ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 8

木野 キノ子

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第2章 舞台

9 人の価値…

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「一体全体、何なんだぁ――――――――――――――っ!!」

収穫祭5日目の夜…。
ケイシロン公爵家に帰ってきたローカスが、事情を聞いた瞬間、発狂したように叫んだ。

「何でそんな状態になって…、誰も止めないんだ!!」

上着を床に叩きつけ…怒りを露にしている。
マギーは…家に帰ってきて、湯浴みをして、ようやっと落ち着いたようだ。
ソファーに座り…でも、やはり震えは止まらないようだ。

「先にも申しましたが…相手が相手ですので、助けるのは至難の業なのです」

「で、でも!!
近衛騎士団関係の令嬢や夫人は…沢山いたハズだ!!
一丸となれば、それなりに…」

かなり歯を食いしばって、眉と眼を吊り上げているが…。

「まず…そこの認識から直した方が、いいようですね…」

クァーリアの表情は…かなりキツイものになっていた。

「まず…確かに近衛騎士団と社交界は…切っても切り離せないものですが、さりとて、
ローエン閣下やローカス卿に協力している人間の身内が…、ルリーラ夫人やマーガレット夫人に
協力するかどうかは、分からないのですよ?もっと言うと、強制も出来ない」

そして口調こそ穏やかだが…その言葉は決して揺るがすことが出来ないくらい、強く響いた。

「ローエン閣下…」

クァーリアはローエンに礼の形をとると、

「この先をお教えするためには…、ローエン閣下含めここにいる皆様に対し、大変礼を欠いた
言動をせねばなりません。ご許可頂けますか…?」

「許可する」

ローエンの答えは…もちろんこれだった。

「では…単刀直入に申し上げましょう。
マーガレット夫人を助けるために、近衛騎士団関係の夫人&令嬢たちが、一丸とならない
理由は…」

クァーリアは…静かに息を吸ったようだ。

「マーガレット夫人に、その価値が無いからです」

これは…流石にローカスが、

「何だよそれ!!ふざけるのもたいがいにしろ!!」

食って掛かったが、

「ローカス!!」

ローエンじい様の声で、少し正気に戻ったようで、体を離した。

「まあ…結論を先に行ったほうが、話が早いのでそう致しましたが…。
わからなければ、一つ一つご説明します」

「……お願いします」

ローカスは…やっぱり全く納得できないようだった。

「まず…今回の収穫祭でのマーガレット夫人への、一連の嫌がらせ…。
かなり巧妙な台本が存在しています」

「……それを書いたのは、ゾフィーナ夫人か?」

ローエンの言葉に、クァーリアは黙ってうなずく。

「最初に…王女殿下が無理難題を吹っかけてきたでしょう?
これは断ったわけですが、まず…断り方からして、マズいです」

「何がマズいんだよ?」

「遠目から見てもわかるくらい…びくびくして、毅然とした態度が見受けられなかった。
これだけで…見る人間が見れば、社交経験も対人経験も乏しいとわかります」

「今のマーガレット夫人は…どうしても、オウム返しで対応するしかなかったですが…。
社交経験が豊富なら、手を変え品を変え、分かりずらい皮肉も交えつつ…断ったハズです。
そして…消耗戦を最後まで戦い切り、疲れも見せない…例え本当がどうであれ、虚構を
貫く…これが出来る人間の行動です」

「そして…中日に起こった例の冤罪事件…。
詳しくと言われようが、何と言われようが、処罰という言葉は絶対に禁句です。
あくまで…話しを聞いてご報告をします…と、言い続けるべきだった。
結果…近衛騎士団関係のご令嬢を、自分の保身のために、見捨てた…になりました」

「おまけに…ジュリア侯爵夫人が、わざわざ危険を顧みず、忠言しに来たのに…です。
ここで…日和見していた人間達の心が、大分離れたでしょうね」

「これで…ほぼすべて、下ごしらえは完了したのでしょう。
あの…汚泥事件に置いて、全く誰も…マーガレット夫人を助けなかった。
助けるどころか…1日目には、一角だった、ひそひそと悪口を言う人間が…5日目には、
半分以上を超えていました」

「すべて…マーガレット夫人の行動が、そうさせてしまったのです」

マギーは…下を向いて震える事しかできない。
ローカスもまた…同じだが、

「で、でも…最初から、完璧にできる奴なんて…」

「その通りですが…いくつか守らないといけない、最低レベルはあるんです。
特に冤罪はまずかった…。
あれは…絶対にやってはいけない事です」

「おそらく今後…何かにつけて味方にはなってもらえないだろうし…、それどころか
バッシングに加わる人が増えるでしょうね」

「おそらくもう…近衛騎士団関係の夫人&令嬢達は…マーガレット夫人に離婚して
出て行って欲しいと思っているでしょうね…。
これを覆すのは、非常に困難だと思ったほうがいい」

「なっ!!いくら何でも、それは無いだろうが!!第一、越権行為だぞ!!」

ローカスがまた…激高するが、

「ですから!!表に出しはしません。
しかし…心情がそうである以上、自分に火の粉が降りかからない限り、助けたりしません。
傍観するか…さっさと出て行って欲しい人は、ヤジに加わるぐらいします…きっと」

