【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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終章 呪いの星に神は集う

381話 最終決戦 ~ 第二次神魔戦役 其の5

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「クソがッ、何処に……ぐおっ!!」

 突如として襲った衝撃。見失った敵を必死で探すアルヘナは言葉を詰まらせる。衝撃は巨躯の左腕から。視線を移せば一本の青い刃が突き刺さっていた。

 舌打ち、視線を外す。瞬間、視界の端に銀色の閃光を見た。光が銀色に輝く美しい長髪と気付いた刹那、再度大きな衝撃。突き刺さった青い刃目掛けて突撃したルミナが刃を蹴り抜いた。

 その桁違いの威力にジェミニドラゴンの左腕は半壊、更に突き刺した刃による侵食が重なる。左腕が瞬く間に消滅した。高を括った代償は大きかった。しかしその程度では終わらず。

 左腕から飛び退くルミナ。直後、黒い剣閃が右腕を胴体から切り離した。更に剣閃は宙を舞う巨大な右腕を滅多斬りにし、瞬く間に消滅させた。ほんの僅かの間に巨躯の両腕部が無くなり、内部が剥き出しとなる。

「何故だ!!何故何故何故何故何故……なぜ勝てない!?」

 もはや均衡は崩れた。幸運の星が姫と己の間で揺らぐ現実にアルヘナは焦る。相対する伊佐凪竜一とルミナの身体能力は尋常ではない程に向上しており、更に駄目押しジェミニドラゴンと幸運の星に付けられた傷も完全に復元していた。その光景は恐怖を超え、絶望へと昇華する。

「クソッ、クソクソクソクソ……その……祈りを止めろと言っているだろうドクズがァ!!」

 感情を制御出来ないアルヘナは尚も抵抗を続ける。一際大きな大きな声が上空から木霊した。上空に魔法陣が浮かび上がり周囲の温度が急上昇、更に遥か上空から照らす光が地上を赤く染め上げた。

 恒星の如き灼熱の火球。撃ち出されれば即死は免れない超火力の攻撃。が、攻撃前に霧散した。魔法陣に黒い剣閃が横切った。一度、二度と魔法陣を横切る黒い光の筋は侵食する様に魔法陣諸共に火球を掻き消す。

 尚もジェミニドラゴンは攻撃の手を止めない。今度は口部に魔法陣が展開、真白い光弾を撃ち出した。瞬く間に、圧倒的な速度で生成された光弾は無情にも祈り続ける姫の元へと突き進む。が、神速で射線に飛び込んだルミナが蹴り飛ばす。真っ直ぐに蹴り返された光弾は口部に直撃、頭部を吹き飛ばした。

「おのれ……俺は神だ、神だ、神ナンダ、神神神神神神神神……神だ!!貴様ら如きが!!」

 復元したジェミニドラゴンの頭部が怨嗟の叫びを上げる。その声に合わせ、周辺が鳴動し始めた。

『呪われている……貴様も己が理解出来ぬ内に呪われている事に気付かない』

「ふざけるなッ、俺の何処がッ!!俺は神だ、神に上り詰めたッ!!もう誰も俺を見下せない、俺が、俺こそが、俺だけが頂点なんだッ!!」

『救いようがない』

 女王の言葉にアルヘナは半狂乱の様に神と繰り返した。その有様に女王だけでなく大勢が憐憫を向ける。その次、もう正気では無い、己の弱さを認められない意志が迎える終焉を誰もが目撃する。

 ジェミニドラゴンの巨躯が震え始めた。吹き飛ばされた頭部と切り落とされた両腕部の復元が始まる合図。しかし様子がおかしい。見上げる程の巨躯が不定形に崩れ落ち、不快で歪な形に変異を始めた。

 異変はジェミニドラゴンの分体である小型の竜にも伝播する。未だ生まれ続ける夥しい分身が歪み始めた。且つて地球においてオロチを使って見せた清雅源蔵と同じく、アルヘナも異常な精神状態へと陥った。

