G.o.D 神魔戦役篇

風見星治

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第10章 目覚め そして 英雄となる

幕間20-3 助けたいんだよ

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 20XX/12/22 1047

 狂気が戦場を支配する。正気であってはこのような大義も正義もない、全く無意味な戦いを継続するなど出来ない。

「ハハッ、ハハハハハハッ。見ろッ、この世界は何処でもそうなのだ。短い間とは言え苦楽を共にした者同士であっても結局最後はああなるのだ。理解はッ!!彼女の願いはッ!!この星の何処にも存在しない!!」

 渦中に立つ清雅源蔵が伊佐凪竜一とルミナの生存に気付いた。初めこそ驚いていた彼だが、2人の晒す醜態に酷く幻滅――いや、どこか安堵し、声高に叫んだ。

 彼も私と同じ結論に辿り着いた。何処にもない。今まで見つからなかったのだから、このような状況で見つかる幸運が起こるなど有り得ない。だが、アベルは変わらず戦場の様子を私に届け続ける。どうして?彼らしくない、私に利のない行動を初めて取る態度に何故だか心がざわついた。

「アベル、もういい。もういいんだ……もう、得られるものは何もない。2人に出来る事はもうない、助ける事も……アベル?聞いているのか?」

 だが、幾ら問いかけても彼は黙して語らず。相変わらず2人を映した映像を私に見せ続ける。何を願っているのだろうか?今の私には彼が理解できない。

「私はいい。手を離せ。私の代わりにこの情報を……」

「俺……誰かを助ける為に自分を犠牲にするなって言ってるだろ!!怖い、死にたくない、お前も本当はそうなんだろ!!」

 ルミナは破損したバイザーを再び伊佐凪竜一に渡そうと試みる。言葉が通じなくても、どんな意味を持つかは大抵の人間ならば容易に理解できる。ましてや、これまで行動を共にした間柄ならば尚更。彼女は強引に押し付け、同時に彼が必死に掴んでいた手を振りほどいた。

「君はッ!!」
「お前はッ!!」

 重なる叫び。伊佐凪竜一は、彼の答えは――彼が捕まえたのはルミナの手だった。彼女が必死で渡したがっていたバイザーは音もなく地上に吸い寄せられるように落ち、程なく私すら視認できなくなった。恐らく、完全に破損した。必死で彼女が解析した情報は、全て無駄になった。

 ルミナは苛立ちを隠そうともしない。否応なく視界に映るのは、私がはかない期待を持ち、清雅に殺されぬよう手助けをした一組の男女。君達ならば、この星の何処にも存在しなかった私の願いを見せてくれると、そんな幻想を抱いてしまったが故に彼らは苦しみ、遂には争いまで始めた。

 そんな有様に酷く落胆し、それまでの献身的な保護の手をひるがえし、見放した。僅か間を置き、傍と正気を取り戻す。無情な決断を下した自分自身に酷く嫌気がさし、ともすれば激しく憎悪した。

 こんな傲慢な考えの何処に神らしさがあるのだ。神と呼ばれ、持てはやされ、たてまつられたところで、私は――私は神などではなく、この星に降り立ったあの時から何ら変わりない、何処までも孤独で、何処までも未熟で、何処までも不完全で、自らの存在さえ定義できない、誰でもない空っぽの何かのままだった。

 この身が肉の身体ではないからか、人ではないからか、私は成長と言う概念がなかった。あるいはただ流されるままに神として存在し続けた結果、私は何時の間にか成長を放棄してしまったのか。

 アベルは相変わらず無言で映像を見せつける。伊佐凪竜一もルミナも互いを睨み合う。2人の心は断絶してしまった。私が、この戦場がそうさせてしまった。しかし、違った――

「分かってるだろ!!君が私を助けたいように、私も君を助けたいんだよ!!」
「分かってるだろ!!お前が俺を助けたいように、俺もお前を助けたいんだよ!!」

 2人の言葉が重なった。

 あぁ、と溜息が零れた。私は、今頃になって気付いた。もう、言葉が通じていないのだった。伊佐凪竜一は携帯端末を、ルミナはバイザーを失い、互いの言葉が理解できない。だがどうして、互いを繋ぐ道具を失って尚、まるで理解している様に振る舞うのだ。これは、これはまるで――

「や……はり、やはり君達か、君達なのか!!生まれた場所も、環境も、考え方も、価値観も、性別も身体も言葉も何もかも違う君達が、私に答えを見せてくれるのか!!」

 叫び、映す映像を食い入るように見つめた。次の瞬間――映像の向こう、命の火が今にも消えそうな2人が再び手を繋いだ瞬間、閃光が画面を覆った。

 何かが起きた?反射的に、現象の解明に力を注ぐ。監視カメラを切り替え市内全域の映像を確認した。あの閃光は戦場だけではなく周辺地域でも確認されていた。ただ、それ以外の何も分からない。誰かが何かをした形跡はどこにもなかった。

 唯一の可能性は旗艦側で何か切り札を使用した位だ、艦橋の映像をにも痕跡はない。第一、艦橋は今現在も白川水希が占拠中。それどころかヒルメを含めた全員が戦場で起こった急激な発光現象に動揺していた。ならば誰が――?
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