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異世界探査1ー2

手がかり

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「まどろっこい話は抜かす。私は日本の神だ。佐藤翔。お前に会いに来た」

  唐突にそう述べた目の前の男は訳のわからない事を口にした。日本の神?何を言っているんだ?頭に疑問符を浮かべながら相手の言葉の意味を探るがよくわからない。ただ、一つわかることと言えば。ここ異世界において、この男がを知っているという事だけだ。

「お前、日本を知っているという事はあいつらの手の者か?」

  彼が言ったあいつらというのは幾つかの意味がこもっている。彼を不要と見下した王国の者。彼を見捨てた元仲間ふくしゅうあいて。そして、自分にだけなんの恩恵も与えなかったこの世界の神々。ひねり出せばいくらでも出てくる。

「お前がなんであろうが知らないが、俺は誰も信じるつもりはない」

  相手が誰であろうと、彼の質問に対する答えは変わらない。いくら相手が強かろうが、もうなびく事はやめた。

「お前が私を信じるか信じないかは興味がない。だが、やはり染められている以上は話が進まないか・・・」

  男は何か考える様に呟くと、右手から一振りの刀を取り出した。相手が刀を出したのを確認したと同時に、魔法を発動させた。手から飛び出した大きな竜巻が辺りの土を抉りながらその男を捉える。今、特殊魔法以外に使える魔法の中で最も威力の高い風魔法の『エアーブレス』。元々は中級魔法、その中でも一番下の魔法だ。
  しかし、今の俺には魔法特性(超)というのがある為とんでもないほど威力が上がっている。後で調べてわかったのだが、これは相当チートなスキルだった。まず、魔法の威力の強化。これは任意の魔法を消費魔力はそのままで威力を三段階まで上げられるというものだ。なので、今の『エアーブレス』は中級の三段階上の一番威力が高い超級魔法まで上がっている。超級魔法など、この世界でも使える人は限られる。あのクソ野郎どもでも1人しか使えてはいなかった。
  今俺が覚えている中級魔法が一つのため、俺もまだ一つしか使えない。これひとつ覚えているのも相当時間がかかったが、魔法特性には魔法を覚えるプロセスを省く効果もあるので直ぐに使える魔法は増えるだろう。しかも、相性の合う魔法なら見ただけで覚えられてしまう。まさにチートだ。
どの程度ものか今回試してみたが予想以上に効果がある事がわかった。
 これならあいつらを殺れると内心ほくそ笑んだ時だった。チンッという金属音が鳴り響き、エアーブレスが縦に割れ、そして俺のの両手を切り裂いた。

「が、ああああああ!!」

 突如襲った痛みに意識が持っていかれそうになる。何とか踏みとどまったが、一瞬でも思考を止めた瞬間からもう勝ち目はなかった。一瞬で後ろへ回ったその男の手が腹部から飛び出していた。

「うわっ、汚っ!」

 そして、体の中から黒い液体が大量に吹き出す。ゴボゴボと音を立てながら流れ出るそれはまるで今の彼の心の中を表しているかのようだった。とめどなく溢れるそれらは地面に落ちると彼の周りにのみ不自然に溜まっていく。

「ちっ、これは汚染されているとかというレベルじゃない。もう、こいつ自身が.・・・」

  その男が何を言っているかわからない。しかし、今自分の中から大事な物が失っていっているのだというのはわかる。復讐いきるいみがどんどん胸から吹き出していく。怒りが薄れていくたびに自分の存在も薄くなっていく様なそんな感じだ。
嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ、いやだ、いやだ、いやだ?、いやだ?、いやだ?いや?いやいいいい・・・

  抵抗が消えてなくなっていく中で、自分の中にあった暗闇が少しづつ晴れていく。意識も段々とクリアになっていき、おそらくこのまま行けば壊れる前に戻るだろう。それもいいのではないか、と心の中で感じ始めた時だった。何故か不意に声が聞こえた。

(・・・いいの?また、裏切られて。)

  裏切られる?誰に?

(・・・いいの?また、イジメられて。)

  イジメられる?誰に?

(・・・いいの?また、溜め込んで?)

  溜め込む?何処に?

(・・・いいの?また、ひとりぼっちで)

  1人?なんで?

 
(・・・いいの?許して、あなたを壊したあいつらを)

  あいつ・・・ら?

  不意に頭に誰かが浮かぶ。始めは幸せの気持ちだった。そうだ、俺は彼女の笑う顔が好きだった。そう笑顔が。

(・・・いいの?また、笑われて)

  浮かび上がっていた様々な彼女の笑顔に一つだけ黒いもやがかかっている。なんだろうと思い、目をこらす。それでも見えない。

(・・・いいの?復讐を果たさなくて?)

  復・・讐?

  その二文字が現れた途端、黒いもやが剥がれていき、その笑顔が露わになる。下卑たるまるで虫を嘲笑うかのような歪な笑みだった。それが自分を見ながら笑っている。
  そして次の瞬間、まるでガス爆発を起こしたかのように炎が再び燃え上がった。

そうだ!俺は!あいつらを!絶対!許さない!俺の復讐は!

「ああああああああああああ!!!」

「おわっ!」

  胸から飛び出していた黒いドロドロがまるで火山の噴火のように吹き荒れた。それに伴い、体に刺していた手が押し出され後方に吹き飛ぶ。黒いドロドロは彼の体を覆うと、少しづつ形状が変化していき、より歪に変化していく。

(そう!そうよ!それでこそあなた!それこそがあなた!さあ、唱えて!私の力を!私を!

「ハアアアリイイイイケエエエエン!!」

  彼を中心として超巨大な乱気流が現れ、辺りを暗くしていく。

「まさか、あのクソゴミ、歪んだ神の力を魂にねじ込んだのか。」

  忌々しそうに呟くその男の言葉は風の中に消されていった。


  
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