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47・気持ち
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色々と考えていたところにセルシュが顔を覗きこんで耳打ちをしてきた。
「お前変な顔してる」
「えっ?」
目の前のアイラの事を凝視していたわたしがどんな顔をしていたのかはわからないけれど、俯いているアイラにはその変な顔は気付かれていない様だ。
アイラは自分が辛くても、今のわたしの顔を見たら自業自得で打ち拉がれるわたしの方を心配してしまう気がした。
「気のせいだよ」
「…ふぅん。ま、いいけど」
笑顔を作ってセルシュにそう告げると、少し考えた後セルシュも小さく笑った。付き合いも長いセルシュにはわたしの機微がわかるのだろうなとは思うけど、わたしにはその理由は言えない。セルシュは聞かないで欲しいと言う気持ちをこめた笑顔の意図をわかってくれたらしい。
わたしの周りは優しい人達ばかりだな。
「うおっ!お嬢が何かご令嬢みてー!」
セルシュは今アイラに気付いたらしくアイラを見て大仰に驚いた。ランディスに話しかけられていた時はお肉に夢中で生返事してた位だからアイラの事は気付いてなかったのか。
アイラもその声ではっと顔を上げた。
「あっ、セルシュ様。ごきげんよう」
「うわー、何かすげー。お嬢から『ごきげんよう』なんて初めて聞いたわ」
「…ちょっと、何か失礼ですよセルシュ様。わたしだって一応伯爵家の娘ですからね。貴族のご令嬢としてやるときゃやるんですから」
アイラは先程とうってかわってドヤ顔でセルシュに答えた。でも残念。ちょっとそれはご令嬢っぽくないなぁ。
「ぷっ。もうその言葉遣いがあやしいな」
「えっ?そっ、そうだった?何処が?」
やっぱりセルシュも同じ事を思ったらしくアイラに突っ込みを入れている。アイラはセルシュにからかわれ、いつものアイラに戻っていた。
セルシュのお陰で少しは気が紛れたのかもしれない。わたしはそっと胸を撫で下ろした。
今やセルシュとアイラは初めて会った時の刺は全くなくなって、普通の仲のいい友達同士だ。『仲良き事は美しき哉』だよね。今もじゃれあってとても楽しそうでこっちまで嬉しくなる。
アイラの中でそういう楽しい事を増やして辛い気持ちが減っていけばいいなと思う。
「……お兄様」
セルシュの後ろにいたリーンは二人のじゃれあいにちょっと不安な顔をしてわたしの方をみた。そうだ、リーンはアイラヴェントとは初対面だったっけ。
わたしはアイラをリーンの前に呼ぶ。
「アイラ紹介するよ。僕の妹のリーンフェルト。リーン、こちらはアイラヴェント嬢。コートナー伯爵のご令嬢でランディスの妹だよ」
「ごきげんよう。はじめましてアイラヴェント様。わたくしクルーディスの妹のリーンフェルトと申します」
「ごきげんよう。こちらこそはじめまして。わたくしはランディス・コートナーの妹、アイラヴェントにございます。よろしくお願いいたします」
お互いに丁寧な挨拶を交わす二人はとても可愛らしい。二人とももう立派なご令嬢だよ。見ているわたしの気分は何だかお母さんのようだわ。
すると挨拶した後、リーンは一呼吸してアイラに質問をした。
「あの、アイラヴェント様はお兄様やセルシュ様とはどういうお知り合いなのですか?」
「どういう?……えと、そうですね、わたくしはお二人が兄のランディスの事を気に掛けていただいていますので、そのご縁で時々お声を掛けていただいたりしています」
アイラはリーンを刺激しない様にやんわりと微笑んで説明をしていた。リーンの言葉の裏がアイラにはわからないので当たり障りのない言葉を選んでいるのがわかった。
リーンの何か切羽詰まった感じを汲み取って気を使っているのだろう。
「いやいやアイラ、お前はなんだったら私よりお二人と仲がいいじゃないか」
あ。
そつなくこなそうとしていたアイラの言葉をランディスは見事に遮ってしまったよ。その言葉でリーンは顔色が少し変わってしまい、アイラもまた兄の言葉で苦々しい顔になる。わたしも思わずため息が出てしまった。
ランディス…まだまだ成長が足りないよ。セルシュもそれに気付いてぽんとランディスの肩をたたく。
「ランディ……お前なぁ、もう少し空気読め」
「へ?」
「本当に……少しは成長しているかと思ってたのに」
「えっ?ど、どういう事ですかセルシュ師匠、クルーディス師匠?」
何を言われているのかよくわかっていないランディスは、わたし達の言葉の意味を知ろうと必死になっている。
「女の子同士の会話に口を挟むなんて野暮過ぎるよランディス」
「お前、今度から俺達に言われた事全部メモしとけ。毎日それを読み直せば少しはましになるかもな」
「はっはい。わかりました」
本当にわかったのかな。わたしとセルシュは小さくなるランディスを見て苦笑してしまった。
