笑顔の絶えない世界 season2 ~道楽の道化師の遺産~

マーキ・ヘイト

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第五章 冒険編 幸運の巣窟

忠犬

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 「『まぁ、でも……楽しかったから良いか……』……って、全然良く無いですよ!!」



 誘惑大作戦を無事に終え、酒場を後にした真緒達は人気を避けて裏路地に身を隠す。ドレスから替えの服に着替える中、エレットのスキル“誘惑”を使えば実はもっと簡単であった事が発覚した。



 「それだったら別に私達要らなかったじゃないですか!?」



 「そうカリカリしないで。それにあなただって結構ノリノリだったじゃない?」



 「っ!! そ、それはそうしないと情報を得られないと思ったから無理してやってたんです!!」



 「本当に~? 無理している割にはあんなに体を密着させてたけど?」



 「うぅ……ちょ、ハナコさんも何か言って下さいよ!!」



 これ以上の反論は不利と考えたリーマは、同じ境遇に置かれていたハナコに助けを求める。



 「ん? オラは楽じがっだよぉ、美味じい物が沢山食べられだがらなぁ」



 「聞く相手を間違えた……」



 しかしハナコ本人はエレットと同じく楽しんでいた。諦めた様にリーマは肩を落とす。



 「そんなに落ち込まない。貴重な経験が出来たと思えばそれで良いじゃない」



 「それはそうですけど……」



 「おい!! いつまでチンタラしているんだ!? 着替え終わったなら早くこっちに来てくれ!!」



 エレットがリーマを慰める中、奥の方からフォルスの呼び掛ける声が聞こえて来た。



 「あっ、はい!! 今行きます!!」



 エレット、リーマ、ハナコの三人は慌てて着替え終わると、フォルスのいる方へと駆け寄る。するとそこにはフォルスの他に真緒がいた。そして二人の目の前には縄で両手両足を拘束されている若い男性、巻き髭の男性、小太りの男性の三人がいた。



