弱国コンサルタント

ひがしの くも

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グラフェス候補視察

覇剣の試練の視察

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王都の朝は早く、城門の開放とともに軍の馬車が訓練場へと向かっていた。
乗っているのはアレクシオン王、ゼクス団長、そしてライザルド。

目的は、グラフェス「武力競技」の代表候補者たちの実力を視察すること――。

「この国の未来がかかっている。……どうか、見てやってくれ」
王の言葉に、ライザルドは無言でうなずくだけだった。

たどり着いたのは王国騎士団の訓練拠点《赤鷲の営》。
広大な敷地には演習場、魔法投射場、障害戦用の仮設建築などが揃っており、兵士たちが朝から訓練に汗を流している。

「本日、模擬戦を行う候補者は十二名。そこから五名が代表に選ばれます」
ゼクスが淡々と説明しながら、広場の中央に導く。

その先に現れたのは、鎧や戦闘服に身を包んだ若き戦士たち。
剣を手に取る者、魔法陣を描く者、さらには両方を器用に併せ持つ者まで――。

演習開始の合図が鳴ると、訓練場の空気が一変した。

「――《レッグブースト》展開!」
「右、援護!風刃っ!」

風の刃が走り、盾役の兵が火球を弾き、素早く交差する身のこなしが場を駆け巡る。
魔法障壁で味方を庇いながら、剣技と術式を同時に繰り出す連携も見せる。

そんな白熱する模擬戦の傍らで、ライザルドは終始、黙ったままだった。

組んだ腕をほどくこともなく、ただ視線だけを動かし、候補者たちの一挙一動を追っていた。
表情には、感心とも失望ともつかぬ静けさがあったが――
近くで見ていたゼクスは、そのまなざしの“濃さ”に気づいていた。

(……何か、引っかかっているな)
そう確信するに足る“沈黙”だった。

やがて模擬戦が終了し、訓練場の空気が緩む。
候補者たちは整列し、王に一礼する。

王が温かい言葉をかけ、ゼクスが激励の訓示を述べる中――
ライザルドは一言も発さず、ただ歩み寄ることもなく、その場に立っていた。

「何も申されないのですか?」
王が馬車への帰路の途中で小声で尋ねた。

「……わしが言うてもの。まだ、“聴く耳”が育っとらん。まずは、ありのままを見るのが先じゃよ」

その言葉には、遠い昔に何かを見守ってきた者の重みがあった。

馬車が走り去ったあと、訓練場に残った若者たちはこっそりと囁きあっていた。

「本当にあの人が……あのライザルド様……?」
「でも一言も喋らなかったな……怒ってたのか?」

彼らの胸に去来したのは、“静かな圧”だけだった。
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