鬼 遊戯(おにごっこ)

風見星治

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1話 帰郷

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 ――子供の頃、まだ無邪気で無知だったあの時は何だって楽しかった。外に出ればそこに広がるのはゲームよりも刺激的な世界。石ころも、木の枝も、見上げる程に大きな標識も、何処までも続く道路も、何を見ても新鮮だった。だけど今はどうだ。大人になる、成長するってのは知るって事だ。知れば刺激は無くなり、色褪せ、やがて飽きて、忘れる。全てを忘却の彼方に追いやる。

***

 久しぶりに故郷へ帰って来た。ここ最近は残業続きで碌にリフレッシュも出来なかったから、たまには世間の喧騒を忘れて田舎でゆっくり……と、そう考えた訳だが、やはりここは何もないなと、改めて周囲を見回す。

 牧歌的な田舎の風景そのままの周囲は緑、緑、緑、その中にポツンと一軒家。そんな景色が等間隔で続く生まれ故郷は見事なまでに何もない。そして茹だる様な暑さと湿気、蝉の声。

「しっかし、久しぶりね。何年振りかしら?」
「確か2年だろ?ホントはもっと早く帰ろうかと思ってたんだが、マスターアップ直前のデスマーチでアパートにさえ帰れなかったからなぁ。」
「身体壊す前に休みなさいよ。死んだら元も子も無いんだからね。」
「あぁ。」

 何の屈託もない母とのやり取りは、ソレまで精神をすり減らしっぱなしだった俺の心に少しだけ染み渡った。
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