G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第9章 神の過去 想い そして託された願い

95話 現在 混迷する戦況 其の1

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 20XX/12/22 0955

 彼のありのままが私の元に届いた。今までひた隠しにしてきた清雅源蔵の意志、願い、欲望、それらがない交ぜになった一言に、私は全てを察した。

「宇宙だよ!!目の前にあるのだ!!宇宙がッ、我が神ツクヨミの故郷が。そこに連れていく、彼女の為!!それがッ、私のたった一つの願いだ!!」

 彼の目に、強烈に輝く意志の光に偽りの色は欠片もない。これが、彼の暗い目の奥に隠した本心。何も変わっていなかった。少年の時に見たあの輝きそのままだった。あの時のまま何も変わらず、一族でも、地球でも金でも名誉でもなく、ただ私の為だけに――

「ならば、俺にも考えがある。鎖を使う」

 クサ――リ?不穏な単語に、音声の元を辿る。映像が、劣勢へと傾きつつある戦況に苛立ちを隠せないヤゴウを映した。口の端に笑みがこぼれる。

「通達しろ、部隊を二分する。片方は艦橋へ向かう敵を何としても殺せ!!もう片方は地上に降下、ツクヨミを確保しろ。犠牲など構うなッ。それから艦橋にいる誰でもいい、固定転送用ハイドリのエネルギー供給を今すぐ停止しろ!!」

 やはりお前か。男の顔にため息が零れた。つい数分前まで盤石だったアラハバキの体制は完全に崩壊した。離反と命令無視が避けられぬ状況で目的を確実に達成しようと考えるならば、鎖による行動強制以外の選択肢はない。

 だが、ここまでするか。ヤゴウらしい、実に短絡的で無計画な判断。アラハバキの総意でない事はヤゴウとは対照的なオオゲツの呆れ顔を見れば明らか。内部分裂も決定的か。

 だが、如何に愚かであってもヤゴウ達アラハバキが旗艦の実権を握る事実は動かない。出鱈目な指令を受けた全員が呆気にとられ、正気を疑った。戦場には一般市民の避難が完了していない居住区域が含まれているというのに、それを無視して己の命と目的の為に使用すると言ってのけたのだ。

 見せかけ程度に築き上げてきた市民との信頼関係を反故ほごにする判断からするに、目的さえ達成出来れば元から旗艦を切り捨てる腹積もりだったらしい。

 程なく残存部隊は二分される。命令に逆らえば戦力の中心は激痛により行動不能、受け入れれば市民は孤立無援、殺戮を繰り広げる壱号機と量産型の餌食となる。何れにせよ、遠からず全滅が確定する。

「ハァ?オイオイオイ、何考えてんだ!!」

 地上から怒りと懐疑が入り混じった声が波の様に届く。その中心はタガミ。また、旗艦内で迎撃に当たる多くのクズリュウも同様に疑問の声を上げた。

 が、程なく全ての声が消失した。鎖。その第一段階が彼等を襲い始めた。激痛から逃れるには命令を復唱し、従う意志を見せる事のみ。最初はスサノヲ、続けて旗艦の要職へと拡大した鎖と言う名の枷が発動、命令の拒絶に対し耐えがたい激痛を与え始めた。誰もが苦痛の声を漏らしながら命令を復唱、アラハバキの目的の為に行動をせざるを得なくなった。

 第二段階は強制的な意識の切断。もし戦場で発動すれば死は免れない。必死で激痛に耐える者もいるが、そんな強靭な意志を持つのは極少数。大半は恭順きょうじゅんの意を示す。

 一方、制御下にない大半の市民はただひたすらに焦るばかり。旗艦の様相は完全に変貌へんぼうした。自らが信じ、その為に命を賭けると誓ったアラハバキの裏切りと思慮浅い短絡的な思考が露見された事で、混乱の渦へと落ち込んだ。

 ※※※ 

「ふ、復唱……イドリ……供給を停止させました。クソ、クソッ、どうなっても知らないぞ!!」

 苦痛に悶えるオペレーターが叫び、旗艦に点在する遠距離転送システムへのエネルギー供給を強制切断した。この時点で旗艦内で戦う部隊と市民の孤立が確定した。が、実際はそれだけで済む話はない。無理な緊急停止措置の影響は即座に出始める。

