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本編
60話 もう一人のイクス
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「素晴らしいよプロトディーヴァ。正解だ」
直前にコロが語った推測に混乱した思考が、嫌味に溢れたイクスの言葉によって更に搔き乱される。
「あれ、君達もしかして共鳴対象を伝えた時点で予測出来なかったのかい?あぁ、無理か。君達もその辺の有象無象と同じで、信じたい物しか信じない質だものね。視野狭窄で、無知で、だがそんな己を無根拠に有能と盲信する」
「そ、そんな馬鹿な」
「ふざけた事をッ」
挑発的なイクスの言動。しかし怒りよりも動揺が勝り、気勢が削がれる。そんな為政者達の有様をイクスは鼻で笑うと再び語り出した。
「なんで襲うのかって話だけど、そもそも奴等は君達を憎んでなどいないんだよ。無論、餌でもない。ただ、助けていただけさ」
「矛盾している!!」
「してなどいないさ。後、最後まで聞き給えよ行儀が悪い。続きだ。ヴィルツは君達を同類と認識しているが、君達とは似ても似つかない。だから、こんな風に教えてあげたんだよ。『君達の仲間を忌むべき敵Xが捉え、人間の肉体という狭い檻に捕らえてしまった。早く助けないと死んでしまうよ』ってね」
「そ、そんな。じゃあ、じゃあ!!」
それまで無言を貫いていた聖がイクスの語りに、『助けてあげないと』という言葉に反応した。操縦席を見れば、彼の顔が真っ青に染まっている。
「そう。全ては人類の頭脳を仲間と誤認した彼等の救済だったんだよ。結果、死ぬとも知らずにね。ハハ。本当に助かったよ。平和的で、純粋で、単純で、マヌケで、僕の嘘を微塵も疑わず。あぁ、だけど彼等を恨まないでくれよ」
「そりゃあそうだろう!!」
「あぁ、また話に割り込む。行儀も頭も悪いなぁ。奴等が人類を仲間と誤認した本当の理由がまだだろう?そもそも、どうして彼等は人類を同類と思ったんだろうね?分かるかい?聡い一部の連中ならばもう察しがついているんじゃないかな?」
その言葉に、波を打ったように静まり返った。ある結論に辿り着き、思考が鈍る。そんな訳がない。有り得ない。しかしこの仮定が最も可能性が高い、と。
「ま、まさか」
「人類とヴィルツは、その祖を同じとするのか」
「いや違う、まさか人類の遺伝子からあの化け物を!!」
口々に推測を語る中、武儀が一つの可能性に思い当たった。人類とヴィルツの間に共鳴が発生するという事実とコロの推測から、両者の間には遺伝的な共通点があるのではないか。その推測に己以外を徹底して道具と見下す性格を総合すれば――
「残念、逆だよ」
と、考えたところで武儀の思考が停止した。逆とは何だ?どういう意味だ?ただでさえ矢継ぎ早に様々な事実が明らかになるところに、意味不明な回答を突きつけられた武儀の思考は完全に停止する。が、それでも違うらしい。最悪の可能性が外れた安堵に、誰ともなく溜息を漏らした。
「正解はね。ヴィルツを元に人類を生み出したんだよ」
が、真実はその斜め上を突き抜けていった。
「な!?」
「そんな馬鹿げた話ッ!?」
「信じたくなくとも事実だよ。何せ僕がそうしたんだから。君達人類が余りにも好戦的なものだから、ヴィルツの遺伝情報から脳に当たる部分を抽出、組み換えたのが君達という訳さ。詰まるところ、僕が君達の創造主となる訳だ。どう、崇めるかい?」
イクスはケタケタと笑った。心底から。その告白に全員の思考が停止する。誰もが最悪の結論を頭に描いた。この惑星はイクスの実験場。何を理由にしてか不明だが、人類の遺伝子を弄ったのも、ヴィルツと人類を争わせたのも全て。
「さて、と。もう思い残す事はないだろうか?あの日、本来ならば1940年のあの日に人類の歴史は終わっている筈だった。だけど、その最中に可能性を見つけた。共鳴は嬉しい誤算だったが、結果から言えば無駄だった。人類もヴィルツも僕の望む水準には程遠かった。邪魔者の対処が無ければもう少し早く分かったかもしれないが、詮無い事か」
「邪魔、そう言えば?」
「まだ誰かいるんですか?」
