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終章 呪いの星に神は集う
365話 贖罪
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絶望的な状況下、白川水希はとある少女の元へと向かった。もう動かない改式、その胴体部分から無理矢理中へと入ると少女の脳が入ったシリンダーが目に留まる。その前で歩を止めた彼女は物言わぬ少女に声を掛けた。
「聞こえる?」
当然、返答はない。水槽の液体は心なしか濁っている。操縦席周辺は強固に保護されており、生命維持装置に損壊は見られない。山県大地の死に耐えきれず自身で装置を落としたのか、あるいは単なる返答拒否か。生死が判然としない山県令子に向け、それでも彼女は語る。
「昔は同じ物を信じていたのに、何時からか別れちゃったわね。思い出すわ、昔アナタにオネーサンオネーサンと呼ばれて後を付け回された事。随分と厳しい訓練だったのに、表の仕事ではそんな事おくびにも出さずに頑張るアナタの姿が今でも、脳裏に」
彼女は一旦区切り、耳を澄ました。が、外での激しい戦闘の音が掠めるばかりで少女の声は聞こえない。叫び声、爆発音、機竜の巨大な咆哮。耳をつんざく雑音を振り切り、白川水希はシリンダーに目をやる。且つて山県令子だったもの。自らの意志でタナトスの側に付き人類の敵としての道を歩んだ、その果てを。
「眩しかった、誰もが羨ましがってたわ。だけど、どうしてこんな事になっちゃったの」
やはり、返事はない。生死不明。それでも白川水希は言葉を続ける。
「私達の選択は正しかった。あの時点で取り得る選択肢は戦う以外に無かった。だけど……駄目ね。今となると本当に正しかったのか分からない。戦わなければ、勝たなければツクヨミを奪われる」
神魔戦役以前の地球は実質的にツクヨミの管理下にあった。桁違いの演算能力で地球人類の生活を支えていた神の簒奪は地球の死と同義。故にツクヨミと共に生きる清雅一族の頂点、清雅源蔵は戦いを決断した。人体実験を繰り返し、悍ましい程の屍の上に完成したナノマシン兵器を用いて当時の旗艦に打って出た。
「みんなおかしくなっていた。何が正しいか分からなくて、思考を放棄して清雅源蔵の言いなりになって、だから負けたのね。贖罪の為、旗艦で必死に働いたわ。特兵研はそんな私達を評価したけど、そうしていないと頭がおかしくなりそうだっただけ。寝る間も惜しんで働いているんじゃなくて、眠れなかっただけ。知らないでしょうけど、自殺した人が沢山いるの。沢山、数えるのが嫌になる位に。中にはアナタがよく知っている人も。皆、同じ言葉を残した。"あの戦いは、私達の選んだ手段は正しかったのか"」
再び、言葉が止まった。地球側の戦犯として扱われる元清雅社員の処遇はその特殊性故に極秘扱いとされ、極めて限られた人間にしか情報を下ろされない。彼女の懺悔は全て真実。如何に覚悟が有ろうとも、大抵の人間は"同じ人間の死"を目の当たりにすれば、その犠牲が多ければ多い程に精神を病む。
神魔戦役時は地球を救う大義名分があった。しかし、ソレは麻薬に等しい。戦いが終わり、名分を喪失した大半が正気を保つ事が出来なかった。
カウンセリングチームでは自殺の歯止めにさえならず、暫定政権は向精神ナノマシン薬により忌まわしい記憶を忘却ないし消滅させる事を視野に入れた措置を提案した。が、医療チームからの反対により敢え無く立ち消えた。理由は罪の記憶を忘却する処置への心情的な反発。
結果、元清雅社員の自殺は歯止めが効かず、今も自殺の連鎖を止めるには至っていない。その事実を元清雅社員と袂を分かった山県令子は知らない。彼女以外が戦いに何らかのトラウマを負ったのに対し、彼女はトラウマを憎悪で塗り潰した。