「アイラヴェント様…は、お兄様達ととても仲がよろしいんですね?」
「えっ?いや、そんな、普通ですから普通!」
勇気を振り絞ったリーンの言葉にアイラは困ってしまって慌てて両手をぶんぶん振って否定した。
「普通ってどんな感じなのですか?」
「どんなって…えと、話をしたり、お茶したり……する位…ですけど……」
「ランディス様よりも仲がいい普通ってどんな感じなのですか?」
「いや、あの…その……」
アイラはずいっとにじり寄り食い下がるリーンにたじたじだ。
もしかしたらライバルになるかもしれない令嬢の事はちゃんと知っておきたいっていうリーンの気持ちもわからなくはないけれど…。
アイラはどうしていいのかわからずに困った顔をしていた。
「リーンフェルト、そこまでにしておきなさい」
流石にアイラが可哀想になってわたしはリーンを窘めた。
「お兄様、女の子同士の会話に口を挟むなんて野暮ですわよ!」
おっと、わたしの言葉を使って反撃して来ましたか。その切り返しは賢いけど今は違うでしょ。
「リーンフェルト、今のは会話じゃないよ。一方的に問い詰めてるだけだよね」
わたしは低い声でリーンの事を敢えて愛称で呼ばずに突き放す態度を取った。
「えっ!?お兄様?」
「ほら、セルシュだって呆れてる。僕はリーンフェルトはもう少し気遣いの出来る子だと思っていたんだけれどね」
わたしとセルシュが呆れた様な顔をしている事に気が付いたリーンははっとして俯いた。
「……ごめんなさい、お兄様」
「謝る相手が違うよね」
「……はい」
しゅんとしていたリーンはわたしからアイラに向き直り素直に頭を下げた。
「ごめんなさい…アイラヴェント様。わたくしついムキになってしまいました」
「いえそんなお気になさらずに。わたくしこそ態度がよろしくなかったと思いますし……申し訳ございません」
リーンの言葉に慌ててアイラも頭を下げる。ゆっくり頭を上げた二人はにっこりと微笑んだ。
取り敢えず丸く収まった様でほっとする。
少し落ち着いたリーンはアイラと笑顔で色々と話をし始めた。
子供でも好きな人の事になると大人と一緒で色々気になっちゃうんだろうな。…なんて、大人だった時のわたしにはそんな経験はなかったから、あくまでも一般論なんだけど。
そう考えるとリーンの方が経験値が高いのかもしれない…?
女性の時の自分の面目丸潰れな気がするけれど、それは心の中にしまっておこう。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
「お前変な顔してる」
「えっ?」
目の前のアイラの事を凝視していたわたしがどんな顔をしていたのかはわからないけれど、俯いているアイラにはその変な顔は気付かれていない様だ。
アイラは自分が辛くても、今のわたしの顔を見たら自業自得で打ち拉がれるわたしの方を心配してしまう気がした。
「気のせいだよ」
「…ふぅん。ま、いいけど」
笑顔を作ってセルシュにそう告げると、少し考えた後セルシュも小さく笑った。付き合いも長いセルシュにはわたしの機微がわかるのだろうなとは思うけど、わたしにはその理由は言えない。セルシュは聞かないで欲しいと言う気持ちをこめた笑顔の意図をわかってくれたらしい。
わたしの周りは優しい人達ばかりだな。
「うおっ!お嬢が何かご令嬢みてー!」
セルシュは今アイラに気付いたらしくアイラを見て大仰に驚いた。ランディスに話しかけられていた時はお肉に夢中で生返事してた位だからアイラの事は気付いてなかったのか。
アイラもその声ではっと顔を上げた。
「あっ、セルシュ様。ごきげんよう」
「うわー、何かすげー。お嬢から『ごきげんよう』なんて初めて聞いたわ」
「…ちょっと、何か失礼ですよセルシュ様。わたしだって一応伯爵家の娘ですからね。貴族のご令嬢としてやるときゃやるんですから」
アイラは先程とうってかわってドヤ顔でセルシュに答えた。でも残念。ちょっとそれはご令嬢っぽくないなぁ。
「ぷっ。もうその言葉遣いがあやしいな」
「えっ?そっ、そうだった?何処が?」
やっぱりセルシュも同じ事を思ったらしくアイラに突っ込みを入れている。アイラはセルシュにからかわれ、いつものアイラに戻っていた。
セルシュのお陰で少しは気が紛れたのかもしれない。わたしはそっと胸を撫で下ろした。
今やセルシュとアイラは初めて会った時の刺は全くなくなって、普通の仲のいい友達同士だ。『仲良き事は美しき哉』だよね。今もじゃれあってとても楽しそうでこっちまで嬉しくなる。
アイラの中でそういう楽しい事を増やして辛い気持ちが減っていけばいいなと思う。
「……お兄様」
セルシュの後ろにいたリーンは二人のじゃれあいにちょっと不安な顔をしてわたしの方をみた。そうだ、リーンはアイラヴェントとは初対面だったっけ。
わたしはアイラをリーンの前に呼ぶ。
