15 / 28
補足資料:捜査資料 映像前半部分
しおりを挟む
映像記録再生
<記録日時不明>
真っ暗な部屋の中央にポツンと電灯が灯っており、その下に壮年の男の姿が映る。白髪交じりの髪、顔に刻まれた深い皺が相応の年齢であることを窺わせる。机を見れば数枚の紙製の資料にテープレコーダーが置いてある。男はおもむろにソレを掴み"この音声記録はイケダハナエ氏への聞き取り調査記録だ"と、そう説明するとスイッチを入れた。程なく音声が流れ始める。
イケダハナエ:えぇ。あの子、急に返って来たんですよ
開口一番に聞こえたのは消え入りそうな口調で話す女性の声。男が声の主について説明する。どうやら今レコーダーから聞こえる声がG県警に勤めるイケダヤスト氏の母親、イケダハナエ氏(47)らしい。
イケダハナエ:最初は冗談だと思ったんです。だってあの子、ホラ。凄い体格がいいでしょう?子供の頃から運動とかが大好きだったんですけど、特に空手が好きで、ソレに正義感もあって将来は警察官になるんだって。だから……
ハナエ氏の落胆の度合いはそれはもう聞いているコチラにも伝わる位だ。
「行方不明となった刑事が見つかった。いや、正確には見つかってないんだが、その痕跡は確かに見つかった。死んだ、ソレだけは分かる異様な状態で。G県に隣接するN県某市にある母方の実家を見て驚いたよ。お互いの過去なんて興味ないから話したことも無いし聞いたことも無かったんだが、結構な豪邸だったな」
不意に男が語り始めた。どうやら行方不明となった刑事とはそれなりの付き合いがあったようだ。恐らく上司と部下か。
イケダハナエ:普段から仕事一辺倒で、大学入学からコッチ数年は帰ってこなかったのに、ほんの数日前にいきなり実家に顔を見せたんです。でも、その行動の全てが奇怪で、何の意味があるのかサッパリわからなかったんです。あの子、帰って来るなり無言で携帯のメモを私に突きつけるんです。驚いて、何があったの?って訪ねてもあの子は何一つとして語らず、ただ黙ってメモを見せるばかりで……
――何が書いてあったんです?
イケダハナエ:えぇ。この辺り一帯は我が家の所有地なんですけど、その1つ……ホラ、すぐ後ろに山が見えるでしょう?で、その中腹位に離れ、まぁ一軒家みたいなものがあるんですけど、そこを借せって。それから……
レコーダーからハナエ氏の言葉が途絶えた。代わりに聞こえるのは嗚咽とすすり泣く声。
イケダハナエ:誰も近づけるなって。私達も、周辺の誰もって。それからは何も……ゆっくりでいいから一から説明してって言っても首を横に振るばかり
――そうですか
以後、レコーダーから流れるのはハナエ氏の鳴き声。枯れ果てたと思われた涙が止めどなく零れ、床に染みを作っているであろう。余りの悲壮な声は、そんな情景をありありと想像させる。
「彼女がこうも悲しむ理由は1つ。アイツが死んだのがその離れだからだ。しかも異様な状態で。たっての願いでN県警と合同と言う形で調査を行ったそうだが、誰もが口々にこう漏らしたそうだ。訳が分からない、と。一軒家の内部はいわゆるワンルームの様な構造になっており、玄関を入れば右側にベッドやテレビが並び、左を向けばキッチン、更に右側手前にはトイレと風呂へと繋がる扉が見える。全体的な広さは詳しく見てはいないが、おおよそ20畳といったところ。その離れに踏み込んだ全員が中に入り驚いたと、そう記録にある」
映像に映る男はレコーダを横にどけると、乱雑に置かれた資料の一枚を無造作に掴み、その内容を語った。
「記録にはこうある。中は荒れに荒れており、部屋の隅入口から見て右奥側に夥しい血痕が飛び散っていた。鑑識の結果、奴の血液で間違いないと結論され、ついでにこれほどの出血量なら生きてはいないという有り難くない情報も書かれていた。だが、だがだ……」
男はソコで言葉を詰まらせると、別の資料を拾い上げた。
「肉片から骨の一欠片に至るアイツの身体、死体だけが何処にも無かった。夥しい血痕だけがヤツが確かにあの場に存在していて、その最期が壮絶だった事を物語っているんだが、一体何があったのか、どうやって殺されたのか、一番知りたい過程だけが完全に抜け落ちている。うちでも指折りに強い上に身長も190以上で体重も100は軽く超えている。それでいて柔道と空手の有段者を殺すなんて只者じゃない。だが、もし人間じゃなかったとしたら……」
語り終えた男は資料を机に置くと、最後にこう絞り出した。
「この情報は、全部抹消される。あそこで起きた事も、アイツの最期も全部闇に消える。何故か、それも分からない」
<記録日時不明>
真っ暗な部屋の中央にポツンと電灯が灯っており、その下に壮年の男の姿が映る。白髪交じりの髪、顔に刻まれた深い皺が相応の年齢であることを窺わせる。机を見れば数枚の紙製の資料にテープレコーダーが置いてある。男はおもむろにソレを掴み"この音声記録はイケダハナエ氏への聞き取り調査記録だ"と、そう説明するとスイッチを入れた。程なく音声が流れ始める。
イケダハナエ:えぇ。あの子、急に返って来たんですよ
開口一番に聞こえたのは消え入りそうな口調で話す女性の声。男が声の主について説明する。どうやら今レコーダーから聞こえる声がG県警に勤めるイケダヤスト氏の母親、イケダハナエ氏(47)らしい。
イケダハナエ:最初は冗談だと思ったんです。だってあの子、ホラ。凄い体格がいいでしょう?子供の頃から運動とかが大好きだったんですけど、特に空手が好きで、ソレに正義感もあって将来は警察官になるんだって。だから……