もしタナトスとの接触を阻止出来ていればこうはならなかったのではないか。抜きんでた容姿を投げ捨て、脳髄だけとなった少女を見た白川水希は考える。が、全ては仮定の話。既にこうなってしまった以上、論じる意味などない。
「だからね……だけどね……」
白川水希は俯きながら言葉を続ける。
「私、生きないと駄目だって。あの戦いが誰かに仕組まれたのなら、なんでそんな事したのか知らないと、知って答え出さないとって。誰かが救われるわけじゃない。地球側の犠牲者遺族が私達の引き渡しを要求しているって話を聞いたわ」
当然、この話も山県令子は知らない。ついでに言えば伊佐凪竜一も、だ。そんな事を伝えても重石になるだけだと彼女が情報を下ろさなかった。本来ならば元清雅社員の処遇は極刑一択だったが、開戦理由に旗艦側が大きく関与しているとの司法判断により贖罪の道が用意された。しかし、そんな事情は人体実験の犠牲者遺族には関係ない。
「地球の法で裁いて、全員死刑にして欲しいって。その方が楽になれるんじゃないか、寧ろそうした方が良いと言う人もいた。異郷で死ぬ位なら故郷で死にたい、少なくともそうすれば地球での犠牲には償いが出来るからって。私は、何も答えられなかった。何を、どうすれば正しいのか分からなかった。あの戦いも、その償い方も。だけどアナタが嫌うナギ君に会って、苦難の中で前に進む背中を見て決めたの。石を投げられる覚悟で、一生憎まれ呪われる覚悟で、もう二度と日の射す場所を歩けなくても、それでも最後まで生きないと駄目だって。生きる事を諦めたら駄目だって。死んで償ったらそこで終わり。だけど生きていればその分だけ誰かを救える。都合が良いって思うよ。だから、だけど、誰にも許して貰えなくても」
彼女は不自然に言葉を区切ると、操縦席から立ち上がった。よろよろと歩き、胴体部に開いた穴に手を掛ける。もう動かない改式の小さな出口を力任せにこじ開けながら、しかし不意に手を止めた。
「さようなら。身勝手でしょうけど、アナタの分まで頑張るわ。ソレが私が決めた生き方で、そうやってでしか生きられないから」
その言葉を餞に、彼女は姿を消した。山県令子は遂ぞ反応する事はなかった。
外に出た白川水希を出迎えたのは相変わらず数に押されるスサノヲと守護者達の姿。必死で抵抗を試みるが、そもそも圧倒的な性能を持つ量産型タケミカヅチに対し絶対的に数が足りず、主戦力は疲弊しきっている。
彼女が一歩前に踏み出すと、まるで待ち構えていた様に改式がギギギと嫌な音を立てながら崩れ落ちた。その背には量産型タケミカヅチが立つ。
土埃に舞う眼下を冷たく見下ろす無機質な視線と、死ぬ覚悟を決めた白川水希の視線がかち合う。瞬間、視線を何かが横切った。ソレはまるで何処かから投げ込まれた様な軌跡で彼女の眼前を通り過ぎ、二、三歩程離れた場所で突き刺さり、動きを止めた。
何処にそんな物があったのか、そもそも誰が投げ込んだのか。しかし、周囲を見渡せど人影は見当たらず。あると言えば微動だにしない改式のみ。埒が明かない彼女が頭上の量産型に気を配りながら再び視線を向けると、ソレは先程までと変わらず、周囲の光を反射し薄く青い光沢を放っていた。
刀。まだ山県令子が七宗令子と名乗っていた時に持っていた刀と酷似していた。彼女は目が合った。光を反射する美しい刀身に映った己と目が合った。直後、意志が何処かの何かと接続する。周囲からは光も音も含む一切の気配が消え去り、真っ暗な空間に立っていた。
『今日は良い日だ。私を認識する者もいれば、今頃になって選定を潜り抜ける者も居る。良い日だよ、本当に。無為に過ごした長い長い時間よりも、ずっと』
「何、ココ?」