「イクスの敵対者だよ、コロ君。殺されてしまったらしいが」
「そんな」
僅かな希望を見たコロ。が、直ぐに塗り潰された。
「どうして悲しむんだい、プロトディーヴァ?」
「何を?」
イクスが再びヴァルナを見上げた。操縦席、複座の後部座席に座るコロの顔が険しさを増す。
「予測がついているだろう、九頭竜聖?君にも関係ある話だぞ」
「な、何を」
「そもそも、君が今こうしているのは元を辿れば何が原因だい?フフ……もしかして君、プロトディーヴァとの出会は偶然や運命の産物だと思っていないだろうね?」
「は?」
その言葉に驚き、目を丸くする聖。
「その人物は僕に先立ちヴァルナの封印を解除した際に、君達の間に共鳴が発生している事を知った。その後、その人物は君と同じ街に店を開き、自然な形で君に接触した」
「ま、まさか」
「その人物は君の両親が死亡したと知るや口八丁で全機能を封印したプロトディーヴァを売りつけた」
「ち、違う」
「その人物は骨董品屋の店主として君を監視し続け、君を強引に覚醒させる為、君のいる場所にヴィルツを呼び出した」
「そんな……」
「もう分かるだろう?神戸監二。その男が、いわばもう一人のイクス。もう一人の僕、忌むべき片割れ、そして何より僕の邪魔をし続けた愚か者だ」
「あの人が、神戸さんが」
聖の顔が悲壮に歪む。身寄りをなくした自分を気に掛けてくれたのも、他の大人達とは違い利用することなく、時には手伝いもしてくれた事も、己を利用する為の嘘だった。
「ま、どうでもいい話さ。既に始末させたからね」
「お前!?」
「当然だろう?仮に生きていたとて何もできないよ。さて、必要な全ては完了した。九頭竜聖の実力を図りながら、同時に鍛え上げる。ヴィルツを総動員した時間稼ぎも終わった」
「貴様という男はッ」
「そうか、だからヴィルツは動かなかったのか」
漸く全てが繋がった為政者達が怒りを吐き出す。が、それ以外の何も出来ない。全てはこの男の掌の上。人類も、ヴィルツもまな板の上で調理を待つ食材程度の存在でしかなかった。
「助けて、助けて。君は実に優しくて、それ以上に単純で助かったよ」
「お前はァッ!!」
「心配しないでくれよ、九頭竜聖。これで最後だ。そして、全てが終わったら」
最後と語ったイクスは恍惚とした表情を空に向けた。好天の空から、何かが近づいてくる。
直前にコロが語った推測に混乱した思考が、嫌味に溢れたイクスの言葉によって更に搔き乱される。
「あれ、君達もしかして共鳴対象を伝えた時点で予測出来なかったのかい?あぁ、無理か。君達もその辺の有象無象と同じで、信じたい物しか信じない質だものね。視野狭窄で、無知で、だがそんな己を無根拠に有能と盲信する」
「そ、そんな馬鹿な」
「ふざけた事をッ」
挑発的なイクスの言動。しかし怒りよりも動揺が勝り、気勢が削がれる。そんな為政者達の有様をイクスは鼻で笑うと再び語り出した。
「なんで襲うのかって話だけど、そもそも奴等は君達を憎んでなどいないんだよ。無論、餌でもない。ただ、助けていただけさ」
「矛盾している!!」
「してなどいないさ。後、最後まで聞き給えよ行儀が悪い。続きだ。ヴィルツは君達を同類と認識しているが、君達とは似ても似つかない。だから、こんな風に教えてあげたんだよ。『君達の仲間を忌むべき敵Xが捉え、人間の肉体という狭い檻に捕らえてしまった。早く助けないと死んでしまうよ』ってね」
「そ、そんな。じゃあ、じゃあ!!」
それまで無言を貫いていた聖がイクスの語りに、『助けてあげないと』という言葉に反応した。操縦席を見れば、彼の顔が真っ青に染まっている。
「そう。全ては人類の頭脳を仲間と誤認した彼等の救済だったんだよ。結果、死ぬとも知らずにね。ハハ。本当に助かったよ。平和的で、純粋で、単純で、マヌケで、僕の嘘を微塵も疑わず。あぁ、だけど彼等を恨まないでくれよ」
「そりゃあそうだろう!!」
「あぁ、また話に割り込む。行儀も頭も悪いなぁ。奴等が人類を仲間と誤認した本当の理由がまだだろう?そもそも、どうして彼等は人類を同類と思ったんだろうね?分かるかい?聡い一部の連中ならばもう察しがついているんじゃないかな?」
その言葉に、波を打ったように静まり返った。ある結論に辿り着き、思考が鈍る。そんな訳がない。有り得ない。しかしこの仮定が最も可能性が高い、と。
