G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第2章 遥か遠い 故郷

11話 未知の惑星で 其の2

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 殺すべきか、否か。

 ギリギリで踏みとどまった私は、この男の真意を確かめる為に引き続き交流する事にした。他愛ないやり取りから相手の心中を探れるかもしれないし、もしかしたらボロを出すかも知れない。

 結果、今も無意味に雑談を続けている訳だが、やはりどうにも苦手だ。データベースで見た知識の中で明確に記憶している事だけを幾つか羅列して会話らしく仕上げたのだが、上手くいっている確証が全く得られない。碌に交流も取らず一人で過ごしていればこうもなるか――と、愚痴っても仕方ない。
 
「聞きたい事があるのだが」

 意を決し、話題を切り替える。私からで駄目なら相手から引き出す。ただ、この選択肢は余り取りたくなかった。相手が敵であった場合、不用意に地球の情報を嗅ぎまわる私の存在は一層目障りとなる筈で、下手をすれば即座に始末しに掛かる可能性がある。

 迂闊だったかも知れない。が、動揺を抑え込み、努めて平静に振る舞う。幸い顔は隠れている。口調に気を付ければ少なくとも疑っているとは悟られないし、言葉は翻訳機能を理由にすれば幾らか誤魔化しが利く。まだ、大丈夫だ。

 が、どうするべきか、何を言うべきか。男は食事の手を止め、私の言葉を待つように黙り込んだ。無言の間に耐えられないが、どう答えれば良いかも分からない。時間にしてほんの数秒がとても長い。

「いや。すまない、一方的に喋りすぎて君の時間を奪ってしまった。聞きたい事があったのだが、眠いだろう?続きは明日にしよう」

 散々に迷った末、話を切り上げてしまった。果たしてこの対応に問題はないか、なんて事を考える余裕はなかった。及第点だと良いが。しかし、心は焦り、逸る。何をどうしようがリスクが付き纏うが、何も分からないとなれば正体不明の男と一夜を共にしなければならない。今更ながらに恐怖が湧き上がり、心を、身体をゆっくりと包み込む。

 元よりここは敵地、心穏やかにいられる方が異常だ。ただ、分かっていても、覚悟していても平常心が削られる。大丈夫だ。仲間が直ぐに助けに来る。そんな都合の良い考えで頭を満たし、少しでも恐怖を紛らわそうとした。その矢先――

「聞きたい事?」

 男が素っ頓狂すっとんきょうな口調を上げた。言葉も全く理解出来なければ男の心境の変化もさっぱりわからいが、ただ一つ、会話の継続を望んでいるという事だけは理解した。

 何を考えている?私と話を続ける利がこの男にあるのか?いや、やはり情報が洩れていたのか?この日に備え、万全の準備を整えてきた。誰かがこの星に残るケースまで想定してこの男を接触しやすい位置に置いたのか。

 いや、普通に考えれば異星の一般人を気に掛けるなど想定しない。今回だって助けたのは偶発的、気が付けば身体が動いてしまったというそれだけ。

 一度、大きな隙を見せたのに何もしなかった。無防備に背後を見せたというのにボケっと突っ立ち、あろう事か無防備に近づいたのは高度な訓練を受けたのか、それとも本当に一般人だからか。最悪は自爆覚悟で逃げるつもりだった準備が無駄に終わったのは良かったが、結局のところ何が正しいの今のところ全く分からない状態に変わりはない。

 敵地のど真ん中で、更に所持する武装も貧弱で、駄目押しに碌に物資補給も受けられない。どんな過酷な訓練でも想定していない状況に押し潰されそうになる。本当に。顔を隠していて良かったとつくづく思う。

「どうした?何が聞きたいんだ?」

 男からの声に混濁こんだくした意識が振り払われる。ほうけている時間はない。何とか会話を続けて、男の正体に近づかなければ。

「自己紹介の続き、かな。先ずは君の名前、次にこの星の……ソレの話を聞きたい」

 私は言葉と共に男が握りしめる携帯端末を指した。どこの文明にも大抵存在するが、この星にに限れば最も異常な物。この星が明らかに異常と断定する原因。これ程に異常な文明は2000年以上銀河を探査した中でも際立って異常だと、出来るだけストレートな表現で伝えた。

