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四章
五十八話 アイリスの花
私がそう告げると、犯人は動揺したのだろう。
私の首元を掠めていたナイフに、ぐっと力が入ったのがわかった。
ピリッと、首筋に痛みが走る。
「ハッタリのつもりでしょう……!?」
「そう思っているのは、あなただけですよ!」
____バァン!!
勢いよく扉が開かれた音と同時に、いつものハツラツとした声が聞こえてきた。
私は安心して、そっ……と目を開ける。
そして次の瞬間……私に跨っていた犯人が、飛び出してきた二人の衛兵によって一瞬で取り押さえられた。
私は部屋の入口に立っている元気な声の主……セーラの方を見ながら、ゆっくりと口を開く。
「助かったわ。流石はセーラね。ベストタイミングだったわよ」
「ぜ、全然ベストじゃないです! 怪我してるじゃないですか! もっと早く突入の指示を出せばよかった……!」
セーラは泣きそうな声でそう言ったけれど……私の言葉で犯人が動揺していなければ、こんなにスムーズに捕まえられなかったと思う。
だから、本当にベストタイミングだったのよ。
「なんで……どうして、バレて……」
床の方から、小さく震えた声が聞こえてきた。
私は静かに、けれどもハッキリと彼女の名前を呼ぶ。
「…………舐められたものね。私はあなたが紅茶を淹れにきた時には、既に見抜いていたわよ____ベラ。いいえ、ベラの偽物さん……と言った方が正しいかしら」
「なっ…………!」
ベラの偽物がわなわなと唇を震わせる。
私は彼女を冷ややかな目で見下ろしながら、彼女に言葉を投げかけた。
「あなたは、ベラの声真似も仕草も、変装も完璧よ」
「じゃあ、なんで……!」
「簡単な話よ。ベラが好きな花は薔薇じゃなくて、アイリスなの」
「は……? そんな、ことで……?」
……『そんなこと』なんかじゃない。
ベラがアイリスの花を好きになってくれたきっかけは、私にとっても大切な思い出だもの。
それに、本当は彼女に好きな花を尋ねる前から、ベラが偽物であることには気付いていた。
だって、彼女の格好には明らかに不自然な箇所があったから。
でも、そんなこと……ぽかんと口を開けている彼女に教えてあげる義理はない。
「……今度は私が尋ねる番ね。ねぇ、本当のベラの居場所を教えてもらえるかしら。……もちろん答えなかったら……わかるわよね?」
「ひっ……!」
床に抑え込まれている彼女の首元に、剣先が突きつけられる。
彼女は引き攣った声を漏らしながら、「いうから、いうから殺さないで……!」と命乞いをした。
「なら、さっさと教えてちょうだい」
「……レインフォード伯爵家の……地下牢よ……!」
「……地下牢?」
聞きなれない単語に、思わず目を見開いた。
ベラがレインフォード伯爵家にいるだろうことは察しがついていたけれど、地下牢ですって?
そんなもの、私は知らない。
もしかして、私が家を出てからそんなものを作ったというの……!?
一体、何のために……。
いいえ、それよりも……今はベラを救うことを考えなければ。
「あなたの裏にいるのは、お母様……いえ、レインフォード伯爵夫人で間違いないわね?」
「っはい、そうです……」
「そう、ありがとう。証人もいることだし……これで証拠はバッチリね」
私はそう言って、優しく彼女に笑いかけた。
紅茶を淹れてくれた時のような、穏やかな笑みで。
それから私は、セーラ達に堂々と宣言したのだった。
「では……行きましょうか。本物のベラを助けに。____そして、本物の悪を裁きに、ね」
私の首元を掠めていたナイフに、ぐっと力が入ったのがわかった。
ピリッと、首筋に痛みが走る。
「ハッタリのつもりでしょう……!?」
「そう思っているのは、あなただけですよ!」
____バァン!!
勢いよく扉が開かれた音と同時に、いつものハツラツとした声が聞こえてきた。
私は安心して、そっ……と目を開ける。
そして次の瞬間……私に跨っていた犯人が、飛び出してきた二人の衛兵によって一瞬で取り押さえられた。
私は部屋の入口に立っている元気な声の主……セーラの方を見ながら、ゆっくりと口を開く。
「助かったわ。流石はセーラね。ベストタイミングだったわよ」
「ぜ、全然ベストじゃないです! 怪我してるじゃないですか! もっと早く突入の指示を出せばよかった……!」
セーラは泣きそうな声でそう言ったけれど……私の言葉で犯人が動揺していなければ、こんなにスムーズに捕まえられなかったと思う。
だから、本当にベストタイミングだったのよ。
「なんで……どうして、バレて……」
床の方から、小さく震えた声が聞こえてきた。
私は静かに、けれどもハッキリと彼女の名前を呼ぶ。
「…………舐められたものね。私はあなたが紅茶を淹れにきた時には、既に見抜いていたわよ____ベラ。いいえ、ベラの偽物さん……と言った方が正しいかしら」
「なっ…………!」
ベラの偽物がわなわなと唇を震わせる。
私は彼女を冷ややかな目で見下ろしながら、彼女に言葉を投げかけた。
「あなたは、ベラの声真似も仕草も、変装も完璧よ」
「じゃあ、なんで……!」
「簡単な話よ。ベラが好きな花は薔薇じゃなくて、アイリスなの」
「は……? そんな、ことで……?」
……『そんなこと』なんかじゃない。
ベラがアイリスの花を好きになってくれたきっかけは、私にとっても大切な思い出だもの。
それに、本当は彼女に好きな花を尋ねる前から、ベラが偽物であることには気付いていた。
だって、彼女の格好には明らかに不自然な箇所があったから。
でも、そんなこと……ぽかんと口を開けている彼女に教えてあげる義理はない。
「……今度は私が尋ねる番ね。ねぇ、本当のベラの居場所を教えてもらえるかしら。……もちろん答えなかったら……わかるわよね?」
「ひっ……!」
床に抑え込まれている彼女の首元に、剣先が突きつけられる。
彼女は引き攣った声を漏らしながら、「いうから、いうから殺さないで……!」と命乞いをした。
「なら、さっさと教えてちょうだい」
「……レインフォード伯爵家の……地下牢よ……!」
「……地下牢?」
聞きなれない単語に、思わず目を見開いた。
ベラがレインフォード伯爵家にいるだろうことは察しがついていたけれど、地下牢ですって?
そんなもの、私は知らない。
もしかして、私が家を出てからそんなものを作ったというの……!?
一体、何のために……。
いいえ、それよりも……今はベラを救うことを考えなければ。
「あなたの裏にいるのは、お母様……いえ、レインフォード伯爵夫人で間違いないわね?」
「っはい、そうです……」
「そう、ありがとう。証人もいることだし……これで証拠はバッチリね」
私はそう言って、優しく彼女に笑いかけた。
紅茶を淹れてくれた時のような、穏やかな笑みで。
それから私は、セーラ達に堂々と宣言したのだった。
「では……行きましょうか。本物のベラを助けに。____そして、本物の悪を裁きに、ね」
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