182 / 273
第10章 目覚め そして 英雄となる
幕間20-3 助けたいんだよ
しおりを挟む
20XX/12/22 1047
狂気が戦場を支配する。正気であってはこのような大義も正義もない、全く無意味な戦いを継続するなど出来ない。
「ハハッ、ハハハハハハッ。見ろッ、この世界は何処でもそうなのだ。短い間とは言え苦楽を共にした者同士であっても結局最後はああなるのだ。理解はッ!!彼女の願いはッ!!この星の何処にも存在しない!!」
渦中に立つ清雅源蔵が伊佐凪竜一とルミナの生存に気付いた。初めこそ驚いていた彼だが、2人の晒す醜態に酷く幻滅――いや、どこか安堵し、声高に叫んだ。
彼も私と同じ結論に辿り着いた。何処にもない。今まで見つからなかったのだから、このような状況で見つかる幸運が起こるなど有り得ない。だが、アベルは変わらず戦場の様子を私に届け続ける。どうして?彼らしくない、私に利のない行動を初めて取る態度に何故だか心がざわついた。
「アベル、もういい。もういいんだ……もう、得られるものは何もない。2人に出来る事はもうない、助ける事も……アベル?聞いているのか?」
だが、幾ら問いかけても彼は黙して語らず。相変わらず2人を映した映像を私に見せ続ける。何を願っているのだろうか?今の私には彼が理解できない。
「私はいい。手を離せ。私の代わりにこの情報を……」
「俺……誰かを助ける為に自分を犠牲にするなって言ってるだろ!!怖い、死にたくない、お前も本当はそうなんだろ!!」
ルミナは破損したバイザーを再び伊佐凪竜一に渡そうと試みる。言葉が通じなくても、どんな意味を持つかは大抵の人間ならば容易に理解できる。ましてや、これまで行動を共にした間柄ならば尚更。彼女は強引に押し付け、同時に彼が必死に掴んでいた手を振りほどいた。
「君はッ!!」
「お前はッ!!」
重なる叫び。伊佐凪竜一は、彼の答えは――彼が捕まえたのはルミナの手だった。彼女が必死で渡したがっていたバイザーは音もなく地上に吸い寄せられるように落ち、程なく私すら視認できなくなった。恐らく、完全に破損した。必死で彼女が解析した情報は、全て無駄になった。
ルミナは苛立ちを隠そうともしない。否応なく視界に映るのは、私が儚い期待を持ち、清雅に殺されぬよう手助けをした一組の男女。君達ならば、この星の何処にも存在しなかった私の願いを見せてくれると、そんな幻想を抱いてしまったが故に彼らは苦しみ、遂には争いまで始めた。
そんな有様に酷く落胆し、それまでの献身的な保護の手を翻し、見放した。僅か間を置き、傍と正気を取り戻す。無情な決断を下した自分自身に酷く嫌気がさし、ともすれば激しく憎悪した。
こんな傲慢な考えの何処に神らしさがあるのだ。神と呼ばれ、持て囃され、奉られたところで、私は――私は神などではなく、この星に降り立ったあの時から何ら変わりない、何処までも孤独で、何処までも未熟で、何処までも不完全で、自らの存在さえ定義できない、誰でもない空っぽの何かのままだった。
この身が肉の身体ではないからか、人ではないからか、私は成長と言う概念がなかった。あるいはただ流されるままに神として存在し続けた結果、私は何時の間にか成長を放棄してしまったのか。
アベルは相変わらず無言で映像を見せつける。伊佐凪竜一もルミナも互いを睨み合う。2人の心は断絶してしまった。私が、この戦場がそうさせてしまった。しかし、違った――
「分かってるだろ!!君が私を助けたいように、私も君を助けたいんだよ!!」
「分かってるだろ!!お前が俺を助けたいように、俺もお前を助けたいんだよ!!」
2人の言葉が重なった。
あぁ、と溜息が零れた。私は、今頃になって気付いた。もう、言葉が通じていないのだった。伊佐凪竜一は携帯端末を、ルミナはバイザーを失い、互いの言葉が理解できない。だがどうして、互いを繋ぐ道具を失って尚、まるで理解している様に振る舞うのだ。これは、これはまるで――
「や……はり、やはり君達か、君達なのか!!生まれた場所も、環境も、考え方も、価値観も、性別も身体も言葉も何もかも違う君達が、私に答えを見せてくれるのか!!」
叫び、映す映像を食い入るように見つめた。次の瞬間――映像の向こう、命の火が今にも消えそうな2人が再び手を繋いだ瞬間、閃光が画面を覆った。
何かが起きた?反射的に、現象の解明に力を注ぐ。監視カメラを切り替え市内全域の映像を確認した。あの閃光は戦場だけではなく周辺地域でも確認されていた。ただ、それ以外の何も分からない。誰かが何かをした形跡はどこにもなかった。
唯一の可能性は旗艦側で何か切り札を使用した位だ、艦橋の映像をにも痕跡はない。第一、艦橋は今現在も白川水希が占拠中。それどころかヒルメを含めた全員が戦場で起こった急激な発光現象に動揺していた。ならば誰が――?
