笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第二章 冒険編 不治の村

ドラゴンと道化師

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 暗い……冷たい……お腹が減った……物心付いた時から、僕は狭い部屋の中にいた。四方は石で覆われていて、唯一石で覆われていない天井には鉄格子が嵌められていた。とても狭い部屋の中、僕は天井に嵌められている鉄格子を見上げる。いつもそこには、黒い布を被ったよく分からない人達が鉄格子越しに僕を見下ろしていた。



 「おい、この前生まれたこのドラゴン……能力的にどうなっている?」



 「駄目だな。種族的にはドラゴンだが炎は吐けない、鱗は無い、尻尾も無ければ翼も無い。失敗作だよ」



 「チッ!! 数種類の名高いドラゴンの遺伝子を組み合わせておいてこの様とは……何故上手く行かないんだ!?」



 「イライラしたって何もならないだろう……はぁー、取り敢えずこいつにあげる今日の餌はどうする?」



 「あぁ!? そんなの他の“試作品”が食べ残した分を与えれば良いだろう!! どうせこいつは失敗作なんだからよ!!」



 「分かった分かった、分かったからそう目くじらを立てるなよ。餌の方は俺がやっておくから、お前は少し休め」



 「はぁ……はぁ……チッ!!」



 鉄格子越しに見下ろしていた二人の内、一人が舌打ちしながら何処かに行っちゃった……何か、嫌な事でもあったのかな?



 「……はぁー、これで何度目か……不機嫌になるのも分かるけど、短気な性格は直して貰いたい……だけど、こればっかりは仕方が無いのかな……はぁー」



 溜め息が多い彼は、何かぶつぶつと独り言を発しながら、何処かへ行ってしまった。そしてしばらくして、見慣れたバケツを持って現れた。やった!! ご飯だ!!



 「ほら、今日の餌だぞ」



 彼は持っていたバケツを、鉄格子越しから引っくり返した。中に入っていた肉や骨が降り注ぎ、床に勢い良く叩き付けられる。僕は降って来た肉や骨を、粘着力のある舌にくっ付け、口の中に運んだ。



 「長い舌……気持ち悪いな」



 何か喋っていたけど、今はそれどころじゃ無かった。空腹で今にも死にそうだった僕は、夢中になって今日のご飯を食べていた。与えられるご飯はいつも、量が少ない。殆どが骨で、肉は骨にこびりついた物を食べている。明らかに誰かの食べ残しだけど、凄く嬉しい。だって最悪の場合、ご飯が与えられない事もあるから…………僕は、必死に骨を噛み砕いてでも空腹を満たした。







***







 「この失敗作がぁあああああ!!!」



 舌打ちしていた人の拳や蹴りが、僕の横腹に飛んで来る。今日、僕は隣の部屋に住んでいるドラゴンの子と戦う事になった。その子は僕と違い、鱗や尻尾が生えていて、口から火まで吐いていた。そして結果的に言えば、僕はその子に勝った。勝ったのは凄く嬉しかったけど、何故か舌打ちしていた人は怒り、勝った筈の僕に殴る蹴るなどの暴力を振るった。どうしてだろう……勝ったのに……どうしてそんなに怒っているんだろう……?



 「何でお前みたいな失敗作が勝って!! 自慢の試作品が負けるんだよ!!」



 「はぁー、荒れてるな……おい!!

 取り込んでいる所悪いんだけど、お客さんだよ!!」



 「あっ!? 分かった……今行く……チッ!!」



 そう言うと彼は、最後のダメ押しとして、僕の顔を思い切り蹴り飛ばした。



 「これだけ攻撃を加えているのに、鳴き声一つ上げないとはな……失敗作の上、気持ち悪い奴だな!!」



 そう吐き捨てると彼は、上の開いた鉄格子へと登って行く。そして登り切ると、いつもの様に鉄格子を閉めた。



 「それで……今日はどんな客なんだ?」



 「んー、それがよく分からないんだよ……」



 「はぁ? どう言う意味だよ?」



 「いや、何か可笑しな格好をしていて……顔に仮面を…………」



 上に登った彼は、溜め息の多い彼と何やら会話をしながら何処かに行ってしまった。僕は蹴り飛ばされ、傷付いた顔を舌で舐めて治療する。別に鳴けない訳じゃない……鳴き声を上げないのは、鳴いたって意味が無いから……僕には物心付いた時から親がいない。一応、あの二人がご飯をくれるけど……気に入らない事があったら、直ぐに僕を殴ったり蹴ったりする。だから僕は生まれてから一度も、誰かに“甘えた”事が無い。僕が鳴き声を上げる時があるとすれば、それは誰かに甘えたい時だけだ。でも、そんな日は絶対に来ない。



 「なっ!! おまっ……!!?」



 「う、嘘だろ!? どうしてこんな…………!!?」



 騒がしい。僕が顔の治療に集中していると、上から悲鳴が聞こえて来た。



 「う~ん、何とも寂れた場所ですね~。こんな粗悪な場所で、良質なドラゴンが作り出せるとは思えないんですけど……まぁ、実際に確かめて見ないと分からないですよね~、という事で案内ご苦労様でした~。もう死んで構わないですよ~」



