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魔王の住処 《竜之介》 *暴力描写あり
しおりを挟む「よく来れたな、この場所に」
会うなり父はそう言った。
数年前の母の葬式以来会っていなかったがあまり変わっていない。
年齢より若く見えるほうなのだろうか、整った顔は兄と似ているが、銀色のフレームの眼鏡と眉間の皺が彼を神経質な印象にしている。
鍛えているのか、程よく筋肉がついた身体は僕よりひとまわり大きかった。
窓の外の海に落ちてゆく夕日に、父の眼鏡のフレームが反射して光った。
僕は父を睨みつける。
「馬鹿にするな…それくらい簡単にわかるさ」
僕が声を押し殺して言うと、父は低く笑った。
「そういう意味じゃない…私と有栖が愛し合った場所って意味だよ」
父の言葉に身体中の血が沸騰しそうなほどの怒りが込み上げる。
今すぐに飛びかかって胸ぐらを掴みたい衝動に駆られる。
耐えろ…。
冷静になれ。
「何が…何が愛だ……あんなの、酷いレイプじゃないか……」
できるだけ冷静に言い返そうとしたが、怒りで声が震える。
父はどこか興味深げに僕を見ている。
どうしてそんな余裕でいられるんだろう、自分の行いに疑問も後悔もないのだろうか。
「有栖はどうしてる…?お前たちのところに帰っているんだろう」
父は僕の言葉を無視する。
「有栖がどんなに苦しんでいるのか、考えたことがあるか……。有栖は…有栖はあんたを愛していた…もちろん父親として……」
僕の言葉を遮って父が続ける。
「そして今も愛している…だから、苦しんでいる……そうだろう?」
父が長い指で顎を擦るように触る。彼が自信がある時しぐさだ。
そうだ、父は、有栖の優しさにつけこんでいる。
いっそ有栖が父を心の底から憎むことができたなら…。
僕は拳を握りしめる。
「おまえならわかるだろう……自分のことで苦しむ姿ほど愛しいものはない……どんなに残酷に扱っても、有栖は私を憎めない。もがき、苦しんでもだ、必死に愛そうとするだろう……そんな娘を私が手放せると思うか……?」
思わず、壁に父を叩きつけるように押さえつけた。
「生憎、俺は兄貴と違って紳士じゃないんでね…」
ギリギリと父の首を締め付ける。
「……いい表情だな、竜之介……あの頃中学生の鼻垂れだったお前がこんなことできるようになったのか。お前は本当に私に似ているよ……」
父はにやにやしている。僕は唇を噛んで父を睨みつけた。
「でも。まだ、甘すぎるな…」
そう言うと、父は僕の腹を思い切り蹴り上げた。
「ぐっ…ぅ…!」
僕は父から引き剥がされるように床に倒れた。父の蹴りはあまりにも重く、容赦がなかった。転がっている僕の腹を何度も執拗に蹴り上げる。
「なぜ有栖の拘束を解いたかわかるか?縛ってなどいなくても、有栖は私から離れられないからだよ…法律の上も、有栖の性格上も…だ。3年前から、いや、もっと前から有栖は私のものなんだよ。私のところに娘として来たときから。ずっと私に囚われているんだよ……」
父は、勝ち誇ったように笑いながら僕を見下ろしている。
僕は激しく咳き込みながら立ち上がる。
「お前たちの気持ちだって親だからお見通しだ。まったく大した女だよ有栖は。あの可憐ななりで親子3人誑かすとはな……。
だからこそゾクゾクするほどの快感なんだよ…有栖を抱くのはな……お前たちができないことを、私はできる」
そう言って立ち上がりかけた僕の胸ぐらを掴むと、天井まで聳える書架に叩きつける。
ーーー狂ってる
反動でバサバサと本が床に落ちた。
打ちつけた頭がくらくらした。後頭部が切れたっぽい。生暖かい液体が首筋を流れて背中を伝うのを感じた。
まだ有栖が家に来る前に、父の気に障り、投げ飛ばされた幼い頃の思い出がいくつも蘇る。
もう怖くない。
有栖がいるから。
有栖は僕にひとときの幸せな家族の団欒をくれただけじゃなく、
同時に勇気も生きる意味もくれた。
有栖を守りたい。
その思いだけが僕の身体を突き動かす。
「どうした、竜之介?反抗的な目だな…」
父がそう言って拳を振り上げるのが見えた。僕は咄嗟に右腕で顔をかばうが、骨の軋む嫌な音がした。
これくらいでいいだろうか。
反撃のターンだ。
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