ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 11

木野 キノ子

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第五章 種明

3 シルスのお手並み

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再び現在…。

「ただまあ…補足を述べさせてもらえば…」

ギリアムがちょっと咳払いしつつ、

「ネリフィ村のテッドという老人は…数日前確かに、旅行に出ていて…帰ってきたばかりだと
言われたよ。まさに…見事な手腕だった。
ジェードがいなければ…取り逃がしていただろうな」

みんなが…感嘆のため息とともに、ジェードを見る。

「なるほど…天才詐欺師も年貢の納め時だったんじゃな…。
それで…仲間にしたのか?」

「ええ。仲間にして欲しいと言われたもので」

「ほう…。なぜじゃ?」

シルスの方を向けば…ワイングラスを揺らしつつ、

「まあ…年貢の納め時と、思ったのは確かですよ…。
結局どんな変装をしても…ジェードの目をごまかすことはできなかった…」

「オレは元々見えないから、眼じゃなくて感覚だよ。
オレは…シルスがどんな姿をしてるのか…なんて、何も見えん…。
ただシルス…という人間の感じは覚えたからな…。
シルスの魂が別人にでもならん限り…オレにはわかる…それだけさ」

「……私みたいな人種に言わせれば、それが一番怖いんですよ。
対処のしようがない」

そう言いつつも…とても愉快そうに笑っている。

「おかげでこの世の中…面白いと思わせてもらった。
でも…一番の理由はそれではありません」

ゆらゆらと揺れていたワインに、口を付ける。

「この逮捕劇で…私が本当に欲しかったもの…手に入らないと諦めたものが…何なのか…。
思い出したからですよ…」

「ほう…」

「私は親の顔も知らず、名前もなく、拾われた所でも…大抵名前で呼ばれたことなどなかった。
私がいなくなろうが死のうが…きっと私の周りは、変らぬ日常を過ごすだろう…。
だったら…いっそ、別人になってやる…なりきってやる…」

「それが…私が変装を始めた、最初の原点です…。
身分持ちを欺いてコケにして…私を散々貶めた人間達が、私の変装で右往左往する。
そんな人間を見るのが楽しかった…。いや、楽しいと思い込もうとしていた…」

ワインを一気に煽った。

「ギリアム様が…ジェードを信じる…と、言った時にね…。
私は…本当に驚いた。
私とさして変わらぬ身分であるジェードを…明らかに身分持ちだとわかる連中を差し置いて、
信じるとは…ね」

「そしてその後…どう接しても、それがまるで…当たり前の事だとしか思っていなかった。
謀略も策略も…欺瞞も疑念も何もなく…ただ自分の信じた人間を信じた」

「私がずっと欲しかったのは…私というただ一人の人間を…。
真っすぐに見てくれる誰か。
私を拾った人間も、周りにいた人間も…誰もそうしてくれなかった…」

空のグラスを静かに置き、

「それに気づいた時ね…。ジェードが羨ましくてたまらなかった。
私も…そうして欲しくて…。気が付いたら…牢にやって来たギリアム様に…懇願していた。
私の持っている全ての力を…もう二度と悪事には使わないから…役に立つから…。
傍に置いて欲しいと」

半分開いた眼に…どこか遠くを見る光を宿している。

「まあ…フィリアム商会総括部はいつも人手不足だったからな。
テストの成績は良かったし、ひとまずそちらで働いてみろと言ったんだ。
結論として…交渉が皆より頭一つとびぬけて上手い。
ついでに嘘を見抜くのは、もっとうまい。
さすがと言えば、さすがだよ」

「お褒めに預かり、光栄です。ギリアム様…」

シルス…本当に嬉しそうだ。

「そういや、お前の所のキャストが面白すぎて、すっかり忘れとったが…。
表に出さん方がいい証拠品とは、なんなんじゃ?」

「フォルト!!」

ギリアムが傍で控えていたフォルトに指示すると、フォルトと使用人が、お盆に乗せた
数々の証拠品を持って来た。
その大半は…グレッド卿が神父さんに預けたものだ。

ものは…確実にグレッド卿のモノとわかる遺品及び、遺書と日記…。
後は…私達の現地聞き取り調査で分かったことを、まとめた報告書…。

それを…ティタノ陛下に一つ一つ説明するギリアム。

全てを確認し終えた時の、ティタノ陛下の第一声は、

「確かに…外に出さん方がいい物ではあるが…。
あれほどしょーもない事ばかりしているなら、もう温情をかけてやる必要は、ないと思うぞ」

だった。まあね…。

「それにしても…」

証拠品を手でパラパラめくり、

「グレンフォの息子もしょーもないのぉ…。
こんな鬱々とした暗いものを、抱え込んで逝っちまうくらいなら、いっそ生きているうちに、
全てぶちまけりゃいいじゃろう?」

「それは…人によります、やはり…。
誰しもティタノ陛下や私のように、強いワケではございません。
それに…善良な人間が必ずしも、聞く耳を持つか…は、分かりません。
そして責める対象が善人であれば…残念ながら、信じてもらえない事も多い。
私の父母のように、醜悪だと大多数がわかっていれば別ですがね」

ギリアムは…苦虫を嚙み潰したようになっちまった。

「しかし…グレンフォの女房が、傍系と話を付けたら、どうするんじゃ?」

「話の付け方によりますよ。
私とフィリーがしっかりと面談して、抑えつけられたり、こちらに何か…責任をなすりつけて
いないか?
最低限度そう言った事を見た上で…、ダイヤが望む相続権放棄者の法的手続きを終えたら…
考えてみようと思います」