ハナエ氏の落胆の度合いはそれはもう聞いているコチラにも伝わる位だ。
「行方不明となった刑事が見つかった。いや、正確には見つかってないんだが、その痕跡は確かに見つかった。死んだ、ソレだけは分かる異様な状態で。G県に隣接するN県某市にある母方の実家を見て驚いたよ。お互いの過去なんて興味ないから話したことも無いし聞いたことも無かったんだが、結構な豪邸だったな」
不意に男が語り始めた。どうやら行方不明となった刑事とはそれなりの付き合いがあったようだ。恐らく上司と部下か。
イケダハナエ:普段から仕事一辺倒で、大学入学からコッチ数年は帰ってこなかったのに、ほんの数日前にいきなり実家に顔を見せたんです。でも、その行動の全てが奇怪で、何の意味があるのかサッパリわからなかったんです。あの子、帰って来るなり無言で携帯のメモを私に突きつけるんです。驚いて、何があったの?って訪ねてもあの子は何一つとして語らず、ただ黙ってメモを見せるばかりで……
――何が書いてあったんです?
イケダハナエ:えぇ。この辺り一帯は我が家の所有地なんですけど、その1つ……ホラ、すぐ後ろに山が見えるでしょう?で、その中腹位に離れ、まぁ一軒家みたいなものがあるんですけど、そこを借せって。それから……
レコーダーからハナエ氏の言葉が途絶えた。代わりに聞こえるのは嗚咽とすすり泣く声。
イケダハナエ:誰も近づけるなって。私達も、周辺の誰もって。それからは何も……ゆっくりでいいから一から説明してって言っても首を横に振るばかり
――そうですか
以後、レコーダーから流れるのはハナエ氏の鳴き声。枯れ果てたと思われた涙が止めどなく零れ、床に染みを作っているであろう。余りの悲壮な声は、そんな情景をありありと想像させる。
「彼女がこうも悲しむ理由は1つ。アイツが死んだのがその離れだからだ。しかも異様な状態で。たっての願いでN県警と合同と言う形で調査を行ったそうだが、誰もが口々にこう漏らしたそうだ。訳が分からない、と。一軒家の内部はいわゆるワンルームの様な構造になっており、玄関を入れば右側にベッドやテレビが並び、左を向けばキッチン、更に右側手前にはトイレと風呂へと繋がる扉が見える。全体的な広さは詳しく見てはいないが、おおよそ20畳といったところ。その離れに踏み込んだ全員が中に入り驚いたと、そう記録にある」
映像に映る男はレコーダを横にどけると、乱雑に置かれた資料の一枚を無造作に掴み、その内容を語った。
「記録にはこうある。中は荒れに荒れており、部屋の隅入口から見て右奥側に夥しい血痕が飛び散っていた。鑑識の結果、奴の血液で間違いないと結論され、ついでにこれほどの出血量なら生きてはいないという有り難くない情報も書かれていた。だが、だがだ……」
男はソコで言葉を詰まらせると、別の資料を拾い上げた。
「肉片から骨の一欠片に至るアイツの身体、死体だけが何処にも無かった。夥しい血痕だけがヤツが確かにあの場に存在していて、その最期が壮絶だった事を物語っているんだが、一体何があったのか、どうやって殺されたのか、一番知りたい過程だけが完全に抜け落ちている。うちでも指折りに強い上に身長も190以上で体重も100は軽く超えている。それでいて柔道と空手の有段者を殺すなんて只者じゃない。だが、もし人間じゃなかったとしたら……」
語り終えた男は資料を机に置くと、最後にこう絞り出した。
「この情報は、全部抹消される。あそこで起きた事も、アイツの最期も全部闇に消える。何故か、それも分からない」
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
静かに壊れていく日常
井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖──
いつも通りの朝。
いつも通りの夜。
けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。
鳴るはずのないインターホン。
いつもと違う帰り道。
知らない誰かの声。
そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。
現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。
一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。
※表紙は生成AIで作成しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
父の周りの人々が怪異に遭い過ぎてる件
帆足 じれ
ホラー
私に霊感はない。父にもない(と言いつつ、不思議な体験がないわけではない)。
だが、父の周りには怪異に遭遇した人々がそこそこいる。
父や当人、関係者達から聞いた、怪談・奇談を集めてみた。
父本人や作者の体験談もあり!
※思い出した順にゆっくり書いていきます。
※場所や個人が特定されないよう、名前はすべてアルファベット表記にし、事実から逸脱しない程度に登場人物の言動を一部再構成しております。
※小説家になろう様、Nolaノベル様にも同じものを投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる