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43話
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「はぁ、はぁ、はぁ」
そんな荒い息が、洞窟の中に響く。
大量のゴブリンたちに向かって全員で攻撃をして数を減らしたあと、敵の数を減らすためにこの地に残ることにした者たちは、必死に洞窟を走っていた。
いくら攻撃をしてゴブリンを倒しても、一行に減ったようには見えないその数。
それはまさに、悪夢と言っても間違いではない。
実際には攻撃をすればするほどゴブリンの数は減っているのだろうが、それでも全く数が減ったとは思えないのだ。
そのことが、この場に残った者たちに精神的な疲労を与える原因となっていた。
それでも、この地に残った白夜たちは簡単に泣き言を口にはしない。
自分たちで判断してこの場にいるのだから、ここでそのような真似をするのは情けなく、みっともないと。そう理解していたためだろう。
また、ここまで来れば洞窟から抜け出るのも難しくないというのがある。
生物の内臓の如き洞窟から出ることが出来るというだけで、走っている者たちの中は一種の希望があった。
それだけ、この洞窟の中……正確には洞窟の壁や天井といった場所にある生物的の内臓的な様子は、中にいる者たちに精神的な負担を与えていたのだろう。
「出口だ!」
一行の先頭を走っていた男が、明かを見て叫ぶ。
その一言は、走っている者たちに希望を与え、叫んだ男が洞窟から飛び出た瞬間……
「ぐぶぇっ!」
肉のひしゃげるような打撃音が周囲に響いたかと思うと、奇妙な超えと共に何かが洞窟の入り口から飛び込んでくる。
それが、一瞬前に洞窟を飛び出した男だと、そう理解出来た者はどれだけいただろう。
手足がひしゃげ、まるで壊れた玩具の人形の如き様子を示している男。
その様子から、まともに立つことは出来ず、当然のように戦力として考えることも無理なのは間違いない。
それを見た者の多くが、何が起きたのか……何故このようなことになったのか、全く理解出来ていなかった。
だが、動けなくなったのは多くの者であっても、調査隊全員ではない。
「光よ、在れ!」
「ラーーーーーーー」
「我が内に眠りし大いなる闇よ、その力を示せ!」
麗華、五十鈴、白夜。
その三人が洞窟の出入り口に向かって能力を使った行動を起こす。
麗華の放った光の矢は、前にいる者たちの隙間を縫うよう、空中を自由に動き回りがら洞窟から出ていき、その先にいる相手……それこそ、先程吹き飛ばされた男を攻撃した相手に命中したのだろう。周囲に聞き苦しい悲鳴を満たす。
五十鈴の口から放たれた声は、何が起きたのか分からず混乱してた調査隊の混乱を沈め、平静を取り戻させる。
……白夜の放った闇の矢は、麗華と同じように洞窟の外に向かっていったが、麗華程に闇の扱いに習熟している訳ではないため、人に当たりそうになったかと思えば洞窟の壁を削りながら洞窟の外に出ていく。
それでも結局白夜の放った闇によって傷つけられた者が一人も出なかったのは、白夜が必死に闇の矢を操作したからだろう。
闇の矢のコントロールも、そして数も光の矢を放った麗華に比べれば数段劣るが、その辺りは元々の能力差のためのものか。
(闇が死体を勝手に呑み込むことは、ここまで来るまでなかった。けど……だからって、俺が闇を上手く使ってどうにかしてる訳じゃないしな)
麗華からはもっと鍛えろと何度か言われた白夜だったが、能力にあぐらを掻いて全く鍛えていないという訳ではない。
それこそ、ネクストで行われている模擬戦闘では熱心に参加しており、手を抜くような真似もしていない。
……自主練となると、そこまで熱心に行っていないのは事実だが。
「血路は開きましたわ! 行きますわよ! ここにいれば、前後から挟まれますわ!」
そう告げ、麗華は握っていた白夜の手を離し、レイピアを手に真っ先に洞窟から出ていく。
五十鈴の歌で混乱や恐怖から解き放たれた他の面々は、背後から聞こえてくるゴブリンたちの足音に追い立てられるように麗華を追う。
当然のようにその中には、金属の棍という自分の武器を手にした白夜の姿もある。