 明らかに正常ではない。ナノマシンの誤作動か、さもなくば制御を行う人間の意志を反映しているかの如き崩れた姿は、奇しくも半年前の地球で見たマジン製の竜と似通っている。

 アルヘナの精神の歪みが限界を超えた。その光景に、人の意志はココまで堕ちる事が出来る印象を誰もが持つ。

 余りにも神に執着する姿はもはや哀れとしかいいようが無い男に、更なる追い打ちが掛かる。崩れ行く足場で祈り続けた姫が目を見開き、歪んだ巨躯を見つめた。儚いながらも輝きが宿る眼差しに死の影は無い。誰も安堵した。姫はこの短い時間の中、自らの生きる道を決めた。

「運命傅く幸運の星はもう誰も照らさない、不幸にしません。星よ、私の元に戻りなさい」

 凛とした声。且つてフォルトゥナ=デウス・マキナと呼ばれ、連合の中枢に縛られた姫が、死と引き換えにしてまで手放したかった幸運の星に命じた。

「何を馬鹿な!!貴様が拒絶した力だぞ!!呪いと忌み嫌い、死と引き換えにしてまで引き離したかった力を今更ッ!!」

「戻りなさい」

 淀みなく、再び命る声に崩れ落ちる巨躯から小さな何かが飛び出した。白く輝く炎が揺らめく様にうねる。"幸運の星"。恒星の光が淡く照らす中、幸運の星は器を離れ、再び剥き出しとなった。

「なっ!?オイ止めろッ!!ソレは俺のモノだぞ!!貴様がいらぬと願ったから叶えてやったのだぞ!!戻れ!!俺の元にッ、貴様の主は俺だッ!!」

 叫び、幸運の星を掴もうとするアルヘナ。が、実体を伴わない星は巨躯をすり抜け、中空を漂った後、大きく揺らめくと制止した。戦場を微かに照らす小さな光源、幸運の星はまるで主とこの戦いの行く末を見守る様に空中に止まる。星が姫の意を汲んだ事を理解する光景に、誰もが目を見張った。

「おのれ、おのれ……何が起きているのだ!?こんな、こんな」

「もう諦めろ!!」

「大人しく捕まるなら命は取らない!!」

「だから貴様ら程度が俺を見下すなと言っているッ!!」

 只一人、アルヘナだけが全てを認められず足掻く。しかし大勢は決した。ジェミニドラゴンの攻撃は英雄達を全く傷つけられず、逆に攻撃を受けると大きく傷つく。復元能力が低下し始めた。

 優勢を維持した幸運の星は、自らを納める器を見定める様にアルヘナとフォルトゥナ=アウストラリス・マキナの丁度中間地点で仄かに輝く。星なき今、アルヘナに勝利は無い。だというのに、認められないのは当人のみという皮肉。少し冷静になれば気付けた……いや、無理だろうと誰もが結論した。もう、己すら制御出来ていない。

「星だ、もう一度アレをッ!!」

『フフフ』

「何が可笑しい!!」

『貴様に敗北を与えたのは幸運の星ではない。意志だよ、ただそれだけ。脆弱化した意志に何事も成す事など出来ない。人の意志に貴様は負けたのだ。故にどれ程強い力を手に入れようが何も変わらぬ。一時だけの優勢を作り上げるのが精々』

「まだ負けていないッ!!」

『漸くその時が来たぞ。銀河中に撒き散らした死の足音が今、貴様の元に来た。もう十分に逃げ続けたろう?終わるがいい、それが貴様に訪れる、絶対に覆せない運命』

「き……らだ……貴様らだッ、貴様らさえいなければァ!!」

『そう、私の見出した愛しい希望達に貴様は負けるのだ、貴様が忌み嫌った人間にね』

 女王は遥か上空から見下ろすアルヘナに淡々と真実を突きつけた。お前は負けた。もう死以外の選択肢は無い。しかし、自らを神と名乗った人間には余りにも認めがたい事実。否定し、もうどこにも存在しない勝利を追い求め、彷徨う。絶対的な勝利をもたらす幸運の星がその身から離れたという現実を目の当たりにしながら、それでも逃げない、逃げられない。

