不死身の拷問官は双子姫に殺されたい

岩下貝

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第1話「犠牲」

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「きゃああああああああああああああああああああ!!!!」
女の金切り声で目が覚めた。
「刃物を持っているぞ!」「逃げろ逃げろ!」
席後方、7号車からだろうか。日曜の夜の19時代、東京へ向かう新幹線車内で何かが起きたらしい。こちらの車両になだれ込んでくるパニック状態の乗客たち。
あ、血だ。
「誰か救急車を!警察…車掌さん呼んでください!娘が刺されたの!」
大勢の阿鼻叫喚に紛れて、そんな声も聞こえた。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛いっっっ!!!!」
声が近くなってきた。そして周囲の乗客は、押し合いへし合い、前方5号車へと逃げていく。
さて。怖いな。恐怖で体が震える。
…来た。
椅子の陰に隠れながら、ゆっくりと歩いて来るその男は…40代くらい?だろうか。血走った細い目、荒い息、不潔な髪、出っ張った腹の醜いおじさん。手には刃渡り20cmぐらいの包丁。握る手は赤く染まっていたが、黒いジャンバーのせいか、衣服に返り血は見えない。
男はゆっくりとこちらへ近づいてくる。
この短時間で手当たり次第に人を切りつけてきたようだ。いや、手あたり次第ではない。女性や子供を狙っている。
「ぃやぁああああああああ!!!!痛いぃぃぃい!!!」
逃げ遅れた若い女性が背中を刺された。車掌はまだ来ないし、新幹線は止まらない。次の停車駅まで1時間はあるこの時間帯が犯行のベストタイミングだったのだろう。
男は倒れた女の髪を掴んで持ち上げ、首元に刃物をあてる。俺が隠れている席のたった50cm先で。こんな場面に出くわすなんて本当に俺は……………ラッキーだ。
できるか?
できる。
できるか?
できる。
できるか?
できる。
できる。
できる!
できる!!
できる!!!
できる!!!!
できらぁ!!!!!!!!!
男に飛びかかり、覆いかぶさり、刃物を持った手を両手で抑え、馬乗りで頭突きをかます。
「なんだ!てめぇ!!!!!!」
臭い息、飛沫が顔に吹きかかり、嫌悪を感じた瞬間、ものすごい力で両手は振り払われ、腹に熱が走った。
刺された。
と思った矢先にもう一刺し。
さらに刺されて、刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて。痛いからもうやめてという言葉を出せないままに、刺されて刺されて刺されて刺されて刺されて、俺は全身血まみれになった。意識が遠のいていく。このまま確実に死ぬだろう。
……………………願いが叶った。
俺は死にたかったのだ。
30歳を超えて家賃3万円のアパートに一人暮らし。恋人もなく、仕事も来月辞めさせられる。嫌がらせのように強制された大阪出張の帰りにこんな目に遭うなんて、本当に幸運だ。自殺する勇気はなかったし、そこまでの絶望はなかった。
だからチャンスを夢見ていた。
自分がヒーローになるチャンスを。
何のとりえもない人間が事を為すには、命を差し出すしかない。
自己犠牲で死ぬ。
俺の死によって、少しでも犠牲者が減るような事態になっていたら嬉しい。ニュースとかでも取り上げてほしいな。とはいえ、もう死ぬから、それを確かめる手段はないのだけど。
そんな夢想をしているうちに意識は消えた。






「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
女の絶叫で目が覚めた。

若い女がいる。血まみれだ。刺された女、俺は助けられなかったのか……いや、違う。明らかに変だ。……ここはどこだ?……あの通り魔は?
「ひっぐ、ひっぐ……お願いです。もう許してください。私、本当に何も知らないんです…」
何を言ってるんだ? ……金髪、白い肌、青い瞳……明らかにさっきの女性じゃない!! 

嗚咽するこの女、左手がおかしい。血が噴き出していて……薬指と小指がない。
え……。俺の右手に大ぶりの鉈が血を垂らしていて、左手には、真っ赤で生温かい小枝が2本……いや、これは明らかに……人の指だ。おそらく、この女の。
「うっ、うっ、ひっぐ……ティーダの指輪なんて迷信です。これ以上の拷問で王家の血を流せというのなら、いっその事………殺してください!!!!!!!」
ようやく状況がつかめてきた。
俺はあの時ちゃんと死ねた。
ここはもう新幹線の中ではなく、たぶん日本ですらないだろう。石造りの薄暗い部屋に血の匂いが充満している。ここにいるのは俺とこの女だけ。女は半裸姿で椅子に拘束され、左手だけ木のテーブルに固定された状態。その女を痛ぶっていたのは、おそらく俺。
俺は、拷問官に転生したのだ。
自己犠牲のヒーローになりたかった俺が、人に生き地獄を味わわせる拷問官に……。

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