【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

文字の大きさ
45 / 432
第3章 邂逅

39話 地球 其の1 ~ 伊佐凪竜一談

しおりを挟む
 ――連合標準時刻 火の節 81日 

 日課の訓練を終えて、兼ねてからの予定通りに俺達は地球へと降り立った。灰色の光の先はかつての地球の中心地、誇張抜きで世界の中心と謳われた清雅市の中央にある元ツクヨミ清雅本社の入り口。しかし且つての威光は今や過去、地球と言う惑星……世界を支えた清雅という超巨大企業は一族とそれを支えた神を失った事で瓦解した。

 久方ぶりの地球の感想はただ一言、静かだ。去年の末までは確かに地球で最も栄え栄華を誇っていたこの街には、俺達以外には誰もいない。常に喧騒で満たされたコンクリートジャングルはさながら秘境のように静まり返っており、遠くから列車が通り過ぎる音を除けば何処かから聞こえるセミや鳥の鳴き声位しか聞こえない。

「そうか。今、夏なのか……」

 四季。移ろう季節を肌で感じ、またソレを日常の風景として受け入れる感覚は日本に住んでいるならば当たり前の話なのだが、慣れとは恐ろしいもので半年近く宇宙に住んでいればそんな当たり前の感覚をすっかり忘れていた。戦闘訓練を始めて以降はその手の情報を頭と身体に叩き込む事だけが優先され、それ以外は雑念とばかりに知る事すら出来なかったという理由もあるが、それでも本当に恐ろしい。

 見慣れた故郷は半年前のあの日あの時とはすっかり様変わりしていて、季節も冬を超え春を通り過ぎ夏になっていた。蒸し暑い。日本に住んだ経験があるなら誰もが辟易する位に湿度と気温が高い季節。所用で俺達に同行した関宗太郎は俺が漏らしたそんな声に反応した。流石に地球と宇宙を忙しなく行き来する彼は忘れてはいなかったようだ。

「そうだよ。お前さんずっと旗艦から動かなかったから季節の移り変わりなんて感傷に浸れんかっただろうがね」
 
「それに防壁も原因でしょうね。ソレ、常に一定の環境に調整する機能も備わってますから。ナギ君も暑いなら防壁展開した方が良いよ」

 クシナダは笑顔でそう教えてくれた。コレ、そんな機能まであるのか。そんな風に呟くと、彼女は嬉しそうに俺の元に近づくと勾玉状によく似た何かが嵌った腕輪をちょいちょいと操作、程なく展開された防壁を見ながら"ネ、快適でしょ?"と、俺を見上げた。

 確かに防御にしか使えないと思っていたが、起動すれば湿気こそまだ感じるが突き刺すような熱さは感じなくなった。成程、確かに本当だ。その快適さに気が付けば、眼下のクシナダは相変わらず俺を見て微笑んでいた。釣られる様に俺も笑い返すと無風の廃墟にそよ風が吹き抜け、近寄った彼女の身体からほんのり立ち昇る良い匂いが鼻をくすぐった。

「風情が……いや、辞めておこう。夏の暑さは年寄りにはちと堪えるからな」
 
「そんなに?」
 
「クシナダのお嬢さんは季節を経験した事が無いようだね?」
 
「お恥ずかしながら。旅行なんてもっての外ですし、私達が出張るレベルの戦争になるとそもそも滅多に起こらないですからね。最後に起こったのが確か……二百年位前だったかな。小競り合い位ならいくらでも起きてるんですけどね」
 
「そうかい、なら防壁は切らんほうがいいよ。日本の夏は高温多湿でとにかく不快だ」
 
「へー、そう言われると逆にちょっと興味が。後でちょっと切ってみようかしら」

 俺の隣から関首相と話すクシナダは、旗艦にいては絶対に感じない夏の暑さに興味がある様な反応を返していた。止めといた方が良い、そんな風に後ろから声を掛ければクシナダは俺の顔を見上げながら今度は小悪魔っぽい笑顔を見せた。

