笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第一章 新たなる旅立ち

潜入捜査の下準備

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 カルド王国の外れ。賑やかで明るい城下町とは対照的に、静寂で暗い雰囲気が漂うスラム街。建物の影に位置する為、太陽の光が届かず、一日中薄暗い。そんなスラム街の人々だが、その表情はとても明るく希望に満ち溢れていた。そんなスラム街の人々は、城下町へと続く階段付近に集まりつつあった。まるで誰かが来るのを待っている様だった。



 「……あっ、来たぞ!!」



 そんな言葉を切っ掛けに、全員の目線が階段の方へと注がれる。すると階段の上から、真っ白な無地のTシャツを着た統一感のある団体が降りて来た。そして、スラム街の人達の前に横一列で並び始めた。



 「皆さん、おはようごさいます!!」



 「「「「「おはようございます!!」」」」」



 横一列に並び終わると、真ん中にいた一人の男性が一歩前に出て、大きな声で挨拶を交わした。それを合図に、左右にいた団員達も大きな声で挨拶を交わした。



 「さて、今日もパンとスープの配給を行います……が、その前に皆さんに私達の新しいメンバーをご紹介させて頂きます。どうぞ、盛大な拍手で御迎え下さい!!」



 男性の掛け声に答える様に、左右の団員達が大きな拍手を送る。それに感化され、スラム街の人々も一斉に拍手をし始めた。そしてそんな拍手の中、四人の男女が前に歩み出る。



 「初めまして、本日から皆さんと一緒にお手伝いさせて頂く事になりました。“ソルト”です」



 “ソルト”と名乗る女性は、かなり強い天然パーマな髪型で、目元が隠れていた。



 「“ハラコ”でず」



 “ハラコ”と名乗る女性は、非常に恰幅の良い中年のおばさんだった。



 「“マリー”です」



 “マリー”と名乗る女性は、ロングヘアーの金髪が特徴的で、非常に胸が大きく強調されていた。



 「“ルフォス”だ」



 “ルフォス”と名乗る男性は目付きが非常に鋭く、Tシャツ越しからでも分かる鍛え上げられた肉体を持っていた。



 「こちらの四人は今回が初参加という事なので、皆さん仲良くしてあげて下さいね」



 四人に向けて、再び盛大な拍手が送られる。



 「それでは、ご紹介も無事に終わりましたので、本日の配給を行わさせて頂きます。どうぞ皆さん、縦一列に並んで下さい」



 男性の言葉に、スラム街の人達は素直に従い、縦一列に並び始める。



 「(……何とか上手く潜り込めたね)」



 「(バレるんじゃないがっで、ヒヤヒヤじだだぁ……)」



 「(でも、最後まで気は抜けません)」



 「(“リーマ”の言う通りだ。どうにかしてこの“レッマイル”から“ヘッラアーデ”に推薦される様にするんだ)」



 先程紹介されたソルト、ハラコ、マリー、ルフォスの四人。その正体は真緒、ハナコ、リーマ、フォルスの四人だった。他の団員達に気付かれない様に、小声で会話していた。何故、この様な状況になったのか。それは今から三日前に遡る…………。







***







 「真の目的……ですか?」



 カルド王国王の間。リリヤから、一足先に“レッマイル”に潜入調査している近衛兵の“リップ”を紹介された真緒達。そんな真緒達に、リリヤがリップと一緒に“レッマイル”に潜入調査を行い、何とか上手く取り入って“ヘッラアーデ”に潜り込み、そこで“ヘッラアーデ”の真の目的を探って来て欲しいと依頼される。



 「はい、“ヘッラアーデ”がいったい何を企んでいるのか。それを極秘に調査して来て欲しいのです」



 「えっ、“ヘッラアーデ”の目的は各国の支配なんじゃないですか?」



 「もし、各国の支配が目的なら、先に落としたゴルド帝国の兵力を使えば簡単に済みます」



 「ぞ、ぞんなに凄いんだがぁ……ゴルド帝国っで……?」



 「凄いなんてもんじゃない。兵士の数や質、その技術力は他の国よりも頭一個飛び抜けている……正直、今まで戦争を仕掛けて来なかったのが不思議な位だ」



 ゴルド帝国。カルド王国と対を成すと言われているが実際の所、カルド王国はゴルド帝国の足元にも及ばない。先代の王であるカルド王自身であれば、ゴルド帝国の皇帝ゴルドに大きく勝っているが、国全体の戦力を比較すると天と地の差である。



