《完結) エフ -- 夢見るありすと、ある兄弟の物--

夜の雨

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クラスメイト 《竜之介》

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「よお」
軽い調子でクラスメイトが声をかけてきた。

彼の名前は吉田桃。
彼は僕の友達のなかでちょっと変わった存在だった。
クラスでは明るいムードメーカーで、交友関係も広いけれど、どこかのグループに入るというようなことはなくて、どこか飄々とした印象を持っていた。
人の心にすっと入ってくる気やすさがあるのに、決して人の心に土足で踏み込むようなことはしない。人のプライバシーに踏み込まないというのだろうか。
まず、僕と有栖は男女の双子でそれだけで人は興味を持つらしい。たいてい下世話な想像も含めてあれこれ尋ねてくる。
ましてや有栖はあの可憐さだ。
男どもときたら、僕と親しくするのは、僕と友達になりたいんじゃなくて、有栖に近づきたいからなんじゃないかと勘繰ってしまいほど、事あるごとに彼女の身辺を探ろうとする。
全く油断も隙もないというか…おかげで逆にどこのガードを硬くしたらいいかわかりやすくて助かるのだが…。
ここは兄と意見のわかれるところで、兄はいい男であるならば、本気で有栖が付き合ってもいいと思っているらしかった。
高校生男子に、有栖の相手に見合う、そんな紳士的で本当の安心できるいい男なんているわけないだろ。

僕自身の中にあるドス黒い感情を吐き気がするほど知っているから確信できる。
どんな紳士的な男だって、彼女と2人きりになれば、本能をくすぐられてしまうに違いない。
いつか有栖に恋人ができるようなことがあったとしても、それは理性的に動けて自制の効く大人でなければ僕は認めない。

それでいうと桃だけは、俺や有栖に対する下世話な詮索や興味を示すようなことがなかった。
それでいて、こちらの事情や気持ちをすっと汲み取ってくれるような、察しの良さがあった。
「あれ、今日は有栖ちゃんは一緒じゃないんだね」
今日もするっと隣にやってきて、そう声をかけてきたが、なぜかそこに詮索の色はなく、ただただ言葉どおりの意味だった。
「ああ……有栖は今日はちょっと調子悪くてね」
僕がいうと、そっか…とさらりと返す。
思えば、他の男子は「有栖さん」もしくは「立花」「立花さん」と呼ぶのに、桃だけは「有栖ちゃん」と気軽に呼ぶ。その気やすさも嫌味がなかった。

ふと出来心で、僕は尋ねた。
「なあ、桃…有栖ってどう思う?」
すると桃はきょとんとした顔をして
「竜之介の姉ちゃん」
即答してくる。それ以外になんの答えがあるの?と言ったかんじだ。
そういう意味じゃなくて…という僕の表情をすぐさま読み取って、
「有栖ちゃんか…この上なく可憐だよね」と、またさらりと答える。
そうか、やっぱり桃から見てもかわいいか。
そして窓の外を見ながら、
「有栖ちゃんも、竜之介も大変そうだね」とぽつりと付け加えた。

なんでもないことのような軽さで。
桃のそんなところが好きだった。
「大変だよ」と返すと、桃は少し笑った。

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