「邪魔ですわ! お退きなさい!」
洞窟から出た白夜が見たのは、レイピアを操って四本腕のゴブリンたちを圧倒している麗華の姿だった。
洞窟の外にいたゴブリンたちが、何故そのような場所にいたのかは白夜にも分からない。
白夜たちが洞窟の中に入ろうとしたときには、周囲にゴブリンがいなかったことを思うと、もしかしたら山の中を探索していたゴブリンが帰ってきたのか、それとも最初から白夜たちを前後から挟み撃ちにするためにどこかへ隠れていたのか。
だが、どのような理由からゴブリンが洞窟の外にいたのかは白夜にも分からなかったが、そでも今の状況の考えれば、洞窟の外にいたゴブリンは不運だとしか言いようがない。
太陽の光そのものが髪になったかのような金髪と、光を操る能力により、黄金の戦女神と呼ぶに相応しい――本来なら光の薔薇の異名を持っているので、そちらの方がより相応しいのだろうが――麗華は、獅子奮迅とでも評すべき戦いを繰り広げていた。
五十鈴の歌で他の者の怯えの類は消えたが、それが一時的なものであるというのは容易に予想出来る。
であれば、今のうちに何とか洞窟の外にいるゴブリンの数を減らす必要があった。
そのため、ここが今日一番の頑張りどころと考えた麗華は、まさに圧倒的な実力でもってゴブリンたちを蹂躙していた。
洞窟の外にいたゴブリンたちは、本来であれば自分たちが楽に倒すことが出来るはずだった相手に圧倒され、混乱している。
実際、最初は非常に上手くいっていたのだ。
洞窟から出て来た男を、ゴブリンが手に持つ棍棒で思い切り殴りつけて洞窟の中に吹き飛ばしたのだから。
……だが、そこからは完全にゴブリンたちの予想とは違うものになってしまう。
放たれた一本の矢のように、洞窟から飛び出てきた麗華。
その麗華が振るうレイピアにより、数匹のゴブリンは一瞬にして頭部を貫かれ、息絶える。
長剣や大剣のような武器ではないがゆえに、レイピアの振るわれる速度は速い。
それこそ一度の突きだと思ったものが、実は三度、四度と一瞬にして突きを繰り返されているのだから、四本腕になって強化されたゴブリンといえども、それに対処することは出来ない。
また、麗華の能力により生み出された光で視力を潰され、光の矢で身体を貫かれ……といった具合に、ゴブリンの数は急速に減っていく。
そうして麗華一人に手こずっているところに、洞窟の中から他の者たちも飛び出してきて、ゴブリンに攻撃をしていくのだ。
数ではゴブリンたちの方が多いのだが、奇襲をしたつもりが逆に奇襲をくらうといったことになり、動揺してまともに戦うことが出来ずにいる。
次々に放たれる能力による攻撃や直接的な武器を使っての攻撃に、ゴブリンの数は麗華と戦っていたとき以上に急速に減っていく。
「ガガアアアアアアアアアアアアアアア!」
そんな中、他のゴブリンよりも大きな身体を持つゴブリンが苛立ち交じりに叫び、その怒声が周囲に響き渡った。
自分たちが圧倒的に負けているのが気に食わず、味方を鼓舞するための叫びだったのだろう。
だが、叫ぶなどという真似をすれば周囲の注目を集めることになるのは当然だ。
そして注目を集めたのが見るからに強者と思える相手であれば、ゴブリンたちの連携を少しでも崩すためにも、真っ先に攻撃するのもまた当然だった。
「はああああぁっ!」
気合いの声を上げつつ、黄金の髪の残滓をその場に残しながら麗華が叫んだゴブリン目がけて突き進む。
先程叫んだゴブリンは、両手で持つ棍棒と両肩から生えている手で持っている細い棍棒を、自分に向かって突っ込んできた麗華に向かって叩き付けた。
ゴブリンにすれば、麗華のような類い希な美女は是非生きて確保したい相手なのは間違いない。
それでも、今の状況ではわざわざ麗華を生かして捕らえるといった真似が出来ず、一気に攻撃することにしたのだ。
本来ならそこまで考えるような頭はなく、本能や欲望の赴くまま……もしくは行き当たりばったりといった行動をするのがゴブリンらしいと考えれば、このゴブリンの判断は通常のゴブリンと比べて非常に高い判断力を持っていると言ってもいいだろう。
そんなゴブリンの攻撃だったが、麗華は踊るかのように三本の棍棒の攻撃を回避し、その回避の流れの中でレイピアを振るう。
