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しおりを挟む朝になり、普段起きる時間になっても諒は起きなかった。幸い今日は日曜日で仕事も休みなのだしとそのまま寝かせておくことにした。
しばらく様子を見ていたけれど起きる様子はない。とりあえず一度トイレに抜けてすぐに戻ることに決めた。
そして用を足し終え、寝室に戻ろうとしたとき、開けっ放しにしておいたドアから小さな声が聞こえた。
「ごめ……ごめ……」
「諒?!」
「あ……しのざき……」
諒はまた静かに泣いていた。ベッドの上で小さくなって。
「諒、すまない、怖かったな。トイレに行っていたんだよ」
「しのざき、しのざき」
諒が縋りついてくる。不安にさせてしまった。
「大丈夫、もう一緒だよ」
ぎゅっと抱きしめ背中を撫でてやる。知らない場所で起きたら一人きり。とても怖かっただろう。
「ごめんなさい、いいこになるから」
「諒くん、諒くんはいいこだよ」
「だから置いて行かないで」
あぁ、泣きながら謝っていたのはきっとこれだったのだ。ごめんなさい、いいこになるから帰って来て、そう言いながら一人で静かに泣いていたのだ。
「一緒にいるよ。置いて行かない。怖かったな、すまなかった」
十分程で諒は落ち着きを取り戻した。一緒に洗面を終えて、冷蔵庫の前に立つ。
「朝ごはんは何がいいかな」
「食べてもいいの?」
「みんな毎日三回食べるんだよ」
「オムライス」
「うーん、オムライスか」
希望を聞いてやりたいと思ったものの、なるべく色々な経験をさせてやりたいとも思った。それにチキンライスはもうない。
諒に謝って、結局トーストとトマト、ゆで卵にすることにした。卵はこんこんして剥くのだと諒が教えてくれて、二人分一生懸命剥いてくれた。
「緑のついてない」
「緑の?」
その疑問は諒がトーストを食べようとしたときの疑問だった。
「緑のぶつぶつ」
すぐに分かった。カビだ。諒はカビの生えたパンしか知らないのだ。
「……うん、美味しいから食べてごらん」
それから諒はトーストも初めてだったようだ。焼いていない、カビの生えた食パンしか食べたことがないと――。
「おいしい!」
「うん、美味しいな……」
「しのざき?」
やはりこちらの表情が曇ると諒は即座に反応をしてしまう。暗い顔を見せてはいけないと自分を戒める。
「卵、上手に剥けたな。美味しそうだ。諒くんは料理の才能がある」
「ほんと?」
「あぁ……うん、美味しい。自分で剥くより諒くんが剥いてくれた方が美味しい」
諒は嬉しそうに笑った。
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