ひとまず一回ヤりましょう、公爵様5

木野 キノ子

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第3章 因縁

15 ケイシロン公爵家の怠惰

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「というワケなんだよ…」

ファルメニウス公爵家に来たローカスが、ケイシロンでおこったことを、説明してくれた。

「それは…随分とズサンだな…」

ギリアムも…眉間に深い皺を寄せている…。

私とマギーは…そんな2人を見ながら、刺繍などしていた。

「皆さん…いい人だったんですけど…」

マギーが言うもんだから、

「そうね~、でもさ、いい人だから悪い事をしないワケじゃないし、職務怠慢を許す理由には
ならないわ」

私は念を押す。

「でもさ…そのウェザリアって人…最初はギャラクシル侯爵家の馬車…って言っていたんでしょ?
なんでなんだろう?」

「そこがオレも…わからんのだが…。何だかもう、バカバカしくなっちまったからさ…」

「え…じゃあ、そのまま放置してきちゃったんですか?」

「ああ…」

うわ~、こりゃ…本気でもう、あの家に戻る気が無いみたい…。
私が何か考える前に、ギリアムが動いた。
…フォルトに伝書鳩を送るよう、指示しているようだ。

口封じ…の可能性がある…だな。

ローカスは…普段だったら、このくらいの頭は回るんだろうが…。
ケイシロンのあまりの怠惰っぷりに、もう本当にあちらの人間がどうなっても、よさげだ。
その証拠に、

「この前の話…受けようと思って」

と、唐突に言ってきた。

「まあ…私は構わんが…ローエン卿が何と言うかな…」

「そこは!!ギリアム公爵閣下にお願いしま~す!!」

顔の前で両手を合わせ、調子よく言う…。
ローカスは…相変わらず、じい様が怖いらしい。

「まあ…いいですよ。そうなったらウチには、ローカス卿を庇護する義務が生じますから。
ね、ギリアム」

「まあ…そうですね…」

しっぶい顔だが、一応同意。

「でも…ちょっとルリーラ様もおかしくないですか?」

マギーが、

「確かに…長年連れ添ったメイドだから、いわゆる絆が強いのはわかりますが…。
ジィリアがやったことは、看過してはいけないと思うのですが…。
それに…専属メイドの件も引っかかります。
私がせめて複数で…というのを突っぱねたのもです」

「オレもそう思ったから…突き詰めたんだけどな…。
結局…おばあ様がかなり庇っちまったし…何かなぁ…」

煮え切らないよね。
辛い所だ。

さて…どうするかな…。
私は…私の守りたいものがある。

それを…上手く守れるのか…。
この2人が相手なら…いいんだけど…ローエンじい様は…一筋縄ではいかない相手だ。

私のそんな気持ちは…顔に出ていたようで、

「フィリー…1人で抱え込まないで…。
私にとっても、あの2人は恩人です。私も…あの2人を守りたい…。
いくらでも…好きなだけ、私の力を使ってください。
誰がダメと言っても…私が貴方を許します!!」

ギリアムのその言葉で…私の気持ちは一気に軽くなった。
そうだ!!
1人じゃない!!

「ルリーラ夫人は…ジィリアを切れません。切れないワケが…あるのです」

私は口を…開くことにした…。

「オルフィリア公爵夫人?」

2人の視線が私に集まる。

「今から…そのわけを…お話します」

私は…ギリアムの手を握りつつ…言葉を紡いだ…。


-----------------------------------------------------------------------------------


「引退なすって暇なのはわかりますが…、仕事をしている人間の邪魔をしないでいただきたい」

「貴様の嫌味を聞きに来たのではないわ、くそ坊主」

朝っぱらから王立騎士団の執務室で…相対するギリアムとローエンじい様。
部屋には2人だけだ。

「マーガレットの捜索…どこまで進んだ?」

「…昨日、見つかりました」

シレっと報告…。

「ならなぜ、こちらにさっさと知らせんのだぁ!!」

ローエンじい様…青筋立てまくり。

「ローカス卿には知らせました」

涼しい顔で、やっぱりシレっと…。

怒ったまま、盛大に息を吐くと、

「ローカスは…そちらに世話になっとるのか?」

「ええ…もう、ケイシロンに帰りたくないようですので…。
マーガレット夫人は、フィリーと仲がいいですから、精神的なケアも含めて、2人とも
ファルメニウス公爵家にいます」

