名探偵・桜野美海子の最期

４日目

５「桜野美海子の推理２」

　　　　５


「両者の分け方は簡単だよ。首切り殺人は首切りジャック、それ以外は獅子谷さんだ。

　細かいトリックは後回しにして、まず大まかな流れだけを追おうか。

　獅子谷さんが探偵達を招いて謎解きゲームめいた催しを行うと決め、私達を選出し、招待状を送った。

　私達がやって来た初日、その夜にモニター越しに挨拶した後、最初の問題である〈密室からの消失〉を演じた。

　深夜、能登さんを殺害した。翌日の朝に発見された、奇妙な転落死体だね。ちなみに能登さんは共犯者なんかじゃなくて、善良な使用人だよ。能登さんが疑われてたのは、獅子谷さんがいないなら、それを彼女が知っていないのはおかしいって理由からだったよね。でも獅子谷さんは存在していて、能登さんは可哀想な被害者さ。

　殺人が起きたのを見て、自己顕示欲の強い首切りジャックは『自分も自分も！』なんて思っただろうなぁ。現に直後、隙を見て霊堂くんを殺害し、専売特許である首切りをおこなった。ずっとひとりでサロンにいた彼にはアリバイがなかったね。

　この後、さっきも云ったとおり、首切りジャックは甘施ちゃんに正体を見破られそうになる。だけど甘施ちゃんの頑張りは一歩及ばず、上手く誤魔化されてしまう。

　次に首切りジャックは、私達がサロンで夕食を取っている間にエレベーターの中に枷部さんの首を置いた。さらにこのとき、彼は九〇一号室で待ち伏せした。でもそこは甘施ちゃんじゃなくて新倉さんの部屋だったんだよね。荷物で気付きそうなものだけど、部屋を移ろうとしたときに本人達が帰って来たのかな。で、新倉さんを殺害。

　一方で獅子谷さんは、深夜に香奈美ちゃんを殺害。悪い云い方だけど、香奈美ちゃんを手玉に取るくらい簡単そうだよね。香奈美ちゃんの死体は二重扉の間に置かれた。

　また次の夜、つまり昨晩になって、首切りジャックは出雲さんを殺害。その顛末は、昨日塚場くんに話したのがおおよそのところだろうね。さらに甘施ちゃんも殺害。これはいくらでも手はありそうだよ。首切りジャックなら塚場くんの声真似くらいできても不思議じゃない。だてに連続殺人鬼やってないだろうからね。

　深夜、ここで獅子谷さんが動いた。銃を使って、首切りジャックと杭原さんを殺害したんだ。首切りジャックの方は獅子谷さんがもうひとりの犯人とは分かってなかったんじゃないかな。分かってたとしても、獅子谷さんの居場所が分からず、殺せなかった。獅子谷さんの方は、意図的に首切りジャックを泳がせてたんだね。さすがにご老体だし、私達全員を殺すのは骨が折れる。そこをプロに手伝ってもらったって感じだ。私がこうして辿り着いたとおり、首切りジャックが枷部さんを装ってまぎれてたのは推理が可能だし、犯人が二人いるというのも、充分に伏線が示されてると判断したんだろう。首切りジャックを放置していても、フェアプレーを維持したまま、事件を面白くできるとね。でもいつまでも生かしてはおけないから、始末した。

　獅子谷さんが首切りジャックを殺すには、もう銃を使うしかなくなる。そうじゃなきゃ、若くて、さらに殺人に精通した首切りジャックには勝てないもん。だから銃を持ってると明かしたなら、それは首切りジャックを始末した後なんだ。銃を持ってると知られれば警戒されるからね。首切りジャックが既に殺されてるだろうと私が考えたのは、杭原さんが銃によって殺害されてたからだよ。ちゃんとそう考えられるように、伏線となるように、杭原さんは銃殺でなければならなかったんだ。

　あらましはこんなところかな。おっと、安心してよ。面白いのはこれからだよ。獅子谷敬蔵がこの白生塔に仕掛けた驚天動地の大トリックが明かされるのはね」