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二十六話 元公爵令嬢、初デートに挑む
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「……ねぇノエル、こっちのドレスとそっちのドレスなら、どっちの方が良いかしら?」
「そこまで悩まれなくても……お嬢様が好きな方を着ればよろしいかと存じます」
「そういうわけには行かないわよ! だって、今日お会いするお方は……」
____この国の王太子なんですもの!
もちろん、そんなことは口が裂けても言えないけれど……。
言ったところでノエルには信じてもらえないでしょうし、両親にバレたら大変なことになるわ。
それこそ、「私達のセシリアが未来の王妃に!?」なんて話に飛躍しかねないもの……。
「と、とにかく、早速お誘いいただいたんだもの。相応しい格好で出掛けたいの」
私が誤魔化しながらそう答えると、ノエルは少し考えた素振りをしてから、「お相手の瞳の色は何色ですか?」と尋ねてきた。
「えっと……碧よ」
「そうですか……なら、この二つのドレスではなく、こちらのドレスの方が良いのでは?」
そう言ってノエルが持ってきたのは、殿下の瞳の色にそっくりな上品な青紫のドレスだった。
「この色なら、お嬢様の紫の髪色や瞳と合いますし、お相手の瞳の色も取り入れられて良いのでは? まぁ、以前のお嬢様は『こんな地味なドレス着れないわ!』と仰ってましたけど」
「……素敵だわ。以前の私ったら、こんなドレスをクローゼットに仕舞い込んでいたなんて……本当にもったいないことをしていたのね」
「本当ですよ、もう……」
ノエルはため息を吐きながらも、私にドレスを着させてくれた。
本当に、素晴らしいドレスだわ。
上品にあしらわれたレースも、艶のある生地も、どれも一級品ね。
これなら、レインハルト殿下の隣に並んでも……恥ずかしくはないはず。
「おぐしはどうされますか?」
「そうね……編み込んで、綺麗に纏めてくれるかしら?」
「かしこまりました。縦ロールは……」
「絶対にやめてちょうだい」
「……本当に、別人のようですね」
____まぁ、別人なんだから当たり前よね……。
ノエルは流石、セシリアの侍女を務めていただけあって、本当に仕事が早い。
あっという間に完璧な見た目に仕上げてくれて、鏡の前に立った私は思わずセシリアの姿に見惚れてしまった。
____本当に、容姿は文句なしに素晴らしい子なのよね。少し悔しいけれど、前世の私よりも綺麗だわ。
まぁ、だからこそ甘やかされて、あんな性格になってしまったんでしょうけど……。
……でも、殿下のあの美しくて穏やかな笑みを思い出すと、少しだけ物足りないような気がしてくる。
首元が少し寂しいのかしら。
そう思った直後、私は自然と殿下の瞳によく似たサファイアの首飾りを身につけていた。
うん、これならしっくりくる。
……殿下は、気付いてくださるかしら?
