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57話
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白夜の生み出した闇のゴブリンは、結局のところどこまで命令を聞くのか分からなかったために何匹かに命令を頼み、その上でゴブリンを見張る人員を用意することになった。
見張りの見張りというのは若干不毛な気がしないでもなかった白夜だったが、今回の依頼たる街と街を繋げる道を作るときに、見張りを試してみたけどだめでした、と。そんなことになったら目も当てられないという早乙女の指示だ。
ともあれ、そんな訳でその日は四本腕のゴブリン数匹が車の周囲を警戒しているといった時間をすごし……
「うおっ、これマジかよ」
翌日、白夜は車の外から聞こえてきたそんな声で目を覚ます。
最初は自分がどこにいるのかが分からなかったが、車の中で眠っていたことを思い出すと、すぐに現在は依頼のために移動中だったと思い出した。
そんな動きで白夜の膝の上で眠っていたノーラも目を覚ましたのか、浮かび上がる。
「おい、来てみろよ! こっちこっち! 凄いぞ、これ!」
車の外から聞こえてくる声に、白夜に周囲で眠っていた者たちも目を覚ます。
「んん……なんだ?」
「あ、おはようございます、早乙女さん。何か外であったみたいですね。ちょっと様子を見てきます」
「ああ、そうしてくれ。この感じだと敵に襲われたとか、切羽詰まったような状況でもないみたいだが、何があったのかは気になる」
そう言いながら、早乙女も車の外に出る。
車の中で眠ったということもあり、身体が硬くなってしまったのだろう。大きく伸びをした早乙女の身体からは、骨の鳴る音が白夜の耳にも聞こえてきた。
とはいえ、そんな音を白夜は気にしてはいられない。
車の外に出た瞬間、白夜の鼻に強い鉄錆臭が漂ってきたためだ。
白夜は別にそこまで嗅覚が……そして五感が鋭い訳ではない。
それでも白夜がその鉄錆臭……血臭を嗅ぎとったのは、それだけ血臭が強烈だったということなのだろう。
車の中で眠っていた時にその臭いに気が付かなかったのは、それだけ車の密封度合いが強いからか。
もしくは、白夜は知らないが何らかの機能が車にあるのか。
軍用として利用されている車だけに、そのような機能があってもおかしくはない。
トワイライトで使っている軍用車である以上、むしろ普通の車と違う機能があるのは当然だろう。
ともあれ、周囲に漂っている強烈な血臭の……そして先程聞こえてきた驚きの声の理由が知りたくなり、声の聞こえてきた方に向かって歩き出す。
車が二台だけの小規模な集団なので、その声のしたのがどこからなのかというのは、特に考えるまでもなく分かった。
そうして到着した場所に広がっていたのは、十匹近いモンスターと動物の死体。
とはいえ、死体となっているモンスターはどれもが雑魚と呼ぶべきべものだったが。
それでも一晩の間にこれだけのモンスターや動物を倒したというのは、ゴブリンの強さを示していた。
通常のゴブリンと違う、四本腕のゴブリン……だが、現在その姿はどこにもない。
「あれ? 闇のゴブリンはどうしたんですか?」
てっきりここに来れば闇のゴブリンがいるのだろうと思っていた白夜だったが、その姿がどこにもないのを見て尋ねる。
「あー、モンスターとの戦いで傷を負ってたみたいでな。何時間か前に消滅した。……分からないのか?」
ゴブリンの見張りを撒かされていた男が、不思議そうに白夜に尋ねる。
「えっと……全く分かりませんでした。眠っていたからなのか、それとも闇を広げていなかったからなのかは分かりませんけど」
そう言いながら、これって不味いのでは? と白夜が考える。
普段なら、闇で作られたゴブリンが死ねば、その身体を形作っていた闇を回収することによってまた同じ闇のゴブリンを生み出すことが出来る。
だが、もし闇を広げていない場所でゴブリンが死んでしまえば、そのゴブリンの魂、もしくは核とでも呼ぶべきものは回収出来ず、消滅してしまうのではないかと思ったのだ。