本来であればレイピアというのは突き専用の武器で、斬るといった行為は決して得意な訳ではない。それこそ、下手な使い手がレイピアで斬ろうとすれば刀身が折れてもおかしくはない。
それが出来るのは、麗華の持つレイピアが魔法金属で出来ている稀少なマジックアイテムである同時に、光の能力によりレイピアが強化されているからこそだ。
「ガアアアアア!」
空中を一閃したレイピアは、叫んでいたゴブリンの右肩から伸びている腕を容易く切断する。
そうして切断された腕は、回転しながら棍棒と共に空中を飛び、地面に落ちた。
一瞬、自分に何が起きたのか分からなかった様子のゴブリンだったが、それでも次の瞬間には痛みに悲鳴を上げる。
だが、麗華はそんな相手には構わずすぐに続けて攻撃を行っていく。
「いきますわよ!」
そんな麗華の言葉に、ゴブリンも怒りと痛みを堪えて麗華を待ち受ける。
右肩から伸びている腕は切断されたが、まだ腕は三本もあり、手数という点で考えれば自分が有利なのだから、と。
特に両腕で持っている棍棒はかなりの太さを持ち、強化されたゴブリンの力で振るえば、その一撃は強力極まりないものになるのは確実だった。
自分の頭部くらいであれば容易に砕くだろう威力の攻撃をされつつも、麗華には全く焦った様子がない。
振り下ろされた棍棒は、レイピアの刀身を滑らせて攻撃を受け流す。
命中した、と半ば確信していただけに、ゴブリンはそんな麗華の行動に一瞬理解出来ずに唖然とし……
「ギュピ」
棍棒の一撃を受け流した動きのまま、顎の下から真上に頭部を貫かれたゴブリンは、奇妙な声を上げ……そのまま白目を剥いて地面に崩れ落ちる。
(改造されていても、脳を破壊されれば死ぬのは同じですのね。そうなると、恐らく急所も以前と変わっていないはず)
頭部を貫いたレイピアを引き抜き、素早く振って刀身についていたゴブリンの血や脳髄、肉片といったものを払う。
そうして振り向いた麗華が見たのは、外にいるゴブリンに攻撃している自分の仲間だ。
その中でも特筆した戦果を上げているのは、金属の根に闇を纏わせて次々にゴブリンを倒している白夜……ではなく、そのすぐ後ろで歌っている五十鈴。
五十鈴の口から出た言葉は、ゴブリンの能力を軒並み低下させていた。
それでいながら、ゴブリンたちは自分の能力が低下していることに気づかず、いつも通りに行動しようとして思い通りに身体が動かず、その隙を突くようにして他の者たちが攻撃してはゴブリンの数を減らしていく。
(私(わたくし)が倒したあのゴブリンも、動きが鈍くなっていたのかしら?)
一瞬そんな疑問を抱く麗華だったが、今はそのようなことを考えていられるような余裕はないと、すぐに近くにいるゴブリンにレイピアや光を使って攻撃する。
光を纏った麗華の動きは、今までよりも明らかに鋭い。
次々に放たれるレイピアにより、ゴブリンの頭部や心臓といった急所が貫かれていく。
「早く倒しなさい! 洞窟の中のゴブリンが出てきますわよ!」
そう告げる麗華の言葉に、その場にいた者たちは奮起し、次々に攻撃をしてはゴブリンたちを倒していく。
白夜もそれは同様で、麗華の言葉に自然と戦意や士気といったものが高まり、闇を纏った棍で次々にゴブリンを攻撃していく。
……もっとも、闇を纏った金属の棍の一撃は、強力ではあるが即座にその効果が出るといったものではない。
金属の棍が闇を纏っており、その棍に……正確には闇に触れた場所から、ゴブリンの肉体は黒い塵となって崩れていく。
ただ、塵になる速度は決して速いものではなく、その上で特に痛みの類もないので、ゴブリンの中には自分の身体が黒い塵となって崩れているにもかかわらず戦い続けている者もいた。
「おい、この闇大丈夫なんだろうな!」
この場に残った者の一人がそう叫ぶが、白夜は闇を纏った棍を振るいながら大丈夫だと叫ぶ。
「ゴブリンにしか効果がないようにしてあるから、大丈夫だ!」
そんな白夜の叫びに、周囲にいた者は安堵して戦いを終え……そして数分後には、洞窟の外で待ち構えていたゴブリンはその全てが殺され、死体が白夜の闇に呑まれるのだった。
そんな荒い息が、洞窟の中に響く。