 男は己を神と名乗った。神は全能である。全能な神に敗北など有り得ない。だから神は逃げない。逃げてはならない。逃げるなど神のする事ではない。逃げてしまえば、己が神ではないと証明してしまう。

 言葉は精神を蝕み、選択肢、あるいは可能性を狭める。旗艦の民がアマテラスオオカミを呪ったように、地球人類がツクヨミを呪ったように、連合中がフォルトゥナ姫を呪ったように、アルヘナは自らを呪った。神と名乗った事で、神という言葉に呪縛された。全能の存在たる神と名乗ったが為に、逃走すると言う選択肢を消してしまった。
 
 故に逃げない、逃げられない。最後の戦いから逃げる事が出来ないのは弱いから。己の弱さ故に、それを自覚できないが故に神を名乗った男は最後の戦いから逃げられない。

「そんな筈は無い!!貴様が何かしでかしたに決まっている!!そうだ、そうでなければこの俺が……この俺がァ、旗艦の神も連合の連中も出し抜いた俺が人間に負ける筈が無い!!俺がッ、俺が負けるなどとッ!!」

 アルヘナは僅か前を思い出す。部下だった人間達は死という絶望を前に果敢に挑み、散った。己が散々に見下し、切り捨てた命がアルヘナの意志に纏わりつき、語りかける。俺達は逃げなかった、お前は逃げないよな、と。その言葉もまたアルヘナを縛り、呪う。神という言葉と同じく、その身を縛り付ける。

 歪んだ男の叫びに応え、ジェミニドラゴンが異形へと変化する。胴体と腹部に幾つもの目が浮かび始めた。構成するナノマシン異常により出鱈目に、無尽蔵に復元された醜い頭部から出現した無数の目には魔法陣が描かれており、瞬きする度に出鱈目に魔導を行使する。

 が、当てずっぽうで2人に当たる道理はない。また、歪な竜も同じく。ただ無心に我武者羅に、最初に目に付いた相手を狙う至極単純明快な命令に変わり果てた。

 その変化に、誰もが自然と姫の前に立ちはだかる。黒い剣閃、青い雨、無数の斬撃。星を糧に無数に生み出される竜はその数を減らし続ける。その最後に特大の豪炎。無数の竜を巻き込む炎は矢の如く一直線に突き進み、異形へと変わり果てた巨躯に命中した。

「行って!!」

 焼け焦げた地面とドロドロに溶けた竜が作る道を、誰かの声が通り抜けた。クシナダ。息を荒げた彼女は手に持つ刀を真っ直ぐ巨躯へと向ける。

 一言で意図を理解した4人は即座に行動へと移す。率先して行動した伊佐凪竜一は躊躇いなく巨躯へと向かい、見上げる程に大きな身体を駆けあがる。一瞬遅れたルミナも伊佐凪竜一の背中を追いかける。

 スクナとオルフェウスも先行した英雄達の後を追いかけるが、彼等は巨躯へと辿り着くや反転、残った無数の竜を地上に釘付けにする役目を請け負った。

 地上を侵食するナノマシンは勢いこそ大きく衰えたが、それでもなお竜を作り続ける。このままでは星が喰い尽される前に消耗し尽くす。そんな程度は誰もが考えていたが、姫を守る役目と秤にかけ、躊躇っていた。その心が、クシナダの行動により傾いた。

 まだ年若いスサノヲが己だけで、死力を尽くし守り切る覚悟を見せた。その意気に応えねば人ではないと、誰もが走る。
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