笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第五章 冒険編 幸運の巣窟

誘惑大作戦(前編)

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 ここはオーロカジノと提携している酒場。ギャンブルで大勝ちした者達が祝杯を上げる恒例の場所。パーティーの様に騒ぎたい者達はテーブル。静かに酒を楽しみたい者達はカウンターに案内するシステムになっている。しかし今現在客の殆どがテーブルでどんちゃん騒ぎしており、カウンターに腰掛けているのはたった三人だけであった。それは若い男性、巻き髭の男性、そして小太りの男性の三人だった。



 「あぁ、くそっ!! むしゃくしゃする!!」



 小太りの男性はバーテンダーから渡されたお酒を口に運びながら、愚痴を溢してイラついていた。



 「まぁまぁ、そんなにイライラしないで下さい」



 「これがイライラせずにいられるかってんだ!! 目の前で分かりやすいイカサマされたのにも関わらず、証拠不十分で無罪……ふざけるな!!」



 不機嫌な小太りの男性を宥めようとする若い男性だったが火に油。テーブルでばか騒ぎしている客達に負けず劣らずの大声を発する。そんな二人の様子に巻き髭の男性が酒を片手に口を漏らす。



 「ならば……あそこでもっと食い下がれば良かったじゃありませんか?」



 「っ!!!……それが出来ればやっていた……」



 小太りの男性は歯切れが悪そうに答える。先程の怒りがまるで嘘の様だった。



 「ギャブラーから『無様だ』と警告を受けた以上、あのまま食い下がれば俺の立場は危うい物となる……」



 「正に……賢明な判断であると言えますね」



 「だけど……だけどよ!! このままじゃ、俺の怒りが収まらねぇ!! やっぱりもう一度カジノに戻ってあの女を……」



 そう言って席から立ち上がろうとする小太りの男性に一人の女性が歩み寄って来る。



 「ねぇ、男三人で酒を飲んでもつまらないでしょ? 良かったら私達と一緒に飲まない?」



 「あ? 誰だお前……?」



 女性は真っ赤なドレスを身に纏っていた。乳房がはみ出てしまう様な過激なドレス。背中などの素肌は殆ど見えてしまっている。そんな色っぽい雰囲気を醸し出している女性誰であろう“エレット”である。頭の角は髪の盛り上がりを利用して上手く隠している。その為、何処から見てもセクシーな女性にしか見えない。



 「ねぇ、良いでしょ? 折角飲みに来ているのにそんなつまんない顔して飲んでたら、お酒が不味くなっちゃうわよ」



 「…………」



 エレットの薄く紅が塗られた麗しい唇が動く度、妖艶な雰囲気に包まれる。小太りの男性はエレットのグラマラスな肢体に目を奪われる。すると巻き髭の男性が声を掛けて来た。



 「私達……っと仰っていましたが……他の方はどちらに?」



 「焦らないで……皆、出て来て良いわよ」



 エレットが声を掛けると、店の入口の方から二人の女性がやって来た。一人は白いドレスを纏っており、まるでお人形さんの様な可愛らしさであった。もう一人の女性は黒いドレスを纏っており、エレットに負けず劣らずのグラマラスな肢体をしていた。この二人の女性、誰であろう“リーマ”と“ハナコ”である。二人とも恥ずかしそうに顔を赤らめていた。



 「へぇー、可愛いね。良いよ、一緒に飲もうよ」



 「おい!! 勝手に決めるな!! 俺はこれから行く所があるんだ!!」



 「まぁまぁ、良いじゃないですか。それに今から行ったとしてもあの女性がいるとは限らないですよ?」



 「…………ちぃ!!!」



 若い男性がエレット達に対して鼻の下を伸ばしながら迎え入れる一方、小太りの男性はそれでもカジノに向かおうとする。巻き髭の男性はそれを宥め、何とか席に座り直させた。



 「隣に座っても良いかしら?」



 「どーぞどーぞ、遠慮無く!!」



 若い男性は率先してエレット達を席へと誘導する。結果、若い男性にはリーマ、巻き髭の男性にはハナコ、小太りの男性にはエレットが付く事になった。そんな一連の様子をばか騒ぎしているテーブル側に紛れて見つめる二つの人影があった。



