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第3章 初体験のご指名

第19話 黒幕は……

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 翌日の午後。
 俺と鮫島は、誰もいない男子更衣室に、そっと忍び込んでいた。
 この時間、高宮は体育の授業でグラウンドにいるはずである。

「おい、青空。こんなことして、本当にいいのか?」
「ああ。どうせ俺は退学なんだ。最後、高宮に一泡吹かせてやる」

 それは、高宮の大事なキス画像コレクションが保存されているスマホ、それをぶっ壊すことだ。
 思えばこんな事態となったのも、全ては高宮のヘンタイ趣味のせいである。

「手分けして探そう」
「ああ」

 片っ端から、棚にある制服に手を付けていく。
 確か高宮は、最新型である赤色のスマホを持っていた。
 次々とズボンのポケットを探りスマホを取り出してみるが、なかなか見つからない。

「くそ、どこだ……」

 全ての棚を探ってみたが、どこにもなかった。
 呆然として鮫島と顔を見合わせていると、外で人の気配がした。
 あわてて棚の影へと隠れる。
 扉が開いて入ってきたのは……高宮と、なぜか西園寺だった。

「あ、あのさ。いま授業中なんだけど?」

 おどおどしながらそう言う高宮を、西園寺は正面から睨みつける。

「例の美結とのキス画像を、渡してもらいたい」
「なんでだよ。狙い通り青空は退学になるんだから、もういいだろ?」
「だめだ。美結の件は終わっていない。キス画像を見せつけて、今度は高宮、おまえと初体験をするよう迫るんだ。早くしないと、美結は鮫島と初体験を済ませてしまう」

 高宮はため息をつくと、体操着であるハーフパンツのポケットから赤いスマホを取り出した。
 あいつ。あのスマホを肌身離さず持ち歩いているのか。よほど大事にしてるんだろう。
 いや、大事なのは中身か。

「やっぱり、やだよ……」
「なぜだ!」
「これは俺だけのお宝コレクションなんだ。西園寺には仕方なく見せたが、渡したくないっ!」
「ふざけるな、このヘンタイめっ! 寄越せって言うんだっ!」
「や、やめろって!」

 お互いにスマホを掴んで揉み合ううちに、その手からするりと離れ。
 投げ出されたスマホは床を滑って、ちょうど俺の目の前で止まった。
 俺はスマホを拾い上げると、鮫島とともに棚の影から姿を現す。

「な、なんで……おまえたちが……!」

 驚愕の表情となる、西園寺と高宮。
 人って、本当に驚いた時は、マジで目玉が飛び出そうになるんだな。

「やっぱり。あなたたちは、グルだったんですね」

 冷静にそう言ってやると、逆ギレする西園寺。

「だ、だからどうした! もとはといえば、おまえらが学校の風紀を乱したからだっ!」
「でも、俺にしても美結ちゃんにしても、悪いことをしてるとは思っていないんです。これは俺たちの信念なんだ」
「……くっ!」

 自分の信念を貫き通すのは悪いことじゃない。それは、保健室で茜に教わったことだ。

「あ、青空君……君の言い分はわかったから、そのスマホを返してもらえるかな?」

 高宮は猫なで声を出しながら、こっちに向かって手を伸ばしてくる。

「いいですよ。高宮先輩にとっては大事なスマホですからね」

 俺はそう答えると、手からスマホを床にすとんと落とした。

「おっと。手が滑ってしまった」

 すかさず鮫島が足で、そのスマホを思いっきり力を込めて踏み潰す。

 バキッ!

 スマホは、粉々に砕け散った。中に入っていたデータは、全て吹っ飛んだだろう。
 壊れたスマホを拾って、呆然としている高宮のもとへと向かい、その手にしかと渡してやる。

「すみません。ちょっと踏んじゃったみたいです」
「ああっ……」

 高宮はスマホを握りしめたまま、その場に崩れ落ちる。
 必死に割れた画面をタップするが、動作するわけがない。
 西園寺のほうはと言えば、歯をギリギリと鳴らして俺を睨みつけていた。

「あ、そうか!」

 俺はここで、前に健太から聞いた重大なルールに気づいたのである。

「美結ちゃんは初体験の相手として、最初に鮫島を指名したと聞きました。と言うことは、そのあと指名を俺に変えたのは無効ですよね。それは校則違反ですから。風紀に厳しい西園寺さんなら、もちろんご存知だと思いますが」

 そう言うと、みるみるうちに西園寺の長い髪が逆立った。
 まさに怒髪天を衝くとはこのことだ。

「ぐううっ……青空っ!!」
「はい?」
「覚えておけっ!! 絶対このままじゃ済まさぬぞっ!!」

 般若のごとき顔に変貌した西園寺をその場に残して、俺と鮫島は男子更衣室から堂々と退出したのだった。
 
 ……だが廊下に出た途端、俺は膝ががくがくして、その場にへたりこんだ。

「おい、どうした?」
「いや、腰が抜けた。マジで……!」
 

 
 数日後。
 俺と茜が食堂で一緒に弁当を食べていると……。
 いつものように鮫島が睨みを利かせながら現れた。俺はあわててランチボックスを手で覆う。

「青空……」
「な、なんだよ」
「シタくなった。ちょっと星咲を貸せや」
「や、やだよっ!」

 俺はあわててテーブル越しに茜をガードする。

「隙ありっ!」

 そう言うと鮫島は、俺のランチボックスから唐揚げを掻っ攫った。

「ふん、冗談だよ。バーカ」

 唐揚げを頬張りながら立ち去っていく鮫島に向かって、俺は声をかける。

「それで、美結ちゃんとは?」

 鮫島は背中を見せたまま、黙って右手でサムズアップした。

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