G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第2章 遥か遠い 故郷

30話 闇に沈む夜の街へ 其の3

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「オイって!!見つかったぞ!!まったく恐竜の次はデカい蛇って、何がどうなってんだよ!?」

 現実へと戻った意識が、背後に向かう。昨日までとはまた違った形状の化け物が迫っていた。手足は持たず長い胴と尻尾、そして細長い瞳孔に大きな口から出す細長い舌を持つを奇怪な顔つき。青く光るその巨大な図体に、あの男が乗っていた。

 巨大な蛇は止めてあった車両を押し潰しながら道路をうねるようにこちらへ迫りくる。巨体に似合わない移動速度は昨日の化け物と同じく、おおよそ生物とは思えない。このままでは追い付かれるが、さりとて戦っても勝てる見込みはない。挙句にジリジリと少しずつその差を詰められる。

「いい加減にぃ、諦めろよクソ野郎共!!」

 近寄るにつれ不快な気配と声は更に大きくなり、思考を邪魔する。死が、間近に迫る。そんな絶望的な逃走の果て――

「あの入口は何処に繋がっている!!何処に出る!!」

 視界の先に地下へと続く入り口を見つけた。あれ程の巨体ならば、あの狭い場所を通過するのは不可能。問題は繋がる先。近くの建物には後ろから迫る化け物が入れそうな位に大きい入口が幾つかある。その内の一つにでも繋がっていたら何の意味もない。

「地下にある駅、出口はえーと……とにかく沢山だけどこの近くにはない!!」

 酷く曖昧な返答。もう少しはっきりと、と指摘したかったが時間が惜しい。急ぎ彼に率先して地下への道を駆け下りた。まるで通路の様な入口は見た目以上に狭く、後ろの化け物の大きさから判断すれば直接侵入は不可能。サイズ変更の可能性は捨てきれないが、一先ずは安全だ。

 速度を緩め、辺りを見回すと旗艦でよく見た形式が広がっていた。煌々と照らす照明、華やかな色遣いの掲示板に彩られた地下空間は予想以上に狭く、更に入り組んでいる。好都合だ。流石にこの中を強引に、なんて馬鹿で非効率な真似はしないだろう。

 この場所を伊佐凪竜一は「駅」と言っていた。似たような場所が、私達の住む場所にもある。恐らく特定区間を繋ぐ交通機関か。

 旗艦には長距離移動用に用意された特定箇所同士を結ぶ固定転移装置とは別に、比較的短い距離を繋ぐ交通機関も存在しているが、この場所よく似ている。どれだけ遠く離れていても文明が行きつく先は同じなのか、それとも奪うよう指示された「何か」が関係しているのか。

「って、うわわわッ!?」

 追い付いたらしい。が、聞こえてきたのは情けない悲鳴と折り重なる激突音。かなりの速度で構内に突っ込んだようで、急停止出来なかったようだ。彼を見ると地面に倒れ込み、ぐったりとしたまま起き上がる気配を見せない。

「大丈夫か?」

 堪らず声を掛けた。私の声に反応し、上半身がムクリと起き上がる。どうやら見た目以上には頑丈らしい。だが紺色のズボンとジャケットはともかく白のシャツは随分と汚れてしまっていた、それに顔や腕の一部も擦りむけている。

 彼は無言のまま軽く身体の汚れを払い、次に自転車を確認し始めた。何やら暫く弄ったかと思うと、私の方を振り向き――

「あ、あぁ。これ結構高い奴だから頑丈にできてるし、最新の頑丈なフレーム使ってるしタイヤもパンクしにくいタイプだからこのまま行ける……ッ痛ッテテ」

 漸く声を出した。私が大丈夫と聞いたのは君の方なのだが、と少し呆れた。それに未だ立ち上がれていないだろうに。言いたくてたまらないその言葉を口に出す代わりに手を差し伸ばそうとしたところで、余りにも静かな事に気付いた。