 「遅いぞ」



 「すみません」



 「フォルスさん、女の子の着替えは大変なんですよ」



 「そうだぞ鳥人君。女性の着替えを急かすのは紳士としてあるまじき行動……仮にも君は男だ、男は女性を敬わなければね」



 「何故お前なんかに、そんな事を言われなければいけないんだ」



 女性三人の着替えを急かした事で叱られるフォルス。真緒だけじゃなく、何故か巻き髭の男性にまで叱られてしまった。



 「さてと……全員揃った所でそろそろ話して頂きましょうか?」



 「まさか……あなたの差し金とは思いもよりませんでしたよ」



 「いやぁ、ビックリだったよ。まさかマオちゃんの仲間達がこんなに美人揃いだったなんて」



 「…………」



 三人の内、巻き髭の男性と若い男性は騙された事に驚き、小太りの男性だけは無言を貫いていた。



 「あなた達三人はオーロカジノの総支配人ギャブラーと随分仲が良いみたいですけど……どう言う関係なんですか?」



 「…………」



 「……私達は同じスラムで育った仲なのですよ『おい!!』……もう諦めましょう……そろそろ年貢の納め時……私達は甘い汁を啜り過ぎたのですよ」



 「同じスラムとはどう言う事ですか? 前にお聞きした時は皆さん上流階級の中でもかなり上だと仰っていましたが……?」



 「……僕達はギャブラーが稼いだお金を元手に成功した口なのさ『お前まで!!』……諦めが悪いよ……潔く敗北を認めてこそ、格好良いと思わない?」



 「腑抜けどもが!! 絶対俺は認めたりしないぞ!! 必ずこの縄から抜け出して、復讐してやるからな!!」



 往生際の悪い小太りの男性。二人が呆れた顔をしていると、エレットが小太りの男性の前に歩み寄る。



 「な、何だ!!? ど、どんな拷問をしようが俺は決して屈指はしないぞ!!」



 「スキル“誘惑”」



 妖しげなピンクの靄が小太りの男性の顔を包み込む。それなりに抵抗を見せるが、しばらくして大人しくなった。そして…………。



 「うひゃあああ!!! 俺はあなたの忠犬でございます!! 何なりとご命令下さい!!」



 「「「「「「…………」」」」」」



 目がとろんとなり、舌を出しながら涎を地面に溢して、両手両足が縛られた状態でエレットに対して情けなく懇願する小太りの男性の姿がそこにはあった。



 「……こう見えて暇じゃないの、聞かれた事だけに答えなさい」



 「お任せ下さい!!」



 「他の二人も分かったわね?」



 「「わ、分かりました!!」」



 一瞬にして男性の心を掌握したエレット。その姿はサキュバスという名に恥じない程、立派であると感じ取れた。



 「さっ、聞きたい事があるなら聞きなさい」



 「あっ、はい!! えっとまずカジノで没収した武器や防具は何処に保管されています?」



 「それなら恐らく“地下”だな」



 「地下?」



 「オーロカジノは纏まった金や巻き上げた金品や貴重品を地下にある金庫に仕舞い込むんだ。君達の武器や防具はその金庫に仕舞われていると思う」



 「成る程……つまり幸運のコインもその金庫に仕舞われている可能性が高いな」



 「そうですね、因みに三人は幸運のコインの事は知っていますか?」



 「勿論、私達がこうして大金持ちになれたのもギャブラーが持っている幸運のコインのお陰なんですから」



 「奪おうとは考えなかったのか?」



 「そりゃ当然考えたさ。特にそこでハァハァ息遣い荒立てている忠犬さんはな」



 「わん?」



 最早思考という概念が無くなり、完全な犬と化していた。人間の尊厳を失った男の悲しい成れの果てと言えよう。



 「ならどうして?」



 「あのコインを扱えるのはあいつだけだと気づいたからさ」



 「どう言う意味だ?」



 「幸運のコインにはリスクが存在しているのですよ」



 「リスク?」



 「どんな物事に対しても必ず勝利を収める事が出来る……けどそれはコイントスに当たった場合の話、外れた場合どうなるか分かりますか?」



 全員首を横に振る。その様子に巻き髭の男性はまるで思い出したく無い過去を口にしようと、躊躇いながらも唇を震わせてゆっくり口を開いた。



 「ある日、ギャブラーは興味本意でカジノの従業員にコイントスをさせました。結果は外れ、その瞬間従業員は命を落としました」



 「「「「「!!?」」」」」



 「理由は分かりません、コインの呪いなのか前触れも無く突然命を落とすのです。しかしギャブラーはそこでは止まらず、他の従業員にもコイントスを強要させました。その結果十人の内、八人がコイントスを外し命を落としたのです」



 「失敗したら命を落とすのか……あまりにリスクが高過ぎる……」



 「その代わり、成功した時の効果は絶大という訳ね……でもそれならどうしてギャブラーは命を落としていないの? あの男だって総支配人になる為に何十回もコイントスをしている筈よね?」