大量のゴブリンたちに向かって全員で攻撃をして数を減らしたあと、敵の数を減らすためにこの地に残ることにした者たちは、必死に洞窟を走っていた。
いくら攻撃をしてゴブリンを倒しても、一行に減ったようには見えないその数。
それはまさに、悪夢と言っても間違いではない。
実際には攻撃をすればするほどゴブリンの数は減っているのだろうが、それでも全く数が減ったとは思えないのだ。
そのことが、この場に残った者たちに精神的な疲労を与える原因となっていた。
それでも、この地に残った白夜たちは簡単に泣き言を口にはしない。
自分たちで判断してこの場にいるのだから、ここでそのような真似をするのは情けなく、みっともないと。そう理解していたためだろう。
また、ここまで来れば洞窟から抜け出るのも難しくないというのがある。
生物の内臓の如き洞窟から出ることが出来るというだけで、走っている者たちの中は一種の希望があった。
それだけ、この洞窟の中……正確には洞窟の壁や天井といった場所にある生物的の内臓的な様子は、中にいる者たちに精神的な負担を与えていたのだろう。
「出口だ!」
一行の先頭を走っていた男が、明かを見て叫ぶ。
その一言は、走っている者たちに希望を与え、叫んだ男が洞窟から飛び出た瞬間……
「ぐぶぇっ!」
肉のひしゃげるような打撃音が周囲に響いたかと思うと、奇妙な超えと共に何かが洞窟の入り口から飛び込んでくる。
それが、一瞬前に洞窟を飛び出した男だと、そう理解出来た者はどれだけいただろう。
手足がひしゃげ、まるで壊れた玩具の人形の如き様子を示している男。
その様子から、まともに立つことは出来ず、当然のように戦力として考えることも無理なのは間違いない。
それを見た者の多くが、何が起きたのか……何故このようなことになったのか、全く理解出来ていなかった。
だが、動けなくなったのは多くの者であっても、調査隊全員ではない。
「光よ、在れ!」
「ラーーーーーーー」
「我が内に眠りし大いなる闇よ、その力を示せ!」
麗華、五十鈴、白夜。
その三人が洞窟の出入り口に向かって能力を使った行動を起こす。
麗華の放った光の矢は、前にいる者たちの隙間を縫うよう、空中を自由に動き回りがら洞窟から出ていき、その先にいる相手……それこそ、先程吹き飛ばされた男を攻撃した相手に命中したのだろう。周囲に聞き苦しい悲鳴を満たす。
五十鈴の口から放たれた声は、何が起きたのか分からず混乱してた調査隊の混乱を沈め、平静を取り戻させる。
……白夜の放った闇の矢は、麗華と同じように洞窟の外に向かっていったが、麗華程に闇の扱いに習熟している訳ではないため、人に当たりそうになったかと思えば洞窟の壁を削りながら洞窟の外に出ていく。
それでも結局白夜の放った闇によって傷つけられた者が一人も出なかったのは、白夜が必死に闇の矢を操作したからだろう。
闇の矢のコントロールも、そして数も光の矢を放った麗華に比べれば数段劣るが、その辺りは元々の能力差のためのものか。
(闇が死体を勝手に呑み込むことは、ここまで来るまでなかった。けど……だからって、俺が闇を上手く使ってどうにかしてる訳じゃないしな)
麗華からはもっと鍛えろと何度か言われた白夜だったが、能力にあぐらを掻いて全く鍛えていないという訳ではない。
それこそ、ネクストで行われている模擬戦闘では熱心に参加しており、手を抜くような真似もしていない。
……自主練となると、そこまで熱心に行っていないのは事実だが。
「血路は開きましたわ! 行きますわよ! ここにいれば、前後から挟まれますわ!」
そう告げ、麗華は握っていた白夜の手を離し、レイピアを手に真っ先に洞窟から出ていく。
五十鈴の歌で混乱や恐怖から解き放たれた他の面々は、背後から聞こえてくるゴブリンたちの足音に追い立てられるように麗華を追う。
当然のようにその中には、金属の棍という自分の武器を手にした白夜の姿もある。
「邪魔ですわ! お退きなさい!」
洞窟から出た白夜が見たのは、レイピアを操って四本腕のゴブリンたちを圧倒している麗華の姿だった。
洞窟の外にいたゴブリンたちが、何故そのような場所にいたのかは白夜にも分からない。