『ココは人の内に存在する闇の中。且つて伊佐凪竜一とルミナ=AZ1もココに立ち、私に選定された。君に問う、覚悟はあるか?人ならざる者に堕ちる覚悟が、その結果全てから敵と見做される覚悟があるか?人類の敵と罵られ、それでもなお己が選択を後悔しないと、死力を尽くすと、最後まで足掻くと言い切れるか?』
覚悟を問う闇に、彼女の目は闇の中に輝く赤い目を見た。視線を外す事が出来ない。動揺に、闇に爛々と輝く目も彼女を見返す。まるで全てを見透かす様な赤い目は暫し彼女を見つめ続け……
『答えは聞かない。証明しろ、自らを苦難へと投げうつ意志を持った人間よ』
赤い目は目を細めたながらそう呟いた。どことなく嬉しそうな気配を意識が捉えたと同時、視界一杯に光が射した。意識が現実を認識すれば、先程までと同じ場所。見上げれば量産型が今にも飛びかかろうと身構える光景、傍には崩れ落ちた改式。見たくもない、見慣れた絶望的な光景。
違和感。白川水希は右手の違和感に気付く。右手だけが、闇へと誘われる前と違う。一振りの刀を握っていた。と同時、声を聞いた。はっきりと、白川水希という人間の内側から、はっきりと聞こえた。ただ一言、"君を認めよう"と。
「危ないッ!!」
誰かの叫び声。白川水希は意識を戦場に向ける。視界には迫りくる鈍色。が、彼女を間近にしたところで真っ二つに斬り裂かれた。見た全員が驚く。量産型を一撃で葬った白川水希でない。彼女の意志に応え、しなる鞭に変化した刀でもない。刀に触れた量産型タケミカヅチが瞬く間に青い小さな粒子へとなり消滅する光景に、風に踊りながら霧散する青い粒子と刀が反射する淡く青い光の中に浮かぶ少女の幻影に驚いた。
余りにも一瞬の事で、目撃した全員が気のせいか夢か幻だと飲み下す。しかし、映像には確かに残っていた。仄明るい光に照らされる白川水希の傍に青い粒子は、且つて久那麗華と呼ばれ、山県令子として死んだ少女の姿をしていた。
一度きり、巻き戻せない人生を愛した男の為に使った少女に背を押されながら、1人の女が戦場に戻る。不条理な裁きを下す神とその尖兵を討つ為、魔の力を宿す刃と共に。
「大丈夫」
静かに、だが強く女は呟くと、淡い輝きを放つ一振りの刀と共に戦場へと戻った。
「聞こえる?」
当然、返答はない。水槽の液体は心なしか濁っている。操縦席周辺は強固に保護されており、生命維持装置に損壊は見られない。山県大地の死に耐えきれず自身で装置を落としたのか、あるいは単なる返答拒否か。生死が判然としない山県令子に向け、それでも彼女は語る。
「昔は同じ物を信じていたのに、何時からか別れちゃったわね。思い出すわ、昔アナタにオネーサンオネーサンと呼ばれて後を付け回された事。随分と厳しい訓練だったのに、表の仕事ではそんな事おくびにも出さずに頑張るアナタの姿が今でも、脳裏に」
彼女は一旦区切り、耳を澄ました。が、外での激しい戦闘の音が掠めるばかりで少女の声は聞こえない。叫び声、爆発音、機竜の巨大な咆哮。耳をつんざく雑音を振り切り、白川水希はシリンダーに目をやる。且つて山県令子だったもの。自らの意志でタナトスの側に付き人類の敵としての道を歩んだ、その果てを。
「眩しかった、誰もが羨ましがってたわ。だけど、どうしてこんな事になっちゃったの」
やはり、返事はない。生死不明。それでも白川水希は言葉を続ける。
「私達の選択は正しかった。あの時点で取り得る選択肢は戦う以外に無かった。だけど……駄目ね。今となると本当に正しかったのか分からない。戦わなければ、勝たなければツクヨミを奪われる」
神魔戦役以前の地球は実質的にツクヨミの管理下にあった。桁違いの演算能力で地球人類の生活を支えていた神の簒奪は地球の死と同義。故にツクヨミと共に生きる清雅一族の頂点、清雅源蔵は戦いを決断した。人体実験を繰り返し、悍ましい程の屍の上に完成したナノマシン兵器を用いて当時の旗艦に打って出た。
