。そうだろう?」
アマテラスオオカミの予測に対し間髪入れず清雅修一が切り返す。神は苦々しい顔を浮かべ、それ以外の面々は予想以上に時間が短い事に驚き、絶望した。
「妙な力を手に入れても無駄な足掻きだ!!、どうした、逃げないのか?ハハ、激痛で思考も鈍っているか」
「何をしようが無駄だッ。残った僅かな時間で、私に勝つなど絶対に出来ない!!」
「いつまで持つ?確かに馬鹿げた力を持っているがなァ!!私はそれまで逃げ続けて死ぬのを待てばいいだけだッ」
「無限の力が集まろうが、僅かずつしか使えなければ意味はないッ!!」
「宝の持ち腐れなんだよッ。使いこなせない玩具を嬉々として使う。この星の連中と同じでウンザリさせられたが、それもこれで終わりだァ!!」
絶望を告げる無数の叫びが地に降り注ぐ。オロチ本体が動き出す。言葉通り逃げるつもりだ。青い球体は少しずつ高度を上げ、距離を取りながら同時にマジンをばら撒き始めた。今までと違うのは、生成された竜の大半がオロチの傍を動かない点。攻撃を最小限に抑えながら、時間切れまでひたすらに耐える算段。凄まじい力を持ちながら、確実な勝利の為に最も有効で地味な選択肢を躊躇いなく取る清雅修一に、誰もが更に顔を歪める。
「おい、もう止めろッ!!後は俺達がやる!!」
果敢にオロチへと突撃するルミナを真っ先に制したのはタガミ。もう時間がない事実に突き動かされた彼が吠え、同時に空を蹴りながら空を蹴り上がった。上空から見下ろすオロチを引き摺り下ろすつもりだ。そのタガミに続き、誰もが空へと駆け上がる。誰一人諦めない、諦められない。
スサノヲの誰もが命を燃やしながらオロチを目指すが、オロチの守勢を崩せない。銃撃で削り、刃で両断し、倒せば次の敵目掛け飛びかかる。巨大な刃で引き裂き、至近距離からの射撃で粉微塵になる。しかし竜は即座に補充される。倒しても倒しても、次から次へと湧き出る青く歪な竜は正しく分厚い壁。誰一人として本丸であるオロチに到達する事が出来ない。
オロチはマジンを時間稼ぎに更に上空へと昇る。既に上空500メートルに達した。スサノヲ達はそれでも必死に喰らいつく。空中戦の高度上限に到達したかと思えば、タケルが防壁を展開、スサノヲ達の足場とした。それを使いスサノヲ達は尚も食い下がる。
それでも、そこまでしても尚オロチの分厚い壁を超える事が出来ない。やがて彼らを支える足場が消え、それぞれが忌々しい顔を浮かべながら地上へと降りていく。
「奴の真上から強襲する。転移、頼めるか?」
「可能ですが、狙い撃ちされる恐れが……それでも、ですか?」
「構わん、頼む」
「は、はい。すぐに」
意志は固い。スクナは即座に次の手を打つ。艦橋のオペレーターに連絡を取り、上空に転移用の門を生成するよう提案した。覚悟を感じ取ったオペレーターは即座に手続きを開始する。
が、一歩遅かった。上空からの転移強襲に対し、オロチは分厚い壁を今度は上空に配置し直した。傍受――いや、出来ていようがいまいが清雅修一程の頭脳ならば次の手段が上空からの転移だと容易く導く。
対して、手の内を読まれたスクナも動じない。彼もその程度など承知の上。予測していようがいまいが並外れた意志と覚悟で行動に移すつもりだった。が、分は悪い。出現地点を狙い撃ちされるのはほぼ確実。加えて、出現地点から離れる可能性も十分あり得る。
しかし、何より高度。空中での機動制御技術の原理は、空中のカグツチと自身の肉体に内在するカグツチを反発させ、さも足場がある様に空中を移動する。その制御は熟練した技術が必要で、常に意識を集中していないと十分な力を発生させることが出来ず、地上目掛け墜落する。
圧倒的な物量の相手に、しかも落下すれば命のない高高度での機動、強襲は幾ら熟練者と言えど分が悪い。希望の光に照らされる戦場に再び暗雲が立ち込めようとしている。
※※※
誰も清雅修一を止める事が出来ない。誰もが限界を超えた中、ルミナだけが果敢に挑む。が、彼女であっても分厚いマジンの防壁を貫く事が出来ない。
そして、遂に限界に達した。力の大きさに耐えきれず、墜落する様に落ちる光景を誰もが目にした。落下した場所は奇しくも伊佐凪竜一のいた場所。程なく起きかがった彼女はビルをヨロヨロと歩く。ルミナが今際の際に選んだ場所は伊佐凪竜一の傍。その彼はルミナの存在に気付かず、壁にもたれ掛かったまま動かない。
アベルは歯ぎしりする。ただ、人の未来を願っていた筈だった。だが現実は地球を歪め、清雅修一の本性に気付かずオロチを与え、主の意志を受け継ぐ者の死に際し何一つ出来ない。
「私が行く。ここから出駄目なら直接会って、彼に伝える」
何らの手立てを打てないアベルに代わりツクヨミが動く。彼女は清雅本社の遥か地下に安置された脱出艇を離れた。清雅修一を力以外で止めようと思うならばツクヨミの説得以外にない。だが、アベルには疑問が渦巻く。
彼女に止められるか?清雅修一は正しくツクヨミを認識できるか?
清雅修一は彼の中のツクヨミしか見えていない。宇宙を見て喜ぶ幻想の中のツクヨミしか。答えを見つけ、使命に目覚めた今のツクヨミを見てもツクヨミと認識しないのでは――
そんな疑念が渦を巻く。否定は出来ない。現実のツクヨミは彼の幻想が生み出した心の中のツクヨミとは違う。だが、もう他に手立てがない。ツクヨミはハバキリを使うに相応しい存在を選定するだけ。極めて高い演算能力を持ち、ハバキリを内包するが、彼女自身に戦闘能力はない。
長大な運用年数を想定した体躯は極めて高い修復能力を持つが、戦闘は想定していない、耐久性自体は高くない。だから、もし清雅修一が彼女をツクヨミと認識しなければ、容易く破壊される。
だが、それでもアベルは戦場へ向かうツクヨミを止めなかった。止められなかった。使命に目覚め、覚悟を決めた背を見送る事しか出来なかった。アベルは己を憎む。彼女と共に歩めない現状を、未だ使命に縛られる己を心底から憎んだ。
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