【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第3章 邂逅

89話 過去 ~ 護衛

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 ――自由都市ヴォルカノ領内 大通り

 時刻は丁度武術大会が始まったであろう頃合い。闘技場へと続く大通りを見ればこじんまりとしながらも清潔で手入れが行き届いた店が等間隔で軒を連ねる光景。

 今は稼ぎ時であるようで、料理屋に始まり生鮮品から雑貨まで何処も彼処も熱気と喧騒に包まれている。どの店の前にも大勢の人だかりが見え、店の中へ吸い込まれるとそれぞれが商品をじっくりと見比べ、購入する。一見せずともそれはごくありふれた品々と光景であるのだが、何をどうしてか姫の目を引いたようであり、キラキラと目を輝かせながら視線を動かす。

「可愛いわね、何処から見ても普通の子よね?」

「えぇ。歳相応、何とも可愛らしいじゃないですか?」

 一方、護衛の青年は"もっといい場所があるんだけど"と、落胆しつつももその様子を微笑ましく見守りながら、同時に合流した仲間達と談笑をし始めた。

「ハァ。アンタさ、なーんも疑問に思ってないの?」

「いやそんな訳……と、言うかその前にですね」

 しかしその内容はどうにも不穏だ。要は評議長が出した命令とは言えたった1人の少女に付ける護衛の数では無いという事が言いたいらしい。一方、青年は疑問への回答を途中で飲み込むと後ろを呆れがちに見つめる。

「何よ?」

「こんな人数、いる?いらないんじゃない?」

 青年がそうため息交じりに呟く理由は会話に見え隠れした通り、クロス・スプレッドがゾロゾロと少女の後を付いて回るからだ。その名は惑星全土どころか連合にまで轟き、この惑星に至れば名前と顔を知らぬ者はいない超が付く有名な戦闘集団。

 あらゆる国から独立し、しがらみがない故にあらゆる不正、国家ぐるみの犯罪から国家存亡の危機に至る事態にまで無条件にその戦力を提供する一団が揃いも揃って何をしているかと言えば、たった1人の少女を護衛しているだけ。となれば周囲の反応はどうなるかは一目瞭然であり、要は先程よりも大勢の視線が集まってしまっていると言う事だ。

「アンタが私達の代わりに怒られてくれるならいいけどー?」

「団ちょ……いや、評議長の命令だ。従う他にあるまい。因みに所用で遅れているがあと何人か来るぞ。まぁ……正直言えば確かに目立ちすぎるとは思ってはいるよ。だが、あの人がそう命令するのだから俺達には分からん意味があるのさ……多分」

 が、そんな青年の問いかけに対し後ろを歩く2人の回答は何とも適当だ。1人目、頭をくしゃくしゃと掻きながら反論するのはこの惑星におけるごく一般的な衣服……ネイビーカラーのズボンに黒みがかったシャツの上にマントを羽織った40歳程の壮年男性。

 2人目はその男性より一回りほど年若い30歳程に見える妖艶な女性。ゆったりとした黒色一色のローブから覗く肌の露出は胸元に入った大胆な切れ込みから窮屈とばかりに主張する大きな胸、後は手と首筋位だ。緩いウェーブの掛かった長い金髪は胸元まで伸びており、そしてその首には当然の如く銀色の十字架が揺れている。

 またそれは彼女の後ろを無言で歩く2人、学生と思われる制服にも見えるお揃いの衣服を纏う十代後半程の男女のコンビもまた同じく。年齢性別はバラバラだが全員がクロス・スプレッドという最強の集団に就く精鋭中の精鋭であり、更に壮年の男は大型の剣を背に担ぎ、妖艶な女性は杖を手に持ち、後ろの二人はそれぞれ少年が手甲、少女が片手で持てる程度の大きさの剣を2本と、全員が武器まで携行しているのだから殊更に目立つ、それはもう目立つ。

 先程以上に集まる視線に姫は必死で堪えているようだが、緊張かそれとも単に恥ずかしいのか雑貨や生鮮品を間近で見つめたり、料亭から香る香ばしい香りに心躍らせながらも、同時にどうにかしてこの状況から抜け出せないか、人気が少ない場所に行けないだろうか思案しているのだろう。相も変わらず少し後ろから護衛するクロス・スプレッドの面々を気に掛けつつもアチコチをうろついている。

 その様子は本来ならば微笑ましく映る筈なのだが、たった1人の少女に惑星最強の戦力が6人もつくという事態はやはり奇異に映る様であり、相も変わらず街中の視線が一挙に集中する……どころか噂が噂を呼ぶ形で寧ろ人の数は増えつつあった。

「今は大会中なんだけどなぁ」

「異例尽くしが原因でいつも以上に人が殺到、入れない人が多いんですよ」

 1人がため息を漏らしながらそう呟きながら周囲をグルリと見回せば、ソレはもう大勢の市民が遠巻きから6人とその中心にいる少女を見つめており、更にその視線には興味や興奮などの感情が入り混じっている。今日は武術大会なのだが、いつも以上に盛況であるために人も相応に多く、そしてメインとなる闘技場に入れない大勢の人間が見つけた次のイベントが彼らという訳なのだろう。

「あ、あの……」

「え?あ、はい。どうされました?」

 確実に自分達に向けられているだろう視線をどう交わすか、力ではどうしようもない問題にあれやこれやと解決策を巡らせていた青年は不意に掛けられた声に驚いた。

 それなりに背の高い男が傍と意識を眼下に向ければ、そこには護衛対象の少女の姿。どうやら何度も声を掛けられていた事に気付かなかった青年は少々申し訳なさげな表情から一転、ぎこちない微笑みを向けながら少女を見つめ……

「いえ、あの。その……アレは?」

「アレとは?」

 少女がおずおずと指差した先を見つめた。ソコに見えるのはごく普通の店であり、一見しても変哲もなければ異常性も感じられない。唯一つ、他と明確に趣の違う点があるとすれば、そこには武器が並べられているという点だろうか。

「まぁ、いわゆる武器屋ですね。何か不審な点でも?」

「いえ……あの、どうして売ってるのかなって」

 姫の質問は何とも曖昧だった。青年を含む全員が質問の意図を読み取れず、従って姫に聞き返す。

「どうして、とは?」

「その、あの……武器の売買は連合法で制限されている筈では、と。アレでは普通の方も手に入れる事が出来てしまいませんか?」

「あぁ……成程」

 青年は暫し考え込んだ後、姫の意図を読み取ると軽く相槌をうった。連合法において武器の流通には厳しい制限が掛けられており、一般人の入手については厳しい制限が課されることとなる。先ず真っ当な手段での入手は困難である現状から判断すれば、スナック感覚で店先に並ぶ光景自体が有り得ないと言う話だ。

「少し前にアナタが危うく連れ去られるようになった件でも理解できるでしょうが、我が星の治安は良いとは言い難いのです」

「武器を卸す店がごく普通に並ぶ理由は主に自警団用ですが、それは実際のところ表向きです」

「つまり、連合法による武器規制は有形無実化している、加えて喧伝されている安定した治安は偽りというのがこの惑星の現状だと?」

「おわっ、しゃ……しゃべ、しゃべった!!」

 青年は少女に向け丁寧に答えていたのだが、唐突に入った横槍に狼狽した。今の今まで無言を貫いたツクヨミが会話に割って入ると青年は酷く酷く驚いた様子を見せるが、その後ろの5人は驚き慌てる青年を見て笑いをこらえる。

「驚く事はありませんよ」

「お、おおお驚いてはいませんよ。だだ大丈夫ですよよよよ」

「まぁ、上に上がった事が無い(※旗艦アマテラスへと行く事、またはその先の別惑星へ渡航する事を指す。クロススプレッドと言う重要職に就く関係上、彼等は仕事以外で上に上る事が出来ない)アンタは知らないでしょうけど、連合に行けばそんなモン珍しくないわよ?」

「なら俺も上に行かせて下さいよ。っと、それよりも……そちらの方のおっしゃる通りです、お恥ずかしながらそうせねばならない程度に治安はよくありません。特に夜間は危険で、出歩こうものなら確実に何らかの犯罪に巻き込まれます」

「星外の方にこう言った話をするのは恥ずかしいですが、残念ながらコレがこの星の現状です」

 青年は神妙な面持ちでツクヨミの質問に答えると、続けて壮年の男が補足を入れた。

「しかし連合に加盟したのならば連合法の遵守は必須ではないでしょうか?それとも惑星固有法に則っているのでしょうか?」

「たった一つの法で連合全体を維持するのは無理だから、ソレとは別に惑星固有法(※旗艦でいう旗艦秩序維持法が該当する。連合法とは別に各惑星に制定された法で、連合法ではカバーできない細かい事項は連合法では無くコチラで判断する。)が有るというのもご存じなのですね?ああいった武器屋の存在は、評議長が市民を守るためという理由で強引に固有法を改定した結果です」

「それにまぁ、連合の他と比較すればコッチの武器は原始的ですから。指をクィっと動かすだけで簡単に人が殺せる武器の流入を阻止している事も理由になってます。中継地点である旗艦アマテラスと神様のお陰ですね」

 真剣な眼差しで質問する姫に何か感じるものがあったのか、それとも年齢の近さからくる親近感か、学生服の少年と少女が姫の質問に即答した。

「そうねー。あんな代物が一般流通してたらきっと改定出来なかったでしょうね」

「とはいえ、法曹界隈でも市民の武器所持を連合法、固有法のどちらで判断するかって部分で揉めてるのは確かで、必ずしも賛成ばかりではありません」

「評議長も綱渡り状態なのを知っていて……いや、寧ろ分が悪い事を承知で、それでもああしているのです」

 少年少女の回答に他の面々が様々な現状を補足した。誰の顔色にも嘘偽りの色は見えない、誰もが姫が望む回答を示したが、当の本人の顔色は酷く暗い。どうやら納得していない様だ。

 だが、何故そんな部分に拘るのだろうか。それは私にも、クロス・スプレッドの面々にも分からなかった。その源泉は華奢な身体の奥底深くに眠っており、要として窺い知れないからだ。
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