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第1章 月の夜 出会い
9話 自己紹介
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20XX/12/15 2233
「……なんだ、君か」
買い物を終え、部屋に戻った俺を最初に出迎えたのはぶっきらぼうな一言。しかも銃まで構えている。警戒するのは分かるけど、せめて銃は下ろして欲しかった。これが数分前の話。で、今現在も銃を持ったまま警戒を解かない。よほどに信用がないらしい。
「気分転換にさ、別の話しない?」
「例えば?」
「自己紹介、とか?」
「あぁ」
だから、と互いの話をしようと提案をした。我ながら妙案だと思ったのだが、反応は酷くつっけんどん。今更に気付いた、というよりも意図して避けていたような感覚さえした。何れにせよ出会いが出会いだけに最低限の信用、信頼さえ存在しないのだから無理はない――とは言え、頼むから銃は片付けて欲しい。
「じゃあ、私から。私はルミナ=AZ1-44136541978。呼びにくいだろうからルミナで良い」
今の名前?翻訳アプリのバグか、後半部分が名前と呼ぶには余りにも不可解な数字の羅列だった。あるいはそう言う文化なのか?
「やはり君も異常と思うか?」
感情が顔に出ていたのか、翻訳アプリを弄っていたのが原因か、ルミナと自己紹介した女が問い詰めた。そう言うつもりはなかった、と慌てて否定しながら首を大きく横に振った。
「気にするな。他でも君のように反応するそうだ。名字が表音文字と数字の羅列なのは管理するに合理的だから、住み慣れた星を命から艦一つで逃げ延びた当時の名残らしい」
「名残。とっくに文化として定着した、と」
「3000年も前の話で、私達は違和感なく受け入れている。だから気にしなくていい。考え方も価値も違う事実は変えようがない」
無機質に聞こえる氏名の経緯を語り始めたルミナは、諦めた様な、ぶっきらぼうで投げ槍な口調で自己紹介の最期を結んだ。思い返してみれば、地球でも奇妙なルールを作っている国以下の小さな共同体が無数にあり、その中には犯罪紛いの行動を容認する共同体も存在する。とは言え、流石に宇宙は広い。
※※※
以後も彼女は話し続けた。理由はわかる。宇宙から来たと言われて直ぐに信用出来ない。俺ではなくルミナ側の心情として、だ。俺は割とすんなり受け入れたが、「あんな僅かなやり取りで信用したかどうか怪しい」と考えた彼女は証拠とばかりに色々と宇宙の話を始めた。
彼女達の所属する組織の成り立ち、その構成。3000年前、マガツヒという名前の敵に滅ぼされたアマツミカボシという惑星最後の生き残りが彼女達のルーツだという。
日本神話に登場する悪神の名前と同じ名をした化け物から逃げ延びた先祖達は、宇宙を放浪した末に途轍もない力を持つ「姫」なる人物が治める惑星に辿り着き、姫と共にカガセオ連合という組織を立ち上げ、銀河探索を本格的に開始した。これが今から約2000年前。
以後、探索と資源回収、人が住む惑星を見つけたら教えを請い、時には連合に引き入れながら拡大を繰り返した。故郷を滅ぼした敵、宇宙を彷徨いながら文明を滅ぼすマガツヒを討伐する為。今現在、銀河の約半分程度を探索し終えたそうだ。
あらゆる技術と知識を取り込み肥大化した連合という巨大組織を纏めるのは、彼女達アマツミカボシの神、超超高度な演算機能を持つ人造神「アマテラスオオカミ」と、力も正体も不明な「姫」。この二柱を軸に連合は安定した組織運営を行っていて、彼女達はアマテラスオオカミが製造に携わった惑星サイズの超巨大戦艦と共に宇宙探索を行っているそうだ。
何ともスケールの大きな話だが、それでも一つ確かな事がある。清雅、ひいては地球はそんな連中に勝った、という事だ。
情報を整理する間もなくルミナは人種、文明と様々な話を語り続けた。が、それまで饒舌に語る口が不意に止まった。直前に語った言葉は式守。いわゆるロボット。3000年前の故郷崩壊時から既に存在していたが、完全な人型はここ100年ほどの間で、更に本格的な戦闘への転用は僅か数年前だそうだ。
「そもそも、そのマガツヒとか言う危険な奴の相手、その式守に任せればいいんじゃない?」
ふと思い立った疑問をぶつけてみた。そもそも惑星を壊滅させるような危険な敵なら、わざわざ自分達が命張って戦う理由はない。しかし、ルミナは言い淀む。何か聞いてはいけない事を言ってしまったらしい。そんな空気を感じる。
「倒せないからだよ」
考えるより先に行動する自分が嫌になり、咄嗟に詫びを口にしようとした矢先、ルミナが遮るように回答を口にした。
「簡潔に話すと、奴等を倒す為の力は人間にしか扱えない」