もちろん一匹や二匹ゴブリンが消滅しただけでは、数万匹の存在を抱えている白夜にとってはそこまで問題はない。
ただし、それはあくまでも今ならではの話であって、将来的にも問題ないかと言われれば、微妙なところだろう。
これと同じようなことを何度もした結果として、現在の主力と呼べる四本腕のゴブリン……そしてようやく倒した異形のゴブリンまでもが消えてしまうとうなことになったら……そう思うと、白夜としては早急にその辺りを解明したかった。
「取りあえず、このモンスターの死体は俺が貰ってもいですか? 消滅したゴブリンが、本当に消滅しちゃのか、それとも闇に還ったのかは分かりませんが、戦力は補充しておくに越したことはないでしょうし。それにどのモンスターかで、闇がない場所で死んだらどうなるかも試せますし」
見張りをしていたゴブリンが倒した死体は、同種族……ただし腕が二本の普通のゴブリンが数匹に、角が生えたウサギが数匹、鋭い爪を持っているネズミが数匹に、額に第三の目を持つ蛇のモンスターに、モンスターではない狸や狐が少々といったところだ。
間違いなく四本腕のゴブリンよりは弱いだろうが、それでもどのような存在だっても使いようなのだ。
ネズミはその身体の小ささを利用することができるだろうし、ウサギも角を使った一撃を与える為に待ち伏せをさせたりといった真似をすれば十分戦力になる。
(偵察……出来るのなら、もっとネズミのモンスターの死体を揃えたいといころだけど)
狭い場所でも移動出来るネズミのモンスターは、偵察をするのに最適だろう。
もっとも、ネズミのモンスターが見た光景を白夜が見るといったような真似は出来ず。ネズミが言葉を話すことも出来ない以上、どうしてもその情報を把握するのには時間が掛かる。
将来的に闇の能力がまた進化すれば、そのような真似も出来るようになるかもしれないが……それはあまりに不確定な未来だ。
「モンスターの死体を呑み込むか。……分かった、やってみれくれ」
そう言ったのは、白夜のあとからやってきた早乙女だ。
身体の痛さを嘆いていたが、それよりも今は確認するべきことがあるからか、その表情は真面目なものに変わっている。
一行のリーダーたる早乙女の許可が出たこともあり、他の面々もモンスターや動物の死体を白夜が貰うのに異論はない。
……そもそも、ここに転がっているモンスターは全てが雑魚と呼ぶべき存在で、買い取り金額にしても安いからという理由もあるのだろう。
「この世を統べし、大いなる闇よ。無念を残して死したる屍を喰らい、我が力とせよ」
えー……と、周囲で白夜の様子を見ていた者の多くが、いきなり厨二臭い台詞を口にした白夜に珍しいものを見るような視線を向ける。
とはいえ、昨夜同じような光景を見ているだけに、取りあえずこれが白夜が能力を使うためトリガーか何かなのだと思って、誰も何も言わない。
……その無言の優しさが、白夜に対して余計に精神的なダメージを与えているのだが。
実際、白夜の頬は羞恥で薄らと赤くなっている。
ともあれ、白夜の影から闇が伸びると、そのままモンスターや動物の死体を呑み込んでいく。
死体が闇に沈んでいくという光景に、早乙女や他の面々もただ驚愕するしか出来ない。
普通なら見ることが出来ない光景だけに、驚くのも当然だろう。
とはいえ、能力者の中には水や土の能力を使い、今の白夜と似たような真似が出来る者もいるのだが。
そうして全ての死体が消え去ったあとで、白夜はいつものように厨二病的な台詞を口に出し、蛇のモンスターを闇で生み出す。
何度も繰り返しているためか、早乙女たちももう驚いたりする様子は見せずにスルーしていた。
厨二病的な台詞のあとで、先程呑み込まれた闇からひょっこりと姿を現す三つの目を持つ蛇。
その蛇を少し離れた場所……闇の範囲外にだしてから、白夜は早乙女に声をかける。
「早乙女さん、ちょっとその蛇のモンスターを殺してくれませんか? 本当に闇の領域の外で死んだら闇に戻ってこないのかどうか、確かめたいので」
「ん? いいのか? これは白夜の手駒になるんだろ?」
