ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 10

木野 キノ子

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第4章 断罪

1 アカデミーについた直後から…

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アカデミーの式典は…かなり強引にねじ込まれた。
ティタノ陛下の為にファルメニウス公爵家が用意していた公式行事は、公開演武だけである。

しかし…やはり国王陛下のお言葉だけでは収まらなかった国賓館の連中が、裏で動いた。
私がアカデミーに通っていなかった…、もっと言えば通う気も今さらないことも、拍車を
かけたのかもしれない。
ツァリオ閣下が主体となれば、もっと良かったのだろうが、国賓館の連中には取り合わなかった。
ゆえに…ちょうど帰ってきていた、ツァルガ閣下を抱き込んだのだ。
まあ…ツァリオ閣下としても、武の祭典のみをやるだけで良い…とは言えないからね。
自分が主体で動かない事を条件に、やるのは構わないとしたようだ。
鬱憤を晴らす機会を与えないと、人はどんどん腐っていくから、この辺はしょうがない。

式典は…学園祭のような、生徒も交えて和気あいあい…なんて、空気じゃない。
非情に厳かな…いうなれば協会のミサのように、粛々と行われるものだ。
それも当然だろう。
ティタノ陛下の御希望でなければ、あまり無礼講みたいなものを、身分が下の者が作るわけには
いかないから。

代表者がそれぞれ人生を駆けたテーマに沿って、その集大成を発表する。
その代表者だって、多分上位貴族だろうさ。

私はその朝…朝食をティタノ陛下とご一緒して、準備を開始する。
ティタノ陛下のお相手は、この間、ギリアムに任せる。

「大丈夫でございますか?奥様…。
本当に休みなしになりそうなのですが…」

エマが心配そうに聞いてきたから、

「まあ…何事にも予想外の事は付き物だから。
その場になってから、どうこう言っても意味がない。
乗り切るしかないよ」

私は…気は重いけど、ひとまずその場の雰囲気を読み取るしかない…と、腹をくくった。
本当は…このアカデミーの式典は、ギリアムにお任せするつもりだった。
卒業生じゃないし、ツァリオ閣下とは仲良くなったけど、文にまで関わったら、仕事量が
許容量を超えちまう。

馬車の中で…私達3人は、新しい商品の開発方法や今後の展望…私自作の物語など、
尽きぬ話題を提供して、何とも楽しんでもらえたので、良かった…。

……ネタは尽きる前に、作るもんじゃ!!

そんな事を思っているうちに、アカデミーに着いた。
ちょうど…ウチの国王陛下も来たので、一緒にご入場。

私達が馬車から降りると、赤絨毯はもちろん、花吹雪が舞っていた。
季節は初春ゆえ、花壇には早咲きの花が色とりどりに咲き乱れ、全体が色鮮やかに彩られ
歓迎ムードをより引き立たせている。
赤絨毯の両脇に…規則正しく整列した人々は、みな上位貴族であろう。
案内役は…初老の…いかにもインテリ体系の細身の男性。
分厚い黒縁眼鏡がいかにも学者らしいと思う。穏やかな笑みを湛え、形のよいお辞儀をする。

「ようこそおいでくださいました、ティタノ陛下…、ケルカロス陛下。
ケアリス・ドード・ニュエルソ侯爵が、ご挨拶申し上げます…」

「形式ばった挨拶は不要じゃ!!さっさと案内せい!!」

ティタノ陛下の返事は素っ気ない。
嫌っているのか、取るに足らないと思っているのか…。
ちょっと読めんな。

「国賓館の、総支配人を務めている人なんですよ…」

ギリアムがぽそっと教えてくれた。
ああ、なるほど…。

発表式典の会場は、建物の一番奥にある、講義会堂でやるため、少しばかり歩く。
その会堂まで、道しるべのように赤絨毯が引かれているのだから、準備が大変だったろうなぁ…。
などと、私が思いをはせていると…。

「危ない!!!」

その声と共に…私の横にオブジェ?らしきものが倒れてきた。
位置的に、私の体に触れる状態じゃなかったのだが、そのオブジェに入っていたらしい墨が
私のドレスの裾を汚してしまった。

「も、申し訳ございません!!今すぐお着換えを…」

いや…アナタが倒したわけじゃないんだから、謝らなくていいよ…。
年齢的には20超えたばかりくらいかな…。
メイドの服装…ってことは、どこかの家の使用人かしら?