再度何か怒鳴ろうとしたローカスを、

「ローカス!!少し冷静になれ!!」

ローエンが制止する。
そして…今度はローエンが、クァーリアに真正面から向き合い、

「一つ聞きたいのじゃが…」

「何でしょう、ローエン閣下」

「まるで…何かの実例に基づいて言っているような気がするのは、わしの気のせいか?」

ローエンからその言葉が出た時、クァーリアは唇の端を少しだけ持ち上げ、

「仰る通りです、ローエン閣下」

目を…少しだけ細めた。

「今…私が言った、近衛騎士団関係の夫人&令嬢の気持ちと行動は…」

「ギリアム様がオルフィリア公爵夫人を婚約者と発表した時の…、王立騎士団関係の夫人&令嬢の
気持ちとほぼ同じです」

これには…さすがのローエンとローカスも、驚愕した。

「前にも少し話しましたが…王立騎士団が良い組織になったしわ寄せは…社交界を活動の場とする
女性たちに…重くのしかかりました。
フレイア伯爵夫人程でなくても…体調を崩す者は、それなりにいたのです。
そして…皆が期待して迎えた、レイチェル伯爵夫人は…社交界で全く戦力にならない方だったから
余計にファルメニウス公爵夫人に対する期待が、高まっていたのです」

「ですが…当初の発表で…とても社交界で渡っていく人脈も経験も…知識すらないご令嬢が選ばれたと
知って…ほぼすべての人間が、落胆し、ギリアム様に失望しました…。
今の…ローカス卿やマーガレット夫人と、まさに同じような状況が、もう発表当初からあったのです」

「夫人たちの集まりで、みな…口々に言っていましたよ。
ギリアム様が…自分たちに婚約者の護衛をさせるんじゃないかって…。
そうなったらどうしよう…とね」

「王立騎士団の夫人&令嬢たちに粉をかけてきているのは…、大抵身分が上の人間です。
自分たちの身を守るのすら大変なのに…、誰かを守るなど、とてもできる事ではなかった…」

「だから…みな、口に出さないだけで、せめて愛人に降格するか、それが無理ならいっそ
出て行って欲しい…そう思っていたんですよ。
当然…守ることはおろか、協力するつもりさえ、微塵もなかったです」

「そんな事になっていたとは…」

ローカスは…考えてもいなかったよう。

「そうしたらまあ…建国記念パーティーから始まって、ずっと…私たちの期待をいい意味で裏切り続けて
下さいました…」

ここで…クァーリアは少し穏やかな目から、再び厳しい目になり、

「先ほど…わかりやすくするために、マーガレット夫人に価値が無い…と、申し上げましたがね。
オルフィリア公爵夫人の価値を…王立騎士団の夫人&令嬢たちに決定づけたのは、ルベンディン侯爵家の
仮面舞踏会です」

「あの時…オルフィリア公爵夫人は自分が矢面に立ち、戦いながらレイチェル伯爵夫人やルイーズ嬢、
だけでなく、自分に濡れ衣を着せようとしたフェイラ嬢まで、敵から庇いました。
王立騎士団で一生懸命働いている人間達の…身内だからという理由で」

「これを持って…認めざるをえなかった。
オルフィリア公爵夫人は…弱冠16歳という若さで…、上に立つことの意味が…分かってらっしゃると。
だから私たちは…私たち自身の意思で、オルフィリア公爵夫人を上と仰いだのです。
ギリアム様に命令など、一切されておりません」

クァーリアは…ここで一息置いた。

「先ほどローカス卿が…一丸となってと言いましたがね。
一丸となって助けた後に…何があるか、本当にわかってらっしゃいますか?」

クァーリアの目は…まるで射殺すような鋭さを湛えている。

「一丸となった者、ほぼ全員が…王女殿下の標的になります」

「あの方が…標的に対して、どれだけ無情で非道な行いをするかは…、社交界では周知の事実
なのです」

「その一丸となった人すべて…ローカス卿が守ることなど、不可能でしょう?
例え、そうする!!と、おっしゃっても、それを夫人&令嬢に信じさせなければ…、用兵術と同じで
動いてはくれませんよ?」

「この世は所詮…持ちつ持たれつです。
何も見返りがないのに、庇いだてする人間など、ほんの一握り…。
たいていは、自分の身と大切なものを守ることに集中する…それがむしろ普通です」

「だからマーガレット夫人が、冤罪騒動で庇うどころか王女殿下に、自分可愛さに部下を供物として
差し出す人間…と、思われた以上、余計手を貸してはもらえません」

「ローカス卿とて、近衛騎士団団長をやって来たから、わかるでしょう?
下を庇わない上など、下からすれば、いてもらったって迷惑なだけです」

ローカスは…わかったようで、何も言えず、ただただ苦しそうだ。
クァーリアは、目を閉じたまま…深いため息を吐くと、

「私が…価値が無い…と申した理由は、以上です」

その視線は…どこを見ているのか、何とも判別がつかなかったのだけれど。
ふいに…。

「あ、あの…」

マギーが言葉を発した。

「どうすれば…良かったんですか…?どうすれば…冤罪にならずに…」

するとクァーリアは…少し考えるような素振りをし、

「まず…処罰という言葉自体、吐いてはいけなかったのですが…」

前置きしつつ、

「もしその言葉を使うか…使ってしまい、補填するとすれば…」

「ご令嬢が何をやって、王女殿下の不興を買ったかは、存じませんが…。
上として、処罰は自分が受けたく存じます…ですね」

「しかし…それをやった場合…」

クァーリアの言葉には、ローエンが鋭く反応した。
レティアを…子供のころから見てきただけに、予想がつくのだろう。
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