狂気が戦場を支配する。正気であってはこのような大義も正義もない、全く無意味な戦いを継続するなど出来ない。
「ハハッ、ハハハハハハッ。見ろッ、この世界は何処でもそうなのだ。短い間とは言え苦楽を共にした者同士であっても結局最後はああなるのだ。理解はッ!!彼女の願いはッ!!この星の何処にも存在しない!!」
渦中に立つ清雅源蔵が伊佐凪竜一とルミナの生存に気付いた。初めこそ驚いていた彼だが、2人の晒す醜態に酷く幻滅――いや、どこか安堵し、声高に叫んだ。
彼も私と同じ結論に辿り着いた。何処にもない。今まで見つからなかったのだから、このような状況で見つかる幸運が起こるなど有り得ない。だが、アベルは変わらず戦場の様子を私に届け続ける。どうして?彼らしくない、私に利のない行動を初めて取る態度に何故だか心がざわついた。
「アベル、もういい。もういいんだ……もう、得られるものは何もない。2人に出来る事はもうない、助ける事も……アベル?聞いているのか?」
だが、幾ら問いかけても彼は黙して語らず。相変わらず2人を映した映像を私に見せ続ける。何を願っているのだろうか?今の私には彼が理解できない。
「私はいい。手を離せ。私の代わりにこの情報を……」
「俺……誰かを助ける為に自分を犠牲にするなって言ってるだろ!!怖い、死にたくない、お前も本当はそうなんだろ!!」
ルミナは破損したバイザーを再び伊佐凪竜一に渡そうと試みる。言葉が通じなくても、どんな意味を持つかは大抵の人間ならば容易に理解できる。ましてや、これまで行動を共にした間柄ならば尚更。彼女は強引に押し付け、同時に彼が必死に掴んでいた手を振りほどいた。
「君はッ!!」
「お前はッ!!」
重なる叫び。伊佐凪竜一は、彼の答えは――彼が捕まえたのはルミナの手だった。彼女が必死で渡したがっていたバイザーは音もなく地上に吸い寄せられるように落ち、程なく私すら視認できなくなった。恐らく、完全に破損した。必死で彼女が解析した情報は、全て無駄になった。
ルミナは苛立ちを隠そうともしない。否応なく視界に映るのは、私が儚い期待を持ち、清雅に殺されぬよう手助けをした一組の男女。君達ならば、この星の何処にも存在しなかった私の願いを見せてくれると、そんな幻想を抱いてしまったが故に彼らは苦しみ、遂には争いまで始めた。
そんな有様に酷く落胆し、それまでの献身的な保護の手を翻し、見放した。僅か間を置き、傍と正気を取り戻す。無情な決断を下した自分自身に酷く嫌気がさし、ともすれば激しく憎悪した。
こんな傲慢な考えの何処に神らしさがあるのだ。神と呼ばれ、持て囃され、奉られたところで、私は――私は神などではなく、この星に降り立ったあの時から何ら変わりない、何処までも孤独で、何処までも未熟で、何処までも不完全で、自らの存在さえ定義できない、誰でもない空っぽの何かのままだった。
この身が肉の身体ではないからか、人ではないからか、私は成長と言う概念がなかった。あるいはただ流されるままに神として存在し続けた結果、私は何時の間にか成長を放棄してしまったのか。
アベルは相変わらず無言で映像を見せつける。伊佐凪竜一もルミナも互いを睨み合う。2人の心は断絶してしまった。私が、この戦場がそうさせてしまった。しかし、違った――
「分かってるだろ!!君が私を助けたいように、私も君を助けたいんだよ!!」
「分かってるだろ!!お前が俺を助けたいように、俺もお前を助けたいんだよ!!」
2人の言葉が重なった。
あぁ、と溜息が零れた。私は、今頃になって気付いた。もう、言葉が通じていないのだった。伊佐凪竜一は携帯端末を、ルミナはバイザーを失い、互いの言葉が理解できない。だがどうして、互いを繋ぐ道具を失って尚、まるで理解している様に振る舞うのだ。これは、これはまるで――
「や……はり、やはり君達か、君達なのか!!生まれた場所も、環境も、考え方も、価値観も、性別も身体も言葉も何もかも違う君達が、私に答えを見せてくれるのか!!」
叫び、映す映像を食い入るように見つめた。次の瞬間――映像の向こう、命の火が今にも消えそうな2人が再び手を繋いだ瞬間、閃光が画面を覆った。
何かが起きた?反射的に、現象の解明に力を注ぐ。監視カメラを切り替え市内全域の映像を確認した。あの閃光は戦場だけではなく周辺地域でも確認されていた。ただ、それ以外の何も分からない。誰かが何かをした形跡はどこにもなかった。
唯一の可能性は旗艦側で何か切り札を使用した位だ、艦橋の映像をにも痕跡はない。第一、艦橋は今現在も白川水希が占拠中。それどころかヒルメを含めた全員が戦場で起こった急激な発光現象に動揺していた。ならば誰が――?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる