【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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第8章 運命の時 呪いの儀式

342話 魔王

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「2000年?」

「じょ、冗談でしょ?」

「お主、一体何を……」

 唖然とするクシナダとスクナ。

「超人?……いや、違うか。時期と年齢が合わない。なら一体何者だ?」

 頭に過った唯一の可能性を即、否定するルミナ。超人とは遺伝子を戦闘向けに操作した人造の兵士、及びその製造計画。しかし計画は二柱の神の手により凍結、封印されて久しい。

「貴方……人間では無いのですか?」

 2000を生きた。そう、堂々と言い切られたとて容易く信じる事など出来ない。幾つかの惑星に存在する極めて長命な種の特徴はアイアースに見られない。しかも、リリス=エリュシオンを含む長命種の寿命は交配の影響で徐々に短くなっている。今より2000年前の長命種の寿命は精々700~800年程度。無論、人類はもっと短い。高度医療が発達した旗艦であっても最高齢は140歳程度と記録されている。

 あらゆる可能性が、男の言を否定する。と、するならば誇大妄想にでも取りつかれていると考えた方がまだ納得出来る。が、それさえも否定される。アイアースの目は何処までも強く、真っ直ぐで、とても澄み渡っており、誇大妄想に取りつかれた哀れな男には見えない。己を価値を、存在を正しく理解する真っ当な男にしか見えない。

「私は、2000年前にこの星で起きた戦争の元凶。昔話に"魔王"と語られる存在だ」

「お伽噺の戦争……魔王って、冗談でしょ?」

「嘘、ではなさそうじゃが」

「敢えてそのままを後世に伝えさせたのか。魔王は滅んだと印象付ける為、デュカキス家との入れ替わりを悟らせない為だな」

「フフ、相変わらず聡い。今となっては思い出せぬ遥か昔、アマツミカボシと同じく宇宙をさすらう宿命を背負わされた私は、長い旅路の果てにこの星を見つけた。当時の私は……何故だろうな、不思議と思い出せないのだが、兎に角この星を支配しようと目論み、当時の姫、ヘラ=デウスと後の伴侶、ケラウロスに敗北した。異星の遺伝子改造技術から生み出された魔物を操る魔王を退治する勇敢なる者、英雄の物語。その陰の主役が私だ。死を偽装し、逃げ延びた当時の私は屈辱に身を置きながら、復讐の為にあらゆる手段を使い姫に接近、星の弱点を探した。だがその中で……姫と共に過ごすうちに私の中に復讐とは別の感情が湧き上がって来たのだ。何かわかるかね?」

「デウス家を……幸運の星を滅ぼしたいのではないのですか?」

「最初はそう思っていた。正解は、同情だよ。私は知ってしまった。人を超える力を持った現人神は、その力を十全に使えば容易く人の世を支配出来たであろう姫達はその道を選ばず、人の為に生きる道を選んだ事実を知った」

 全員が、男の話を聞き入る。連合中の市民も、スサノヲも。守護者も。但し、アイアースの正体までは知らなかったらしく、動揺しているが。

「驚かされたよ。遥か昔に"無名の神の使い"から星を与えられた初代の姫は、同時に言いつけられた約束を愚直に守り続けたのだ。口約束など何の意味も成さないのに、そんな義理などないのに、自らの為にその力を振るえば自分も子孫も苦悩に満ちた人生を歩まずに済んだだろうに。だが、強い力を持ちながらも誰一人として己が為に振るう事はなく、星と共に使命を受け渡し続けた。最初は愚かだと、救いようがないと嘲笑ったよ」

 アイアースは話を続ける、まるで昔話を子供に聞かせる好々爺の様に。だが、この男は確固たる意志でフォルトゥナ=デウス・マキナに死を与えようと目論む。男は続ける、懐かしい昔の話を。伊佐凪竜一、スクナ、クシナダの攻撃を捌きながら平然と続ける。

「姿を変え、立場を変えながら、姫を監視し続けた私は歪みを目の当たりにした。人は神の慈愛を最初はうやうやしく受け取ったが、次第に当然と思うようになり、最後にはソレが無い事を許せないとさえ考えるようになった。何時からか、人々は自らで苦境を乗り越えようとせず、不満を漏らし、不平を唱え、浅ましいまでに求めるようになった。堕落だよ。人はッ!!神を利用した!!弱きを恥じ、強きを敬うを忘れ、平然と偽り、騙し、神を"便利な道具"として利用するようになったのだ!!知らぬとは言わせんぞ、旗艦の神アマテラスオオカミが封印される経緯を忘れたとは言わせんぞ!!目の前にぶら下げられた情報を確認もせず、喰いつき、恩を忘れ、平然と裏切る。弱き意志は、水の如く低きに流れる。人は神を敬いながら、その裏では唾を吐きかける様な真似が平然と出来るのだよ!!」

 3人の攻撃を涼し気な顔で交わしながら自らの出自と戦う理由を語ったアイアースは、一区切りと言わんばかりに距離を取ると同時、部下に指示を出す。時を置かずして、アイアースの眼前に灰色の光が出現、その中から何かが飛び出した。女だ。儀の直前、姫を化け物と罵った従者が、戦場に放り出された。

