【完結】G.o.D 完結篇 ~ノロイの星に カミは集う~

風見星治

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エピローグ

399話 接触 其の1

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 連合標準時刻 金の節1日

「結論は出ず、か」

 諦観交じりの声。次いで幾つかの溜息が重なった。

 ザルヴァートル財団所有艦"アエテルニス"。全長167キロを誇る巨大艦は一族の中でも優れた才覚を持つ者達の拠点となる、財団活動の中心地。その艦の中央に位置する賢人会議中央会議場。

 艦への搭乗は選ばれた者だけ。その中でも更に優秀な者で構成されるのが賢人会議。その議員達が全員揃って出席するのは次期総帥を決める場合のみ。が、今は少しばかり事情が違った。

 今の議題は新たな商機を狙った銀河系外への進出。しかし、2日前にマリンが参加した連合会談の中で監視者からもたらされた情報に誰もが耳を疑った。情報とは次の絶望、そして原初人類という敵の存在。マガツヒの脅威に代わり出現した新たな脅威に誰もが翻弄される。

「致し方ありません。事は我々の予想を完全に超えています。コレを想定しろと言うのは人間には不可能、酷な話ですよ」

「それよりも……本気?」

「復興支援に全資本を投入するという方針かな?」

「それ以外に何があるの?」

「君はまだ年若い。故に無謀で、故に無知。年長者として、もう少し大局を見据えるべきだと助言を送ろう」

「ムッ、失礼な」

「ハハッ。いや失礼。だが知っての通り、原初文明の科学と魔導技術は完全に我々を超えていて単独でどうにか出来る代物ではない。君とて銀河系外へと旅立った先で原初銀河文明と接触した場合に辿る結末が予想出来ない訳ではないだろう?」

「敵とは決まっていないと、議長もおっしゃっていたでしょう?」

「確かに。しかし、だからと言って何の備えもなしに旅立つのは反対だ。それは家中の鍵を開け放った状態で旅行に行くのと同じ。泥棒は確かに悪いが、盗まれた物が返って来る保証は無い。金品ならば稼ぐか返して貰えば良いのだが、命となるとね。ザルヴァートルは無知と無謀に貴重な時間と金を投入するつもりはない。君も理解している筈だろ、違うかい?」

 暫定新総帥の座に就いたマリンが穏やかな口調で優しく諭すと、会議の末席に立つ若き才媛さいえんは渋々ながら椅子に腰を下ろした。その様子にマリンは満足そうに微笑む。

「原初人類の戦闘能力は未知数。しかも友好的とは限らん、か。何度聞いても頭の痛い話だ」

「現状の旗艦は英雄という最強の戦力を保有している。となれば、銀河系外進出は復興完了まで保留が無難か」

「ならば、下には支援を盾に強引な約束を取り付けんよう言い含めておかんとな」

「その為の監査役の選定、派遣も急がねばな。これ以上、旗艦アッチとの関係が拗れるのは致命的だ」

「そのついで、ではないですけど可能な範囲で旗艦の動向は探らせますよ。まぁ、あんな状況じゃ今すぐ動き出す事は出来ないでしょうけど」

 老議員の1人がマリンに同調すると、口火を切ったかの様にそれまで黙っていた議員達が心中を吐露し始めた。どうやら誰もがある程度は彼の考えを理解、汲み取っていたようだ。一方、各々の視線は未だ射貫くような鋭さに光る。新総帥に相応しい人物か否か、今も値踏みしている。

「ま、落としどころとしては十分ではないかな。ではこの議題はココまで。で、次がある意味で最も重要な議題な訳だが。ルミナ=アルゼンタム・ザルヴァートル。アクィラ総帥の血を受け継ぐ英雄への対応、か」

 最も重要。議員の一人の言葉にマリンの表情が一転した。柔和な笑みが消え、一際真剣な眼差しで議場全体を見渡す。

「その件については私が事前見解を送った筈。中には否定的な見解をお持ちの方がおられるのも知っています。が、あの戦いで見せた強い意志は紛れもなく我ら一族が育んで来たものです」

 マリンが、口火を切った。

「しかしだね。如何に前総帥の血縁とは言え、諸々を無視して継承戦に参加させるなど前代未聞だ。何より彼女に商才があるかどうかも全く分からない。良き英雄である事に疑いはないが、だからと言って良き商人とは限らん」

「現に我々以外の間でも意見が大きく割れている。賢人会議としてはマリン議長を正式に総帥へ推薦、空席となった議長はアクア殿に依頼したいのだがね」

「彼女、ですか。なってくれるかなぁ、どうにも家族の時間を優先したがるからねぇ……うーん、説得はしてみるけども」

「まぁ待ちたまえ。私としてはルミナの継承戦参加に賛成したいし、何なら総帥になっても良いと考えている。考えてもみたまえ?彼女の影響力は我々の想像など及びもつかない程に絶大なんだぞ?」

「だな。確かに財団は市井からの評価が芳しくない。事実もあるが、荒唐無稽な噂も多い。彼女の存在は過大な誤解と偏見を払拭してくれるだろうね。あのアルマデル総帥とアクィラ前総帥の血縁となれば尚の事だ」