「そうですね。けど、俺が闇で作ったモンスターが闇の領域の外で死んだときにどうなるのか、その辺は試しておいた方がいいですし」
白夜のその言葉に、早乙女は即座に分かったと頷く。
今回の一件は白夜の能力を色々と確認するということも含まれている。……いや、むしろそちらが本題ですらある。
だからこそ、早乙女は白夜に提案にすぐに乗ったのだ。
そうして白夜の指示によって、蛇のモンスターは闇の領域から出て、その場に留まる。
そんな蛇に向かい、早乙女の指示を受けた男が若干気の進まない様子を見せながらも、腰の鞘から短剣を抜く。
次の瞬間、素早く投擲された短剣は真っ直ぐに蛇のモンスターの首を切断した。
元々がそこまで大きくはなかった為に、短剣でも十分首を切断出来たのだ。
そうして首を切断された蛇のモンスターは、次の瞬間……身体が崩れて闇の破片とでも呼ぶべきものになり、白夜の影に呑み込まれていく。
「へぇ……」
自分の能力ではあったが、白夜の口からは少しだけ驚きの声が漏れる。
闇の破片が全て自分の闇に呑み込まれたのを確認してから、白夜は再び口を開く。
本能的に大丈夫だろうと思ってはいたものの、実際に確認してみる必要があったためだ。
「我が内に眠りし大いなる闇よ、我が望みし存在を闇によって形作り、我が前に降臨せよ」
そんな白夜の言葉に従い、闇の中から先程と全く同じ蛇のモンスターが姿を現す。
実際にはそのモンスターが本当に先程と同じモンスターなのかどうかというのは、白夜には分からなかった。
蛇のモンスターとして、何か特殊な外見があった訳でもない。
いや、額に第三の目があったのを考えれば、それが同じ特徴と言えるかもしれないが……しかし、残念ながら今回に限ってはそれは意味がない。
額に第三の目を持っているというのがこのモンスターの特徴である以上、それは人間に腕が二本生えているというのと、同じような意味でしかなかいのだから。
それでも、闇の外で死んだモンスターが新たに闇で生み出せるということが判明したのは、白夜にとって……そして今回の仕事のリーダーを勤めている早乙女にとっても、朗報だった。
蛇のモンスターが新たに生み出されたのを確認してから、白夜は闇に戻るように命令する。
そんな命令に特に嫌がる様子もなく、蛇のモンスターは白夜の闇に身体を沈ませていった。
闇で出来たモンスターとはいえ、モンスターがしっかりと白夜の命令を聞いたことに、見ていた者たちは安堵する。
ゴブリンで白夜の命令を聞くと理解はしていたのだが、ゴブリンと蛇のモンスターではやはり見ている者にしてみれば違うのだろう。
「どうやら、闇の外で死んだモンスターも俺の闇にしっかりと戻ってくるようですね。……まぁ、今はこうしてすぐ近くでしたから、もっと離れた場所で死んだりした場合はどうなるか分かりませんけど」
「その辺は、またあとで試してみる必要があるだろう。とにかく今は、闇のモンスターが死ななくても大丈夫だというのが分かっただけで十分だよ。それより、ここでじっとしているのもなんだし、朝飯を食い終わったら出発するぞ」
そんな早乙女の指示に、それぞれがすぐに準備を始める。
とはいえ、食事は車の中でも食べることが出来るので、ゆっくりしようと思わなければ、すぐにでも出発出来るのだが。
もっとも、持って来たおにぎりやサンドイッチといった弁当の類も、時間が経てば当然のように悪くなる。
今日の朝食と昼食は持ってきたそれらの食料で何とかなるだろうが、それ以降は缶詰や瓶詰め、レトルトといった保存性を高めた食事になるだろう。
……計算通りに進めば今日の夕方には目的の街に到着するので、その辺は余り心配いらないのだが。
「あー……車での移動ってのは面倒臭いな。出来れば、もっと近い場所での仕事ならよかったのに」
白夜とは違う車に乗る男の一人が、心の底から面倒臭そうに告げる。
実際、車で二日移動するというのは、乗っているだけあっても疲れるのは当然だった。
それを嫌だと思っても、仕事である以上はどんなに嫌であっても、まさか途中で何もせず帰るといった真似をする訳にもいかない。
「ほら、出発するぞ。早く向こうに着けば、それだけゆっくりと足を伸ばして休むことが出来るんだ。それに、明日から道を作る仕事をする以上、すこしでも早く向こうに到着して様子を見ておきたい」