するとティタノ陛下は、眉毛を片方へこませて、

「そりゃ、実質不可能そうじゃな、今日の裁判の感じだと」

「私もそう思います…。
こちらの調査でダリア夫人と傍系は、表面上は良好な関係を保っているように見えますが、
それは実質、グレンフォ卿とグレダル卿の仲が良好だから、そう見えるだけのようです。
これはフィリーの社交界情報網を聞いて、確信しました」

「ほう…」

「まず…傍系の夫人&令嬢たちは誰も、ダリア夫人をお茶会や舞踏会に誘わないのです。
忙しくても、仲が良ければお誘いぐらいするでしょう?
あれだけ人数がいるというのに、誰も…と言うのは、さすがに…と、思いませんか?」

グレダル卿の妻も勿論、娘…息子の妻…孫娘…孫の嫁に至るまで…一切ね…。

「そりゃ確かになぁ…1人2人ならまだしも、10人以上いるんじゃろ?」

「はい…。
今まで良好な関係を築けてこなかった以上、今の状態で…不利益を受け入れてくれと
言った所で、誰も耳を貸しませんよ…おそらく」

「んじゃ、それは暫く放置でいいの。
それより…2日後のパーティーでの、細かい所を話そう!!」

スッゴイ乗り気だ…。当たり前だけど…。

「それでは…キャストに入ってもらいましょう…、フォルト!!」

フォルトは…黙って出ていき、ウリュジェとフューロットを伴って戻ってきた。

「そいつらは?」

「フィリアム商会総括部のメンバーです。
元・貴族専門の泥棒ですので、今回のキャストに入れました」

「そりゃまた…。お前は本当に面白いのぉ~!!」

この2人の仲間になった経緯も、大変楽しく聞いていただけた。

「私もキャストに加えていただけませんか?」

「いいの?シルス…。いてくれると助かるけど、連チャンで」

「私の生活に…休みがあった方が珍しいので…」

まあ…そうだろうけどさ。

こんなこんなで私たちは…細かい部分を相談しつつ、その場の状況で臨機応変に対応できるよう
準備を整えるのだった…。


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裁判から一夜明けた本日…。
新聞はやっぱり、昨日の裁判が一面を飾った。
事実がしっかり載っているから、ひとまずこれで終いとしよう。

ギリアムは…王立騎士団を休み、明日の為に2人で英気を養う…という、名目のもと、
2人でイチャイチャしていた。

「何だか怒涛でしたが…形が付きそうで良かったです」

「私はちっともよくありません!!」

ギリアムが…ぶすくれている。

「なんでみんな…フィリーを攻撃するんだ!!私に来ればいいのに…」

「……アナタに行ったら、負けは確実とわかっているからですよ…」

「失礼な!!私は人間だ!!神ではない!!」

「人間ですが、突出した能力持ち…身分も高いですから…」

するとやっぱり、口をとがらせて、ぶちぶち言っているから、私はキスでその口を塞いでやった。
朝っぱらから甘ったるいキスが出来て、ギリアムはちょっと機嫌が直った。

「ああ、フィリー。私は今でも…アナタを閉じ込めて、美しいものだけ見せたい。
優しい世界だけを…経験して欲しい」

ん~な世界、ねぇよ!!
……って、真っ向否定したら、余計しょげるから黙っとくがね。

「誰しも…そう思うものですよ。
私だってギリアムには…辛い事は経験して欲しくありません」

「私はフィリーが隣にいれば、どんな世界に行っても幸せだ」

私の目を見て…物凄く真剣なまなざしを向けるから、思わず…変な気分になる。
前世で…こんな目を向けられたこと…無いからさ…。

「そんなこと言ったら、爵位も財産もみんな捨てて、山の中で私だけと過ごせと言いますよ」

「わかりました」

「冗談ですからね!!」

あんまりにもすんなり返事されたから、思わず力いっぱい否定しちまった。
ああもう…このワンコは、どこまで本気で、どこまでが嘘か、全く分からん…。

「だいたい山の中で、どう過ごす気ですか!!」

「そりゃ…やる事は沢山ありますが…。
まあ、私は建築の方も造詣が深いから、丸太小屋くらい、直ぐに建てられます。
獲物の取り方も、上手い自信があるし、野草を採取すれば、栄養も偏らない。
動物の毛皮は、上等な服や靴を作れるし…。骨を使えば針もいらない。
少し余裕が出たら、炭焼き窯を作って…炭を作って近隣の村で売れば、色々揃えられるな…」

「ストーップ、ストップ!!」

何だか…冷や汗が出て来る。
冗談で済ませたいのに、プランが…あまりに具体的過ぎる。

「ひ、ひとまず私がいればいい事と、生活力がバカ高い事はわかりました。
私は…アナタのそばにいますが、今やっていることを、全て投げ出す気はありません。
責任が…ありますから」

「わかりました。
まあ…現実問題として、私もしっかりと王立騎士団が、私がいなくても回るようにする義務は
あると思っている…」

それでまた…少し考え出したから、

「せ、せっかく今日は2人きりなんですから!!もっと楽しい事をしましょうよ!!」

ギリアムの思考を…少しでも止めるべく、胸の中に頭を埋めるように、抱きしめた。

「……嬉しいですね」

ギリアムは、私の気持ちを知ってか知らずか、私を抱きかかえ、再度押し倒した…。
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