説明はしてくれた。が、本当に簡潔過ぎて全く要領を得ない。分からない、と俺が素直に白旗を上げるとルミナは仕方ないとごちりながら説明を重ねる。
「人の意志に反応する事で爆発的な力を発揮するからだよ。だから、意志を持つ人類にしか扱えない」
「なんて力なの?」
「カグツチ。宇宙に偏在する未知の粒子。主に恒星と、後は微量だが脳からも放出されている」
「なら地球にも?」
「あるが濃度がやけに低い。敗因の一つ、だな」
敗因と、そう結んだルミナの声は消え入りそうな程に小さかった。その後、ポツリポツリと語ってくれたところによれば、通常は重力に対し反発する、一つとして同じ固有振動を持たない一方でより強い振動に対し共鳴しやすい、他のエネルギーに転化可能、果ては超長距離間の通信にまで使える等々、らしい。正直、よくわからんというのが本音だ。
「なるほど、とにかく凄い力って事か」
「あぁ、と。まぁ、その認識で良いよ」
半分以上理解できない俺の結論にルミナはやや呆れがちに同調した。その力の中で一番特殊な性質が意志に反応する点。肉体に取り込めば身体能力が飛躍的に向上するとか、武器に流し込めば凄い硬く出来たりするそうだ。で、極め付けが凝縮すればマガツヒの本体を消滅させる力を発揮するという。
「だから、式守では無理だと?」
「そう。だけどずっと押されっぱなしで、だからつい最近、意志を持つ式守の研究と製造が解禁された」
「そうなんだ。えーと、じゃあ君は……俺と同じって言ってたけど、戦ってるって事は式守、なの?」
「いや。元は生身。この身体……は」
話が自分の身体に移った途端、明らかに雰囲気が変わった。聞かずとも空気で察するには十分。何か言い辛い事情があったようだ。僅かに言葉を濁した後、ルミナは意を決したように語り始めた。
「事故で、ね。こうしなければ、生きる事が出来ない状態だった。その後、私はアマテラスオオカミ直轄の戦闘部隊、スサノヲに入隊した」
「そ、そっか」
色々と聞きたい事はあった。しかし、これ以上を聞き出せる雰囲気ではなくなった。ただ話をして、互いの距離を少しでも縮めようとしたかっただけなのだが、余りにも暗い声色が想像できない程の過去を想像させた。
「そう言えば」
無言の間に、ルミナの声が響いた。気が付けば、彼女が俺の方を向いていた。
「いや、話の続きでも、と」
「あぁ。そうだな、じゃあ、えーと……そうだ、幽霊ってどうなん?」
「解明されているよ。死の直前に一際強くなった意志がカグツチと結び付き、空間や物質に焼き付きを起こして、死の直前の感情を元にした反応を周囲に引き起こす。強ければ死体を動かす事も出来て、死んだまま戦い続けたなんて話が逸話として幾つも残っている。少し前に君が見せてくれたゴーストメール、だったか?ソレも誰かの強い意志が起こしているんじゃないかな」
断続的に、休憩を挟みながら彼女は話し続けた。饒舌に、まるで捲し立てるように。仲間と離ればなれで連絡も取れず、敵地である地球で孤立無援。しかも敵対する清雅は彼女達でも歯が立たない程に強い。不安を紛らわせたいのかもしれない。そう考えれば、こんな状態で正気を保ちつつも平然と会話を続ける彼女の精神力は尋常ではない。
その後も色々な話を聞かせてくれた。転移技術やその名称。超長距離だとアケドリ、近距離だとハイドリというらしい。変な名前だ。それから幾つもの惑星、文化、文明、技術についても。その中には魔術や魔法の類もあるそうだ。
ゲーム、アニメ、映画で描かれる世界が遠い宇宙の何処かでは現実のものとして存在している。そう結論した俺は、とにかく余計な感情を顔に出さないよう、余計な一言で話の腰を折らないよう彼女の話に相槌を打ち続けた。
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1章終了
next → 2章【遥か遠い 故郷】 視点:ルミナ
「……なんだ、君か」
買い物を終え、部屋に戻った俺を最初に出迎えたのはぶっきらぼうな一言。しかも銃まで構えている。警戒するのは分かるけど、せめて銃は下ろして欲しかった。これが数分前の話。で、今現在も銃を持ったまま警戒を解かない。よほどに信用がないらしい。
「気分転換にさ、別の話しない?」
「例えば?」
「自己紹介、とか?」
「あぁ」
だから、と互いの話をしようと提案をした。我ながら妙案だと思ったのだが、反応は酷くつっけんどん。今更に気付いた、というよりも意図して避けていたような感覚さえした。何れにせよ出会いが出会いだけに最低限の信用、信頼さえ存在しないのだから無理はない――とは言え、頼むから銃は片付けて欲しい。
「じゃあ、私から。私はルミナ=AZ1-44136541978。呼びにくいだろうからルミナで良い」
今の名前?翻訳アプリのバグか、後半部分が名前と呼ぶには余りにも不可解な数字の羅列だった。あるいはそう言う文化なのか?