早乙女の言葉に従い、皆が車に乗り込む。
そうして、出発し……その日の夕方、目的の街に到着するのだった。
見張りの見張りというのは若干不毛な気がしないでもなかった白夜だったが、今回の依頼たる街と街を繋げる道を作るときに、見張りを試してみたけどだめでした、と。そんなことになったら目も当てられないという早乙女の指示だ。
ともあれ、そんな訳でその日は四本腕のゴブリン数匹が車の周囲を警戒しているといった時間をすごし……
「うおっ、これマジかよ」
翌日、白夜は車の外から聞こえてきたそんな声で目を覚ます。
最初は自分がどこにいるのかが分からなかったが、車の中で眠っていたことを思い出すと、すぐに現在は依頼のために移動中だったと思い出した。
そんな動きで白夜の膝の上で眠っていたノーラも目を覚ましたのか、浮かび上がる。
「おい、来てみろよ! こっちこっち! 凄いぞ、これ!」
車の外から聞こえてくる声に、白夜に周囲で眠っていた者たちも目を覚ます。
「んん……なんだ?」
「あ、おはようございます、早乙女さん。何か外であったみたいですね。ちょっと様子を見てきます」
「ああ、そうしてくれ。この感じだと敵に襲われたとか、切羽詰まったような状況でもないみたいだが、何があったのかは気になる」
そう言いながら、早乙女も車の外に出る。
車の中で眠ったということもあり、身体が硬くなってしまったのだろう。大きく伸びをした早乙女の身体からは、骨の鳴る音が白夜の耳にも聞こえてきた。
とはいえ、そんな音を白夜は気にしてはいられない。
車の外に出た瞬間、白夜の鼻に強い鉄錆臭が漂ってきたためだ。
白夜は別にそこまで嗅覚が……そして五感が鋭い訳ではない。
それでも白夜がその鉄錆臭……血臭を嗅ぎとったのは、それだけ血臭が強烈だったということなのだろう。
車の中で眠っていた時にその臭いに気が付かなかったのは、それだけ車の密封度合いが強いからか。
もしくは、白夜は知らないが何らかの機能が車にあるのか。
軍用として利用されている車だけに、そのような機能があってもおかしくはない。
トワイライトで使っている軍用車である以上、むしろ普通の車と違う機能があるのは当然だろう。
ともあれ、周囲に漂っている強烈な血臭の……そして先程聞こえてきた驚きの声の理由が知りたくなり、声の聞こえてきた方に向かって歩き出す。
車が二台だけの小規模な集団なので、その声のしたのがどこからなのかというのは、特に考えるまでもなく分かった。
そうして到着した場所に広がっていたのは、十匹近いモンスターと動物の死体。
とはいえ、死体となっているモンスターはどれもが雑魚と呼ぶべきべものだったが。
それでも一晩の間にこれだけのモンスターや動物を倒したというのは、ゴブリンの強さを示していた。
通常のゴブリンと違う、四本腕のゴブリン……だが、現在その姿はどこにもない。
「あれ? 闇のゴブリンはどうしたんですか?」
てっきりここに来れば闇のゴブリンがいるのだろうと思っていた白夜だったが、その姿がどこにもないのを見て尋ねる。
「あー、モンスターとの戦いで傷を負ってたみたいでな。何時間か前に消滅した。……分からないのか?」
ゴブリンの見張りを撒かされていた男が、不思議そうに白夜に尋ねる。
「えっと……全く分かりませんでした。眠っていたからなのか、それとも闇を広げていなかったからなのかは分かりませんけど」
そう言いながら、これって不味いのでは? と白夜が考える。
普段なら、闇で作られたゴブリンが死ねば、その身体を形作っていた闇を回収することによってまた同じ闇のゴブリンを生み出すことが出来る。
だが、もし闇を広げていない場所でゴブリンが死んでしまえば、そのゴブリンの魂、もしくは核とでも呼ぶべきものは回収出来ず、消滅してしまうのではないかと思ったのだ。
もちろん一匹や二匹ゴブリンが消滅しただけでは、数万匹の存在を抱えている白夜にとってはそこまで問題はない。
ただし、それはあくまでも今ならではの話であって、将来的にも問題ないかと言われれば、微妙なところだろう。
