G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第2章 遥か遠い 故郷

34話 死線 其の2

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 今にも崩落しそうの駅構内での戦況は一向に改善の兆しを見せない。両手の痛みは更に鋭く、鈍さを増しながら徐々に遡り、頭部に伝播した。

 引き金を引く度、腕に、頭に痛みが走る。カグツチが出す力に脳が耐えきれず、悲鳴を上げる。最悪の状況にまた一歩近づいたが、嘆く暇は当然ない。ぐずぐずとしていられない。攻撃を続けながら、何とか隙を見て――

「いい加減にしろよお前ッ。なんで、なんでこんな事するんだよ!!」

 動揺。混乱。私の意識をナギの叫び声が横切った。彼の言葉と固く握られた銃の向かう先はヘビを操る男、かつての同僚に向かう。時を同じくして、ヘビの獰猛な動きが止まった。静まり返る駅の構内に、冷たい風が吹き抜けた。

「俺に命令するんじゃねぇ!!それにテメェ、撃った事あんのか?ねぇよなぁ?素質もねぇクソ雑魚の分際で、会社に入れてもらった恩を忘れる阿呆がッ!!おまけに会社の情報売ろうとしやがる。社長命令だ、そいつと一緒に死ねよ!!」

 ナギの言葉を切っ掛けに、茶髪の男が一気に捲し立てた。その様子は、今まで言えなかった事をぶちまけている風に見えた。

「素質?なんだよそれ、ンなモン知らないし聞いた事もねぇよ!!」

「当然だろ、ごく僅かしか知らない本社入社の重要な条件の一つさ。最後だし、なーんも知らねーお前に教えてやるよ!!製品、技術、金、権力なんてモンはぜーんぶおまけ。この力だよ!!この力で清雅はあらゆる暴力と圧力を跳ね除け、全てを手に入れた!!俺達は選ばれたんだ、社長に、ツクヨミ様に!!」

 選ばれた、か。あの口振りからするに、ツクヨミというのは抽象的な存在ではなく実体を持った何者かに聞こえる。いや、今はそれよりも――ダイチと呼ばれた男がナギに意識を向け始めてからヘビが全く動かなくなった。意識が完全にナギに向かっているのが原因か。

 逃げ回った甲斐があった。今が絶好の好機。成果のほどは分からないが、これ以上の機会はもう二度と訪れない。今を逃したら次の機会が訪れる保証はない。冷えた頭が私に行動を促す。

 なのに、動けない。あの男の言葉が気になって仕方がない。殺したくてたまらなかったナギを前に感情がたかぶり、言わなくていい秘密をベラベラと暴露しようとしている。

 この出鱈目な惑星の秘密に少し近づける。そして、私達が勝つ為に必要だ。そんな確信があった。例え今この場でダイチを討ったところで地球側からすれば僅か一名分の欠員に過ぎない。だが情報があればその分だけ優位に立てる。ただ、討たなければ私とナギが死ぬ。

 動きたい、だが動けない。攻撃すべきか、話に耳を傾けるべきか。私の中で二つの相反する感情がせめぎ合う中、ダイチは清雅の秘密を暴露し続ける。

「この力、マジンを動かすホムラはツクヨミ様が人類に与えたものなのさ。元は通信用だったが、生物濃縮を経て人の中に堆積たいせきした結果、特殊な力を持つ人間が生まれるようになった。ホムラとの親和性が高い、エネルギーとして操れる新たな人類。それがお前や俺達だよ」

「は?何、言って」

 話を聞いたナギは唖然、呆然としている。通路でのくだりと同じく、生理反応を調べたが嘘ではなかった。つまり、彼は心底から何も知らない。

「お前も適性検査受けてるぜ。入社試験ン時に身体検査って形でな。で、適性をクリアした者の更に一部、選ばれたエリートのみが清雅の全てを知る事を許される。ツクヨミ様の指示の元で清雅を守り、それに守られた清雅が世界を動かすのさ」

「ツクヨミって、清雅が信仰する神の名前付けた通信制御システムかよ。意味わかんねーよ!!」

 ダイチは尚も饒舌に、話さなくても良いことをベラベラと語り続ける。よほど我慢していたのか、それとも勝利を前に気が緩んだのか。何れにせよ迂闊過ぎるよ、お前は。

「分かれよ!!ホムラへの適性を持つ者が命を掛けて守るからこそ清雅は正しく栄え、そして清雅が支える世界が栄える。だから今も尚、ホムラを作り続け、世界に供給するツクヨミ様は清雅を、世界を、俺達を支える正しく神なんだよ!!それを奪おうってんだから殺すしかねぇだろ!!だから戦うんだよ!!無理矢理奪いに来るってんなら、ブッ殺してやろうって寸法なんだよッ!!」

 出向いて、だと?今、明らかに口を滑らせた。だが、どうやってだ?怒りに任せて話したい事だけを口走っているせいで肝心な部分が分からない。さりとて素直に聞ける雰囲気でもなければ、そんな間柄でもない。

「どうしたって手段が強引過ぎるだろ、考え直せ!!」

「出来る訳ねーだろ!!大切なモン奪われるんだぞ、そいつらに!!その女の仲間達に。指咥えて見てろってのか、ツクヨミ様ァ奪われたらこの星はおしまいだ。誰も生きていけない!!中にはイカレタ奴もいるが大半は戦いたいわけじゃねーんだよ、怖いに決まってるだろ!!まぁ俺はイカレてる側だけどなぁ!!」

「クソッ、なんだよそれ!!そんな理由でッ」

「そんな理由だァ!?身の程弁えろよ、何も知らねークソ野郎が!!ただいるだけじゃあない、存在自体が邪魔な分際で!!同郷っていうそれだけで社長からちょっと目を掛けられただけのお前がぁ!!これ以上喋るなァ!!」

 選択の正否は分からない。だが、ダイチが感情に任せてベラベラと喋ってくれたおかげで色々な事が分かった。やたらとナギを敵視する理由も、少しだけ。ただ、分かっただけで到底理解はできないが。

 あの男にとって清雅源蔵とツクヨミは絶対的な存在らしい。その狂信的な性格が私達の襲撃によって恐ろしく短気で粗暴という形で出力されているようだ。だが、少しばかり狂信的の度合いが過ぎる。ああいった精神状態に陥った人間は洗いざらいぶちまければ大抵は落ち着くのだが、あの男は正気を失っているに近い。

 ダイチは懐を探り何か白い錠剤を取り出すと口の中に放り込んだ。薬か、栄養剤か。とにかくボリボリと噛み砕くと、会話中ずっと大人しくしていたヘビが動き出した。視線を私から外しナギへ向ける。予想通り過ぎて笑えない。何としても彼は守らなければ。そう、覚悟を決めた。
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