「やはり君も異常と思うか?」
感情が顔に出ていたのか、翻訳アプリを弄っていたのが原因か、ルミナと自己紹介した女が問い詰めた。そう言うつもりはなかった、と慌てて否定しながら首を大きく横に振った。
「気にするな。他でも君のように反応するそうだ。名字が表音文字と数字の羅列なのは管理するに合理的だから、住み慣れた星を命から艦一つで逃げ延びた当時の名残らしい」
「名残。とっくに文化として定着した、と」
「3000年も前の話で、私達は違和感なく受け入れている。だから気にしなくていい。考え方も価値も違う事実は変えようがない」
無機質に聞こえる氏名の経緯を語り始めたルミナは、諦めた様な、ぶっきらぼうで投げ槍な口調で自己紹介の最期を結んだ。思い返してみれば、地球でも奇妙なルールを作っている国以下の小さな共同体が無数にあり、その中には犯罪紛いの行動を容認する共同体も存在する。とは言え、流石に宇宙は広い。
※※※
以後も彼女は話し続けた。理由はわかる。宇宙から来たと言われて直ぐに信用出来ない。俺ではなくルミナ側の心情として、だ。俺は割とすんなり受け入れたが、「あんな僅かなやり取りで信用したかどうか怪しい」と考えた彼女は証拠とばかりに色々と宇宙の話を始めた。
彼女達の所属する組織の成り立ち、その構成。3000年前、マガツヒという名前の敵に滅ぼされたアマツミカボシという惑星最後の生き残りが彼女達のルーツだという。
日本神話に登場する悪神の名前と同じ名をした化け物から逃げ延びた先祖達は、宇宙を放浪した末に途轍もない力を持つ「姫」なる人物が治める惑星に辿り着き、姫と共にカガセオ連合という組織を立ち上げ、銀河探索を本格的に開始した。これが今から約2000年前。
以後、探索と資源回収、人が住む惑星を見つけたら教えを請い、時には連合に引き入れながら拡大を繰り返した。故郷を滅ぼした敵、宇宙を彷徨いながら文明を滅ぼすマガツヒを討伐する為。今現在、銀河の約半分程度を探索し終えたそうだ。
あらゆる技術と知識を取り込み肥大化した連合という巨大組織を纏めるのは、彼女達アマツミカボシの神、超超高度な演算機能を持つ人造神「アマテラスオオカミ」と、力も正体も不明な「姫」。この二柱を軸に連合は安定した組織運営を行っていて、彼女達はアマテラスオオカミが製造に携わった惑星サイズの超巨大戦艦と共に宇宙探索を行っているそうだ。
何ともスケールの大きな話だが、それでも一つ確かな事がある。清雅、ひいては地球はそんな連中に勝った、という事だ。
情報を整理する間もなくルミナは人種、文明と様々な話を語り続けた。が、それまで饒舌に語る口が不意に止まった。直前に語った言葉は式守。いわゆるロボット。3000年前の故郷崩壊時から既に存在していたが、完全な人型はここ100年ほどの間で、更に本格的な戦闘への転用は僅か数年前だそうだ。
「そもそも、そのマガツヒとか言う危険な奴の相手、その式守に任せればいいんじゃない?」
ふと思い立った疑問をぶつけてみた。そもそも惑星を壊滅させるような危険な敵なら、わざわざ自分達が命張って戦う理由はない。しかし、ルミナは言い淀む。何か聞いてはいけない事を言ってしまったらしい。そんな空気を感じる。
「倒せないからだよ」
考えるより先に行動する自分が嫌になり、咄嗟に詫びを口にしようとした矢先、ルミナが遮るように回答を口にした。
「簡潔に話すと、奴等を倒す為の力は人間にしか扱えない」
説明はしてくれた。が、本当に簡潔過ぎて全く要領を得ない。分からない、と俺が素直に白旗を上げるとルミナは仕方ないとごちりながら説明を重ねる。