 「外した事が無いのさ」



 「えっ?」



 「ギャブラーは今の今までコイントスを外した事が無いのさ」



 「そ、そんな馬鹿な!!? 確率は二分の一だぞ!? いくら運が良いと言ってもそこまで……」



 「運じゃないのさ。あいつのコイントスにはトリックがあるのさ」



 「トリックだと!?」



 「特別に教えてやるあいつの大胆不敵なトリックを……」



 若い男性は語り出した。ギャブラーがこれまで行って来た100%当たる魔法の様なコイントスの仕組みを。それを聞いた真緒達は驚きの表情を隠せなかった。



 「そ、そんな単純な……」



 「単純だからこそ盲点なのさ。まさかカジノの頂点に位置する男がそんなセコい手を使っているだなんて想像も付かないだろうからな」



 「さて、私達が知っている事は全て話しましたよ。そろそろ解放して頂けないでしょうか?」



 全てを話したという事で解放を望む巻き髭の男性と若い男性。すると真緒達は互いに目配せをし合うとエレットが二人の前に歩み寄る。



 「残念だけどそれは無理よ、あなた達がギャブラーに報告しないとは限らない。だからしばらくの間、ここで縛られて貰うわよ。スキル“誘惑”」



 「あぁ、やっぱりこうなりますか……」



 「あんな惨めな姿になるなんて最悪だな……」



 こうなる事を予め予測していたのか。二人は甘んじて受け入れるのであった。そしてエレットから発せられたピンクの靄が二人の頭を包み込む。







***







 「……取り敢えず武器や防具が何処に保管されているのか分かったが……地下とはな」



 「もう一度、あのカジノに行かないといけませんね」



 「だがどうやって? 今の俺達にはカジノに潜入する為の資金も何も無いんだぞ?」



 「閉店後に行げば良いだぁ!!」



 「無理よ、あのカジノの営業時間一日二十四時間で年中無休よ」



 「別の出入口からこっそりと侵入して盗むってのはどうですか?」



 「見ただろう? あの尋常じゃない警備員の数……それにこっそり侵入出来たとしても、金庫はどうやって開けるんだ? 俺達はその金庫がどんな金庫なのか全く知らないんだぞ?」



 「そうでした……金庫についてはさすがにあの三人も知りませんでしたからね」



 そう言いながらリーマは、エレットのスキルによって忠犬と化した三人を哀れみの目で見つめる。



 「あの……ちょっと良いかな?」



 「どうしたマオ?」



 「……これ、使えないかな?」



 そう言って真緒は鞄の中から一つの指輪を取り出した。真紅の宝石が嵌め込まれている指輪を。



 「お前……それ!?」



 「マオぢゃん、ぞの指輪っで……!?」



 「“真・変化の指輪”……」



 「へぇー、それが噂の指輪ね……」



 真緒が取り出したのはアイラ村での事件の時に手に入れていたロストマジックアイテムの一つ、“真・変化の指輪”だった。



 「カジノで武器や防具を預ける時、流石にこの指輪だけは預けるのは危険だと考え、咄嗟に着替えの鞄に入れていたんです。そのお陰で没収からは逃れる事が出来たんです」



 「そうだったのか……でも、いったいその指輪でどうするつもりなんだ?」



 「……この指輪を使ってギャブラーに変化します」



 「「「「!!!」」」」



 「そうか……真・変化の指輪は身長、体重、そして記憶までも変化する。もしギャブラー本人に変化する事が出来れば、カジノの構造やどんな金庫が使われているのか手を取る様に分かるという事だな!!」



 「名案ですよマオさん!!」



 「流石マオぢゃんだぁ!!」



 「でもさ……それってつまりあなた一人でカジノに乗り込むって事じゃないの?」



 エレットに指摘され気が付いた三人。真緒一人で危険なカジノの地下に行かせる訳にはいかない。しかしだからと言って、他に良い手が無いのも事実。いったいどうすれば良いのか、三人は思わず俯いてしまった。



 「……皆、心配しないで……」



 「マオぢゃん……」



 「マオさん……」



 「マオ……」



 「必ずまた皆の下に戻って来る事を約束する……だから私を信じて……」



 「マオぢゃん……分がっだだぁ……オラ、マオぢゃんが無事に戻っで来る事を信じで待づだぁ!!」



 「私も……信じて待ちます!! マオさん、危険だと感じたらすぐに戻って来て下さいね!!」



 「……あまり遅くなるなよ、そうじゃないと俺達の方から迎えに行くからな」



 「皆……ありがとう……それじゃあ早速……指輪を嵌めるよ……」



 皆の了解を得た真緒は意を決して、“真・変化の指輪”を指に嵌めた。



 「…………」



 「「「「…………」」」」



 しかし何も起こらなかった。



 「あれ? 何も起こらない?」



 「もじがじで壊れでいるどがぁ?」



 「どうだマオ? 何か体に変化は感じるか?」



 「今の所特には……っ!!?」



 その瞬間、真緒の脳裏に見覚えの無い景色が広がる。知らない筈なのにまるで元から記憶にあったかの様な感覚に落ちる。それは紛れも無いギャブラー自身がこれまで体験して来た記憶であった。
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