 空を見上げれば真っ青な空に白く輝く太陽が煌々と照らしている。防壁が無ければ黒色の長袖に長ズボンなんて恰好で夏の炎天下を歩く事すら困難だろう。だけど手首に付ける腕輪サイズの代物たった1つで茹だる様な夏の暑さは完全に遮断されるのだから文明の進歩と言うのは凄まじい。

 クシナダは知らなくて当然だが日本の夏と言えば兎に角暑くて不快何てのは半ば常識だし、それに加えて蚊に刺されるとか不快になる要素を上げればキリが無い。風物詩である花火やら蛍といったものもあるのだが、特にここ数年の異常気象はそんな良いイメージを軽く吹き飛ばしていて、俺も蒸し暑さに堪えきれなかった事を思いだした。

 懐かしい。半年前には嫌でも目に入った誇張抜きの絢爛豪華で世界最先端を誇った数々の建造物は戦いによる無惨な惨状を晒したまま放置され廃墟と化しているが、そんなさびれた街並を見た俺の頭には不快で懐かしい過去の思い出がありありと蘇って来た。つい半年前なのに凄く昔の事の様に感じてしまうのはここ最近そんな事を考える余裕さえなかったからだろう。

 少し視界を上にやれば砲撃により抉れた建造物やひび割れたり粉々に割れた窓ガラスが映り、地面を見れば、破損し放棄された車や建物から崩れ落ちた瓦礫の山が彼方此方に散乱するなど、激しい戦闘の傷跡が今も尚そのまま残されている。そんな隙間を縫うように雑然と生える雑草の緑色が映る。整備されて居ないどころか片づけすら進行していない、半年前の冬景色から時間が止まった廃墟。

「ま、仕方ねぇわな。清雅市は晴れてお役御免、日本の首都はその後の投票結果によりT都に移っちまった」
 
「それだけじゃなく、日本の復興も新たな首都を中心に行うとの事で人も物資も優先して回されましたからね。正しくゴーストタウンですね、清雅市は」
 
「ココに移り住んでた奴もそれぞれ地元に戻っちまったが、大半は海外に移った。元清雅という経歴と手腕を買われたヤツも居れば、日本に居づらいって理由もあったり様々だがね」

 クシナダと関首相はその辺りの事情を知らない俺にそんな説明をしてくれた。自分が引き起こしたとは言え、何も知らないとは何とも情けない話だ。仕方がないと、言葉にするならばとても簡単だ。努力の甲斐あって多少は役に立てる程度の能力と知識を身に付けたのだが、一方で本当にそれで良いのか、良かったのかと言う思いも湧き出してくる。周囲を見回してみた、半年前は何処も彼処も人ひとヒトでごった返しており活気があった事が記憶に蘇る。

 清雅本社へと目をやれば、半年前まで働いていたその場所はとても懐かしくそして何となく思い出したくも無いと言う、何とも奇妙な感覚に襲われた。丁度20階当たりを見れば俺が本社に開けた傷跡が殆ど形を変えないまま残っていた。休憩スペースがあった位置には一際大きな穴が空いており、その中から社内を覗く事も出来る。遠目では分からないが、本社もそれ以外と同じく復興から見捨てられ荒れ果てていた。

 少し前まで郷愁に駆られた心の中にチクリと小さな穴が開いた。同時、友人の言葉が頭の中に蘇って来た。

「キッツいだけだぞ、正直に生きても。そんな生き方出来る奴はさー、もう人間じゃないぜ。そんな奴はソイツとその周囲を全部破壊していくぜ、だからお前も人間らしくいこうぜ」

 自分の心に従って、自分が正しいと信じた事をやった。視界に広がる廃墟となった景色は俺の行動の結果……らしい。情けない、仕方ないと思う本当の理由は、その時の記憶だけが何故か曖昧だからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...