鎌倉和田塚あやかし写真館

葉月七里

文字の大きさ
50 / 63
第6話 忌まわしき過去との対峙

2

しおりを挟む
◆◆◆


9月も終わりに近づいた日曜の午後。
私は江ノ電に乗って、七里ヶ浜に来ていた。

七里ヶ浜駅の小さなホームに降り立つと、とたんに磯の香りに包まれる。
駅を出るとそこには、国道を挟んで広大な鎌倉の海が広がっていた。
七里ヶ浜は、鎌倉の中心地である鶴岡八幡宮の玄関口、由比ヶ浜の隣に位置する海岸だ。
名前の由来となっている七里という距離は、換算するとおおよそ28キロメートルだが、実際には七里ヶ浜の海岸線の長さは5キロメートルほどしかない。
昔の人は長い距離のことを簡略的に七里と表現したんだよって、倉橋さんが言ってた。

秋のうろこ雲が浮かぶ澄んだ青い空には、たくさんのとんびが我が物顔で飛び回っている。

「海のそばで食べ歩きするときは気をつけたほうがいいよ。たちまちとんびに狙われるからね」

ここへ来る前に立ち寄った和田塚写真館で、倉橋さんから教わった海での注意事項だ。

「いえいえ、レストランへ行く前に食べ歩きなんてしませんからっ。倉橋さん、どれだけ私のこと食い意地はってるように見えてるんですかっ」
「ははは、ごめんごめん。勿論そんなふうには見てないけど、一応ね」

そう、私はこれから亜希さんが勤めているカレーレストランに行くのだ。
加奈さんにぜひ一度来て欲しいって、亜希さんから言付かってるよって倉橋さんに聞かされて。

亜希さんとは、まだそれほど話をしたことはない。
最後に見かけたのは、ストーカーの生き霊に追われて和田塚写真館に逃げ込んだときだ。
そこで、倉橋さんと亜希さんが抱き合ってるのを見かけて……ショックで飛び出してしまったけど。

実はそれは、貧血で倒れた亜希さんを倉橋さんが支えてたって後から聞いて、とても恥ずかしかったのを覚えてる。
亜希さんは倉橋さんの元カノだって言うけど、今はどういう関係なのだろうか。
ホントのところを会って確かめてみたいと思い、亜希さんが勤めるレストランへ行ってみることにしたのだ。

しかし、なぜ私の食べ物に対する貪欲さを、倉橋さんは見抜いたのだろう。
首を傾げながら、手に持ったバッグからみたらし団子のパックを取り出す。
和田塚写真館から駅に向かう途中で、団子屋の店頭から流れる香ばしい香りに誘われるように、気づいたら一本買ってしまっていたのである。

ま、大丈夫でしょ。
と歩きながらパックを開けて、みたらし団子の串を手に取った瞬間。

目の前を、さっとなにかが横切った。
はっとして気づくと、手に持っていたみたらし団子がなくなっている。
慌てて空を見上げると、串を咥えたとんびが空高く飛び去って行くところだった。

なんということだ。
鎌倉ってあやかし以外にも、至ることころに危険が潜んでいるではないか。

私は呆然としながら、海を背に七里ヶ浜の坂通りをとぼとぼと登り始める。
いやいや、倉橋さんの忠告を無視した自分が悪いのだ。
そう自戒しながら辺りを見渡すと、緩やかな斜面にたくさんの住宅が立ち並んでいた。
どれも立派なお屋敷だ。この地域はお金持ちが住む高級住宅街である。有名な漫画家も、ここに住んでいるらしい。
毎日、海を見ながら生活するって、どんなに優雅であろうか。
羨望の気持ちを抱きつつ、スマホの地図を頼りにカレーレストランを目指した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...