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第11章 希望を手に 絶望を超える
108話 宇宙を夢見た その代償
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20XX/12/22 1048
清雅市で発生した激しい閃光と僅かな衝撃。神さえ想定しない異変。誰の意志も閃光の中に飲み込まれ戦闘の手が止まる。その異変は距離を超え、旗艦にも波及した。最初にその異変に気付いたのは艦橋のオペレーターの一人、激しく鳴り響くアラートの対応を行った新人。
「あー、あの……た、大変です。ヤヤタヤヤヤ……ヤタノカガミ全機勝手に起動してます。ってー言うよりも勝手にカグツチ放出してます!!か……各艦に貯蔵されたカグツチが異常なペースで減少しています!!」
「全艦のヤタノカガミ、動作異常を確認……え!?だ、駄目です!!強制停止させたのに止まりません。流出、止められません!!」
「居住区域の防衛部隊から通信が入りました……え?嘘でしょ?あ、あのカグツチ濃度が異常に上昇しているとの報告が入りました!!」
「計測完了、現在の濃度……あ、あれ……おかしいな?」
「どうしたの?」
「いーや、あの……現在7……8に到達。濃度上昇による白光現象とその拡大を確認。ちょーっと不味いですよコレ!?」
「アラミサキは!?何で起動してないんだッ」
「全部じゃないけど結構な数が起動して、それでこの有様なんですよッ!!」
「それ以前に範囲が大きすぎてカバーしきれません!!」
雪崩の様に飛び交う報告にヤゴウはただ右往左往するばかり。僅か前の威勢の良さは既にない。が、元から勢いだけで計画性などまるで持ち合わせていないのだから無理もない。あるいは、タガミとヒルメの関係性と同じく誰かに入れ知恵されていただけか。
「この程度で狼狽えるなんてみっともない。どうせ故障でもしたんでしょう?」
比較的冷静な白川水希が異常事態に右往左往する艦橋の有様を嘲笑した。が、彼女はマガツヒの存在を知らない。現在の宇宙が如何に危険か、無知なまま宇宙を旅する行為が如何に危険か、彼女も、清雅源蔵さえも知らない。だから独断で旗艦の強奪に打って出た。
「カグツチの濃度が危険域まで上昇しています」
僅かなやり取りで全てを察したヒルメが真実を語る。
「それが何か?」
「遠からず、マガツヒが襲来します」
「それで?」
「最悪は地球人類まで全滅するという意味です。無論、貴女達もです」
宇宙を夢見た代償は人類の全滅。しかし、それでも白川水希は動じず。
「私達にはカグツチを地上に寄せ付けない為の装置があります。転送装置を操作、直ぐにでも逃げさせてもらいますよ」
「その程度で逃げられるならば苦労はしません。奴等は自力で空間転移を行い、延々と標的を追い続けます。捕捉されればそれまで。後は殺すか殺されるか、それだけです」
「旗艦の連中を盾にすればよいだけですよ」
白川水希は残酷に、そう言ってのけた。そもそも彼女を含めた清雅側に旗艦側を憐れむ気持ちなど一切ない。旗艦が一方的な主張を押し付けてこなければ戦う事などなかった、いわば自分達の運命を歪めた憎き相手なのだから。
「貴女は私達を杜撰と評しましたが、貴女も同じですよ。旗艦を強奪するならばマガツヒは避けて通れません。例えこの場を逃げおおせても一時凌ぎです。奴等と戦う手段を持たないなら僅かに寿命が延びたに過ぎません。地球の宇宙開発技術について予測しましょうか?」
が、ヒルメも動じない。淡々と、真実を、言葉を重ねる。
「全く進展していない。指示を出したのはツクヨミ。違いますか?もし私の言葉が正しいならば、ツクヨミはマガツヒの情報を正しく所持しており、その危険性故に貴女達から遠ざけていたからです。無論、連合から補足される時間を少しでも引き延ばす為でもあったでしょう」
白川水希の顔に初めて動揺が浮かんだ。語らずも表情が全てを物語る。当たっている。地球の事情を何一つ知らないヒルメが、地球の現状を言い当てた。好機と確信したヒルメは止まらない。
「清雅の誰一人としてマガツヒについて全く知らなかったのは、自らの加護の元ならば遭遇する事は有り得ないと判断した為。しかし、貴女達はツクヨミの善意を踏みにじった。マガツヒは、自ら以外の意志の存在を決して許さない、認めない。意志を持つ全ての存在を、必ず滅する」
淡々と、冷静冷酷に真実を告げた。白川水希の顔に先の余裕はない。完全と思われた地球側の計画が崩れた。彼女も、清雅源蔵も、ツクヨミ以外の誰も知らなかった存在に計画が崩された。
計画の支障になる化け物共が宇宙に跋扈するなど想定出来る訳がない。しかし、悪意からではない。ツクヨミも、補助システムのアベルも神の加護の元にいるならば知る必要はないと意図的に伝えなかった。真意はヒルメが語った通り、ただの善意でしかなかった。
その善意に足を掬われた。ヒルメの言葉は真実。マガツヒは逃げたところでどうにもならない。宇宙へ出てしまえばマガツヒの恐怖に晒される。だからツクヨミもアベルも旗艦の強奪案を選択肢から除外していた。