「そうか…」

ローエンじい様…少し静まったよう。

「ローカス卿からいきさつは聞きましたが…使用人の膿は、出した方が良い。
昨日こちらで引き取った…ウェザリアに指示した人間も含めて…ね」

これには…ローエンじい様がピクリとし、

「ウェザリアだけではない…と?」

「ええ…。ローエン卿はわかっているでしょう?ウェザリアにそんな…大それたことが
出来る人間ではない…と。
指示した人間に無理やりやらされた…でも、その人間と…自分の罪を恐れているから、
何も喋らない…というところです」

「指示したのが…ジィリアだと言いたいのか?」

同じように…犯罪者を相手取ってきた人間同士、話が早い。

「そこまでは…しかし、容疑者の1人ではあります。
ローカス卿から聞いた限り…容疑者はあと何人かいますが…ね」

「マーガレットの自作自演の可能性は?」

その辺は…聞きづらくても聞くのは、さすが。

「ないです。
そもそも発見された当時…後頭部にかなり強い打撲痕がありました。
自身でつけるのは…実質不可能と見ていいですし、もし自作自演でつけるのに…あそこまで
強くしたら、最悪死ぬかもしれませんよ?」

すると…ローエンじい様は少しだけ考え込む。
下を向き…いつもの豪快さと剛直さからは、考えられないほど、弱々しく見えた。

「ジィリアとジシーは…ケイシロンから出すことは…出来んのだ…」

「それがあなたの最終的なお考えだと…ローカス卿に言いますよ」

「構わん…」

やっぱり…遠い目をしているローエン卿…。

「……なぜそうなのかは、あえてお聞きしませんが…。
そうしたことによる被害を、全て被る覚悟がおありなら、好きにしてください」

「ああ…」

ローエンじい様の目は…とても…寂しそうだったと、ギリアムは語っていた。


---------------------------------------------------------------------------------------


「じゃあ結局…ジシーを追い出すのは…不可能なんですね…」

私は…あんまり当たって欲しくない予想が当たったな…と、思った。

「やっぱり…例の件が原因か…。
でも、ジシーはなんで、それを知ることになったんだ?
ジシーが生まれる…随分と前の話だろう?」

「わからん。だが…やはり人間の口に、完全に戸を建てることは…不可能なのだろう」

「まあなぁ…」

ギリアムとローカスが…ため息交じりに話している。

「ひとまず…オレは明日、必要な手続きをしてくるよ…」

「あ、あの、ローカス様!!本当にいいんですか!!」

マギーの方が…恐縮するよね…。

「私の事…そこまで思ってもらうほど…私は…」

「いいんだ。オレが…お前がいいって思ったんだからさ…」

そう言って…笑う。
マギーは涙があふれて…止まらないようだ。

このまま…上手くいって欲しいなぁ…と、私は眼を細めつつ、若い二人を見ていた…。
でも…一つ言っとかなきゃね。

「あの…話がまとまったのは良いのですが…、私はジシーが諦めるとは、思えないんですよ」

「!!」

「なぜなら彼女が執着しているのは…ケイシロン公爵夫人の座ではなく、ローカス卿だからです」

「つまり…その対策も必要だと?(ローカス)」

「ええ…もし私の当てが外れて…何もしてこなければよいのですが…」

「では…その見極めも必要か…(ギリアム)」

「はい…ジシーも貴族身分である以上…この先全く会わないのは、難しいかもしれません。
それに…このままにしておくと、他の人間に類が及ぶ可能性があります」

「ウェザリアのように…ですか?(ギリアム)」

「はい…」

その場の空気が…暗くなった。

「ですので…上手くいくかわかりませんが、一度…見極めるのも含めて、罠を張ってみようと思います。
ご協力いただけますか?」

私以外が顔を見合わせ…頷くのだった。
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