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第4章 神
幕間8 迷い 揺らぐ神
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20XX/12/16 2320
「見つけました」
私の言葉に反応し、ツクヨミが瞼を開いた。闇に支配された世界に、2つの青い瞳が浮かび上がる。
「場所は?」
「M区から2つほど離れたK区内の無料休憩施設です。カメラから上手く顔を隠しているようですが、間違いありません」
「そうか。移動先も、予測しているのだろうね」
「この区から更に2つ程区を挟んだ場所に祖父の姉が住んでいます。現状で彼が頼れる人物で、幸いなことに現在一人暮らしです。逃走ルートを見るに、この場所に向かっているのはほぼ確実でしょう」
「そうか、だが……」
「既に対策済みです。対象の人物、大賀睦美と伊佐凪竜一に関連する情報は全て改竄済みです。併せて盗難車両が映りこんだ映像もダミーにすり替えました。不自然にならないよう全ての映像のすり替えは行っておりませんが、目的地を絞らせないだけならば十分です。逃亡の時間は十分に稼げると判断します」
「ありがとう、流石に早いな。彼の様子は?」
「特には。強いて言うならば、この寒空の中にも関わらずジャケットを脱いでいる程度でしょうか。追跡が終わったわけではありませんので体調面に不安が残ります。例え軽度な風邪でも現状においては致命的、確実に命を落とすでしょう」
「そう……そうだな。だが何故、彼は?」
「どうやらカグヤ……いえ、ルミナに与えているようです」
「だが、彼女は……」
ツクヨミは映像データを拡大した。無機質な目が、映像の端に映る伊佐凪竜一を捉える。
「はい、詳細に調べたわけではありませんが彼女の身体的特徴から判断すれば全身が機械製の体躯と予測されます。ご存知の通り、自我の獲得を目的に製造された例の式守は現時点で一機のみ。また、アラハバキの性格から判断するに、仮に二体以上を製造していたとしても、貴重な一機をスサノヲに提供する可能性はゼロです。従って、彼女は肉体の九割以上を機械に置き換えたと考えられます。彼女ならばこの程度の寒さは何も感じないでしょう。加えて、スサノヲならば防壁も所持していますから尚の事です」
「では、彼はどうして無意味な真似を?素性はもう知っているだろうに」
映像と私の説明を反芻したツクヨミは最終的に一つの疑問へと辿り着いた。無機質な目が寒空に振るえる伊佐凪竜一を見つめる。
やはり、理解できていない。人の意志、その流れを。一見すれば無意味とわかる行動を取る理由を、どういう心境からそれを行っているのか。勿論、私も完全に理解できるわけではないが、彼女は取り分け人の心を理解しない。否、出来ない。想像を巡らす事さえも出来ない。
意志、心、それを持ちながら彼女は人の心、その深層に思いを馳せる事が出来ない。だから物事を表層で、データ、あるいは記録が示す通りにしか判断出来ない。伊佐凪竜一の行動に何ら意味を見出せず、理解も出来ず。
昔はそうではなかった。何が原因か。不完全さか、500年という長い時間か、孤独か、それとも――誰も彼女に納得のいく答えを見せなかったからか。
やがて映像から伊佐凪竜一の姿が消えた。震える身体で車内へと戻った彼は急いで休憩所から車を発進させた。予想通りの方角へ走り去る車をツクヨミは呆然と眺めている。その目には光が宿っているが、吹けば消える程に儚く脆い。
其処に地球の神たる姿を見る事は出来ない、そして私はその理由を知っている。ツクヨミが――※※を理解出来ない事を。
だが、それでも彼女は答え求め、無意識にあの2人を見出した。だから私もツクヨミを手伝う。矛盾を承知で、自らが愚かな存在だと知っていて、それでも――何時終わるとも知れぬ逃走の果てに、答えを見せてくれると期待して。
「見つけました」
私の言葉に反応し、ツクヨミが瞼を開いた。闇に支配された世界に、2つの青い瞳が浮かび上がる。
「場所は?」
「M区から2つほど離れたK区内の無料休憩施設です。カメラから上手く顔を隠しているようですが、間違いありません」
「そうか。移動先も、予測しているのだろうね」
「この区から更に2つ程区を挟んだ場所に祖父の姉が住んでいます。現状で彼が頼れる人物で、幸いなことに現在一人暮らしです。逃走ルートを見るに、この場所に向かっているのはほぼ確実でしょう」
「そうか、だが……」
「既に対策済みです。対象の人物、大賀睦美と伊佐凪竜一に関連する情報は全て改竄済みです。併せて盗難車両が映りこんだ映像もダミーにすり替えました。不自然にならないよう全ての映像のすり替えは行っておりませんが、目的地を絞らせないだけならば十分です。逃亡の時間は十分に稼げると判断します」
「ありがとう、流石に早いな。彼の様子は?」
「特には。強いて言うならば、この寒空の中にも関わらずジャケットを脱いでいる程度でしょうか。追跡が終わったわけではありませんので体調面に不安が残ります。例え軽度な風邪でも現状においては致命的、確実に命を落とすでしょう」
「そう……そうだな。だが何故、彼は?」
「どうやらカグヤ……いえ、ルミナに与えているようです」
「だが、彼女は……」
ツクヨミは映像データを拡大した。無機質な目が、映像の端に映る伊佐凪竜一を捉える。
「はい、詳細に調べたわけではありませんが彼女の身体的特徴から判断すれば全身が機械製の体躯と予測されます。ご存知の通り、自我の獲得を目的に製造された例の式守は現時点で一機のみ。また、アラハバキの性格から判断するに、仮に二体以上を製造していたとしても、貴重な一機をスサノヲに提供する可能性はゼロです。従って、彼女は肉体の九割以上を機械に置き換えたと考えられます。彼女ならばこの程度の寒さは何も感じないでしょう。加えて、スサノヲならば防壁も所持していますから尚の事です」
「では、彼はどうして無意味な真似を?素性はもう知っているだろうに」
映像と私の説明を反芻したツクヨミは最終的に一つの疑問へと辿り着いた。無機質な目が寒空に振るえる伊佐凪竜一を見つめる。
やはり、理解できていない。人の意志、その流れを。一見すれば無意味とわかる行動を取る理由を、どういう心境からそれを行っているのか。勿論、私も完全に理解できるわけではないが、彼女は取り分け人の心を理解しない。否、出来ない。想像を巡らす事さえも出来ない。
意志、心、それを持ちながら彼女は人の心、その深層に思いを馳せる事が出来ない。だから物事を表層で、データ、あるいは記録が示す通りにしか判断出来ない。伊佐凪竜一の行動に何ら意味を見出せず、理解も出来ず。
昔はそうではなかった。何が原因か。不完全さか、500年という長い時間か、孤独か、それとも――誰も彼女に納得のいく答えを見せなかったからか。
やがて映像から伊佐凪竜一の姿が消えた。震える身体で車内へと戻った彼は急いで休憩所から車を発進させた。予想通りの方角へ走り去る車をツクヨミは呆然と眺めている。その目には光が宿っているが、吹けば消える程に儚く脆い。
其処に地球の神たる姿を見る事は出来ない、そして私はその理由を知っている。ツクヨミが――※※を理解出来ない事を。
だが、それでも彼女は答え求め、無意識にあの2人を見出した。だから私もツクヨミを手伝う。矛盾を承知で、自らが愚かな存在だと知っていて、それでも――何時終わるとも知れぬ逃走の果てに、答えを見せてくれると期待して。
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