 「本当にこんな作戦で大丈夫でしょうか?」



 「さぁな……俺達は信じて見守る事しか出来ない」



 その正体は勿論真緒とフォルスの二人であった。ばか騒ぎしている客達の気配に隠れてエレット達を見張っていた。



 「ハナちゃん、リーマ……大丈夫かな……やっぱり私が行った方が……」



 「エレットにも言われただろう。お前は顔が割れてる。あの薄暗の中、顔を認識されていないのはハナコとリーマだけなんだ」



 「分かってますよ……でもだからって……あの二人に男性を骨抜きにする事が出来るんでしょうか?」



 「……それは……」



 言葉が詰まるフォルス。そもそも何故真緒達がこんな事をしているのか。始まりはエレットの立てた作戦からだった。







***







 「「「「誘惑大作戦!!?」」」」



 裏通りに真緒達の大声が響き渡る。そのあまりの大声にエレットは人差し指で耳を塞ぐ。従業員が確認しに来ないのが奇跡だった。



 「煩いわね……そんな大声出さないでよ。気付かれたらどうするつもり?」



 「で、でも誘惑って……あの誘惑ですか!?」



 「そうよ、女が男を骨抜きにするあの誘惑よ」



 「そうか、エレットはサキュバス……男を手玉に取るなんて朝飯前だろうな」



 「な、成る程……つまりエレットさんがギャブラーを骨抜きして幸運のコインを手に入れる……「それは無理よ」……えっ?」



 作戦の意図を理解したと思った矢先、全否定される真緒。エレットの方を見ると、エレットは気まずそうに目線を真緒達から逸らしていた。



 「いや……実はあなた達に会う前に一度、あの男を誘惑して見たんだけど……」







***







 それは真緒達がオーロを訪れる数日前、サタニアの命令でカジノに潜入していたエレットは、その魅惑の体と巧みな話術を駆使してディーラーの一人を骨抜きにして、ギャブラーの下まで案内させていた。



 「それじゃあ……あのピエロの様な格好した殿方がギャブラーなのね」



 「は、はい!! そうです!!」



 「そう、案内ご苦労様」



 「あ、あの……約束のキスは!!?」



 「…………」



 するとエレットは無言のまま、ディーラーのおでこに唇を付けた。



 「あぁ!!!」



 ディーラーは満足したのかその場に倒れ、失神した。エレットは鼻で笑い、ギャブラーの下まで歩み寄る。



 「(魔王様からは偵察だけって言われているけど……あの程度の男、一瞬で骨抜きにして幸運のコインを手に入れて見せるわ)」



 するとエレットは突然歩幅を変え、ギャブラーがこっちに振り返ると同時に目の前で前のめりに転べる様、強かに計算した。



 「きゃあ!!?」



 「おやおや?」



 「(完璧なタイミング……後はこの男が私を優しく受け止めるだけ……そうしたら出来る限り自然に体を密着させて会話をし……)」



 しかしそこでエレットの思考は強制的に終了した。何故なら、前のめりに転んだエレットをギャブラーは受け止める所か避けたのだ。そのせいでエレットは顔面から床に倒れ込む形になってしまった。



 「痛ったーい……」



 「おぅ、これはこれは大丈夫?」



 勢い良く倒れ込んだエレットの様子にギャブラーが声を掛けるが手を差し伸べたりはしない。



 「え、えぇ……平気よ……(何なのこの男!!? 避けるのはまだしも倒れた女性に手を差し伸べないだなんてどうかしてるんじゃないの!!? ……落ち着きなさい……ファーストコンタクトは失敗しちゃったけど、まだチャンスは幾らでもある……)」



 するとエレットは立ち上がる直前、下唇を噛み切って血を出した。



 「(名付けて“口から血が……僕が避けてしまったばっかりに……償わせて下さい……何か僕に出来る事はありませんか?”作戦!! これを切っ掛けに会話の幅を広げるのよ!!)」



 意を決して立ち上がり、ギャブラーの方に振り向くエレット。確りと下唇の血が強調される様、敢えて拭き取らずそのまま放置する。下唇から流れ出る血が床に滴り落ちる。



 「(さぁ、怪我に触れなさい!!)」



 「そうですか。それじゃあ、ごゆっくりお楽しみ下さい」



 「!!?」



 安否を確認したギャブラーは、何事も無かったかの様にその場を後にする。そんなギャブラーの素っ気ない態度に呆然と立ち尽くすエレット。下唇からは未だに血が滴り落ちていた。







***







 「そ、そんな事が……」



 「あの男、並々ならぬ精神の持ち主だったわ。女性に対してあそこまで辛辣な態度を取るだなんて……最低な糞野郎よ」



 「見た目といい中身といい……何だかそのギャブラーって人、エジタスさんに酷似してますね……」



 「全然似てないよ」



 「マオさん?」



 「師匠はもっと女性に優しいし、そんな目立った行動は取らない。寧ろ師匠なら誘惑して来たエレットさんを懐柔すると思う」



 「「「「…………」」」」



 絶対的なエジタス信者。真顔で答える真緒の姿は仲間達にすら恐怖を覚えさせた。



 「あなた……魔王様と同じ事を言うのね」



 「同じ事って?」



 「この話を魔王様にしたら、全く同じ返答をしたのよ」



 「当然だね。サタニアは私が唯一認めるライバルだからね」



 真緒の気迫に押されながらも、話の軌道を修正するエレット。



 「……まぁ、その話は置いといて……残念だけど私の誘惑はギャブラーには通用しなかった」



 「じゃあいったい誰を誘惑するんですか?」



 「いたじゃない、あの男と縁が深そうな男三人が……」



 「男三人……ま、まさかあのVIPルームにいた三人ですか!?」



 「そうよ、あの三人だったらギャブラーについて何か情報を持っている筈よ」



 「成る程……“将を射んと欲すればまず馬を射よ”……という事だな」



 「そう言う事よ。それじゃあ早速あの三人を誘惑する美女を選抜するわよ。一人目は勿論私……二人目は……」



 そうしてエレットの指示によって、三人の男性を誘惑する美女が選抜され、冒頭の酒場に繋がるのであった。
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