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異世界探査1ー2

怒VS狂 三

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 佐藤翔の魂が抜けたハキヤはセミの抜け殻の様に薄い肌がさらに薄くなり、動かなくなってしまった。しかし、その眼光に宿る怪しい光を天照大御神様は見逃さなかった。

「・・せ、」

  ハキヤがぼそりと途切れ途切れの言葉を口からこぼした。

「・・えせ。か・・・えせ。かえ・・せ。かえ・せ。」

  それは少しづつ繋がっていき一つの言葉へとなっていく。

「かえせ。かえせ。かえせ。かえせ。返せ。返せ。返せ。返せ!返せ!返せ!」

  言葉が強くなっていくにつれて、辺りに黒い靄の様なものが漂い始める。それは徐々に範囲を広げていき、彼女を中心として楕円型の球体を形作っていく。

「かああえせえええ!」

  ハキヤの慟哭と共にその黒い靄が手の様な形になり、一斉に迫ってきた。何か嫌な感じがした天照大御神様は後退しながらそれら全てを避けていく。

「本格的に化け物だな、あいつ。」

「返せ、返せ、返せ、かえかえかえかえせせせせかえかえかえか・・・」

 明らかに神と思えない彼女の姿は禍々しく歪み、つい先程の佐藤翔の姿をより凶悪にした様な感じだ。

「それよりもあの黒い靄はなんだ?明らかにただの能力じゃないな。少し試してみるか。」

 天照大御神様は刀に炎を纏わせ、斬撃を黒い靄の一部にぶつける。何の効果もないただの適当に放った炎だったが、その黒い靄は炎に当たるとその身を激しく燃やした。

「炎に弱いのか?なら、」

  もう一度、炎の斬撃を飛ばす。しかし、今度は燃えることなく炎を吸収して大きくなった。

「なんだあれは、先程と効果が違う。」

 大きく膨らんだその靄の攻撃は先程より一層激しくなった。それにより、少しづつだがその靄に追い詰められていく。

「仕方ない。これはあまりやりたくなかったんが、あれが何であるか分からない以上手段を選んでる場合ではないな。」

 天照大御神様は刀で自分の手の甲を傷つけて血を出した。そして、その血を靄に向かって放った。がしかし、

「ちっ、異世界だからさすがに構成が遅くなるか。」

 放った血は何事もなく黒い靄に取り込まれてしまった。黒い靄はさらに手数を増やして天照大御神様を追い詰める。

「ハキヤに罰を食らわしてやりたかったが、流石にこのままじゃこいつの魂がもたない。」

 今、懐にしまってある佐藤翔の魂は弱々しく光りながらふわふわと浮いている。見るものが見れば分かるが、だいぶ弱っている。肉体から離れさせてるいる為に存在が安定しないのだ。このままでは、どんどん不安定になっていき、いづれ崩壊してしまう。

「八咫烏。」

「カー、カー」

 どこからともなく、黒い三本足のカラスが現れる。

「こいつを月夜見の所まで届けろ。一応保護の力で覆っているが、気をつけて運べ」

「クァッ」

 八咫烏は佐藤翔の魂を口に含むとそのまま飲み込んだ。

「私は残りの4人を回収してくる。その後にあの化け物を潰して持っていくから、場所の用意をしとけ」

「カー、カー、」

 天照大御神様にしか分からない返事をすると、そのまま空の彼方に飛んで行った。八咫烏の方にお目当の佐藤翔の魂があるにも関わらず、黒い靄は天照大御神様を追い回す。

「さて、確か残りの4人は国にいた筈だ。さっさと回収しに行くか。」

 天照大御神様は転移を使って、その場から消えた。




「かえかえかえかえ!かえかえせえええええ!」

 突如目標を失ったハキヤはその狂いに狂った邪悪な力を世界を飲み込まんばかり増大させ、愛する1人の男を探すため自分の世界に侵攻を始めた。歴史上最大の災悪となって。
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