「やっぱ、おかしい?」

 決して耳障りのいい言葉ではないのに、男が酷く強い反応を示した。予測とは真逆の様子は何というか、「俺もそう思っていた」と言っているような、同意を得られた歓喜が混じっていた。

 どうしてそう感じたのか自分でも分からないが、そんな性格を見た私は別の感想を抱いた。この男の事は相変わらずよく分からないが、歳相応という評価は難しいと感じた。落ち着いた声色に反して若干子供っぽいと言うか感情が表に出やすい性格を見れば、そんな評価になっても仕方がないか。但し、演技でなければの話だが。

「宇宙に旅立つさえ出来ないのに、通信技術だけが明らかに進みすぎている。何か一つだけが飛び抜け過ぎているという事自体がまず異常だ。何故こんな事が起きているのだ?」

 最初に見た時から気になっていた率直な疑問。その正体が通信技術。特定の技術がそれ以外の全て突き放して進歩しているという不調和が今、この星で起きている。

 より正確には通信の他にもう一つ、先程の戦闘で目撃したセイガと言う連中の使用する兵器も異常だが、そちらの話は意図的に外した。敵にせよ味方にせよ、核心に迫る情報は得られない。

「俺達の歴史が知りたいのか?」

「どんな情報でもいいから集めておきたい。私達の目的、銀河系の文明調査の為だ」

 本心をひた隠し、問答を続ける。言葉に偽りはない。滅ぼされた故郷から逃れた私達の祖先は他文明、惑星、その他に有益そうならば何でも調査し、必要ならば取り込んで来た。

 全ては知的生命体を問答無用で襲撃するマガツヒ殲滅の為。打開策を求め、銀河を彷徨さまよった歴史を敵が知っているならば言い訳として好都合。仮に知らずとも嘘は言っていないから信用させる事が出来る。我ながら妙案だな。

「なんか、色々あるんだな。俺は伊佐凪竜一 いさなぎ りゅういち。ナギって呼んでくれて良いよ、宜しく」

 楽観的な、屈託ない普通の挨拶。だが、ほんの少しだけ苛立ちを覚えた。いや、羨ましいのか。身勝手だとは思う。いっそ、思うまま我儘わがまま傲慢ごうまんに生きれたらどれだけ楽か。

 やはり、殺すべきだ――

 心の中で、抑えた結論が沸々と熱を帯び始めた。同時に頭が二つの選択肢が辿る結末を描き出す。敵なら逃げる間もなく殺される。一般人なら勝手知らぬこの星を一人で逃げる羽目になり、生き残っても旗艦に戻れば必ずとがめられる。

 クソ、と心中で吐き捨てた。何をどうしても、最後には理性が打ちってしまう。ならば、と私は腹を決めた。今は行動を起こすべきではない。もう少し冷静に情報を集めよう。疑念が確信に変われば、その時は躊躇いなく殺す。

 これも師との訓練の賜物か。そう思えば、碌でもない理由でスサノヲに志願した意味もあったという事か。

「じゃあ携帯コレの話がだけど、歴史の授業じゃ必須だし今でも覚えてるよ。1938年だったかな?当時まだ日本では普通の企業でしかなかった清雅が世界に向けて小型の通信端末を発売したんだ。ソレが今も使われている携帯端末の始まり」

「ッ……と、今からどれくらい前だ?」

「大体100年だよ」

 この男の説明にさっそく口を挿みたくなった。授業で必須、今も覚えていると言ったのにどうして曖昧な物言いから始まるのだ。そんな物言いでは情報を信じて良いのか分からないじゃないか。

 こういう奴なのか、それとも演技か。怒っては負けだ。冷静さを欠いては正しい判断を下せない。私は自分を強引に納得させ、湧き上がる怒りを抑え込みながら、会話に集中した。
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