「みんなおかしくなっていた。何が正しいか分からなくて、思考を放棄して清雅源蔵の言いなりになって、だから負けたのね。贖罪の為、旗艦で必死に働いたわ。特兵研はそんな私達を評価したけど、そうしていないと頭がおかしくなりそうだっただけ。寝る間も惜しんで働いているんじゃなくて、眠れなかっただけ。知らないでしょうけど、自殺した人が沢山いるの。沢山、数えるのが嫌になる位に。中にはアナタがよく知っている人も。皆、同じ言葉を残した。"あの戦いは、私達の選んだ手段は正しかったのか"」
再び、言葉が止まった。地球側の戦犯として扱われる元清雅社員の処遇はその特殊性故に極秘扱いとされ、極めて限られた人間にしか情報を下ろされない。彼女の懺悔は全て真実。如何に覚悟が有ろうとも、大抵の人間は"同じ人間の死"を目の当たりにすれば、その犠牲が多ければ多い程に精神を病む。
神魔戦役時は地球を救う大義名分があった。しかし、ソレは麻薬に等しい。戦いが終わり、名分を喪失した大半が正気を保つ事が出来なかった。
カウンセリングチームでは自殺の歯止めにさえならず、暫定政権は向精神ナノマシン薬により忌まわしい記憶を忘却ないし消滅させる事を視野に入れた措置を提案した。が、医療チームからの反対により敢え無く立ち消えた。理由は罪の記憶を忘却する処置への心情的な反発。
結果、元清雅社員の自殺は歯止めが効かず、今も自殺の連鎖を止めるには至っていない。その事実を元清雅社員と袂を分かった山県令子は知らない。彼女以外が戦いに何らかのトラウマを負ったのに対し、彼女はトラウマを憎悪で塗り潰した。
もしタナトスとの接触を阻止出来ていればこうはならなかったのではないか。抜きんでた容姿を投げ捨て、脳髄だけとなった少女を見た白川水希は考える。が、全ては仮定の話。既にこうなってしまった以上、論じる意味などない。
「だからね……だけどね……」
白川水希は俯きながら言葉を続ける。
「私、生きないと駄目だって。あの戦いが誰かに仕組まれたのなら、なんでそんな事したのか知らないと、知って答え出さないとって。誰かが救われるわけじゃない。地球側の犠牲者遺族が私達の引き渡しを要求しているって話を聞いたわ」
当然、この話も山県令子は知らない。ついでに言えば伊佐凪竜一も、だ。そんな事を伝えても重石になるだけだと彼女が情報を下ろさなかった。本来ならば元清雅社員の処遇は極刑一択だったが、開戦理由に旗艦側が大きく関与しているとの司法判断により贖罪の道が用意された。しかし、そんな事情は人体実験の犠牲者遺族には関係ない。
「地球の法で裁いて、全員死刑にして欲しいって。その方が楽になれるんじゃないか、寧ろそうした方が良いと言う人もいた。異郷で死ぬ位なら故郷で死にたい、少なくともそうすれば地球での犠牲には償いが出来るからって。私は、何も答えられなかった。何を、どうすれば正しいのか分からなかった。あの戦いも、その償い方も。だけどアナタが嫌うナギ君に会って、苦難の中で前に進む背中を見て決めたの。石を投げられる覚悟で、一生憎まれ呪われる覚悟で、もう二度と日の射す場所を歩けなくても、それでも最後まで生きないと駄目だって。生きる事を諦めたら駄目だって。死んで償ったらそこで終わり。だけど生きていればその分だけ誰かを救える。都合が良いって思うよ。だから、だけど、誰にも許して貰えなくても」
彼女は不自然に言葉を区切ると、操縦席から立ち上がった。よろよろと歩き、胴体部に開いた穴に手を掛ける。もう動かない改式の小さな出口を力任せにこじ開けながら、しかし不意に手を止めた。
「さようなら。身勝手でしょうけど、アナタの分まで頑張るわ。ソレが私が決めた生き方で、そうやってでしか生きられないから」
その言葉を餞に、彼女は姿を消した。山県令子は遂ぞ反応する事はなかった。