 「や、止め…………!!」



 水分の様な何かが飛び散る。下の部屋からでは、逆光の関係でよく見えない。でも、二人以外の“誰か”がいるのは分かった。



 「さて、ここにいる係員は粗方掃除出来ましたかね? それじゃあ、お楽しみのドラゴンチェックタ~イム!! まずは一番右端から行きますか~」



 すると遠くの方から、鉄格子を開ける音が聞こえる。



 「グォオオオオ!!!」



 「おぉ!! とても好戦的なドラゴンですね~。でも残念、知性が感じられない!! 不採用で~す」



 「グガッ…………!!?」



 右端の部屋に住むドラゴンの雄叫びが響き渡っていたが、一瞬で静かになってしまった。



 「最初はハズレ……まだ始まったばかりですからね~。どんどん行きますよ~」



 すると上に登る音が聞こえ、しばらくした後、再び鉄格子を開ける音が聞こえて来た。どうやら、直ぐ隣の部屋の鉄格子を開けた様だ。



 「キュオオオオオ!!!」



 「おやおや~、これはどうやらドラゴンと鳥人族を掛け合わせた作品の様ですね~。鱗の代わりに羽毛が生えていますよ~。でも残念、体は大きいのに足が小さいというアンバランスな形になってしまっています!! 不採用で~す!!」



 「ギュガッ…………!!?」



 またしても、ドラゴンの雄叫びが響き渡っていたが、一瞬で静かになってしまった。



 「次もハズレ……何だか不安になって来ましたよ~」



 そう言いながら上へと登り、またその隣の鉄格子を開ける。



 「ブォオオオオオ!!!」



 「う~ん、不採用!!」



 「ガォオオオオオ!!!」



 「不採用!!」



 「コォオオオオオ!!!」



 「不採用!!」



 次々と鳴り響くドラゴン達の雄叫び。そしてそれに対して『不採用!!』という声が聞こえて来る。その声の主は少しずつゆっくりと、しかし確実に僕の住む部屋まで近づいていた。



 「さてさて、残るは後二体だけですか~。中々、良い個体が見つかりませんね~、これでは来た意味が失くなってしまいますよ~」



 そう言いながら声の主は、僕の隣にいるドラゴンの部屋へと入って行った。



 「ギシャアアアアア!!!」



 「ほほぉ~、これは中々の逸材じゃないですか~。成る程、あなたですね~、あの二人が自慢していたドラゴンは……あまり知性は感じられませんがこの際、贅沢は言いません。是非とも、私が作ったロストマジッ……これは!?」



 今までとは違い、長々と語る声の主だったが、途中で言葉が詰まったのか、突然無言になった。その間にも、隣に住んでいるドラゴンの雄叫びが響き渡る。



 「ギシャアアアアア!!!」



 「うるさい!!」



 「ギシュ…………!!?」



 無言になったのもつかの間、少し苛立ちを感じる感情的な声が聞こえ、同時に雄叫びを上げていたドラゴンの声も聞こえなくなった。



 「……この傷……致命傷一歩手前の攻撃だ……さっきまでのドラゴン達じゃ、このドラゴンに傷を付けるのは難しい……となると……」



 上に登って行く音が聞こえる。次はいよいよ、僕の所にやって来る。怖い……知らない誰かが、僕の部屋にやって来る。僕はなるべく目立たない様に、部屋の隅で縮こまって身を潜めた。



 「…………」



 鉄格子が開く音が聞こえる。声の主が降りて来たんだ。僕は恐る恐る、声の主の顔を確かめた。



 「……いない? 気配を感じられない……まさか、既に亡くなっている? いや、さっきのドラゴンの傷具合から推察するに、今日出来た傷だ……もし、亡くなっているとしたら、何処かにそれらしい死体がある筈……しかし、そんな死体は何処にも見受けられなかった……」



 その人は、腕と足の部分に綿を詰めた様な膨らみのある服を着ていて、頭には二本の触角のような物の先端に丸い飾りの付いた帽子を被っていた。そして、いやらしく細みがかった目、口角を限界まで伸ばしたにやけた口、そんな仮面を付けていた。その人を一目見た瞬間、僕の体に電流が流れた。今の気持ちを表現するのが難しい。言葉では決して言い表せない。只ひたすらに、この人と一緒にいたいという想いだけが高まって行く。ある筈の無い尻尾が、大きく揺れ動くのを感じる。これが喜びなのだろうか……。



 「……それとも、私が気付かずに殺してしまったか……只の思い過ごしだったのか……どれも信憑性が薄い」



 何やら深く考え込んでいる。もしかして、僕の事を探しているのかな!? ここだよ!! 僕はここにいるよ!!



 「……まぁ、考え過ぎだったかもしれませんね~。取り敢えず、もうここには用はありません。さっさと次の場所へと行きましょうか~」



 そう言うと彼は、右腕を少し上げて右手の親指と中指を合わせた。そんな!? 行かないで!! 僕はここにいるよ!! 彼に気付いて貰おうと、鳴き声を上げる。しかし、これまで鳴いて来なかった為か、上手く鳴く事が出来ない。嫌だ!! 嫌だ!! 僕は……僕はあなたと一緒にいたい!! 僕は無我夢中で自身の舌を伸ばし、彼の足へとくっ付けた。その瞬間、“パチン”という音が聞こえ、それまで見て来た景色が、瞬く間に別の景色へと変わった。これが僕と彼……“エジタス”との最初の出会いだった。それから僕とエジタスがどうなったのか。それを話す前に……“邪魔者”を排除しなくていけない。そう……さっきから人の思い出を覗き見ている……“お前”だよ!!!



 「!!!」



 その瞬間、“真緒”の意識は現実へと引き戻されるのであった。







***







 「ぐあぁあああ……!!!」



 全身を締め付けられる強い痛みから、現実へと引き戻された真緒。そんな真緒に対して、ミルドラが睨み付けて来る。



 『殺す……お前だけは絶対に殺す……勝手に人の思い出を盗み見たお前だけは……絶対に殺してやる!!』



 「あ……ああ……」



 思い出に浸る時間は終わりを告げ、残酷な現実が始まりを迎えようとしていた。
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