「ま、まさか」
「人類とヴィルツは、その祖を同じとするのか」
「いや違う、まさか人類の遺伝子からあの化け物を!!」
口々に推測を語る中、武儀が一つの可能性に思い当たった。人類とヴィルツの間に共鳴が発生するという事実とコロの推測から、両者の間には遺伝的な共通点があるのではないか。その推測に己以外を徹底して道具と見下す性格を総合すれば――
「残念、逆だよ」
と、考えたところで武儀の思考が停止した。逆とは何だ?どういう意味だ?ただでさえ矢継ぎ早に様々な事実が明らかになるところに、意味不明な回答を突きつけられた武儀の思考は完全に停止する。が、それでも違うらしい。最悪の可能性が外れた安堵に、誰ともなく溜息を漏らした。
「正解はね。ヴィルツを元に人類を生み出したんだよ」
が、真実はその斜め上を突き抜けていった。
「な!?」
「そんな馬鹿げた話ッ!?」
「信じたくなくとも事実だよ。何せ僕がそうしたんだから。君達人類が余りにも好戦的なものだから、ヴィルツの遺伝情報から脳に当たる部分を抽出、組み換えたのが君達という訳さ。詰まるところ、僕が君達の創造主となる訳だ。どう、崇めるかい?」
イクスはケタケタと笑った。心底から。その告白に全員の思考が停止する。誰もが最悪の結論を頭に描いた。この惑星はイクスの実験場。何を理由にしてか不明だが、人類の遺伝子を弄ったのも、ヴィルツと人類を争わせたのも全て。
「さて、と。もう思い残す事はないだろうか?あの日、本来ならば1940年のあの日に人類の歴史は終わっている筈だった。だけど、その最中に可能性を見つけた。共鳴は嬉しい誤算だったが、結果から言えば無駄だった。人類もヴィルツも僕の望む水準には程遠かった。邪魔者の対処が無ければもう少し早く分かったかもしれないが、詮無い事か」
「邪魔、そう言えば?」
「まだ誰かいるんですか?」
「イクスの敵対者だよ、コロ君。殺されてしまったらしいが」
「そんな」
僅かな希望を見たコロ。が、直ぐに塗り潰された。
「どうして悲しむんだい、プロトディーヴァ?」
「何を?」
イクスが再びヴァルナを見上げた。操縦席、複座の後部座席に座るコロの顔が険しさを増す。
「予測がついているだろう、九頭竜聖?君にも関係ある話だぞ」
「な、何を」
「そもそも、君が今こうしているのは元を辿れば何が原因だい?フフ……もしかして君、プロトディーヴァとの出会は偶然や運命の産物だと思っていないだろうね?」
「は?」
その言葉に驚き、目を丸くする聖。
「その人物は僕に先立ちヴァルナの封印を解除した際に、君達の間に共鳴が発生している事を知った。その後、その人物は君と同じ街に店を開き、自然な形で君に接触した」
「ま、まさか」
「その人物は君の両親が死亡したと知るや口八丁で全機能を封印したプロトディーヴァを売りつけた」
「ち、違う」
「その人物は骨董品屋の店主として君を監視し続け、君を強引に覚醒させる為、君のいる場所にヴィルツを呼び出した」
「そんな……」
「もう分かるだろう?神戸監二。その男が、いわばもう一人のイクス。もう一人の僕、忌むべき片割れ、そして何より僕の邪魔をし続けた愚か者だ」
「あの人が、神戸さんが」
聖の顔が悲壮に歪む。身寄りをなくした自分を気に掛けてくれたのも、他の大人達とは違い利用することなく、時には手伝いもしてくれた事も、己を利用する為の嘘だった。
「ま、どうでもいい話さ。既に始末させたからね」
「お前!?」
「当然だろう?仮に生きていたとて何もできないよ。さて、必要な全ては完了した。九頭竜聖の実力を図りながら、同時に鍛え上げる。ヴィルツを総動員した時間稼ぎも終わった」
「貴様という男はッ」
「そうか、だからヴィルツは動かなかったのか」
漸く全てが繋がった為政者達が怒りを吐き出す。が、それ以外の何も出来ない。全てはこの男の掌の上。人類も、ヴィルツもまな板の上で調理を待つ食材程度の存在でしかなかった。
「助けて、助けて。君は実に優しくて、それ以上に単純で助かったよ」
「お前はァッ!!」
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