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最終章…重たい愛

重たい愛ーーリン

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僕は頭が良くて、運動神経がよかった。顔も美形と呼ばれる部類に属した。
でも全て手にしているようで、普通の子が持っているものを僕は無くしていた。

親の愛を知らずに育ち、人に頼ることや人を愛することを知らない。残念な子だった。
無意味な幼少期は突然色づき始める。

毎月始まりの日には教会へお祈りに行くのが孤児院の方針だ。その途中、無惨に荒らされた馬車と一人の赤子を見た。
急いで歩みを止め、馬車に駆け寄った。
一緒に教会へ行こうとしたシスターや他の子供たちは赤子の存在に気がついていない。一人だけ息がある。多分、あの子を抱いている母親らしき人は身を挺して守ったのだろう。

僕が見つけたんだ。僕があの子を守ってやらねばならない!

そう直感的に思った。

そして、孤児院であの子を引き取ることになった。

僕はあの子に沢山世話を焼いた。そして存分に甘やかした。すると、名前がないのを見兼ねたシスターは一番仲がいい僕にあの子の名前をつけて欲しいと言った。その言葉に感極まり三日考えて名前をつけた。由来なんてものはないけど、この子にピッタリな名前は“ミュウラ”しかないと思う。

ある日、幸せだった日々に亀裂が走った。
ミーシャと名乗った人が孤児院に訪問し、あの子が聖女だから連れて行くと言ったのだ。そして猶予が一年設けられた。けれど一年の時間を与えられたのは、往生際の悪い僕への最後の慈悲だった。
今のミュウラは一歳。一年後は二歳。

これで…本当にお別れなの?
もうミュウラとは会えない?

でもそうじゃないことを知った。20歳になったらまた戻って来れるとわかった。

忘れないで欲しいという願い一心でミュウラに何度も僕の名前を呼ばせた。
何度も何度も脳に刻み込ませた。

どうか…忘れないで。

残りの一年はあっという間に過ぎた。

ミュウラがこの孤児院を出てからは、戻って来る場所を作ることに専念した。

息子が同じく工場に連れて行かれたという貴族の弱みに漬け込み、顔が似ていることを武器にした。
きっと息子が戻って来たら僕の居場所なんてないだろうけど、それまでは利用させてもらう気でいた。
しかし、その貴族は僕が成人を迎えた年に帰らぬ人となった。また一つ大事なものを失ったのだ。
後を継いで先代に増すくらい力を蓄えた。

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明日あの子が帰ってくる。帰りの馬車に乗らずに脱走して来たのには驚いたけれど、すぐに後を追った。森で突然声を掛けたら不審がられるだろうから、街に出てきた所で声を掛けた。
あの時、ミュウラが『飛行』の魔法をまだ使えていなくて助かった。魔法を使われると行方が分からなくなってしまうから。

ーーああ、みなまで言わなくていい。ミュウラに近づく為なら僕はどんな手段も厭わない。

ちょうど街に着いた日、義理の弟が帰ってきたと連絡が入った。
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