これと同じようなことを何度もした結果として、現在の主力と呼べる四本腕のゴブリン……そしてようやく倒した異形のゴブリンまでもが消えてしまうとうなことになったら……そう思うと、白夜としては早急にその辺りを解明したかった。
「取りあえず、このモンスターの死体は俺が貰ってもいですか? 消滅したゴブリンが、本当に消滅しちゃのか、それとも闇に還ったのかは分かりませんが、戦力は補充しておくに越したことはないでしょうし。それにどのモンスターかで、闇がない場所で死んだらどうなるかも試せますし」
見張りをしていたゴブリンが倒した死体は、同種族……ただし腕が二本の普通のゴブリンが数匹に、角が生えたウサギが数匹、鋭い爪を持っているネズミが数匹に、額に第三の目を持つ蛇のモンスターに、モンスターではない狸や狐が少々といったところだ。
間違いなく四本腕のゴブリンよりは弱いだろうが、それでもどのような存在だっても使いようなのだ。
ネズミはその身体の小ささを利用することができるだろうし、ウサギも角を使った一撃を与える為に待ち伏せをさせたりといった真似をすれば十分戦力になる。
(偵察……出来るのなら、もっとネズミのモンスターの死体を揃えたいといころだけど)
狭い場所でも移動出来るネズミのモンスターは、偵察をするのに最適だろう。
もっとも、ネズミのモンスターが見た光景を白夜が見るといったような真似は出来ず。ネズミが言葉を話すことも出来ない以上、どうしてもその情報を把握するのには時間が掛かる。
将来的に闇の能力がまた進化すれば、そのような真似も出来るようになるかもしれないが……それはあまりに不確定な未来だ。
「モンスターの死体を呑み込むか。……分かった、やってみれくれ」
そう言ったのは、白夜のあとからやってきた早乙女だ。
身体の痛さを嘆いていたが、それよりも今は確認するべきことがあるからか、その表情は真面目なものに変わっている。
一行のリーダーたる早乙女の許可が出たこともあり、他の面々もモンスターや動物の死体を白夜が貰うのに異論はない。
……そもそも、ここに転がっているモンスターは全てが雑魚と呼ぶべき存在で、買い取り金額にしても安いからという理由もあるのだろう。
「この世を統べし、大いなる闇よ。無念を残して死したる屍を喰らい、我が力とせよ」
えー……と、周囲で白夜の様子を見ていた者の多くが、いきなり厨二臭い台詞を口にした白夜に珍しいものを見るような視線を向ける。
とはいえ、昨夜同じような光景を見ているだけに、取りあえずこれが白夜が能力を使うためトリガーか何かなのだと思って、誰も何も言わない。
……その無言の優しさが、白夜に対して余計に精神的なダメージを与えているのだが。
実際、白夜の頬は羞恥で薄らと赤くなっている。
ともあれ、白夜の影から闇が伸びると、そのままモンスターや動物の死体を呑み込んでいく。
死体が闇に沈んでいくという光景に、早乙女や他の面々もただ驚愕するしか出来ない。
普通なら見ることが出来ない光景だけに、驚くのも当然だろう。
とはいえ、能力者の中には水や土の能力を使い、今の白夜と似たような真似が出来る者もいるのだが。
そうして全ての死体が消え去ったあとで、白夜はいつものように厨二病的な台詞を口に出し、蛇のモンスターを闇で生み出す。
何度も繰り返しているためか、早乙女たちももう驚いたりする様子は見せずにスルーしていた。
厨二病的な台詞のあとで、先程呑み込まれた闇からひょっこりと姿を現す三つの目を持つ蛇。
その蛇を少し離れた場所……闇の範囲外にだしてから、白夜は早乙女に声をかける。
「早乙女さん、ちょっとその蛇のモンスターを殺してくれませんか? 本当に闇の領域の外で死んだら闇に戻ってこないのかどうか、確かめたいので」
「ん? いいのか? これは白夜の手駒になるんだろ?」
「そうですね。けど、俺が闇で作ったモンスターが闇の領域の外で死んだときにどうなるのか、その辺は試しておいた方がいいですし」
白夜のその言葉に、早乙女は即座に分かったと頷く。
今回の一件は白夜の能力を色々と確認するということも含まれている。……いや、むしろそちらが本題ですらある。