「私は反対します。現に今も意見が割れているじゃないですか。彼女が今後どんな道を選ぶか分かりませんけど、継承戦の候補からは除外するべきです」

「確かに。彼女の今の知名度と性格と容姿を考えれば手を組みたい企業など吐いて捨てる程にいるだろう。特に我らの商売敵は諸手を上げるじゃろう。となれば、参加イコール次期総帥は確定したようなものだ」

「絶対的に公平な状況での競争など理想論、何処にも存在しない。とは言えだ、彼女が参加するとなれば余りにも一方的になる。そんな勝負で彼女の資質が正しく測れるのか?」

「いや、そもそもだがね。彼女にそんな暇はないだろう?これからも英雄として戦わねばならない人生に、もう一つ重石を加える意味は無いと思うのだが。お飾りでも、というならば尚の事。そういう面倒は我々が行うべきだよ。決して無下に扱うと言う意味ではなく、ね」

 本命の議題に議場は紛糾する。喧々囂々けんけんごうごうの会議は平行線を辿り、終着点が見えない。この会議を覗き見たならば、誰もがそう考えるであろう混迷振り。それ程に、極めて理性的に進行する会議が真っ二つに分かれた。

 誰もが神経過敏となるのは英雄ルミナの処遇。特に気に掛けるのは前総帥の血縁という出自。この事実が周知されて以降、彼女の処遇はことある毎に議題に上った。が、その度に紛糾し、一度として結論が出ることなくお開きとなった。

 今日もまた同じ結論になりそうだと、議長と暫定新総帥を兼任するマリンは頭を痛める。たった一つの問題に時間を掛ける訳にはいかないが、さりとて対応を誤れば一族に計り知れないダメージを与える事を彼はよく理解している。

 金を持つという事はソレだけで恨みを買う。その状況に"ザルヴァートルの血縁である英雄をないがしろにする"という評価が加われば一族の教義どころではなくなる。

 しかし、新総帥の座を彼女に譲り渡せば今度は一族内から不満が噴出する。誰もが彼女の功績を理解しつつも、新総帥に関してのみ難色を示す理由は"良き英雄が良き商人とは限らない"という一言に集約される。

 人選を誤れば一族が長きに渡り伝えてきた理念が崩壊する。秤に掛けるには余りにデリケートな問題だが、解決しなければ次に進めない。だというのに道筋は不透明。マリンは時折腕に嵌めた質素な腕時計を睨み付けるが、そうしたところで何が解決する訳でもない。議論は何処までも平行線を辿り、時間だけが無為に過ぎる。

 バン

 と、大きな音。議場内は驚きに包まれ、次に誰もがその方向を見た。其処は部屋の内外を繋ぐ重厚な扉が開け放たれている。が、誰もがその程度ならば驚き、無言を貫かない。言葉を詰まらせた理由は、扉の向こうに立つ女の顔への動揺が原因。

 赤い民族衣装に身を包み、相応以上の重量と大きさ持つ鞄を持った女。女はさも当然の如く無遠慮に、挨拶すらせず、高らかに靴音を響かせながら円形の議場をグルリと回り、議長であるマリンへと近づいた。余りに自然な仕草に誰もが一瞬我を忘れ、傍と意識を取り戻すと同時に顔面蒼白になる。

「お前は!?」

「ちょっとどうして……警備、警備を!!」

「遺体が回収されたという話、確かに聞いたぞ。それともあの話は与太ではなく本当だとでも言うのか!?」

 誰もが困惑を口に出す。如何に優秀な一族であったとしても、こんな事態が予想出来る訳がなかった。只一人を除いて。

「どうか落ち着いて。彼女は私が招待しました」

「おい、ちょっと待て!!」

「どういうつもりです、議長!?」

 会議室において唯一、冷静に彼女の到来を迎えたマリンは議員に向けてとんでもない事実を暴露した。誰もが唖然とし、視線はマリンと女の間を彷徨う。何を言っている?正気か?総帥に推したのは間違いだったのか?同時、各々に様々な思いが巡る。

 が、そうする間にも女は無遠慮に近づき、遂には議長の隣にまでやって来た。穏やかでありながら何処か冷酷さと残忍さを感じる瞳に見入られた一族の面々の声は次第に小さくなり、やがて誰も何も語らなくなった。

「初めまして、議長」

 水を打ったように静まり返る部屋に、女の屈託ない挨拶が波紋の様に広がる。凛とした、女の声。

「こうして直接お会いするのは初めてですが、自己紹介は必要かしら?」

「いや結構。愚者が夢見る不老不死の体現者。超人計画の大本と言う情報に偽り無し、という訳か。ともかく歓迎するよ、ミスタナトス」

「ウフフッ。もうその名ではないのだけど、でも通りが良いからそのままで行きましょうか」

 議場に姿を見せたのは数日前に起きた戦い最中、ルミナに討たれ死亡した筈の女。タナトス。死の神を冠する女の登場に、議場が混乱した。

 この場に集まるのは一族でも極めて優秀な者に限られる。故に少々の事では動ず、また不測の事態に容易く対処する程度には頭も切れる。そんな議員達が一様に驚き、思考が鈍るほどの事態。疑惑、恐怖、様々な思考が渦巻き、視線に表出する。

 が、そんな視線を涼やかに受け流したタナトスは、やがてマリンの正面へと視線を移すと鞄を机の上に置いた。

 ズシ

 相当に重い感触が机を伝い、一族全員の元に届いた。
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