 人がいない。

 市外が目と鼻の先にあるこの場所の人払いも完璧に済まされていた。物音一つしない静か空間が、この惑星に取り残された感覚を呼び起こした。

 現状を見るに、清雅と言う組織は交通機関も当たり前の様に止める事が出来るようだ。いや、特定の場所を避難地域に指定して人払いするなんて芸当を平然と行うのだから、交通機関を止めるのも簡単か。しかし、幾ら影響力が大きいとは言え2人の為だけに此処までの真似をこうもあっさり行われてはたまらない。

「たった一社がどれだけ影響力を持っているんだ」

 気が付けば、抑えきれない不安が言葉に漏れ出ていた。と、同時に何時の間にか自力で起き上がった彼が私を見つめている事に気づいた。漠然と考え事をしながら差し出した私の手は余りにも頼りなかったのか、自力で立ち上がると――

「交通機関だけじゃない、国も世界もさ。こんなの朝飯前だよ、清雅には」

 無人の駅を見回しながら私の疑問に回答した。国、世界まで。規模が一気に拡大した事に現実感が沸かず、理解も追いつかない。桁が違う。初めは特定地域、最大まで見積もっても精々一国程度を支配する組織だと思っていたが、実際は世界中を支配下に置いている。

 やはり私達は嵌められたんだな。どうしてこんな重要な情報が事前に提示されていないのか。こんな真似を平然と実行する企業を相手するのに、あんな出鱈目な指示を出すなど常識的に有り得ない。

 世界中を動かす事が出来る企業が、更に未知の戦力を持っているとなれば現状の戦力ではまず勝てない。特にあの訳の分からない兵器は大きな壁になる。仲間達が命懸けで持ち帰った情報は上も知るところとなった。だから作戦の見直しを、と思ったが無理だろうな。

 今の私達の直属の上司はその程度すら理解出来ない連中だった。なら、仲間達は大丈夫か?私はちゃんと戻れるか?仮に戻れたとしても、何も変わらないのでは?アラハバキも、そんなアラハバキを受け入れる旗艦アマテラスの市民達も何も変わらないのでは?変わらなければ無謀な作戦の為に戦わされ、死ぬ。解決しない不安が、幾重にも折り重なる。

「何もかもが異常だなこの星は、文明もそこに住む人も……すまない。襲撃とういう異常な手段に出た私達に非難する資格は無いな。本当に……何処も彼処も……異常で……嫌になるな」

 抑えきれない不安が再び零れ落ちた。無意識に、無意味な事を口走った。傍と気付き伊佐凪竜一を見ると、彼は私の突然の変化に驚いているようで、無言で見つめていた。

 が、視線が不意に泳いだ。大きな振動。地上から地下に向けて、何か大きな衝撃が突き抜けた。一度、そしてもう一度と衝撃は続き、その度に地下構内全体が派手に揺れ動いた。天井から下がる看板は大きく軋み、床や壁にはひび割れが縦横無尽に走る。照明は明滅し、アチコチから火花が上がる。

 恐らく地下への道を強引に作っているようだ。奴らの影響力の出鱈目さからすれば、強引な手段を取ったところで痛くも痒くもないのだろう。

 とにかく逃げようと彼に目配せをした。彼は、やはり無言で頷いた。先ずは地図を確認した。この駅から進むルートは2つ、その内の一つは清雅市の中央へと続いていた。位置的には私達が出現した場所よりも更に北へと伸びている。間違いなく本拠地だが、市内のど真ん中へ進むルートは選べない。ならば逆側しかない。清雅を離れるように隣接する区画へと進む道を目指す。

 交通機関が止まっているならばこちらもそれを利用させてもらおう。走行用のレールに降り、道なりに隣の区画へ足を進める。地上からは相変わらず定期的に震動が起き続けていて、僅かでも迷う事を許さない。考える余裕すら与えられない逃避行はいつまで続くのか。また一つ、心の中に不安が折り重なった。
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