生贄に向くタイプ〜閉じ込められたのは快適空間でした

鶫夜湖

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一章

第2話 ここは一体

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 モヤモヤと空気が動いているようにも見える黒い壁をじっと見つつ、切れ目がないものかと一周してみたが案の定元いたところに戻ってきた。
 予測はついていたがどこも切れ目は存在せず外に続く場所はなくずっと黒い壁で、どこかへ行くことはできないようだった。

 出られない。そう分かってしまった途端ぼーっとしてしまう。
 黒い壁の近くではさすがの俺でも落ち着かない為、建物の出入口まで戻ってきた。
 ぼーっとしていたら伸び放題の草が気になってしょうがない。
 ……こともなく。手持ち無沙汰で、頭は混乱していて。草を抜くことにした。
 こういう時は単純作業に没頭したいのだ。

 道を作ってみたって行けるとこなんてないがとりあえず、さっき出てきた扉からまっすぐ壁まで抜いてみることにする。
 幅は両手を広げたくらいでいいだろう。黙々と目の前の草という草を抜く。1種類ではなく違う形の葉っぱが生えているそれらを抜く。

「ふう」

 少し落ち着いた。
 ぱんぱんと手を払って綺麗とは言い難い抜き跡を見る。所々抜ききれなかった緑が残っている。抜きやすいものしか抜いてないのだから仕方ない。
 背の高い草はあらかた抜いたのでいいことにした。
 気が向いたら壁に沿ってでもぐるりと抜いてやる。
 水場があったので手を洗う。冷たくて気持ちがいい。


 時計もない。スマホもない。
 空は明るいのに太陽が見えないので曇っているのだろう。そんなふうには見えないが。
 これじゃ時間がわからないな、と思いながら室内に戻った。


「これが流行りの、異世界転移……はぁ」

 こう、言っておけなければならない気がした。
 たとえ何のチートがないとしても。
 誰もいないとしても。
 そうでないなら何だと言うのだ。
 手を見ても自分の手なのは間違いないので転生ではないだろう。

 トラックに引かれてもないし過酷労働に悲鳴を上げることさえ忘れて働いていたわけでもない。
 ちゃんと自分の意志で、ちょっと無職になっただけで。
 せっかくだしゆーっくり休もうかなーと思ってたとこなのでいいんだけど。いいんだよ。そういうことにしよう。

「あーあ。明日新刊の発売日だったのになー」

 やけになったように廊下に並んでいる扉を片っ端から開けていく。
 大人数対応寝具。大量の布。壺の山。ガラスにがらくた、多分家具の山。すごい量の本と紙。など。
 そして、空の部屋。

「ここに住めばいいのかな?」

 返ってくる声がない。虚しい。
 とりあえず寝具部屋に行って布団を見繕う。選び放題だ。めちゃくちゃに重なっていて整ってないけど。ベッドがいくつか埋まっている。あれを出すのはは無理だろ。そもそも運べない。

「あれ? 風呂は?」

 選んだ布団を運ぼうとしてハッとする。
 草むしりしてたのに布団運んでる場合じゃない。手は洗ったが服が土で汚い。布団に汚れがつかなかったか確認してしまう。大丈夫みたいだ。

 布団をその場に置く。
 開けてきた部屋に風呂はなかったので、最初にいたあのステンドグラスのある部屋に行く。と、多分さっきはなかったグレーの扉があった。
 開けた先の伸びる廊下はフローリング。あっちの廊下はコンクリっぽかったのに。
 綺麗なフローリングなので靴は端っこに脱ぐことにした。玄関はないけど、日本人だし。

「おじゃましまーす……」

 何となく他人の家っぽい。
 広めのお風呂にトイレとコンパクトながら機能的なキッチンと景色が見えたらきっと見晴らしのいい窓のあるリビングとおおきめ空間の服入りウォークインクローゼット!

「一人暮らしか!!!!」

 ――思いっきり叫んでから風呂に入った。



「さっぱりしたー」

 シャンプーリンスボディソープタオルもあった。
 洗濯機はドラム式。三面鏡の洗面台。ティッシュボックス化粧水歯ブラシ歯磨き粉マウスウォッシュフロス。
 使わなかったがミストサウナのボタンがあった。
 そしてかごにスエットの上下と下着が入っている。おもてなしされてる?

 この部屋だけ見れば家具消耗品完備の賃貸かなとも思えるが。玄関的な扉を開けるとそこにはステンドグラス。そもそも玄関ないし。両手を腰に当てステンドグラスを見上げながら思う。ここが玄関……?

「はははそんなことはない」

 さっき置いてきた布団をリビングに運び込もうともう一度扉を開ければ玄関が靴箱付きで出来ていた。

「玄関!」

 ちょっと嬉しい。そっと履いていた靴をそろえて脱ぐ。
 抱えていた布団はリビングに敷いた。

 さて、当然のように冷蔵庫に入っている食材と調味料をテキトーに電子レンジに入れて腹に詰め込んで布団に潜り込んだ。
 とりあえず寝る!
 しかしなんで寝具は持ち込みだったんだ?
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