「き……強制停止措置により各転送装置付近でエネルギー逆流を原因とする爆発を確認!!現在確認出来るだけで……軽く1000を超えています!!」

「構わん、放っておけばいずれ修復される。これで、一先ずは」

「お話の途中で申し訳ありませんが、来ましたよ」

「なッ!?」

 状況の悪化を強引に食い止めたヤゴウに安堵する暇はない。ヒルメの報告に狼狽えるヤゴウを含めた艦橋内の全員が入口を一斉に見る。

 ゴォン

 鈍い音に、大半が顔を歪めた。直後、艦橋内外を繋ぐ強固に閉ざされた扉がいとも容易く歪み、破壊された。奥からゆらりと動く一つの人影が、ゆっくりと艦橋へと歩を進める。

 白川水希だ。予測した時間よりも大幅に早く目的地へと到着した彼女はそのままぐるりと周囲を見渡し、やがて見慣れた顔を見つけると、一方的に話し始めた。

「お久しぶりです。さっそくですが、抵抗止めてもらえますか?」

 冷酷に、冷淡に彼女は言い放った。誰もが死を覚悟した。ただ、相変わらずヒルメだけは違う。私が制御を奪うカメラに微笑むと、そのまま艦橋への侵入者に向け軽く挨拶を交わす。

「ご丁寧に、初めまして。私、ヒルメと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

 呆れる程にマイペース。あるいは演技か。ただ、その程度で毒気が抜けるような相手ではない。白川水希は場違いな挨拶を完全に無視、無言でアラハバキを睨む。視線に隠し切れない憎悪と殺意が滲む。無理もない。彼等がいなければ彼女にも違う道があったのだから。

「ス……スサノヲはな、何をしている!?」

「アナタ、馬鹿なんですか?来れる訳ないでしょう?私達に勝てる唯一の戦力を冷遇して、端に追いやったのは誰です?」

「ク、クズリュウは」

「全員、床で寝てますよ。急いでいたので生死の確認はしてませんけど、運が良ければ生きているでしょう。そうそうお土産、遠慮なく受け取ってください」

 白川水希は残酷な事実を突きつけた。今の彼女を止めるなどスサノヲ以外に不可能。彼女は隣に浮かぶ龍の頭を撫でた。龍は口を開け放ち、何かを吐き出す。赤い飛沫を垂らしながら床をゴロゴロと転がる何かは、程なくヤゴウの近くで止まった。

 ヒ、と情けない声を上げるヤゴウ。「何か」の正体は、我先に艦橋から逃げ出したハヅキの生首だった。その表情は恐怖に歪んでいた。脅迫、無言の圧にオペレーター達は叫び、震え、怯え始めた。ヤゴウも腰を抜かし、恐怖に震えながら生首を呆然と見つめる。現状、比較的落ち着いているのは常に浮かべていた笑みを消し、無表情で白川水希を睨むオオゲツだけ。

「では、先ずは降伏してもらいましょう。通信を開き全戦力に伝えて下さい。旗艦アマテラスは地球と清雅に対し全面降伏すると」

 彼女は降伏を勧告した。停戦とならなかった場合の選択肢だ。これで、確実に戦いは終わる。

「多大な犠牲を払いました。ですが両者が降伏しなければ数倍以上の犠牲が出たでしょう。また、貴女が奪われた地球も同じく、桁違いの被害を出るのは確実。我らは出来る最善を尽くしました。ですから、これで良かったと思いましょう。そして罪を償いましょう。無数の犠牲者達に許されずとも」

 アベルが同情と慰めの声を私に掛けた。数字だけを見れば、助かった命は多い。地球は言うに及ばず、旗艦側の犠牲も可能な限り避けた。だが、言葉通り犠牲者は多い。数字だけならば私達は虐殺者の汚名を受けるに十分だ。その先に在る停戦と和平交渉に向けて、悍ましい数の犠牲を「名誉の死、崇高な犠牲」と飾り立ててまで私達は突き進んだ。

 勝たねば犠牲者の死が無意味となる。私達も同様に、悍ましい犠牲の上に作り上げられた英雄とその為に作られた武器が織りなす英雄譚から、狂人と凶刃が作り上げた虐殺になってしまう。

 死に、囚われている。犠牲を出す度に私の心から何かが抜け落ち、軽くなっていく感覚に襲われた。同時に軽くなる心が、否応なく突き進まざるを得ない戦いへの道――現実と言うレールの上を猛進する私の背中を押す感覚に襲われた。

 止まるなど出来なかった。地球をおもんばかる意志が微塵もない連中が戦いを望んでいるのだから。停戦の鍵を握るのは圧倒的な力を持つ旗艦むこう側だから。

 だから、あらゆる状況を精査し、考え得る最善の状況で開戦した。何も知らぬクズリュウや巻き込んでしまった地球の混成軍には申し訳ないと思う。ただ、それでもこれ以外の道はなかった。

 だから突き進んだ。綱渡りを承知で、戦いの道を選んだ。犠牲を出す度に何かが欠け落ちていく感覚を無視して、心から何かが零れ落ちる度に上がる悲鳴に耳を塞ぎながら、それでも――
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