最期の30日

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30日

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人間には必ず寿命というものが存在するのは当たり前。いつかは人生に幕を下ろす日がくる。それが分かっているからこそ人間は一日、一日を大事に過ごすことが出来る。

もし、その寿命が急に目の前に迫っていると言われた時に人はどんな反応をするのだろうと考えたことがあった。それは前に僕が読んでいた小説でそんな場面があった。ヒロインが急に難病にかかってしまい、特効薬もなく、安静するにしか方法がない。生きれて1年ということで先生から言われて、彼女は自分の現状を受け入れて行動するのだ。
だけど、それを読んだ僕は自分だったらどんな風に行動するんだろうと思った。




まさか自分がそれを体験することになるとは思いもしなかったし、ここまで頭が混乱するものなんだ。


――――――――

「あ、あと……一か月…です」

それを聞いた目の前の少年は驚く様子もなく、表向きは平常心を保っているように見える。そして白衣の男は少年に今の状態を少しずつ説明していく。


「君の今の状態はかなり不安定です。正直、医者としては今すぐにでも入院してした方がいいと助言させてもらいます。ですが先に謝らせてください。今の医療技術じゃ君の病気を治すことが出来ない」

そう言って白衣の男は少年に頭を下げた。医者にとってこれを伝えるときが一番辛い時間なのだろう。伝えない訳にもいかないし、伝えても相手が悲しくなるだけ。それでも伝えなければいけないのだから。


「…分かりました、ちゃんと教えてくださりありがとうございます。ですが、入院に関しては少し考える時間をください」







病院を出て、僕は仕事場に行くことにした。

今日は起きてから調子が悪くて救急車に運ばれたりしていて会社側に何も報告できていない。


うちの仕事場はアイドル事務所でそれなりに大手だ。世間一般でもそれなりに知られていて、アイドル系の第一人者と言っても良いぐらいの会社。そしてそこで僕は新人アイドル達のプロデューサーをしているところだ。

今ここで入院したら彼女たちのデビューに影響が出るかもしれない。でももし僕が急に倒れた時のことも考えて少しずつ引き継ぎをしていくのも必要になってくる。入院しても円滑に彼女たちの活動ができるようにはプロデューサーとしてやっておく必要があるし。


現在時刻は夕方だし、今からなら連絡だけで家に帰っちゃってもいい気がするが、一応顔だけでも出しておくことにした。

そして会社に入るとすぐに同期入社の斎藤《さいとう》音愛《ねあ》さんに会った。彼女は僕がプロデューサーを務めているアイドルたちを担当してもらっているスタッフ。一応、今回は立場上プロデューサーとスタッフと明らかに上限関係が存在しているが、同期入社でそれなりに付き合いがあることもあって良い相談相手という立ち位置という感じになってもらっている。

まずはしっかりと謝っておかないといけない。

「今日は無断で休んでしまい、すいませんでした」


「い、いえ…大丈夫ですけど、茜《あかね》くんが無断で休むなんて珍しいね。なにかあった?」


「ちょっとどうしても外せない用が出来てしまって」

さすがにここで難病に掛かったというわけにもいかないので、濁すことにした。あんまり齋藤さんは納得していなさそうだったけど、ここは解放してもらった。


そして僕は上司に病院に行っていたことや医者から言われたことをなるべく端的に伝えた。さすがに上司にはしっかりと伝えておきたい。これから自分どうなるか分からない以上は伝えないわけにはいかない。



それと自分の体に限界が来るまでは働かせて欲しいという気持ちも伝えた。これは会社にとってはリスクだし、仕事の引継ぎが上手くいかないなんてことを避けるためにも本当はそんなこと受け入れるべきではない。それでも上司は「わかった。俺の方から社長には伝えておく」と言ってくださったのは本当に有難かった。

それから今日やるべきだった仕事をなるべく片付けることにした。今からじゃ全ては無理でも少しは片付けておかないと彼女たちのデビューに支障が出かねない。ありがたいことに齋藤さんがそれなりにやってくれていた。なので、今日までに絶対にやらなければいけないことは少し残業するだけで終わりにすることができた。


帰路に付く前にのどが渇いたのでドリンクを買うために飲み物を買いに行くことにした。


自動販売機で飲み物を買っていると急に頬をつつっかれた。



「と、富井さん?」

富井《とみい》優亜《ゆあ》さん。僕がプロデューサーとして関わっている子たちの一人。16歳の高校1年生。金髪のロングで顔立ちが整っている。胸もそれなりにあって、体はレッスンもあってかなり引き締まっているのがレッスン着の上からでも分かる。あんまりこういうことを言っているとかなりキモイなと自分でも思う。あと、富井さんは向上心もかなりある。アイドルとして必要なものはほとんど持っている。後はそれを上手く引き出せればアイドルとして成功する道だってかなりある。


「なんか悩み事?」

富井さんは俺のことを気にかけてくれているようでよく話し掛けくれる。


「どうしてですか?」


「さっきから浮かない顔をしてるんだもん」

自分では意識していたつもりだったんだけど、やっぱり隠し切れないものなのかも。


「そうですか?」


「うん。なんか悩みがあるんだったら教えてよ」


「いや、ないですよ。ただ明日の朝飯を何にしようかって悩んでいただけだよ」


「そう?それならいいけど…」

すると富井さんはなぜか後ろから僕に抱き着いて来る。


「ど、どうしたんですか?」


「ちょっと抱き着きたくなったから抱き着いただけ」


「え、そんな理由で抱き着いて来るんですか?」


「うん、だめ?」


「ダメです。特にあなたはこれからアイドルとして羽ばたくわけです。そんな時に異性と抱き着いている写真が出回ったらそれだけで終わる可能性があるんだと前にも伝えたと思いますよ」

アイドル業界は一つの炎上がイメージダウンに繋がり、仕事を失うことは少なくない。これは人前に出る仕事の全てに言えることですが。

でも、富井さんはどうやら納得していないようで頬を膨らませて、こちらをジト目で見ている。

「え~~」


「え~じゃないですよ。これからはしっかりと気を付けてくださいね。ここは事務所の中ですが、いつどこから写真を撮られるか分かったものではないので」

それからも富井さんと話していると時間を忘れてしまって…あっという間に休憩時間は終わった。


「遅い時間ですから気を付けて帰ってくださいね」


去ろうとすると富井さんに腕を掴まれた。


「あ、あの…」


「どうしたんですか?」


「…なにか悩みがあったら教えてね」


「あ、はい…。大丈夫ですよ」

余程、顔に出ていたのかなぁ。

そんなことを思いながら、僕は仕事場に戻り荷物を持って、帰路に付いた。


      
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