篠崎×安西(旧カルーアミルク)

gooneone(ごーわんわん)

文字の大きさ
27 / 52

4-8

しおりを挟む

 朝になり、普段起きる時間になっても諒は起きなかった。幸い今日は日曜日で仕事も休みなのだしとそのまま寝かせておくことにした。
 しばらく様子を見ていたけれど起きる様子はない。とりあえず一度トイレに抜けてすぐに戻ることに決めた。
 そして用を足し終え、寝室に戻ろうとしたとき、開けっ放しにしておいたドアから小さな声が聞こえた。
「ごめ……ごめ……」
「諒?!」
「あ……しのざき……」
 諒はまた静かに泣いていた。ベッドの上で小さくなって。
「諒、すまない、怖かったな。トイレに行っていたんだよ」
「しのざき、しのざき」
 諒が縋りついてくる。不安にさせてしまった。
「大丈夫、もう一緒だよ」
 ぎゅっと抱きしめ背中を撫でてやる。知らない場所で起きたら一人きり。とても怖かっただろう。
「ごめんなさい、いいこになるから」
「諒くん、諒くんはいいこだよ」
「だから置いて行かないで」
 あぁ、泣きながら謝っていたのはきっとこれだったのだ。ごめんなさい、いいこになるから帰って来て、そう言いながら一人で静かに泣いていたのだ。
「一緒にいるよ。置いて行かない。怖かったな、すまなかった」


 十分程で諒は落ち着きを取り戻した。一緒に洗面を終えて、冷蔵庫の前に立つ。
「朝ごはんは何がいいかな」
「食べてもいいの?」
「みんな毎日三回食べるんだよ」
「オムライス」
「うーん、オムライスか」
 希望を聞いてやりたいと思ったものの、なるべく色々な経験をさせてやりたいとも思った。それにチキンライスはもうない。
 諒に謝って、結局トーストとトマト、ゆで卵にすることにした。卵はこんこんして剥くのだと諒が教えてくれて、二人分一生懸命剥いてくれた。
「緑のついてない」
「緑の?」
 その疑問は諒がトーストを食べようとしたときの疑問だった。
「緑のぶつぶつ」
 すぐに分かった。カビだ。諒はカビの生えたパンしか知らないのだ。
「……うん、美味しいから食べてごらん」
 それから諒はトーストも初めてだったようだ。焼いていない、カビの生えた食パンしか食べたことがないと――。
「おいしい!」
「うん、美味しいな……」
「しのざき?」
 やはりこちらの表情が曇ると諒は即座に反応をしてしまう。暗い顔を見せてはいけないと自分を戒める。
「卵、上手に剥けたな。美味しそうだ。諒くんは料理の才能がある」
「ほんと?」
「あぁ……うん、美味しい。自分で剥くより諒くんが剥いてくれた方が美味しい」
 諒は嬉しそうに笑った。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

処理中です...