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本編
幕間8
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「信じられん」
「アレが、重工と連合軍を単独で打ち破った機神」
夜が滲み始めた夕暮れの空を防衛軍は呆然と眺め続けた。時折、誰かが呻き、あるいは困惑を口にする。初めて目撃した鮮烈な光景を誰も正確に言葉として表現出来ない。今まで散々に苦しめられ、仲間を何人も殺してきた怨敵の大群が、たった二度の攻撃で完全に消滅したのだから無理もない。
その視線が少しずつ下がる。ゆっくりとヴァルナが地上に降下し、やがて防衛軍のすぐ近くに着地した。
「あ、あぁと、その、問題は無いか?体調とか?」
何を話すべきか心の中がグチャグチャに搔き乱されて誰も口を動かせない中、一人果敢に会話を試みるのは部隊を指揮する大隊長。
「はい。特に」
「そ、そうか」
鐵、鐵改は共に機体フレームと操縦者との間に発生する共鳴を利用してエネルギーを生成する。が、あれ程に桁違いのエネルギーは誰一人として生成できない。文字通り、言葉通りに桁違い過ぎて理解が追い付かない状態だった。
「も、もう、アンタひ」
「協力、感謝する」
誰かが何かを言いかけた矢先、大隊長が声を荒げた。
「先ほど確認を取った。プラントは無事だそうだ。振動で一部資材が崩れて片付けが大変なようだが、その程度で生産には影響ない」
「そうですか、良かった」
「あれ程に大規模な行動は今までに一度も確認されなかった。向こうも物量に限界はある。恐らくだが当面の間、少なくとも第五次作戦までは大丈夫な筈だ。君も参加するのだろう?」
「はい」
「そうか、ならば無事を祈る」
「ありがとうございます」
「最後に一つ確認しておきたい。日本の首相からある程度は聞いているが、本当に対価は不要で良いのだな?」
その言葉に防衛軍の空気が一変する。何を言っているのか、そんな空気が瞬く間に部隊を支配した。この場を抜かれ、プラントを放棄する状況に陥ったならばどれ程の餓死者が出るか想像さえつかない危機的状況だった。ソレを僅か一機で全滅させたというのに、対価がゼロでは余りにも割に合っていない。その事実に日本から派遣されてきたという前提が加われば、誰もが何か良からぬ事を考えているのではと疑心暗鬼に駆られた。
もしかして後で過大な要求が来るのでは、拒否したらあの力が自分達に向けられるのでは。誰の胸中にも最悪の想像が過る。
「構いません」
が、そんな想像を裏切る一言。対価不要と断言する聖に、淀みない言動に一同は動揺した。
「俺も、実は少しだけ日本にいた事がある。日本だけじゃない。安全圏も、危険な地域も一通り」
動揺を他所に、部隊長がそう切り出した。
「安全圏は何処も酷かった。己の居場所を守る為に誰かを蹴落とす事にばかり腐心する、見下げ果てた連中ばかり。選別法が原因とは分かっているが、それでも。なのに、変わっているなお前は。上の連中は俺達とは違う。後で要求されても応えるつもりはないぞ。本当に良いのか?」
「知ってます。でも、構いません。ただ、助けたかっただけです。見返りを求めた訳じゃありませんから」
「分かった。上には改めてそう伝えておく。連中としても懐を痛める必要が無いのは願ったり叶ったりだろう。そうだ、もう一つ良いか?」
そう語った部隊長は不意に操縦席を開け放ち、外に出ると軽快な足取りで機体を滑り降り、大地を踏みしめる。年の頃30半ばに見える、少々やつれた顔つきの男はヴァルナを見上げた。言わんとする事を察した聖も操縦席から外に降り立つ。
「若いな」
「18です」
聖の年齢を知った男は少々驚きながらも、『そうか』と小さく頷くと、手を差し出した。互いに、無言で握手を交わす男と聖。