だからこそ、早乙女は白夜に提案にすぐに乗ったのだ。
そうして白夜の指示によって、蛇のモンスターは闇の領域から出て、その場に留まる。
そんな蛇に向かい、早乙女の指示を受けた男が若干気の進まない様子を見せながらも、腰の鞘から短剣を抜く。
次の瞬間、素早く投擲された短剣は真っ直ぐに蛇のモンスターの首を切断した。
元々がそこまで大きくはなかった為に、短剣でも十分首を切断出来たのだ。
そうして首を切断された蛇のモンスターは、次の瞬間……身体が崩れて闇の破片とでも呼ぶべきものになり、白夜の影に呑み込まれていく。
「へぇ……」
自分の能力ではあったが、白夜の口からは少しだけ驚きの声が漏れる。
闇の破片が全て自分の闇に呑み込まれたのを確認してから、白夜は再び口を開く。
本能的に大丈夫だろうと思ってはいたものの、実際に確認してみる必要があったためだ。
「我が内に眠りし大いなる闇よ、我が望みし存在を闇によって形作り、我が前に降臨せよ」
そんな白夜の言葉に従い、闇の中から先程と全く同じ蛇のモンスターが姿を現す。
実際にはそのモンスターが本当に先程と同じモンスターなのかどうかというのは、白夜には分からなかった。
蛇のモンスターとして、何か特殊な外見があった訳でもない。
いや、額に第三の目があったのを考えれば、それが同じ特徴と言えるかもしれないが……しかし、残念ながら今回に限ってはそれは意味がない。
額に第三の目を持っているというのがこのモンスターの特徴である以上、それは人間に腕が二本生えているというのと、同じような意味でしかなかいのだから。
それでも、闇の外で死んだモンスターが新たに闇で生み出せるということが判明したのは、白夜にとって……そして今回の仕事のリーダーを勤めている早乙女にとっても、朗報だった。
蛇のモンスターが新たに生み出されたのを確認してから、白夜は闇に戻るように命令する。
そんな命令に特に嫌がる様子もなく、蛇のモンスターは白夜の闇に身体を沈ませていった。
闇で出来たモンスターとはいえ、モンスターがしっかりと白夜の命令を聞いたことに、見ていた者たちは安堵する。
ゴブリンで白夜の命令を聞くと理解はしていたのだが、ゴブリンと蛇のモンスターではやはり見ている者にしてみれば違うのだろう。
「どうやら、闇の外で死んだモンスターも俺の闇にしっかりと戻ってくるようですね。……まぁ、今はこうしてすぐ近くでしたから、もっと離れた場所で死んだりした場合はどうなるか分かりませんけど」
「その辺は、またあとで試してみる必要があるだろう。とにかく今は、闇のモンスターが死ななくても大丈夫だというのが分かっただけで十分だよ。それより、ここでじっとしているのもなんだし、朝飯を食い終わったら出発するぞ」
そんな早乙女の指示に、それぞれがすぐに準備を始める。
とはいえ、食事は車の中でも食べることが出来るので、ゆっくりしようと思わなければ、すぐにでも出発出来るのだが。
もっとも、持って来たおにぎりやサンドイッチといった弁当の類も、時間が経てば当然のように悪くなる。
今日の朝食と昼食は持ってきたそれらの食料で何とかなるだろうが、それ以降は缶詰や瓶詰め、レトルトといった保存性を高めた食事になるだろう。
……計算通りに進めば今日の夕方には目的の街に到着するので、その辺は余り心配いらないのだが。
「あー……車での移動ってのは面倒臭いな。出来れば、もっと近い場所での仕事ならよかったのに」
白夜とは違う車に乗る男の一人が、心の底から面倒臭そうに告げる。
実際、車で二日移動するというのは、乗っているだけあっても疲れるのは当然だった。
それを嫌だと思っても、仕事である以上はどんなに嫌であっても、まさか途中で何もせず帰るといった真似をする訳にもいかない。
「ほら、出発するぞ。早く向こうに着けば、それだけゆっくりと足を伸ばして休むことが出来るんだ。それに、明日から道を作る仕事をする以上、すこしでも早く向こうに到着して様子を見ておきたい」
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