「ヒッ」

「理由は分かるな?」

「その、あの、申しわ」

「化け物め」

 慌てふためく女の声に、同じ女の罵倒が重なった。失言の瞬間を捉えた映像が、連合中に流された。恐怖に歪んだ女の顔が、言い訳を語ろうと口を開く。が、無意味。アイアースの目には、主を虚仮こけにした愚かな人間への憤怒に溢れる。刹那、一閃。

「リ、マ……セ」

 従者の首が、飛沫と共に曇天を舞い、ゴロゴロと地面を転がり、やがて止まった。空を仰ぎ見る生首は恐怖と苦痛に歪んでいる。多くが、その光景に目を逸らした。

「私は生きる目的を変えた」

 アイアースの視線が、スクナ、クシナダを通り過ぎ、伊佐凪竜一へと向かう。未だ目が潰れたままの彼はただならぬ気配に声の主から顔を逸らさない。2人の男が、互いを睨み合う。

「人の醜い有様を見た私の中からは、復讐心などとうに消え去っていた」

 再び、戦いが始まった。アイアースは無詠唱の魔道で伊佐凪竜一を牽制しつつ、接近戦を仕掛けるスクナとクシナダをまるで赤子の様にあしらう。

「あの時から今も尚続く私の意志は、遠き旅路の果てに出会った異郷の同胞、人々から悪魔と恐れ罵られる神、運命傅く幸運の姫の傍に寄り添い、苦悩に満ちた人生から救うと言う一点のみ。長き時の中で婚姻の儀も幾度となく見てきた。最初は運命の相手を導いていた星は、器たる姫の精神の歪みに呼応する形で運命の相手を変えた。姫を幸せにする者ではなく、殺し得る者を選定し始めた」

 男は戦いながら語り続ける。己が戦う理由を、星が歪み始めた経緯を。

「姫の殺害を考える者は大勢いた。だが、歴史が示す通り全員が心変わりした。悲しむ事などなかった。寧ろ、祝福したよ。伴侶が愛し続ける限り不幸を忘れる事が出来たのだからだ。しかし、私の前に強い覚悟で姫の死を望む者が現れた。それがオレステスだ。婚姻の儀が終われば彼は幸運の星の庇護下に入り、同時に星を討つ権利を得る。私は戦おう。オレステスが諦めぬ限り、姫が死を望む限り。姫の幸福を真に願うからこそ、私は姫の死を心から願うのだ!!」

 男はそこまでを語ると裂帛の気迫を込めた一撃で3人を吹き飛ばした。その底知れない実力の源は並々ならぬ覚悟。己が進む道こそが絶対であると信じ、微塵も疑わぬ強靭な意志。その証左が、男の周囲に舞う。白く輝く粒子、意志に反応する未知の粒子がまるで応援するかの如くアイアースを強化する。

「私の選択が間違いだと、認められぬと言うならば、全てが終わった後に首をねれば良い。悪と罵りたくば好きにすれば良い。かつての様に魔王と呼ぶならば甘んじて受け入れよう。だが、無意味に止めると言うならば容赦はせん。今日この日を迎える為に、あらゆる犠牲を払ったのだ!!私の真の名はカストール、魔王カストール。この計画を止めたくば、私以上の覚悟で、力で、意志で砕いて見せろッ!!」

 男は、魔王と名乗った男は堂々と言い放った。止めて見せろ、と。

 迷い、一切無し。ただ自らと同じく人外の力を持つ同胞を苦悩から解放する為だけにあらゆる犠牲を払う決断を下した男の清々しささえ感じる言動に、相対した伊佐凪竜一達でさえ揺さぶられる。

 その心境は連合全体も変わらず。映像を通して伝わったカストールの覚悟に、心を動かされる。旗艦側の大聖堂で戦うスサノヲ達が酷く動揺する反面、カストールという最大の味方を得た守護者達の士気は大きく向上した。押し返せる筈だった流れが、アッサリと引き戻された。姫を救う手段こそ真っ当ではないが、実行する男に微塵の悪意もない。

 止めるならば、答えを見せねばならない。死を望む姫が止まるだけの希望を見せねばならない。姫が止まらねばこの戦いは止まらず、戦いが止まらねば姫は死に、連合は瓦解する。その先は新たな支配者を決める泥沼の戦いが待ち、今とは比較にならない程の命が失われる。

 カストールは十二分に理解しながら、その上で実行に移した。罰だと、男はそう考える。故に夥しい犠牲を知りながら、止まらない。

「では始めようか、肆号機シゴウキ

「待てッ、まだ終わっていないッ!!新しい……クソッ!!」

 ルミナの言葉を無視するカストールが指示を飛ばした。今まで姿を見せなかった肆号機の名が旗艦を駆け巡ると同時、旗艦の制御系統に不自然なノイズが走った。更に艦全体が大きく揺れ動く。さながら地震の様な現象は今の今まで一度として起こった事などなく、経験しない事態を前に艦橋も、居住区域も混乱に包まれる。

 が、この程度で終わる筈もない。更に異常な事態が発生した。旗艦の全制御系統が一瞬で乗っ取られた。しかも、何をどうしようが制御を取り返せない。

 制御を奪われたと言う事は、艦内数十億の生殺与奪を握られたに等しい。転移を利用した避難は元より、艦全体の生命維持を即座に切って皆殺しにする事さえも可能。その事実に気付いたスサノヲ、艦橋のオペレーター達の顔から血の気が引く。

 悪夢は、未だ終わる気配を見せない。
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