「アイラ紹介するよ。僕の妹のリーンフェルト。リーン、こちらはアイラヴェント嬢。コートナー伯爵のご令嬢でランディスの妹だよ」
「ごきげんよう。はじめましてアイラヴェント様。わたくしクルーディスの妹のリーンフェルトと申します」
「ごきげんよう。こちらこそはじめまして。わたくしはランディス・コートナーの妹、アイラヴェントにございます。よろしくお願いいたします」
お互いに丁寧な挨拶を交わす二人はとても可愛らしい。二人とももう立派なご令嬢だよ。見ているわたしの気分は何だかお母さんのようだわ。
すると挨拶した後、リーンは一呼吸してアイラに質問をした。
「あの、アイラヴェント様はお兄様やセルシュ様とはどういうお知り合いなのですか?」
「どういう?……えと、そうですね、わたくしはお二人が兄のランディスの事を気に掛けていただいていますので、そのご縁で時々お声を掛けていただいたりしています」
アイラはリーンを刺激しない様にやんわりと微笑んで説明をしていた。リーンの言葉の裏がアイラにはわからないので当たり障りのない言葉を選んでいるのがわかった。
リーンの何か切羽詰まった感じを汲み取って気を使っているのだろう。
「いやいやアイラ、お前はなんだったら私よりお二人と仲がいいじゃないか」
あ。
そつなくこなそうとしていたアイラの言葉をランディスは見事に遮ってしまったよ。その言葉でリーンは顔色が少し変わってしまい、アイラもまた兄の言葉で苦々しい顔になる。わたしも思わずため息が出てしまった。
ランディス…まだまだ成長が足りないよ。セルシュもそれに気付いてぽんとランディスの肩をたたく。
「ランディ……お前なぁ、もう少し空気読め」
「へ?」
「本当に……少しは成長しているかと思ってたのに」
「えっ?ど、どういう事ですかセルシュ師匠、クルーディス師匠?」
何を言われているのかよくわかっていないランディスは、わたし達の言葉の意味を知ろうと必死になっている。
「女の子同士の会話に口を挟むなんて野暮過ぎるよランディス」
「お前、今度から俺達に言われた事全部メモしとけ。毎日それを読み直せば少しはましになるかもな」
「はっはい。わかりました」
本当にわかったのかな。わたしとセルシュは小さくなるランディスを見て苦笑してしまった。
「アイラヴェント様…は、お兄様達ととても仲がよろしいんですね?」
「えっ?いや、そんな、普通ですから普通!」
勇気を振り絞ったリーンの言葉にアイラは困ってしまって慌てて両手をぶんぶん振って否定した。
「普通ってどんな感じなのですか?」
「どんなって…えと、話をしたり、お茶したり……する位…ですけど……」
「ランディス様よりも仲がいい普通ってどんな感じなのですか?」
「いや、あの…その……」
アイラはずいっとにじり寄り食い下がるリーンにたじたじだ。
もしかしたらライバルになるかもしれない令嬢の事はちゃんと知っておきたいっていうリーンの気持ちもわからなくはないけれど…。
アイラはどうしていいのかわからずに困った顔をしていた。
「リーンフェルト、そこまでにしておきなさい」
流石にアイラが可哀想になってわたしはリーンを窘めた。
「お兄様、女の子同士の会話に口を挟むなんて野暮ですわよ!」
おっと、わたしの言葉を使って反撃して来ましたか。その切り返しは賢いけど今は違うでしょ。
「リーンフェルト、今のは会話じゃないよ。一方的に問い詰めてるだけだよね」
わたしは低い声でリーンの事を敢えて愛称で呼ばずに突き放す態度を取った。
「えっ!?お兄様?」
「ほら、セルシュだって呆れてる。僕はリーンフェルトはもう少し気遣いの出来る子だと思っていたんだけれどね」
わたしとセルシュが呆れた様な顔をしている事に気が付いたリーンははっとして俯いた。
「……ごめんなさい、お兄様」
「謝る相手が違うよね」
「……はい」
しゅんとしていたリーンはわたしからアイラに向き直り素直に頭を下げた。
「ごめんなさい…アイラヴェント様。わたくしついムキになってしまいました」
「いえそんなお気になさらずに。わたくしこそ態度がよろしくなかったと思いますし……申し訳ございません」
リーンの言葉に慌ててアイラも頭を下げる。ゆっくり頭を上げた二人はにっこりと微笑んだ。
取り敢えず丸く収まった様でほっとする。
少し落ち着いたリーンはアイラと笑顔で色々と話をし始めた。
子供でも好きな人の事になると大人と一緒で色々気になっちゃうんだろうな。…なんて、大人だった時のわたしにはそんな経験はなかったから、あくまでも一般論なんだけど。
そう考えるとリーンの方が経験値が高いのかもしれない…?
女性の時の自分の面目丸潰れな気がするけれど、それは心の中にしまっておこう。
◆ ◆ ◆
読んでいただきましてありがとうございます。
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