白夜たちが洞窟の中に入ろうとしたときには、周囲にゴブリンがいなかったことを思うと、もしかしたら山の中を探索していたゴブリンが帰ってきたのか、それとも最初から白夜たちを前後から挟み撃ちにするためにどこかへ隠れていたのか。
だが、どのような理由からゴブリンが洞窟の外にいたのかは白夜にも分からなかったが、そでも今の状況の考えれば、洞窟の外にいたゴブリンは不運だとしか言いようがない。
太陽の光そのものが髪になったかのような金髪と、光を操る能力により、黄金の戦女神と呼ぶに相応しい――本来なら光の薔薇の異名を持っているので、そちらの方がより相応しいのだろうが――麗華は、獅子奮迅とでも評すべき戦いを繰り広げていた。
五十鈴の歌で他の者の怯えの類は消えたが、それが一時的なものであるというのは容易に予想出来る。
であれば、今のうちに何とか洞窟の外にいるゴブリンの数を減らす必要があった。
そのため、ここが今日一番の頑張りどころと考えた麗華は、まさに圧倒的な実力でもってゴブリンたちを蹂躙していた。
洞窟の外にいたゴブリンたちは、本来であれば自分たちが楽に倒すことが出来るはずだった相手に圧倒され、混乱している。
実際、最初は非常に上手くいっていたのだ。
洞窟から出て来た男を、ゴブリンが手に持つ棍棒で思い切り殴りつけて洞窟の中に吹き飛ばしたのだから。
……だが、そこからは完全にゴブリンたちの予想とは違うものになってしまう。
放たれた一本の矢のように、洞窟から飛び出てきた麗華。
その麗華が振るうレイピアにより、数匹のゴブリンは一瞬にして頭部を貫かれ、息絶える。
長剣や大剣のような武器ではないがゆえに、レイピアの振るわれる速度は速い。
それこそ一度の突きだと思ったものが、実は三度、四度と一瞬にして突きを繰り返されているのだから、四本腕になって強化されたゴブリンといえども、それに対処することは出来ない。
また、麗華の能力により生み出された光で視力を潰され、光の矢で身体を貫かれ……といった具合に、ゴブリンの数は急速に減っていく。
そうして麗華一人に手こずっているところに、洞窟の中から他の者たちも飛び出してきて、ゴブリンに攻撃をしていくのだ。
数ではゴブリンたちの方が多いのだが、奇襲をしたつもりが逆に奇襲をくらうといったことになり、動揺してまともに戦うことが出来ずにいる。
次々に放たれる能力による攻撃や直接的な武器を使っての攻撃に、ゴブリンの数は麗華と戦っていたとき以上に急速に減っていく。
「ガガアアアアアアアアアアアアアアア!」
そんな中、他のゴブリンよりも大きな身体を持つゴブリンが苛立ち交じりに叫び、その怒声が周囲に響き渡った。
自分たちが圧倒的に負けているのが気に食わず、味方を鼓舞するための叫びだったのだろう。
だが、叫ぶなどという真似をすれば周囲の注目を集めることになるのは当然だ。
そして注目を集めたのが見るからに強者と思える相手であれば、ゴブリンたちの連携を少しでも崩すためにも、真っ先に攻撃するのもまた当然だった。
「はああああぁっ!」
気合いの声を上げつつ、黄金の髪の残滓をその場に残しながら麗華が叫んだゴブリン目がけて突き進む。
先程叫んだゴブリンは、両手で持つ棍棒と両肩から生えている手で持っている細い棍棒を、自分に向かって突っ込んできた麗華に向かって叩き付けた。
ゴブリンにすれば、麗華のような類い希な美女は是非生きて確保したい相手なのは間違いない。
それでも、今の状況ではわざわざ麗華を生かして捕らえるといった真似が出来ず、一気に攻撃することにしたのだ。
本来ならそこまで考えるような頭はなく、本能や欲望の赴くまま……もしくは行き当たりばったりといった行動をするのがゴブリンらしいと考えれば、このゴブリンの判断は通常のゴブリンと比べて非常に高い判断力を持っていると言ってもいいだろう。
そんなゴブリンの攻撃だったが、麗華は踊るかのように三本の棍棒の攻撃を回避し、その回避の流れの中でレイピアを振るう。
本来であればレイピアというのは突き専用の武器で、斬るといった行為は決して得意な訳ではない。それこそ、下手な使い手がレイピアで斬ろうとすれば刀身が折れてもおかしくはない。
