笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~

マーキ・ヘイト

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最終章 笑顔の絶えない世界

ティルスレイブの力

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 「魔王様!!止めて下さい!!」



 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 シーラの声は届かない。天高く掲げたティルスレイブの柄、装身具、刀身、全体が真っ黒に染まった。また、一回目の時より濃く染まっていた。



 「あ、あの……ティルスレイブって……確か……」



 「あぁ、禁じられたアイテムの一つで、対象を確実に葬り去る事の出来る能力を三回だけ秘めている……だが、その三回目を使ってしまった後……」



 「その所有者は必ず死ぬ……今ので二回目って事は!?」



 「……後一回使ってしまったら……魔王様は……死んでしまう……」



 「!!!」



 それを聞いた真緒は、慌てて空中にいるサタニアに視線を向ける。



 「ふぅー……ふぅー……」



 息遣いが荒い。歯茎を剥き出しにして、血走った眼でエジタスの事を睨み付けていた。握られたティルスレイブが、黒く妖しい光を放っていた。



 「恐らくエジタスさんは、こうなるのを待っていたんじゃないか?」



 「どう言う意味ですか?」



 何かに気が付いたフォルスに、リーマが意味を聞き返して来た。



 「つまりだ……エジタスさんが初めから警戒していたのは、魔王の持つティルスレイブの力だったんじゃないかと言う訳だ」



 「残り二回使える状態だったティルスレイブを、どうにかして残り一回に減らして使えない状況にしたかった……確実な勝利を得る為に……」



 エジタスが真緒達、サタニア達を葬り去るのに最も障害になるのは、骨肉魔法と同じ禁じられたアイテム“ティルスレイブ”だった。相手を一撃で葬り去る事の出来る能力は、良くも悪くも非常に厄介な代物であった。エジタスはその厄介な能力を、一刻も早く使えない状態にしたかった。



 「で、でも……ぞんな危険な能力を発動ざれだら、使えなぐずる前に殺られでじまうだよぉ!?」



 「た、確かに…………」



 当然の疑問。相手を一撃で葬り去る危険な能力なら、わざわざ使う様に誘導しない方が得策。いくら使えない状況にするとは言え、あまりにもリスクが高過ぎる。



 「…………“ダミー人形”」



 「「「!!?」」」



 「師匠は、表面だけのダミー人形を作り出せる。もしかしたら、そのダミー人形でサタニアのティルスレイブを防ぐつもりなのかもしれない……」



 「それが本当だとしたら、今すぐ止めなければ!!」



 エジタスの狙いに気が付いた四人は、急いでサタニアの元まで近付いて行く。







***







 「殺して……やる……エジタス……君だけは……君だけは……絶対に殺してやる!!」



 「そうだ!!その感情だ!!本来持つべき感情はそれだ!!愛や、友情などのくだらない感情ではない!!怒り、憎しみ、悲しみ……それこそが、お前が私に向ける正しい感情だ!!」



 空中では、ティルスレイブの力を解放したサタニアが、今まさにエジタス目掛けて斬り掛かろうとしていた。それに対してエジタスは、歓喜に震えていた。サタニアの剥き出しにしている感情が、本来持つべき感情なのだと、心の底から喜んでいた。



 「アルシアの仇!!」



 「そうだサタニア!!俺が、お前の大切な人を奪ったんだ!!仇を取れ……そのティルスレイブで、俺の存在を一撃で葬り去るんだ!!」



 そう言いながらエジタスは、喋る自分自身をダミー人形にして、本体はダミー人形と重なり合う様に背中から、こっそり抜け出した。殺意に興奮しているサタニアは、気が付く事が出来なかった。



 「うわぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 「さぁ、来るがいい!!お前の復讐相手は、ここにいるぞ!!俺は、逃げも隠れもしない!!」



 ダミー人形のエジタスは、両腕を大きく広げてティルスレイブを振り上げるサタニアを受け止め様とする。



 「(良いぞ……良いぞ……そのまま振り下ろせ!!そしてダミー人形に、能力を無駄遣いしろ!!)」



 本物のエジタスは、ほくそ笑みながらダミー人形の背後に潜み、ダミー人形が斬られるのを待っていた。



 「死ねぇえええええええええええええええええええええええええええ!!!」



 「サタニア!!駄目ぇえええええええええええええええええええええ!!!」



 その時、地上にいた真緒達がサタニアの暴走を止めようと、駆け付けて来た。しかし時既に遅し、真緒達が辿り着く前に、振り上げていたサタニアのティルスレイブが、ダミー人形のエジタス目掛けて勢い良く振り下ろされた。



 「「「「!!!」」」」



 斬られたダミー人形の体は、斬られた箇所から次第に黒く変色して行く。それは“壊死”、肉と骨が完全に死に絶える。そして変色が全身に回ったその時、ダミー人形は崩れ落ちた。その光景に、本物のエジタスは拍手を送る。