____って、私ったら、何を期待しているの……!?
……別に、ただの伯爵令嬢の私が、殿下と対等になれるなんて思っていない。
でも、隣に並んだ時……少しでも、胸を張れる自分でいたい。
そう思っているだけ……だもの。
心做しか赤くなっている顔をチークで誤魔化しながら、ドキドキと音を立てる心臓に知らないフリをするのだった。
***
そうして長い準備が終わった直後。
窓から、それはそれは豪華な馬車が門の前に到着したのが見えた。……王家の紋章が入っている、立派な馬車だ。
それと同時に、屋敷内がまるで襲撃にでもあったかのようにパニックになっているのが扉越しにも伝わる。
……今、「敵襲か!?」と叫んだのはお父様で間違いないかしら……。
冷静に考えて、こんな敵襲があるわけないでしょうに……。
まぁ、王家の馬車が唐突に訪ねてくるなんて普通はないことだもの、仕方ないわよね。
でも……ここまでの騒ぎになるとは思ってなかったわ。
お父様とお母様にはやっぱり先に伝えるべきだったわよね、と少し反省した。
珍しく呆然としているノエルに向かって、私は冷静に声を掛ける。
「……今日のお相手がいらっしゃったみたい。急いで向かうわよ」
「お相手って……まさか、王家の方なのですか?」
「……レインハルト殿下よ」
「なにか弱みでも握ったのですか?」
「失礼ね!?」
……実は、ほんの少し緊張していたのだけれど。
ノエルのいつも通りの毒舌のおかげで、少し緊張が和らいだわ。
部屋を出て、騒がしい廊下を早歩きで進んでいく。
侍女たちも皆、パニックになりすぎて着飾っている私の姿に気付いていないみたい。
玄関ロビーに到着すると、そこでは真っ青な顔をした両親が慌てふためいていた。
……伯爵と伯爵夫人なのだから、もう少し落ち着いて堂々としていればいいのに……。
状況をわかっているはずのギルは……見当たらない。恐らく、部屋にいるのでしょうね。
「セ、セシリア! お前はどこか安全なところに隠れていなさい!」
「そういうわけにはいきませんわよ。だって、あちらの馬車には____私のお客様が乗っていらっしゃるんですもの」
「……は、はへ?」
私はそう言って、玄関の扉を使用人に開けさせる。
____その直後。馬車から、まるで絵画のように美しい方……レインハルト殿下が降りてきたのが見えた。
……空気が変わった。
あれだけ騒がしかった屋敷内が、一瞬で静まり返るのがわかる。
私は殿下の元までゆっくり歩いて近寄ってから、スカートの裾を摘んでお辞儀をした。
殿下はそんな私を見て優しく微笑んでから、私に手を差し出てこう告げたのだった。
「今日は私の誘いを受け入れてくれてありがとう。では、行こうか。……美しいご令嬢」
「そこまで悩まれなくても……お嬢様が好きな方を着ればよろしいかと存じます」
「そういうわけには行かないわよ! だって、今日お会いするお方は……」
____この国の王太子なんですもの!
もちろん、そんなことは口が裂けても言えないけれど……。
言ったところでノエルには信じてもらえないでしょうし、両親にバレたら大変なことになるわ。
それこそ、「私達のセシリアが未来の王妃に!?」なんて話に飛躍しかねないもの……。
「と、とにかく、早速お誘いいただいたんだもの。相応しい格好で出掛けたいの」
私が誤魔化しながらそう答えると、ノエルは少し考えた素振りをしてから、「お相手の瞳の色は何色ですか?」と尋ねてきた。
「えっと……碧よ」
「そうですか……なら、この二つのドレスではなく、こちらのドレスの方が良いのでは?」
そう言ってノエルが持ってきたのは、殿下の瞳の色にそっくりな上品な青紫のドレスだった。
「この色なら、お嬢様の紫の髪色や瞳と合いますし、お相手の瞳の色も取り入れられて良いのでは? まぁ、以前のお嬢様は『こんな地味なドレス着れないわ!』と仰ってましたけど」
「……素敵だわ。以前の私ったら、こんなドレスをクローゼットに仕舞い込んでいたなんて……本当にもったいないことをしていたのね」
「本当ですよ、もう……」
ノエルはため息を吐きながらも、私にドレスを着させてくれた。
本当に、素晴らしいドレスだわ。
上品にあしらわれたレースも、艶のある生地も、どれも一級品ね。
これなら、レインハルト殿下の隣に並んでも……恥ずかしくはないはず。
「おぐしはどうされますか?」
「そうね……編み込んで、綺麗に纏めてくれるかしら?」
「かしこまりました。縦ロールは……」
「絶対にやめてちょうだい」
「……本当に、別人のようですね」
____まぁ、別人なんだから当たり前よね……。
ノエルは流石、セシリアの侍女を務めていただけあって、本当に仕事が早い。
あっという間に完璧な見た目に仕上げてくれて、鏡の前に立った私は思わずセシリアの姿に見惚れてしまった。
____本当に、容姿は文句なしに素晴らしい子なのよね。少し悔しいけれど、前世の私よりも綺麗だわ。
まぁ、だからこそ甘やかされて、あんな性格になってしまったんでしょうけど……。
……でも、殿下のあの美しくて穏やかな笑みを思い出すと、少しだけ物足りないような気がしてくる。
首元が少し寂しいのかしら。
そう思った直後、私は自然と殿下の瞳によく似たサファイアの首飾りを身につけていた。
うん、これならしっくりくる。
……殿下は、気付いてくださるかしら?
____って、私ったら、何を期待しているの……!?
……別に、ただの伯爵令嬢の私が、殿下と対等になれるなんて思っていない。
でも、隣に並んだ時……少しでも、胸を張れる自分でいたい。
そう思っているだけ……だもの。
心做しか赤くなっている顔をチークで誤魔化しながら、ドキドキと音を立てる心臓に知らないフリをするのだった。
***
そうして長い準備が終わった直後。
窓から、それはそれは豪華な馬車が門の前に到着したのが見えた。……王家の紋章が入っている、立派な馬車だ。
それと同時に、屋敷内がまるで襲撃にでもあったかのようにパニックになっているのが扉越しにも伝わる。
……今、「敵襲か!?」と叫んだのはお父様で間違いないかしら……。
冷静に考えて、こんな敵襲があるわけないでしょうに……。
まぁ、王家の馬車が唐突に訪ねてくるなんて普通はないことだもの、仕方ないわよね。
でも……ここまでの騒ぎになるとは思ってなかったわ。
お父様とお母様にはやっぱり先に伝えるべきだったわよね、と少し反省した。
珍しく呆然としているノエルに向かって、私は冷静に声を掛ける。
「……今日のお相手がいらっしゃったみたい。急いで向かうわよ」
「お相手って……まさか、王家の方なのですか?」
「……レインハルト殿下よ」
「なにか弱みでも握ったのですか?」
「失礼ね!?」
……実は、ほんの少し緊張していたのだけれど。
ノエルのいつも通りの毒舌のおかげで、少し緊張が和らいだわ。
部屋を出て、騒がしい廊下を早歩きで進んでいく。
侍女たちも皆、パニックになりすぎて着飾っている私の姿に気付いていないみたい。
玄関ロビーに到着すると、そこでは真っ青な顔をした両親が慌てふためいていた。
……伯爵と伯爵夫人なのだから、もう少し落ち着いて堂々としていればいいのに……。
状況をわかっているはずのギルは……見当たらない。恐らく、部屋にいるのでしょうね。
「セ、セシリア! お前はどこか安全なところに隠れていなさい!」
「そういうわけにはいきませんわよ。だって、あちらの馬車には____私のお客様が乗っていらっしゃるんですもの」
「……は、はへ?」
私はそう言って、玄関の扉を使用人に開けさせる。
____その直後。馬車から、まるで絵画のように美しい方……レインハルト殿下が降りてきたのが見えた。
……空気が変わった。
あれだけ騒がしかった屋敷内が、一瞬で静まり返るのがわかる。
私は殿下の元までゆっくり歩いて近寄ってから、スカートの裾を摘んでお辞儀をした。
殿下はそんな私を見て優しく微笑んでから、私に手を差し出てこう告げたのだった。
「今日は私の誘いを受け入れてくれてありがとう。では、行こうか。……美しいご令嬢」
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