 「この国は……お父様の力があったからこそ、今まで生き残れて来ました。しかし、そのお父様はもういない……後ろ楯が無いこの国は非常に危険な状態なのです……」



 「リリヤ様……」



 肉親を失い、悲しげな表情を浮かべるリリヤ。そんなリリヤを見て、心を痛めるリップ。



 「す、すみません。話が逸れてしまいましたね。以上の点から、ゴルド帝国の兵力を使えば簡単に各国の支配が出来ます。しかし、それをしないという事は他に何か目的があるという事……皆さんには、その目的を調査して来て欲しいのです」



 「成る程な。その調査を依頼する為に、俺達を緊急召集した訳か……」



 「はい……この潜入調査は非常に危険です。下手を打てば、命を落としてしまうかもしれません。ですがそれでも、皆さんが手に入れてくれたこの平和を……長く保ちたいのです……どうか、引き受けては頂けないでしょうか?」



 「ぼ、僕からもお願いします!!」



 真緒達に対して、国のトップであるリリヤが頭を深く下げる。そんなリリヤに続いて、リップも一緒に頭を深く下げる。



 「「「「…………」」」」



 無言の四人。各々顔を見合わせ、互いに頷き合う。既に心は決まっているという事だ。



 「……リリヤ、頭を上げて……」



 真緒の優しい声に、リリヤはゆっくりと頭を上げる。上げた目線の先には、決意を固めた四人の顔があった。



 「私達も同じ気持ちだよ。私達は師匠に約束した……私達は、私達なりの“笑顔の絶えない世界”を作って見せるって……喜んで協力させて貰うよ」



 「ありがとうございます!!」



 真緒達の返しにリリヤは、嬉しさのあまり真緒の手を取り、強く握り締める。



 「それで、まずは何をすれば良いんですか?」



 「あっ、えっとまず皆さんにはボランティア団体である“レッマイル”に新入団員として参加して頂きます。そこで気に入られる事が出来れば、“ヘッラアーデ”へ入る事が出来るかもしれません」