 「……いや~、さすがはティルスレイブ……骨肉魔法と同様の力を持つだけの事はある……だが、残念……こちらの骨肉魔法の方が一枚上手だっ……!!?」



 エジタスは、拍手を送る自身の両手を見て驚いた。両手の指先が、黒く変色し始めていたのだ。



 「あ、あれって!?」



 「本物にも……ティルスレイブの能力が効いている!?」



 「ば、馬鹿な!!?こんな事、あり得ない!!斬られたのはダミー人形だ!!どうして斬られていない俺の体が、壊死しているんだ!!?」



 訳が分からなかった。斬られていない筈なのに、指先から徐々に変色が広がって来ていた。



 「…………くっ、くそっ!!」



 咄嗟にエジタスは、変色している両腕部分を切り落とした。切り落とした両腕部分は、そのまま黒く変色し終えて崩れてしまった。



 「こ、これで治まっただろう……!!?」



 安心したのも束の間、切り落とした部分から再び変色が始まった。



 「そんな!?どうしてだ!!何故こんな!!…………いや、待て……ま、まさか……!!!」



 その時、エジタスはある可能性に行き着いた。しかし、それはあまりにも常識離れした答えであった。



 「この巨大な体を作り出す為、世界中から死肉と遺骨をかき集め、一つに纏め上げた……その纏め上げた行為がティルスレイブに、一個の生命体という枠組みとして、認識されてしまったと言うのか!?」



 一個の生命体。例え分身しようが、分裂しようが、魂が二つになった訳では無い。結果、分身や分裂した方が斬られたとしても、一個の生命体という枠組みとして、本物の方も葬り去られる。ティルスレイブは、そうした認識をしたのだ。骨肉魔法と同様の力を持つティルスレイブ。これ位の垣根は容易で越えられる。



 「(どうする!!?どうすれば良いんだ!!?考えろ!!考えろ!!考えろ!!)」



 そうしている間にも、体全体に変色が進んでいた。切り落とした箇所から始まった変色は、上半身にまで広がり始めていた。



 「仕方無い……デメリットは大きいが、この体を棄てる!!」



 すると、背中から元の大きさのエジタスが出て来た。張り付いている肉を引き剥がして、巨大な体から脱出した。



 「やはりな……こっちの体は、問題無い様だ」



 脱出したエジタスの体は、黒く変色していなかった。世界中の死肉と遺骨をかき集めたあの巨大な体が、一個の生命体であると認識されたのなら、その作り出した巨大な体を棄て、元の体に戻る事でティルスレイブの対象からは外れるのでは無いかと考えた。そして結果、それは上手く行った。



 「……だが……あの巨大な体を棄てるのは、少々抵抗があった……」



 エジタスが棄てた巨大な体は、黒く変色し終えていた。そして雪の様に、ゆっくりと静かに崩れ落ちて行くのであった。



 「…………まぁ、あんな体など無くても、お前達如き簡単に捻り潰せ……!!?」



 「わぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 元の大きさに戻ったエジタスが、五人のいる方向に視線を向けた瞬間、狂気に触れたサタニアが発狂しながら、ティルスレイブでエジタスを吹き飛ばした。



 「ぐはっ!!?」



 吹き飛ばされたエジタスは、その勢いのまま地上へと落下した。落下した後には、大きなクレーターが出来上がっていた。



 「……この力……今までの力とは比べ物にならない……やはり、戦いにおいて必要なのは愛や友情などでは無く、怒りと憎しみ……そっちの方が魔王らしくて良いぞ!!さぁ、俺を殺して見ろ!!」



 「殺す……殺してやる……アルシアの仇……アルシアの仇……うわぁああああああああああああああああ!!!」



 サタニアは、叫び声を上げながら地上にいるエジタス目掛けて、突っ込んで行った。



 「ああ!!ああ!!ああ!!!」



 「良いぞ……もっと怒りを高めろ!!憎しみを持ち続けるんだ!!漸く、まともな戦いになりそうだ!!」



 ティルスレイブを所構わず振り回すサタニアに、エジタスは両拳で弾き返して行く。それでもサタニアは諦めずに、ティルスレイブを振り回し続ける。



 「不味いな……魔王様の剣筋が単調になっている……あれじゃあいくら力が強くなったとしても、意図も簡単に弾き返されてしまう……」



 「今の魔王は、精神が安定していない……心が怒りと憎しみで支配されている……」



 「それよりも問題なのは、魔王がティルスレイブの三回目を使ってしまう事……」



 「三回目を使っでじまっだら……死んじゃうだよぉ……ぞんなのでエジタスざんに勝っでも、全然嬉じぐ無いだぁ……」



 「何とかして止めないと……このままじゃ、遅かれ早かれ……サタニアが死んじゃうよ……」



 空中から見守っていた真緒達は、暴走するサタニアに、不安と心配を抱いた。



 「皆、行こう!!サタニアを止めるんだ!!」



 「「「「おぉ!!」」」」



 怒りと憎しみに心が支配されているサタニア。そんなサタニアを止める為、真緒達はサタニアとエジタスのふたりが戦っている地上へと、勢い良く突っ込んで行くのであった。
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