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第6話 忌まわしき過去との対峙
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◆◆◆
9月も終わりに近づいた日曜の午後。
私は江ノ電に乗って、七里ヶ浜に来ていた。
七里ヶ浜駅の小さなホームに降り立つと、とたんに磯の香りに包まれる。
駅を出るとそこには、国道を挟んで広大な鎌倉の海が広がっていた。
七里ヶ浜は、鎌倉の中心地である鶴岡八幡宮の玄関口、由比ヶ浜の隣に位置する海岸だ。
名前の由来となっている七里という距離は、換算するとおおよそ28キロメートルだが、実際には七里ヶ浜の海岸線の長さは5キロメートルほどしかない。
昔の人は長い距離のことを簡略的に七里と表現したんだよって、倉橋さんが言ってた。
秋のうろこ雲が浮かぶ澄んだ青い空には、たくさんのとんびが我が物顔で飛び回っている。
「海のそばで食べ歩きするときは気をつけたほうがいいよ。たちまちとんびに狙われるからね」
ここへ来る前に立ち寄った和田塚写真館で、倉橋さんから教わった海での注意事項だ。
「いえいえ、レストランへ行く前に食べ歩きなんてしませんからっ。倉橋さん、どれだけ私のこと食い意地はってるように見えてるんですかっ」
「ははは、ごめんごめん。勿論そんなふうには見てないけど、一応ね」
そう、私はこれから亜希さんが勤めているカレーレストランに行くのだ。
加奈さんにぜひ一度来て欲しいって、亜希さんから言付かってるよって倉橋さんに聞かされて。
亜希さんとは、まだそれほど話をしたことはない。
最後に見かけたのは、ストーカーの生き霊に追われて和田塚写真館に逃げ込んだときだ。
そこで、倉橋さんと亜希さんが抱き合ってるのを見かけて……ショックで飛び出してしまったけど。
実はそれは、貧血で倒れた亜希さんを倉橋さんが支えてたって後から聞いて、とても恥ずかしかったのを覚えてる。
亜希さんは倉橋さんの元カノだって言うけど、今はどういう関係なのだろうか。
ホントのところを会って確かめてみたいと思い、亜希さんが勤めるレストランへ行ってみることにしたのだ。
しかし、なぜ私の食べ物に対する貪欲さを、倉橋さんは見抜いたのだろう。
首を傾げながら、手に持ったバッグからみたらし団子のパックを取り出す。
和田塚写真館から駅に向かう途中で、団子屋の店頭から流れる香ばしい香りに誘われるように、気づいたら一本買ってしまっていたのである。
ま、大丈夫でしょ。
と歩きながらパックを開けて、みたらし団子の串を手に取った瞬間。
目の前を、さっとなにかが横切った。
はっとして気づくと、手に持っていたみたらし団子がなくなっている。
慌てて空を見上げると、串を咥えたとんびが空高く飛び去って行くところだった。
なんということだ。
鎌倉ってあやかし以外にも、至ることころに危険が潜んでいるではないか。
私は呆然としながら、海を背に七里ヶ浜の坂通りをとぼとぼと登り始める。
いやいや、倉橋さんの忠告を無視した自分が悪いのだ。
そう自戒しながら辺りを見渡すと、緩やかな斜面にたくさんの住宅が立ち並んでいた。
どれも立派なお屋敷だ。この地域はお金持ちが住む高級住宅街である。有名な漫画家も、ここに住んでいるらしい。
毎日、海を見ながら生活するって、どんなに優雅であろうか。
羨望の気持ちを抱きつつ、スマホの地図を頼りにカレーレストランを目指した。
9月も終わりに近づいた日曜の午後。
私は江ノ電に乗って、七里ヶ浜に来ていた。
七里ヶ浜駅の小さなホームに降り立つと、とたんに磯の香りに包まれる。
駅を出るとそこには、国道を挟んで広大な鎌倉の海が広がっていた。
七里ヶ浜は、鎌倉の中心地である鶴岡八幡宮の玄関口、由比ヶ浜の隣に位置する海岸だ。
名前の由来となっている七里という距離は、換算するとおおよそ28キロメートルだが、実際には七里ヶ浜の海岸線の長さは5キロメートルほどしかない。
昔の人は長い距離のことを簡略的に七里と表現したんだよって、倉橋さんが言ってた。
秋のうろこ雲が浮かぶ澄んだ青い空には、たくさんのとんびが我が物顔で飛び回っている。
「海のそばで食べ歩きするときは気をつけたほうがいいよ。たちまちとんびに狙われるからね」
ここへ来る前に立ち寄った和田塚写真館で、倉橋さんから教わった海での注意事項だ。
「いえいえ、レストランへ行く前に食べ歩きなんてしませんからっ。倉橋さん、どれだけ私のこと食い意地はってるように見えてるんですかっ」
「ははは、ごめんごめん。勿論そんなふうには見てないけど、一応ね」
そう、私はこれから亜希さんが勤めているカレーレストランに行くのだ。
加奈さんにぜひ一度来て欲しいって、亜希さんから言付かってるよって倉橋さんに聞かされて。
亜希さんとは、まだそれほど話をしたことはない。
最後に見かけたのは、ストーカーの生き霊に追われて和田塚写真館に逃げ込んだときだ。
そこで、倉橋さんと亜希さんが抱き合ってるのを見かけて……ショックで飛び出してしまったけど。
実はそれは、貧血で倒れた亜希さんを倉橋さんが支えてたって後から聞いて、とても恥ずかしかったのを覚えてる。
亜希さんは倉橋さんの元カノだって言うけど、今はどういう関係なのだろうか。
ホントのところを会って確かめてみたいと思い、亜希さんが勤めるレストランへ行ってみることにしたのだ。
しかし、なぜ私の食べ物に対する貪欲さを、倉橋さんは見抜いたのだろう。
首を傾げながら、手に持ったバッグからみたらし団子のパックを取り出す。
和田塚写真館から駅に向かう途中で、団子屋の店頭から流れる香ばしい香りに誘われるように、気づいたら一本買ってしまっていたのである。
ま、大丈夫でしょ。
と歩きながらパックを開けて、みたらし団子の串を手に取った瞬間。
目の前を、さっとなにかが横切った。
はっとして気づくと、手に持っていたみたらし団子がなくなっている。
慌てて空を見上げると、串を咥えたとんびが空高く飛び去って行くところだった。
なんということだ。
鎌倉ってあやかし以外にも、至ることころに危険が潜んでいるではないか。
私は呆然としながら、海を背に七里ヶ浜の坂通りをとぼとぼと登り始める。
いやいや、倉橋さんの忠告を無視した自分が悪いのだ。
そう自戒しながら辺りを見渡すと、緩やかな斜面にたくさんの住宅が立ち並んでいた。
どれも立派なお屋敷だ。この地域はお金持ちが住む高級住宅街である。有名な漫画家も、ここに住んでいるらしい。
毎日、海を見ながら生活するって、どんなに優雅であろうか。
羨望の気持ちを抱きつつ、スマホの地図を頼りにカレーレストランを目指した。
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