 「成る程、まずは表向きの団体に気に入られる所から、始めないといけない訳だな」



 「気が遠ぐなるだぁ……」



 「後の細かい説明はリップがしてくれます。何か分からない事や聞きたい事があれば、リップに尋ねて下さい」



 「皆さんのサポートは任せて下さい。全力で取り組ませて頂きます!!」



 「それでは皆さん、どうかよろしくお願いします」







***







 カルド王国城下町。現在真緒達は、真緒が住まわせて貰っているジョージおじさんとマクラノおばさんの家の二階、真緒の部屋で作戦会議を行う所だった。



 「それでは皆さん、これから“レッマイル”及び“ヘッラアーデ”への潜入調査作戦会議を始めさせて頂きます」



 リリヤの近衛兵であるリップを代表に、真緒達は作戦会議を始めた。



 「それで……具体的にどうやって“レッマイル”に入るんだ?」



 「入る事態は問題ありません。僕の紹介から簡単に入れると思います」



 「そうか。リップさんは先に潜入調査していたから、友人として紹介する事が出来るという訳ですね」



 「その通りです……それで僕の事もリリヤ様と同じ様に、呼び捨てで構いませんよ。この中では、僕が一番年下ですから」



 自分も呼び捨てにしてくれて構わないと、リップは真緒達に申し出る。



 「それじゃあ、遠慮無くそうさせて貰うよ。そう言えば、リップはいつ頃からリリヤの近衛兵になったの?」



 「そうですね……リリヤのお側にお仕えし始めたのが、僕がまだ五歳の頃でしたかね」



 「ご、五歳!? 随分と若い時に近衛兵になったんだね……」



 「えぇ…………実は僕、元々はスラム街生まれの人間なんです……」



 「「「「えっ……」」」」



 まさかの衝撃の告白に、真緒達の表情が固まった。



 「両親は酒浸りで、まだ五歳だった僕によく城下町の酒を盗ませに行かせていました……そんなある日、いつもの様に城下町の酒を盗んだんですけど、店側の人に気づかれてしまい、捕まってしまったんです……もう二度と盗みが出来ない様、指を切り落とされそうになりました……そんな危機的状況の僕を偶然にも救ってくれたのが、リリヤ様でした……」







 “待って下さい。その子の身柄は私が保証します。だからどうか指だけは、切り落とさないで下さい!!”



 “ねぇ、そんなにスラム街が嫌なら私の所に来ない? 私があなたを雇って上げる!! その代わり、私の事を確りと守ってね”







 「……あの時、リリヤ様に出会っていなかったら、僕は今頃指を切り落とされ、その辺の道端で死んでいたと思います……だから本当に、リリヤ様には感謝してもしきれないんです……」



 「そうだったんですか……そんな事が……それじゃあ、リリヤの為にもこの作戦は必ず成功させないとね!!」



 「…………はい!!」



 「それで俺達はいつ“レッマイル”に入れば良いんだ?」



 「あっ、えっとですね。皆さんには三日後に潜入調査を開始して頂きます」



 作戦を必ず成功させようと、決意を固めるリップ。フォルスの言葉に、慌てて作戦の内容を説明し始める。



 「それでですね。入る分には問題無いんですが……その前に皆さんには変装して頂きます」



 「変装ですか?」



 「はい、失礼ですが今のまま入ってしまうと、かなり目立ってしまいます」



 「えっ、どうしてですか?」



 「それは……マオさん達が有名人だからですよ」



 「「「「えっ?」」」」



 リップの言葉に、真緒達全員は疑問の声を上げる。



 「皆さんは世界を救った勇者一行として、多くの人達に知られています。なので今のまま入ってしまうと、勇者一行として扱われてしまい、“ヘッラアーデ”に入るのは難しくなってしまいます」



 「成る程な。その為に、変装する必要がある訳か」



 「はい、それで変装にはこの道具を使います」



 そう言うとリップは、懐から四つの指輪を取り出し、真緒達それぞれに渡した。



 「それは“変化の指輪”と呼ばれるマジックアイテムです」



 「マジックアイテム?」



 「マジックアイテムとは、魔法使いが道具に対して自身の魔力を注ぎ込む事で生まれる物です。その能力や効力は、注ぎ込む魔法使いの魔力によって決まります。この“変化の指輪”は装備した人物を、指輪に込められている容姿に変化させる事が出来ます。その容姿は、指輪によって異なります」



 「へぇー……わぁ!!?」



 リップの説明を聞きながら、真緒は何気無くその指輪を指に嵌める。その瞬間、真緒の容姿が変わり、かなり強い天然パーマの髪型で、目元が隠れている女性に変化した。



 「す、凄い!!」



 「本当に変化した!?」



 「ビッグリじだだぁ……」



 「指輪の効力は一時間。それ以上長く嵌めていると、自動的に容姿が元通りになってしまいます」



 「そうなると、外すタイミングが重要だな……」



 「ボランティア途中で、元の姿に戻ったら大変ですからね」



 真緒達は、指輪の使い所に頭を悩ませる。



 「取り敢えず、現状での潜入調査作戦は以上です。それでは皆さん、三日後にカルド王国南東にある教会に集まって下さい」



 「教会?」



 「はい、その教会は数ヵ月前、“レッマイル”の活動拠点として建設されました。そこで皆さんの事を、他の団員達に紹介させて頂きます。勿論、教会に来る時は指輪を嵌めるのを忘れずに来て下さい」



 リップの言葉に四人全員頷いた。



 「それでは皆さん、三日後にまたお会いしましょう」



 そう言ってリップは、部屋を後にするのであった。
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