「構いませんわ。裾がほんの少し汚れただけで、皆さまを待たせるつもりはございません」

「いえ!!
仮にもファルメニウス公爵夫人なのですから、完璧な状態にお直しさせていただきます!!
どうぞこちらに…」

「いいえ。本当に大丈夫ですので、お気遣いなく…」

ぶっちゃけ私のドレスって…色々便利なもんが仕込んであるから、外でのお着換えはあまり
したくない。
まして別の人間が用意したドレスになんぞに…。
武装解除するようなもんだからね。

私がそのメイドに背を向けて、列に戻ろうとすると、

「お待ちください!!ご希望でしたら、なるべく早めにいたしますので!!」

なんと、私の腕を掴んできた。
正直びっくりしたよ…。
私は仮にも、ファルメニウス公爵夫人だ。
上位の夫人の体に触るのは、同性とはいえ許可が出た時と、緊急時の2つだけ。
私が断っているこの状態では、あり得ない。

「何をしておるか、馬鹿者!!」

ケアリス卿がメイドの手を、思い切り払った。

「仮にも上位の夫人に対し、なんたる無礼!!すぐに下がれ!!」

凄い剣幕だなぁ…。
メイドとはいえ、貴族女性…って感じがするから、あまり責め立てるのもよくないような…。

「それほど声を荒げなくともよいでしょう?ケアリス卿…」

おや、ギリアム出た。

「彼女…国賓館のメイドですね…。顔に見覚えがあります」

ありゃりゃぁ。そういうことか。
ただでさえ…ティタノ陛下にそっぽ向かれたのに、この失態とは…。
ケアリス卿は…もっと言いたいことがあったようだが、ギリアムの前であまりやりすぎると
悪手になることは知っているようで、

「もういい!!行って裏方に徹しろ!!」

彼女を追いたてた。
彼女は…一度だけ振り返って、私を見たが…そのまま廊下の奥へと消えてしまった。

「申し訳ありません、オルフィリア公爵夫人…。
あとでまた、きつく言っておきますゆえ、何卒お許しください!!」

「構いませんわ。失敗は誰にでもございます。
ひとまず皆さんお待ちでしょうから、もう行きましょう」

私が促す形で…ケアリス卿はまた案内を続けた。

会堂までの廊下は…なんかの発表文や様々なオブジェで埋め尽くされていた。
私は…見ても全然わからん。
ギリアムは…見ているんだか見ていないんだか…。
視線が全く動かない。
まあ、ギリアムは式典を見に来たんじゃなくて、護衛なんだからな…。

そして会堂に着くと…そこにはいかにも、ザ・学者…って人たちが集合していた。
どう見ても…何年も何十年も研究に費やした…と、思われる人たちだ。

ツァリオ閣下とアルフレッド卿、アイリン夫人、ツァルガ閣下にステファン卿…。
メイリンとヴィネラェ夫人もいる。
ガルドベンダはやっぱり、全集合だな。

「ようこそおいでくださいました、ティタノ陛下…」

皆さま…生粋の貴族だけあって、とってもお辞儀が綺麗。

「この式典は…アカデミーを上げて、ティタノ陛下に日ごろの成果を見て頂こうと、みなが
精進いたしました。
両国の友好の為に、お役に立てれば幸いに存じます」

自分の父親の印璽の件もろもろ…色々確認したいだろうが、そこは…相手が言い出すまで
待つ気概は当然あるな。

「まあ、そうじゃな。
ツァリオ公爵が指揮するようになってから、特にアカデミーのレベルが上がったからな。
楽しみにしよう…」

「ありがたき幸せ」

そうなんだな…。
さすがと言えばさすがのツァリオ閣下やな。

ギリアムは…相変わらずのポーカーフェイスだし、メイリンとヴィネラェ夫人も今の所静かだ。
まあ…国賓の前で、馬鹿な振る舞いをするほど、愚かじゃないってことか。

スペースは…当然王族が一番中央の最上部分、ファルメニウスとガルドベンダがその両脇を抱える
形になっている。
ティタノ陛下は…王族だから、ケルカロス国王陛下と一緒のスペースになる。
さすがに公務ゆえ…私を連れて行こうとはせず、側近たちとスペースに向かう。
こういう所…ポイント高いんだよなぁ。