「自己紹介が遅れた。俺はアレクセイ、防衛軍を指揮している。君に背負わせるべきではないと分かっている。だが、それでも……君しかいないと確信した。作戦、どうか成功させてほしい」
「はい。必ず」
「感謝する。それではな」
約束を背に、聖は操縦席へと戻った。程なく、ヴァルナは空を踊り、その姿を純白の鳥をした巡航形態に変化させると夜の帳が降り始めた空を切り裂き、消えていった。刹那、聖は見た。全員が機体から降り、直立不動で見送る姿を。力か、意志か。何方への敬意か分からないが、その光景は彼の記憶に深く刻まれた。
※※※
「ただ、助けたかった……か」
「本当ですかね、中尉?」
「恐らく、アイツ分かってないんじゃないかと思うんですが」
「だろうな」
短いやり取りで何かに気付いた防衛軍の面々は、飛び去るヴァルナを見送りながら本音を晒し合う。
「第五次ネスト攻略作戦始動の原動力となった規格外の共鳴レベルと戦闘能力を持つ未知の兵器。ですが」
「助けるという行為に酔っているのか、あるいは心底から助けたい一心で見えていないのか。何れにせよ、俺達は作戦が成功した場合の事を考える必要があるな」
「それは、つまり」
「無茶ですよ。連合がやられたって話、知ってるでしょう?」
「彼、純粋無垢というか、疑う事を知らないというか、後先考えないというか、とにかく危うい感じがします」
「恐らく、ああやって作戦開始まで世界中の誰かを助けて回るんでしょうね」
「だろうな。今はそれで良い。だがヴィルツという敵が消えた後、彼は自分がどうなるかまるで理解していない」
「あんな化け物みたいな力を奮い続ければ、次に排除されるのは……」
声を枯らすように、誰ともなく、夜の闇に消えゆく純白の鳥に声を投げ掛けた。救世主、あるいは悪魔、と。九頭竜聖という人間を信じたとして、果たして彼が救った、もしくはこれから救う人間が変わらず彼を救世主と認めるだろうか。圧倒的、桁違いの力を目の当たりにした防衛軍の頭を掠めた懸念は遠からず現実のものとなる。誰もがそう確信している。
「アレが、重工と連合軍を単独で打ち破った機神」
夜が滲み始めた夕暮れの空を防衛軍は呆然と眺め続けた。時折、誰かが呻き、あるいは困惑を口にする。初めて目撃した鮮烈な光景を誰も正確に言葉として表現出来ない。今まで散々に苦しめられ、仲間を何人も殺してきた怨敵の大群が、たった二度の攻撃で完全に消滅したのだから無理もない。
その視線が少しずつ下がる。ゆっくりとヴァルナが地上に降下し、やがて防衛軍のすぐ近くに着地した。
「あ、あぁと、その、問題は無いか?体調とか?」
何を話すべきか心の中がグチャグチャに搔き乱されて誰も口を動かせない中、一人果敢に会話を試みるのは部隊を指揮する大隊長。
「はい。特に」
「そ、そうか」
鐵、鐵改は共に機体フレームと操縦者との間に発生する共鳴を利用してエネルギーを生成する。が、あれ程に桁違いのエネルギーは誰一人として生成できない。文字通り、言葉通りに桁違い過ぎて理解が追い付かない状態だった。
「も、もう、アンタひ」
「協力、感謝する」
誰かが何かを言いかけた矢先、大隊長が声を荒げた。
「先ほど確認を取った。プラントは無事だそうだ。振動で一部資材が崩れて片付けが大変なようだが、その程度で生産には影響ない」
「そうですか、良かった」
「あれ程に大規模な行動は今までに一度も確認されなかった。向こうも物量に限界はある。恐らくだが当面の間、少なくとも第五次作戦までは大丈夫な筈だ。君も参加するのだろう?」
「はい」
「そうか、ならば無事を祈る」
「ありがとうございます」
「最後に一つ確認しておきたい。日本の首相からある程度は聞いているが、本当に対価は不要で良いのだな?」
