サンタJKの不可思議な歳末

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年の瀬のひととき

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「はぁーっつっかれたー」

 こたつに潜り込んだ私はどたっと仰向けに両腕を広げて倒れ込んだ。

 仕事納めも何とかこなし、あとは家で残った年末・年始への仕上げ…の途中で、私は力尽きた。

「こんなに疲れたのは えー…」

 棚の上の写真に目をやる。弟にも会いに行ってあげないとなんてぼんやり思いつつ。
「あーダメだ。覚えてないんだよね…」

 7年前くらい前から、私はサンタ協会にいた。サンタ協会ってなんぞって思うよね。でも私はそこにいて、サンタになるための厳しい訓練を突破して、見事サンタになった。私がサンタになったのはいわば運命だ。

 仕事というのは言うまでもなく子供たちの大イベント、そうプレゼントである。もちろん私たちの存在がバレてはいけないので夜に起きていそうな場所へは残念ながら赴いていない。特にこのあたりは白髭のおじいさんの管轄でその人が来るようになっている!!ハズだ。

 学生の身でもあるから年末は学業に仕事に年始の支度とヘトヘトなのだ。

「あ。そーだ。自分へのご褒美と思って価格も手頃で手に入れたケーキがあったよね。深夜だけど食べちゃおうかな…」

 広げたノートや教科書を畳んで冷蔵庫にるんるんとスキップしながら向かった。


 しかしすでに待ち構えるように先客がいた。弟の宏太である。
「うっ私がそろそろケーキを食べると思って先に席に座っていたとは」

「えっ?違うけど」

 宏太は首を横に振るう。しまった、バラし損だ。

「…一緒に食べようか?」

「いいの?」

「う、なんか今日やけに可愛い受け答えするじゃん。いいよ。どうせ一人で食べるのも悪いし」

 ケーキを取り出し皿に切り分ける。

「…ありがとう」

「?なんか今日変だね。どうしたの?何かあった?」

「いや…その…僕、今日が命日なんだ」

 えらく珍妙なことを言う。

「命日?どういうこと?まさか…いやいやダメだよ!変なこと考えてないでしょーね」

「…いや、そうじゃなくって」

 すっとこちらを見つめる宏太。その瞬間にふわりと冷たい空気が漂ってきた気がした。

「僕もう死んでるから…」

 と言ってしおらしげ気に目線を落とす宏太…と誤認したよく見たら違う男の子だ。ていうかそこはギョロッ!とかってこっちを覗き込むシーンじゃないのか。

「…幽霊ってこと…?」

「うん…まあ…なんか妙に自然に受け入れられたんで言いにくいんだけど…そう」

 ・ ・ ・ 確かに…。あまりに自然に受け入れてしまっていたので全然びっくり出来ない。考えてみたら宏太はB県にいて、平然とリビングににいたのは不自然だった。

 幽霊がとつとつと語り始める。

「僕ね。交通事故で死んだんだ。今日」

「そうだったんだ…」

 この時期の事故といえば確かに多い印象だ。帰省、年末の旅行、旅行からの帰宅、もちろん仕事の人もいるだろう。

「まだ生きたいって気持ちが強かったから、出てきたんだね…」

 きっと無念のうちに亡くなってしまったのだと思い憐憫れんびんに駆られる。

「いや別に」

 ズルッ。私は思いっきりテーブルから肘を滑らせた。

「ちがうんかい!」

「うん。実は僕、帰ったらお母さんお父さんからプレゼントがあるって言われてて、帰ったらそれで遊ぼうって」

 小さい子だったらもしかしてそういうこともあるかもしれない。どちらにしてももし事故がなければそういう未練もなかったハズだ…。

「…よーし。わかった。お姉さんに任せて」

「え?」

 言うや否や困惑する男の子を置いて、自室に戻り、ほどなく大きな白い袋を担いで持ってきた。

「じゃじゃーん。さーて、じゃあこれから、お姉ちゃんがマジックを披露してあげます」

「マジック?」

「そうマジック。それもとっても摩訶不思議。なんでも願いが叶う幸せの魔法でございっ」
 すっと袋に手を差し入れ、ぱっと袋から取り出す。するとなんと手にはあのZwitchanが!

「Zwitchan!?しかも画面が広くなった方でソフト付き!?」

 これぞサンタの七つ道具。望んだ道具が取り出せるサンタの大袋!正直ど〇ちゃんやんけと言われても文句は言えない。

「うん。これがお母さんお父さんからのプレゼント。間違いない☆」
 霊のポッケと違うのは、私には子供たちの欲しいものが取り出せるということ。でも今回は特別、ご両親が用意したプレゼントを取り出した。
 すると男の子の様子が変わった様子で、潤んだ瞳でそのプレゼントをゆっくりと手に取る。

「…そっ…か…これ…ずっと…僕…欲しいって言ってた…」

 彼はこうやって何か月、いや何年?過ごしてきたのだろう。声に嗚咽が混じりだし、男の子からぽろぽろと涙が溢れ出して止まらなくなったのを見て、私は思わず男の子を抱きしめた。

「うんうん、よしよし…いい子だね…いい子だ…いい子にしてた子にはちゃんとプレゼントがあったね」

 男の子はしばらく私の胸の中で泣き続けていた。多分自分でも気づかなかった感情が爆発したのかもしれない。

 しばらくして、収まって来た頃に、私は提案した。

「あ、ねえ!せっかくだから私と一緒に遊ぼうか」

 男の子はすっかり泣き腫らした顔でうん、と頷いた。

 箱から一緒にゲーム機を取り出して、感嘆を上げたり、新品!とか当たり前のことを漏らしつつ、ゲームを開始する。シェア出来るって素晴らしい!

「そういえば僕ね、お姉ちゃんがいるんだ」

「うん」

「それで、帰ったらこれで一緒に遊ぼうって、約束してたんだ。僕はよく分からなかったけど、お姉ちゃんはプレゼントのこと多分知ってたんだろうね」

「そうだね」

「だから僕、それが出来たら、もう思い残すことないや」」

「…うん」

 コトン、と中空からコントローラが落ちた。残響のように、ありがとう、サンタのお姉ちゃんという声が聞こえた頃には男の子の姿もなくなっていた。

 私は人知れず目頭が熱くなるのを感じ、うっすらと当時の事故のことを思い出していた。

 頭を強く打ったことのか、辛い体験だったからか その事故を境に私には記憶がなかった。だからさっきまで忘れていた。いや…本当は途中から分かっていた。分かっていたが、私自身も混乱していて、とにかく彼が安らかでいられるようにしてあげたかった。そっか、今日が命日だったんだね…。じゃあまた近いうちにまた手を合わせに行こう。だからそれまで…

「ばいばい 宏太…」
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