だが、清雅源蔵達は宇宙を夢見てしまった。ツクヨミが守護する地球と言う揺り籠を投げ捨て、宇宙へ飛び立つと言う夢を。普通ならば計画の中止を決断するだろう。しかし、今の白川水希は止まらない、止まれない。
清雅市で発生した激しい閃光と僅かな衝撃。神さえ想定しない異変。誰の意志も閃光の中に飲み込まれ戦闘の手が止まる。その異変は距離を超え、旗艦にも波及した。最初にその異変に気付いたのは艦橋のオペレーターの一人、激しく鳴り響くアラートの対応を行った新人。
「あー、あの……た、大変です。ヤヤタヤヤヤ……ヤタノカガミ全機勝手に起動してます。ってー言うよりも勝手にカグツチ放出してます!!か……各艦に貯蔵されたカグツチが異常なペースで減少しています!!」
「全艦のヤタノカガミ、動作異常を確認……え!?だ、駄目です!!強制停止させたのに止まりません。流出、止められません!!」
「居住区域の防衛部隊から通信が入りました……え?嘘でしょ?あ、あのカグツチ濃度が異常に上昇しているとの報告が入りました!!」
「計測完了、現在の濃度……あ、あれ……おかしいな?」
「どうしたの?」
「いーや、あの……現在7……8に到達。濃度上昇による白光現象とその拡大を確認。ちょーっと不味いですよコレ!?」
「アラミサキは!?何で起動してないんだッ」
「全部じゃないけど結構な数が起動して、それでこの有様なんですよッ!!」
「それ以前に範囲が大きすぎてカバーしきれません!!」
雪崩の様に飛び交う報告にヤゴウはただ右往左往するばかり。僅か前の威勢の良さは既にない。が、元から勢いだけで計画性などまるで持ち合わせていないのだから無理もない。あるいは、タガミとヒルメの関係性と同じく誰かに入れ知恵されていただけか。
「この程度で狼狽えるなんてみっともない。どうせ故障でもしたんでしょう?」
比較的冷静な白川水希が異常事態に右往左往する艦橋の有様を嘲笑した。が、彼女はマガツヒの存在を知らない。現在の宇宙が如何に危険か、無知なまま宇宙を旅する行為が如何に危険か、彼女も、清雅源蔵さえも知らない。だから独断で旗艦の強奪に打って出た。
「カグツチの濃度が危険域まで上昇しています」
僅かなやり取りで全てを察したヒルメが真実を語る。
「それが何か?」
「遠からず、マガツヒが襲来します」
「それで?」
「最悪は地球人類まで全滅するという意味です。無論、貴女達もです」
宇宙を夢見た代償は人類の全滅。しかし、それでも白川水希は動じず。
「私達にはカグツチを地上に寄せ付けない為の装置があります。転送装置を操作、直ぐにでも逃げさせてもらいますよ」
「その程度で逃げられるならば苦労はしません。奴等は自力で空間転移を行い、延々と標的を追い続けます。捕捉されればそれまで。後は殺すか殺されるか、それだけです」
「旗艦の連中を盾にすればよいだけですよ」
白川水希は残酷に、そう言ってのけた。そもそも彼女を含めた清雅側に旗艦側を憐れむ気持ちなど一切ない。旗艦が一方的な主張を押し付けてこなければ戦う事などなかった、いわば自分達の運命を歪めた憎き相手なのだから。
「貴女は私達を杜撰と評しましたが、貴女も同じですよ。旗艦を強奪するならばマガツヒは避けて通れません。例えこの場を逃げおおせても一時凌ぎです。奴等と戦う手段を持たないなら僅かに寿命が延びたに過ぎません。地球の宇宙開発技術について予測しましょうか?」
が、ヒルメも動じない。淡々と、真実を、言葉を重ねる。
「全く進展していない。指示を出したのはツクヨミ。違いますか?もし私の言葉が正しいならば、ツクヨミはマガツヒの情報を正しく所持しており、その危険性故に貴女達から遠ざけていたからです。無論、連合から補足される時間を少しでも引き延ばす為でもあったでしょう」
白川水希の顔に初めて動揺が浮かんだ。語らずも表情が全てを物語る。当たっている。地球の事情を何一つ知らないヒルメが、地球の現状を言い当てた。好機と確信したヒルメは止まらない。
「清雅の誰一人としてマガツヒについて全く知らなかったのは、自らの加護の元ならば遭遇する事は有り得ないと判断した為。しかし、貴女達はツクヨミの善意を踏みにじった。マガツヒは、自ら以外の意志の存在を決して許さない、認めない。意志を持つ全ての存在を、必ず滅する」
淡々と、冷静冷酷に真実を告げた。白川水希の顔に先の余裕はない。完全と思われた地球側の計画が崩れた。彼女も、清雅源蔵も、ツクヨミ以外の誰も知らなかった存在に計画が崩された。
計画の支障になる化け物共が宇宙に跋扈するなど想定出来る訳がない。しかし、悪意からではない。ツクヨミも、補助システムのアベルも神の加護の元にいるならば知る必要はないと意図的に伝えなかった。真意はヒルメが語った通り、ただの善意でしかなかった。
その善意に足を掬われた。ヒルメの言葉は真実。マガツヒは逃げたところでどうにもならない。宇宙へ出てしまえばマガツヒの恐怖に晒される。だからツクヨミもアベルも旗艦の強奪案を選択肢から除外していた。
だが、清雅源蔵達は宇宙を夢見てしまった。ツクヨミが守護する地球と言う揺り籠を投げ捨て、宇宙へ飛び立つと言う夢を。普通ならば計画の中止を決断するだろう。しかし、今の白川水希は止まらない、止まれない。
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