ひとまず一回ヤりましょう、公爵様4

木野 キノ子

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第3章 二頭

6 レベッカ・スタリュイヴェ侯爵令嬢

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「ジュリア侯爵夫人の仰るように、確かに昔仲の良かった従妹が怪我をしたら…私も
ついていてあげたいと思いますわ。
ただ…」

レベッカ嬢は、見惚れるような笑顔をたたえ、

「ジュリア侯爵夫人は仮にも近衛騎士団副団長の奥様なのですから…部下たる団員たちの
ご令嬢を、信じて差し上げた方が、よろしいかと思いますよ」

抑揚のない口調で、ゆっくりと、

「それともまさか…」

聞き取りやすい声で、

「ポリネア嬢とラファイナ嬢が…レイチェル伯爵夫人になにか、酷いことをするとでも
お思いなのですか?」

喋った。

「別に…そういうわけではありません…。
単純にレイチェル伯爵夫人が心配なだけです…」

ジュリアも優秀であるがゆえに、ポーカーフェイスは崩さない。

「もちろんわかっておりますわぁ」

「だから私たちが、誠心誠意お世話いたしまぁす」

ポリネア嬢とラファイナ嬢が、冷たい笑顔で追い込みをかける。

ジュリアも苦しかろう。
この2人は確実に信用できない。
かといって、レベッカ嬢の言うことは全く間違っていないため、この2人の申出を断った場合、
今後、近衛騎士団内部での発言力に支障をきたす。
ひいてはベンズ卿の活動にも影響が出てしまいかねない。

「ちょっとよろしいかしら?」

その声で、まず真っ先にレベッカ嬢が一歩下がり、それを追うようにポリネア嬢とラファイナ嬢が
下がった。
声の主が、アイリン夫人だったからね。

「レイチェル伯爵夫人…実際お加減はどうなのでしょうか?」

「は…はい…?」

「動けそうにありませんか?」

「い、いえ…!」

以前のレイチェルであれば、ここでどうすればいいのかわからず、固まっていただろうが、
昨今の経験でほんのちょっとは、打たれ強くなっていた。
レイチェルはちょっとふらつきながらも、立ち上がる。

「さっきはびっくりしてしまって…。
でももう、大丈夫です!!」

ハッキリとそう、アイリン夫人に言った。

「そうですか…よかったです。
では、誰かの手は必要ありませんね?」

「はい!」

しっかり答えた。

「先ほど、誰かに押された…と、言っていたのは?」

「あ…よく…わかりません。
咄嗟だったので…そんな感じがしてしまって…でも、もしかしたら私の勘違いだったかも
しれないので」

「そうですか…では、この話はこれで終わりにしましょう。
いいですか?」

「は、はい」

レイチェルの返事をもって、この話題に触れるものはいなくなった。
ジュリアは胸をなでおろしたようで、安堵の表情を浮かべた。
レベッカ嬢は依然として笑顔を崩さず、本心はわからない。

人々は改めて、テーブルを囲む。
テーブルは少人数が分かれて座るタイプではなく、大きな長方形タイプをみんなで囲むスタイル
だった。
通常テーブルに座る順序だって、序列順だ。

レイチェルの真正面は、運悪くポリネア嬢とラファイナ嬢になっていた。
ジュリアは少し離れており、レベッカ嬢は…ジュリアのとなり。

そしてなぜか、アイリン夫人の隣の席が一つ空いていた。
その席は通常、序列の一番高いものが座る席。
つまりアイリン夫人の席のハズなのだが、なぜか今回アイリン夫人はその席には座らなかった。

それを皆が疑問に思ったろうが、テストの一つであると考え、誰も話題に出さなかった。

席についてからは皆口々に…談笑タイムに移った。
レイチェルは相変わらず喋らない…というより、喋れない。
真ん前に座るポリネア嬢とラファイナ嬢が、レイチェルに話しかけることを全くしないし、隣の
人間も、序列が上のため気を遣うことはしない。
実はレイチェルは、今回のサロンでは一番序列が下だ。
もちろんレイチェルより下の人間が会員にいないわけではないのだが、今回は不参加。

そんな中、ポリネア嬢とラファイナ嬢が、目配せをしつつ、チラチラとレイチェルを見る。
そしてひそひそしていたかと思えば、

「そう言えば…皆さん今、市勢を大変賑わせている噂をごぞんじですかぁ?」

かなり大きめな声で話し出した。
当然、注目が集まる。

「あるイカガワシイ舞踏会に出席して…イカガワシイカッコを殿方の前で晒して、遊びまわった
ご令嬢の話ですぅ」

レイチェルの顔色が変わったのは言うまでもない。

そこからはまあ…この二人、私がなぜそんな真似をしたかということは、うまい具合に隠し、
私が淫乱パーティーが大好きで、パーティー会場に来た瞬間下着になっただの、男を引っかける
為にわざと娼婦のカッコをしただの、普段から乱交パーティー大好きで、寄ってくる男複数と
イカガワシイ行為に常に及んでいるだの、口を開けば卑猥な言葉ばかり言うだの…まあ、よく
言ってくれるねぇ…。

…………………………………で?
前世の私の姿そのものですが、何か?