外に出た白川水希を出迎えたのは相変わらず数に押されるスサノヲと守護者達の姿。必死で抵抗を試みるが、そもそも圧倒的な性能を持つ量産型タケミカヅチに対し絶対的に数が足りず、主戦力は疲弊しきっている。
彼女が一歩前に踏み出すと、まるで待ち構えていた様に改式がギギギと嫌な音を立てながら崩れ落ちた。その背には量産型タケミカヅチが立つ。
土埃に舞う眼下を冷たく見下ろす無機質な視線と、死ぬ覚悟を決めた白川水希の視線がかち合う。瞬間、視線を何かが横切った。ソレはまるで何処かから投げ込まれた様な軌跡で彼女の眼前を通り過ぎ、二、三歩程離れた場所で突き刺さり、動きを止めた。
何処にそんな物があったのか、そもそも誰が投げ込んだのか。しかし、周囲を見渡せど人影は見当たらず。あると言えば微動だにしない改式のみ。埒が明かない彼女が頭上の量産型に気を配りながら再び視線を向けると、ソレは先程までと変わらず、周囲の光を反射し薄く青い光沢を放っていた。
刀。まだ山県令子が七宗令子と名乗っていた時に持っていた刀と酷似していた。彼女は目が合った。光を反射する美しい刀身に映った己と目が合った。直後、意志が何処かの何かと接続する。周囲からは光も音も含む一切の気配が消え去り、真っ暗な空間に立っていた。
『今日は良い日だ。私を認識する者もいれば、今頃になって選定を潜り抜ける者も居る。良い日だよ、本当に。無為に過ごした長い長い時間よりも、ずっと』
「何、ココ?」
『ココは人の内に存在する闇の中。且つて伊佐凪竜一とルミナ=AZ1もココに立ち、私に選定された。君に問う、覚悟はあるか?人ならざる者に堕ちる覚悟が、その結果全てから敵と見做される覚悟があるか?人類の敵と罵られ、それでもなお己が選択を後悔しないと、死力を尽くすと、最後まで足掻くと言い切れるか?』
覚悟を問う闇に、彼女の目は闇の中に輝く赤い目を見た。視線を外す事が出来ない。動揺に、闇に爛々と輝く目も彼女を見返す。まるで全てを見透かす様な赤い目は暫し彼女を見つめ続け……
『答えは聞かない。証明しろ、自らを苦難へと投げうつ意志を持った人間よ』
赤い目は目を細めたながらそう呟いた。どことなく嬉しそうな気配を意識が捉えたと同時、視界一杯に光が射した。意識が現実を認識すれば、先程までと同じ場所。見上げれば量産型が今にも飛びかかろうと身構える光景、傍には崩れ落ちた改式。見たくもない、見慣れた絶望的な光景。
違和感。白川水希は右手の違和感に気付く。右手だけが、闇へと誘われる前と違う。一振りの刀を握っていた。と同時、声を聞いた。はっきりと、白川水希という人間の内側から、はっきりと聞こえた。ただ一言、"君を認めよう"と。
「危ないッ!!」
誰かの叫び声。白川水希は意識を戦場に向ける。視界には迫りくる鈍色。が、彼女を間近にしたところで真っ二つに斬り裂かれた。見た全員が驚く。量産型を一撃で葬った白川水希でない。彼女の意志に応え、しなる鞭に変化した刀でもない。刀に触れた量産型タケミカヅチが瞬く間に青い小さな粒子へとなり消滅する光景に、風に踊りながら霧散する青い粒子と刀が反射する淡く青い光の中に浮かぶ少女の幻影に驚いた。
余りにも一瞬の事で、目撃した全員が気のせいか夢か幻だと飲み下す。しかし、映像には確かに残っていた。仄明るい光に照らされる白川水希の傍に青い粒子は、且つて久那麗華と呼ばれ、山県令子として死んだ少女の姿をしていた。
一度きり、巻き戻せない人生を愛した男の為に使った少女に背を押されながら、1人の女が戦場に戻る。不条理な裁きを下す神とその尖兵を討つ為、魔の力を宿す刃と共に。
「大丈夫」
静かに、だが強く女は呟くと、淡い輝きを放つ一振りの刀と共に戦場へと戻った。
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