それが出来るのは、麗華の持つレイピアが魔法金属で出来ている稀少なマジックアイテムである同時に、光の能力によりレイピアが強化されているからこそだ。
「ガアアアアア!」
空中を一閃したレイピアは、叫んでいたゴブリンの右肩から伸びている腕を容易く切断する。
そうして切断された腕は、回転しながら棍棒と共に空中を飛び、地面に落ちた。
一瞬、自分に何が起きたのか分からなかった様子のゴブリンだったが、それでも次の瞬間には痛みに悲鳴を上げる。
だが、麗華はそんな相手には構わずすぐに続けて攻撃を行っていく。
「いきますわよ!」
そんな麗華の言葉に、ゴブリンも怒りと痛みを堪えて麗華を待ち受ける。
右肩から伸びている腕は切断されたが、まだ腕は三本もあり、手数という点で考えれば自分が有利なのだから、と。
特に両腕で持っている棍棒はかなりの太さを持ち、強化されたゴブリンの力で振るえば、その一撃は強力極まりないものになるのは確実だった。
自分の頭部くらいであれば容易に砕くだろう威力の攻撃をされつつも、麗華には全く焦った様子がない。
振り下ろされた棍棒は、レイピアの刀身を滑らせて攻撃を受け流す。
命中した、と半ば確信していただけに、ゴブリンはそんな麗華の行動に一瞬理解出来ずに唖然とし……
「ギュピ」
棍棒の一撃を受け流した動きのまま、顎の下から真上に頭部を貫かれたゴブリンは、奇妙な声を上げ……そのまま白目を剥いて地面に崩れ落ちる。
(改造されていても、脳を破壊されれば死ぬのは同じですのね。そうなると、恐らく急所も以前と変わっていないはず)
頭部を貫いたレイピアを引き抜き、素早く振って刀身についていたゴブリンの血や脳髄、肉片といったものを払う。
そうして振り向いた麗華が見たのは、外にいるゴブリンに攻撃している自分の仲間だ。
その中でも特筆した戦果を上げているのは、金属の根に闇を纏わせて次々にゴブリンを倒している白夜……ではなく、そのすぐ後ろで歌っている五十鈴。
五十鈴の口から出た言葉は、ゴブリンの能力を軒並み低下させていた。
それでいながら、ゴブリンたちは自分の能力が低下していることに気づかず、いつも通りに行動しようとして思い通りに身体が動かず、その隙を突くようにして他の者たちが攻撃してはゴブリンの数を減らしていく。
(私(わたくし)が倒したあのゴブリンも、動きが鈍くなっていたのかしら?)
一瞬そんな疑問を抱く麗華だったが、今はそのようなことを考えていられるような余裕はないと、すぐに近くにいるゴブリンにレイピアや光を使って攻撃する。
光を纏った麗華の動きは、今までよりも明らかに鋭い。
次々に放たれるレイピアにより、ゴブリンの頭部や心臓といった急所が貫かれていく。
「早く倒しなさい! 洞窟の中のゴブリンが出てきますわよ!」
そう告げる麗華の言葉に、その場にいた者たちは奮起し、次々に攻撃をしてはゴブリンたちを倒していく。
白夜もそれは同様で、麗華の言葉に自然と戦意や士気といったものが高まり、闇を纏った棍で次々にゴブリンを攻撃していく。
……もっとも、闇を纏った金属の棍の一撃は、強力ではあるが即座にその効果が出るといったものではない。
金属の棍が闇を纏っており、その棍に……正確には闇に触れた場所から、ゴブリンの肉体は黒い塵となって崩れていく。
ただ、塵になる速度は決して速いものではなく、その上で特に痛みの類もないので、ゴブリンの中には自分の身体が黒い塵となって崩れているにもかかわらず戦い続けている者もいた。
「おい、この闇大丈夫なんだろうな!」
この場に残った者の一人がそう叫ぶが、白夜は闇を纏った棍を振るいながら大丈夫だと叫ぶ。
「ゴブリンにしか効果がないようにしてあるから、大丈夫だ!」
そんな白夜の叫びに、周囲にいた者は安堵して戦いを終え……そして数分後には、洞窟の外で待ち構えていたゴブリンはその全てが殺され、死体が白夜の闇に呑まれるのだった。
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そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
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