ただ真実を知っており、助けてもらったレイチェルには、耐えがたいものだった。

「やっ!!やめてください!!」

レイチェルが勢いよく立ち上がる。

「オルフィリア嬢はっ、そんな人ではありません!!
全て私を助けるために…とってもいい人なんです」

レイチェルとしては完全なる好意で、私を庇ってくれたんだ。
でも…。
これは完全に…アウトなんだよね。
ジュリアはわかっているから、顔が歪んじまってる。

「あらぁ、レイチェル伯爵夫人」

相変わらず上品な声を発する、

「ポリネア嬢もラファイナ嬢も…誰…とは言っておりませんわ」

レベッカ嬢。

「でも…ポリネア嬢とラファイナ嬢の話を聞いて、あなたがオルフィリア嬢を想像したのなら」

レベッカ嬢、扇子で口元隠してるけど…かなりしてやったりって笑い方してんだろーな。

「レイチェル伯爵夫人はオルフィリア嬢を…ハシタナイ人間だと思ってらっしゃるのですね?
仲がいいと伺っていたのですが…影では侮辱していたのですね」

「そっ、そんなことないです!!」

「そうなのですか?
私はポリネア嬢とラファイナ嬢の話を聞いて、誰の事だか全く分かりませんでしたわ」

侮辱罪…。
定義は様々だろうが、特定の名指しはしなくても、話を聞いた方が誰だかわかれば、それは
侮辱罪になる。
しかし誰だかわからなければ、それは侮辱罪にはならない。
だが…もしその誰かをあえて特定してしまった場合…それが話している人間ではなかったとしても、
誰の事か皆が知るところとなる。
色々なパターンがあるため、ハッキリとは言えないが、特定してしまった第三者が侮辱罪に問われる
可能性は高い。
だから狡猾な人間が、相手をはめる時に使うことは、社交界ではよくある。

「で…でも、市勢を今騒がせている噂って言ったら…」

「あら…市勢には様々な噂がありますわ。
そして…その噂や歴史上の史実などを基に、物語を作る人々は星の数ほどいます。
それに照らし合わせて…会場を盛り上げるため、即興で物語を作るのは…皆さん誰しも
やっている事ですわ」

ああ、サロンなりお茶会なりは、主催される場所や主催者によって、ちょいちょいルールは変わるの
だけど。
談笑の場であるために、話を盛り上げようとする者の無礼は、ある程度黙認がルール。

「場を盛り上げようとするのは、下の務め」

これも、明確に決まっていないが暗黙のルール。

「ポリネア嬢もラファイナ嬢も…一生懸命場を盛り上げようとしただけですわ」

これも…見方によっちゃ正しい。

「レイチェル伯爵夫人のように…ただ座っているだけの方より、よっぽど立派だと思うのですが?
皆さんどう思われますか?」

実はこの時の参加者は…9割が近衛騎士団関係社だったんだよね。
となるとジュリアが、レイチェルの味方をするのはかなり難しい。
そして、私の噂に関しての真実を知っている人間がいたとしても…この場で言い出すのは難しかったろう。

前にも話したが、近衛騎士団は王立騎士団といい関係ではない。
しかしその中でも、ガチンコで対立…主にギリアムに追い出された…している人が、約3割。
そんな人たちに同情&同調している人たちが約1割。
日和見が4割。
実力のない奴が追い出されたのって、自業自得じゃん…と、思っているのが2割と言ったとこ。

だから最後の2割に関しては、むしろ王立騎士団に友好的だ。
しかしながら、組織として動く以上、多数が少数を飲み込む。

ただ…長い事平行線だったこの構図が、私が登場して色々ひっかきまわすようになってから、
かなり変わって来たのだ。

今急速に、実力本位主義が優勢になってきている。

そしてローカス卿とベンズ卿は、明らかに実力本位主義志向の人間。
実力なし、仕事はさぼる、爵位が高けりゃ何しても許されると思ってる…そんな人間達にとって
最近の近衛騎士団は、どんどん居心地が悪くなってきているらしい。

そして実力本位主義の者達の夫人&令嬢のまとめ役が…他ならないジュリアだ。

だからジュリアは今、日和見の者達を、それとなく勧誘することに精を出している。

ゆえに…。
この場でもし、レイチェルや私を擁護したり、その雰囲気さえも出した場合、日和見の人々に、
王立騎士団と繋がっていて、協力しているのでは…と思わせかねない。
そうなれば、せっかく実力本位主義が優勢になってきているのに、元の木阿弥だ。

おそらくかなりの確率で…前々から計画されている。
今回のアイリン夫人のサロン…レベッカ嬢がジュリアを抑え込むのに…潰すのに利用するために。

「ジュリア侯爵夫人」

横にいたジュリアに、レベッカ嬢が話しかける。

「近衛騎士団副団長の妻たる…あなたのご意見が特に聞きたいわ」

ジュリアもレベッカ嬢も、扇子で口元を隠している。
でもわかる。
1人は笑って。
1人は唇をかみしめているのが。

せめて…レイチェルがいなかったら、ジュリアもこの場だけでの否定をして逃げおおせたかもしれない。
しかし、昔からの付き合い故、レイチェルが感情的になると、フェイラと同じようにかなり考えなしに
突っ走ることを知っている。
そしてさっきの発言でわかるように、レイチェルは本人の性格と社交界経験の浅さも相まって、ことば
そのままの意味なのか、裏があるのかの区別がつかない。

だからジュリアがこの場で本心は別として、言葉だけでも私を否定するようなことを言ったら…。

おそらくレイチェルは、今まで極秘で親しくしていたことまで、全て言ってしまい、ジュリアを責めるか
責めなくても泣き出してしまうだろう。
まさに進退窮まった状態だ。
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