「人の意志に反応する事で爆発的な力を発揮するからだよ。だから、意志を持つ人類にしか扱えない」
「なんて力なの?」
「カグツチ。宇宙に偏在する未知の粒子。主に恒星と、後は微量だが脳からも放出されている」
「なら地球にも?」
「あるが濃度がやけに低い。敗因の一つ、だな」
敗因と、そう結んだルミナの声は消え入りそうな程に小さかった。その後、ポツリポツリと語ってくれたところによれば、通常は重力に対し反発する、一つとして同じ固有振動を持たない一方でより強い振動に対し共鳴しやすい、他のエネルギーに転化可能、果ては超長距離間の通信にまで使える等々、らしい。正直、よくわからんというのが本音だ。
「なるほど、とにかく凄い力って事か」
「あぁ、と。まぁ、その認識で良いよ」
半分以上理解できない俺の結論にルミナはやや呆れがちに同調した。その力の中で一番特殊な性質が意志に反応する点。肉体に取り込めば身体能力が飛躍的に向上するとか、武器に流し込めば凄い硬く出来たりするそうだ。で、極め付けが凝縮すればマガツヒの本体を消滅させる力を発揮するという。
「だから、式守では無理だと?」
「そう。だけどずっと押されっぱなしで、だからつい最近、意志を持つ式守の研究と製造が解禁された」
「そうなんだ。えーと、じゃあ君は……俺と同じって言ってたけど、戦ってるって事は式守、なの?」
「いや。元は生身。この身体……は」
話が自分の身体に移った途端、明らかに雰囲気が変わった。聞かずとも空気で察するには十分。何か言い辛い事情があったようだ。僅かに言葉を濁した後、ルミナは意を決したように語り始めた。
「事故で、ね。こうしなければ、生きる事が出来ない状態だった。その後、私はアマテラスオオカミ直轄の戦闘部隊、スサノヲに入隊した」
「そ、そっか」
色々と聞きたい事はあった。しかし、これ以上を聞き出せる雰囲気ではなくなった。ただ話をして、互いの距離を少しでも縮めようとしたかっただけなのだが、余りにも暗い声色が想像できない程の過去を想像させた。
「そう言えば」
無言の間に、ルミナの声が響いた。気が付けば、彼女が俺の方を向いていた。
「いや、話の続きでも、と」
「あぁ。そうだな、じゃあ、えーと……そうだ、幽霊ってどうなん?」
「解明されているよ。死の直前に一際強くなった意志がカグツチと結び付き、空間や物質に焼き付きを起こして、死の直前の感情を元にした反応を周囲に引き起こす。強ければ死体を動かす事も出来て、死んだまま戦い続けたなんて話が逸話として幾つも残っている。少し前に君が見せてくれたゴーストメール、だったか?ソレも誰かの強い意志が起こしているんじゃないかな」
断続的に、休憩を挟みながら彼女は話し続けた。饒舌に、まるで捲し立てるように。仲間と離ればなれで連絡も取れず、敵地である地球で孤立無援。しかも敵対する清雅は彼女達でも歯が立たない程に強い。不安を紛らわせたいのかもしれない。そう考えれば、こんな状態で正気を保ちつつも平然と会話を続ける彼女の精神力は尋常ではない。
その後も色々な話を聞かせてくれた。転移技術やその名称。超長距離だとアケドリ、近距離だとハイドリというらしい。変な名前だ。それから幾つもの惑星、文化、文明、技術についても。その中には魔術や魔法の類もあるそうだ。
ゲーム、アニメ、映画で描かれる世界が遠い宇宙の何処かでは現実のものとして存在している。そう結論した俺は、とにかく余計な感情を顔に出さないよう、余計な一言で話の腰を折らないよう彼女の話に相槌を打ち続けた。
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