こうして…発表会がスタートしたんだけどね…。
私は…ハッキリ言って、始まってすぐ、ほっぺだ唇だを口の中で噛んでたよ。

なぜかって?

眠っちまいそうだったからだ!!

だから来たくなかったんだよぉ~。
わたしゃ、興味がある分野は徹夜しても調べるタチだが…って、大抵の人間はそうか。
学術発表なんざ、興味のない分野は聞いててもチンプンカンプンだし、そもそも覚えたいとも
聞きたいとも思わん。

ギリアムは…涼しい顔で聞いてるしぃ~。
むしろ何か喋ってくれた方が、助かるんだが…。
その辺はやっぱり心情がどうあれ、公的な顔を、しっかり持ってるんだな、当たり前だけど。
いや…スペースはギリアムとフォルトとエマとユイリンしかいないんだけどさぁ…。
いくら何でも、立派なお仕事中ゆえ、居眠りはマズい。

私はひとまず…睡魔との戦いに徹することにする。
ガチの徹夜人間、舐めんなコラ!!


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「ちょっとミズリィ!!さっきのあれ、なんな訳?」

キツめの声に責められているのは、先ほどフィリーの腕を掴んだあのメイドだった。
名前はミズリィ・キュルゥシェス子爵令嬢だ。

「アタシらもう、崖っぷちなのわかってるでしょ!!
このアカデミーの式典で巻き返せないと、かなり厳しいんだからね!!」

「そうよ!!少しのミスも許されないのにさぁ~」

3人ほど…やっぱりメイド服に身を包んだ、同年代の女性たちに詰め寄られている。

「アンタはいつも通り、芋の皮でもむいてなさいな!!
それ以外にやれることないでしょ!!」

「そ、そんな事ありません!!一通りの仕事は覚えたし、しっかりこなしています!!
もう3年もここにいるんですよ!!」

「何言ってるの!!たかが子爵令嬢が、外国の高貴な方のお相手が、務まるわけないじゃん!!
伯爵令嬢のアタシらがやる仕事よ!!わかったらさっさと厨房に行きなさいな!!」

持っていた芋のかごを、ミズリィに押し付ける。

「それにしても…なんでよりによってティタノ陛下が、国賓館を使わないって言い出すのよ…。
ホントやんなっちゃう」

「よね~、何のために、必死に勉強して、国賓館のメイドになったかわかんない」

実は国賓館のメイドに応募する理由は…、箔を付ける意味ももちろんあるが、上位貴族の
メイドになるのと同じように、見初められる可能性を期待して…だ。
他国の王族は、当然一人では来ない。
側近を多数連れて来るのが当たり前だし、側近は当然のことながら、上位身分持ちだ。
だから…そちらに見初められて、嫁いでいった人間は多数いる。

ティタノ陛下の国は、財政が大変潤っているので、地位だけ持った下手な国内貧乏貴族より、
そちらに嫁ぎたい人間は多い。
まして王族だけでなく、貴族も一夫多妻制だから、希望はひとしおだ。

フィリーにこの話をすると、シンデレラストーリーなんざ、そんないいもんじゃねぇ!!…という、
激しいツッコミが入るだろうが、若いとその辺はどうしても、夢見がちになる。
箱入りならなおのこと。

「とにかくミズリィ!!アタシらは借金返すために働きに来てる、アンタと違うの!!
わかったらさっさと雑用してな!!」

言いたいことだけ言って、去っていく3人。
ミズリィは…下を向いたまま芋のかごを持って、

「アンタたち以上に…こっちは崖っぷちなのよ…」

厨房へと行くのだった。
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