口〈ハコ〉

風見星治

文字の大きさ
3 / 28

事件資料2:G大学教授ニエダロクロウの地質調査記録より抜粋-1

しおりを挟む
 最終更新日:20XX年6月30日 11:25

 ソレを見つけたのはフィールドワークの最中、偶然という形だった。趣味と実益を兼ねアチコチ飛び回っていると時折こういったものを引き当ててしまうのは職業柄なのか、それとも運が良いのか悪いのか、はたまた変な因果でもあるのか。

 道に迷った学生達を探す最中に目に留まったその神社を一目見た時、異様さに目を奪われると同時、酷い不快感がまとわりつくような感覚に襲われた。ソレは、さながら見えない無数の手が私の身体中を掴み、社の中の中心、朝日が照らす中にあっても真っ暗で何も見えない、ぽっかりと空いた伽藍洞のお堂の中に引き摺り込もうとしている様な、そんな感覚だ。

 私は霊や神といった非科学的な現象を一切信じていない。無論、信仰を馬鹿にしている訳ではない。過去の人類が科学の代わりに神に縋った様に、私は科学を信仰しているだけだ。だから科学が全てを明らかにした今の時代において超常現象などというものは人心をかどわかすまやかしか、都合よく誰かを操るための方便、はっきり言えば詐欺の類だと思っているし思っていた。今までそんなインチキを散々目にしてきたから尚の事だ。が、それは今の今までだ。

 成程と、私は納得した。地元の人が口酸っぱくこの周囲には絶対に近寄るなと警告を出した理由が漸く分かった。しかしただ一点、神社の名前が違う事を除けば、だが。話に聞いた通り比較的新しい鳥居と注連縄が見えるのだが、一体ココは何処なのだろうか?それに生徒達も何処にいったんだ?確か私に率先してこの辺りの調査に向かったと思ったのだが。

 ともかく、私は考えを翻した。ココはマズい。今まで何十年も生きて来た私の危機感が最大限に警戒を発する。ココは危険だ。人が立ち入って良い場所ではない。私は奇妙な落書きが彫られた真新しい鳥居をいそいそと潜り、足早に車に戻るとアクセルを全開にしてこの場を離れた。

 30分後。周囲を鬱蒼と茂る深緑に覆われた場所からやや離れた市街地で私は一息ついた。異様、いや異常。あの場所は絶対に異常だ。お堂を中心に四方を鳥居に囲われるという奇妙な構造もそうだが、一番異常なのは注連縄。四方の鳥居に付けられた注連縄の1つが綺麗に中央で切断されていて、両端からブランブランと妖しく揺れていたのだ。

 民俗学は詳しくないからwiki頼みの俄か知識となってしまうが、注連縄とは神聖な区域とその外とを区分するためのしめだそうだ。要は結界。中と外を隔絶する、切り分ける為の結界。ソレが破られていた。恐らく、あの中には禄でもない何かが封じられていたが、年月か、それとも誰かが意図してか注連縄を切断したのか。

 結界で切り分けられた世界が曖昧となり、何者かが現世に浸食してきた。考えたくないがそうとしか思えない。私は数少ない民俗学の知人に連絡を入れ、委細を語った。酷く動揺していたのだが、それでも私の言葉を何とか理解してくれた彼は、正しい手順でアレを封じなおす手はずを整えてくれると各方面に依頼してくれた。上手くいってくれれば良いが。

 11:04追記:彼の名前を今思い出した。クヤマ君だ。我ながら歳はとりたくないものだ。そのクヤマ君の狼狽振りを見るに、やはり禄でもない物が封印されていたのかも知れない。そうそう、その彼だが次に会った時に酒を奢って貰う約束をしたので忘れないようココに記録しておこう。後で修正すればいいし、それにどうせ私以外に誰も見やしないんだ。

 11:25追記:生徒達が見つかった。どうやら一足先にアレを見てしまい、私よりも先に下山していたようだ。しかし、ソレにしたって酷く動揺しているが一体何があったのだろうか。誰に聞いても何一つ語ってくれないのが気になるが……杞憂だと思いたい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

静かに壊れていく日常

井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖── いつも通りの朝。 いつも通りの夜。 けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。 鳴るはずのないインターホン。 いつもと違う帰り道。 知らない誰かの声。 そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。 現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。 一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。 ※表紙は生成AIで作成しております。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今日の怖い話

海藤日本
ホラー
出来るだけ毎日怖い話やゾッとする話を投稿します。 一話完結です。暇潰しにどうぞ!

残酷喜劇 短編集

ドルドレオン
ホラー
残酷喜劇、開幕。 短編集。人間の闇。 おぞましさ。 笑いが見えるか、悲惨さが見えるか。

父の周りの人々が怪異に遭い過ぎてる件

帆足 じれ
ホラー
私に霊感はない。父にもない(と言いつつ、不思議な体験がないわけではない)。 だが、父の周りには怪異に遭遇した人々がそこそこいる。 父や当人、関係者達から聞いた、怪談・奇談を集めてみた。 父本人や作者の体験談もあり! ※思い出した順にゆっくり書いていきます。 ※場所や個人が特定されないよう、名前はすべてアルファベット表記にし、事実から逸脱しない程度に登場人物の言動を一部再構成しております。 ※小説家になろう様、Nolaノベル様にも同じものを投稿しています。

処理中です...