その言葉に防衛軍の空気が一変する。何を言っているのか、そんな空気が瞬く間に部隊を支配した。この場を抜かれ、プラントを放棄する状況に陥ったならばどれ程の餓死者が出るか想像さえつかない危機的状況だった。ソレを僅か一機で全滅させたというのに、対価がゼロでは余りにも割に合っていない。その事実に日本から派遣されてきたという前提が加われば、誰もが何か良からぬ事を考えているのではと疑心暗鬼に駆られた。
もしかして後で過大な要求が来るのでは、拒否したらあの力が自分達に向けられるのでは。誰の胸中にも最悪の想像が過る。
「構いません」
が、そんな想像を裏切る一言。対価不要と断言する聖に、淀みない言動に一同は動揺した。
「俺も、実は少しだけ日本にいた事がある。日本だけじゃない。安全圏も、危険な地域も一通り」
動揺を他所に、部隊長がそう切り出した。
「安全圏は何処も酷かった。己の居場所を守る為に誰かを蹴落とす事にばかり腐心する、見下げ果てた連中ばかり。選別法が原因とは分かっているが、それでも。なのに、変わっているなお前は。上の連中は俺達とは違う。後で要求されても応えるつもりはないぞ。本当に良いのか?」
「知ってます。でも、構いません。ただ、助けたかっただけです。見返りを求めた訳じゃありませんから」
「分かった。上には改めてそう伝えておく。連中としても懐を痛める必要が無いのは願ったり叶ったりだろう。そうだ、もう一つ良いか?」
そう語った部隊長は不意に操縦席を開け放ち、外に出ると軽快な足取りで機体を滑り降り、大地を踏みしめる。年の頃30半ばに見える、少々やつれた顔つきの男はヴァルナを見上げた。言わんとする事を察した聖も操縦席から外に降り立つ。
「若いな」
「18です」
聖の年齢を知った男は少々驚きながらも、『そうか』と小さく頷くと、手を差し出した。互いに、無言で握手を交わす男と聖。
「自己紹介が遅れた。俺はアレクセイ、防衛軍を指揮している。君に背負わせるべきではないと分かっている。だが、それでも……君しかいないと確信した。作戦、どうか成功させてほしい」
「はい。必ず」
「感謝する。それではな」
約束を背に、聖は操縦席へと戻った。程なく、ヴァルナは空を踊り、その姿を純白の鳥をした巡航形態に変化させると夜の帳が降り始めた空を切り裂き、消えていった。刹那、聖は見た。全員が機体から降り、直立不動で見送る姿を。力か、意志か。何方への敬意か分からないが、その光景は彼の記憶に深く刻まれた。
※※※
「ただ、助けたかった……か」
「本当ですかね、中尉?」
「恐らく、アイツ分かってないんじゃないかと思うんですが」
「だろうな」
短いやり取りで何かに気付いた防衛軍の面々は、飛び去るヴァルナを見送りながら本音を晒し合う。
「第五次ネスト攻略作戦始動の原動力となった規格外の共鳴レベルと戦闘能力を持つ未知の兵器。ですが」
「助けるという行為に酔っているのか、あるいは心底から助けたい一心で見えていないのか。何れにせよ、俺達は作戦が成功した場合の事を考える必要があるな」
「それは、つまり」
「無茶ですよ。連合がやられたって話、知ってるでしょう?」
「彼、純粋無垢というか、疑う事を知らないというか、後先考えないというか、とにかく危うい感じがします」
「恐らく、ああやって作戦開始まで世界中の誰かを助けて回るんでしょうね」
「だろうな。今はそれで良い。だがヴィルツという敵が消えた後、彼は自分がどうなるかまるで理解していない」
「あんな化け物みたいな力を奮い続ければ、次に排除されるのは……」
声を枯らすように、誰ともなく、夜の闇に消えゆく純白の鳥に声を投げ掛けた。救世主、あるいは悪魔、と。九頭竜聖という人間を信じたとして、果たして彼が救った、もしくはこれから救う人間が変わらず彼を救世主と認めるだろうか。圧倒的、桁違いの力を目の当たりにした防衛軍の頭を掠めた懸念は遠からず現実のものとなる。誰もがそう確信している。
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